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アルトロンド情勢(解説)

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次話からガルエイア編はじまります。今回はひっ迫するアルトロンドの情勢を簡単に説明してみました。

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 アルトロンドは、シェダール王国を建国したとき初代国王となったハーヴェスト・シェダールと常に共にあったとされる四騎士のひとり、王を守る鋼鉄の盾の異名をとるアルト・ガルベスに与えられた領地であった。東側にアシュガルド帝国と国境線を接していたので、アルトロンド領軍だけではなく、王国軍も砦を築いて、国交樹立するまでの長い間、常に睨み合ってきたという。


 領都エールドレイクに総本部がある神聖典教会と、アシュガルド帝国にある神聖女神教団とは同じ女神ジュノーを信仰する敬虔な女神教徒ということで宗教上の親交は長かったが、アシュガルド帝国とシェダール王国はお互いに不可侵を約束する条約などの約束事はしていて、商人の行き来など民間の交流は少しあったが正式な国交までは樹立していないという状態が長かった。


 いつの頃からだろうか、国境付近に殺人者や盗賊のたぐいが多く出没するようになり、さながらシェダール王国の法が通用しない、無法地帯と化してしまったことがある。


 これは国境を接していながらも友好ではない隣国同士、睨み合うのは当然のことだが、国境の向こう側で、不要となった罪人たちをこちら側、つまりシェダール王国アルトロンド領に向けて追放していることを意味した。


 強盗や殺人を犯した重犯罪者に向かって、吊るし首になるか、それとも国外追放されるかという二択を迫るのだから国境を接する隣国にとってそれはたまったものではない。


 シェダール王国は豊かであったため、それほど治安も悪くなかったのだがアルトロンドでは隣国アシュガルド帝国の謀略により、不定期に重大犯罪者を送り込まれ続けたせいで犯罪の発生率が著しく上がってしまったという経緯がある。


 帝国を追放になった犯罪者たちは盗賊団を結成し、警察組織である衛兵隊では対抗することが出来ないほどに勢力を伸ばした。悪事を裁く法はあっても、法を適用する側が弱ければ法律など絵に描いた餅のようなもの、従わせることができず、無法地帯となった。


 アルトロンドの領民たちは都市の周囲に巨大な城壁を築いて、盗賊たちの流入を防ぐといったことまでしなければならなかった。これはアルトロンドの兵士たちにとって敗北したも同義だったが、20万都市から人工わずか100人に満たないような小さな村まで、規模の違いこそあれ、居住地をぐるっと防護壁で守るというのがアルトロンドの風景となった。


 シェダール王国が誇る魔導学院の技師たちの力あってこそだが、アルトロンドで街や村を囲い込んで守るという防護壁は盗賊などから市民を守るのにうってつけだったため、土木工事魔法で防護壁を建設し、居住区への出入りに認証を必要とするのはシェダール王国のみならず、南方の小国まで広まっていった。


 比較的平和だったマローニの町も同じ理由で防護壁に囲まれていたのは記憶に新しい。


 アルトロンドは特に治安の悪かった湿地帯から森林地帯と隣接する、大都市ガルエイアとその近郊を統括して一つの大きな防護壁で守ることを決めた。莫大な費用はアルトロンドだけではまかないきれず、その大半を王都が負担したという。


 さらに国中から集めた土木建築魔法技師を総動員して山を切り開き、強固な岩盤を切り出して城塞を築く基礎とした。


 結果ガルエイアはこれまで不可能と思われていた超重量の城塞を築き上げることに成功。その高さは平均して地上20メートルと言うからすさまじい。優れた設計がないと施工不可能な工事だった。


 そんな難しい工事を行うのに、当時数百名からなる土木建築魔法技師たちを率いたのは、当時ガルエイアの魔導学院で研究員をしいた土魔導師の権威であり、現在はノーデンリヒト魔導学院学長を務めるアリエルの師、ソンフィールド・グレアノットだった。


 グレアノットが設計し、現場監督として施工を行ったガルエイアの城塞は未だ健在であり、のちにガルエイア城塞を作った工法を発展させて施工されたプロテウス城の城壁に勝るとも劣らぬ頑強さを今も誇っている。


 それが20万都市をぐるっと取り囲んでいるのだ。

 そういえば近年、ダリルに併合されたグランネルジュも長大な防護壁を築いていたが、それは単純に人の侵入を容易にさせないための簡易的な防護壁であり、攻城戦で使われる魔法など超重量岩石をぶつけられて耐えられるような代物ではないのだが、グレアノットが設計し監督して築き上げたガルエイアのそれは他国の軍隊、つまりアシュガルド帝国軍に取り囲まれても、そうやすやすと抜かれない強度で作られている。


 しかし今や人々の生活も治安もだが、当時と比べてずいぶんよくなった。

 ガルエイアの城塞の内側からあふれ出した人たちは、安心して城塞の外へとその生活圏を広げていった。


 病に倒れたエンドア・ディルが静養していた別荘はガルエイアの城塞から30キロほど離れた郊外であったが、いまや街道も整備されていて、ガルエイアの中心部まで馬車であれば半日もかからず行き来できるぐらい整備された道がつけられている。


 もはやガルエイアの人々は城塞を必要としていないという意味では、グレアノットの設計した城塞は役目を終えたと言えるのだが、それでもガルエイア市民は、この城塞が自分たちの命と財産を守ってくれたからこそ今の生活があることを知っている。


 だから城塞の外に暮らすとしても、城塞と共に生きようと決めた。


 たとえば、アルトロンド領都エールドレイクという街は、魔族排斥を政策として実行し、エルフを奴隷化したあと飛躍的に経済と治安が良くなったことから、もはや城塞など不要として早々に打ち壊すことにした。ガルエイアは城塞を残す決断をしたが、エールドレイクは取り去ってしまう決断をした。


 まあ、もともとからしてグレアノットが設計した王城なみの防御力を誇る城塞は、とにかく破壊することが困難であるため、要らなくなったから取り壊そうとしても、おいそれとは行かない難しさがあるのだが、エールドレイクの防護壁はグレアノットの設計ではなかったため、壊すこともそう難しくなかったのだ。


 エールドレイクは邪魔な防護壁を取り払うと主要都市と繋がる最短の街道を整備した。外敵がいなくなったのだから、市民を守る者は衛兵だけで事足りるという考えだ。おかげでエールドレイクは絵に描いた都市計画をそのまま実行したように繁栄していったが、城塞に守られたガルエイアは城塞があるがゆえに出入り管理も厳しく行われるせいか、行政の無駄が省けずに発展は遅れることとなった。


 そう、城壁があるせいで、城塞内外のアクセスが悪く、朝夕は馬車が渋滞を起こすことが常態化しているし、経済も停滞気味なのだが、ガルエイア城塞内部に住む者は、誰一人として文句を言う者はいない。


 なぜならその城塞の内側は、いまや領都エールドレイク一等地と呼ばれる中央通り沿いよりもはるかに地価が高騰していて、貴族や役人など、所謂いわゆるお金持ちがこぞって暮らす高級住宅街となっているからだ。


 もっともプロテウス城なみの防御力を誇る城塞に守られたガルエイアの地価が高騰した理由は他でもない、18年前、稀代のアウトローたちがダリル領都を襲撃し、領主を殺害したからに他ならないのだが……。


 強大な力を持つ者が権力に従わず、野放しにされているということは、権力者の側からすると脅威でしかない。アルトロンドには、法律はあっても従わせることができず、犯罪者を裁くことができない理不尽を、長く経験してきたという歴史がある。


 軍が総出でかかってもまるで歯が立たず打倒されるのがオチだ、これまで十万をゆうに超える兵士たちが犠牲になった。圧倒的な暴力にアルトロンドは恐怖した。そんな者がアルトロンドを襲撃して来たら、また暗黒の時代に逆戻りになってしまう。


 アウトローの名はアリエル・ベルセリウス。


 アルトロンドを治めるガルベス家は、ボトランジュのベルセリウス家とは深い確執があった。もとはと言えばアリエルが勇者キャリバン率いる神聖典教会の一団を打倒してしまったからにほからないのだが、その後バラライカの戦いでアリエルが命を落として、一時的にこの世界から退場したあと、アシュガルド帝国と手を組んでボトランジュ領都セカを攻め、ベルセリウス家の長男エメロード、三男エリオット、四男のゲイリーを捕えたあと無残にも処刑している。


 いや、ベルセリウスの男を殺すなんてことしなければアルトロンドにはまだ選べる選択肢があったろう。しかしガルベスはそれほどまでにベルセリウスを憎んでいたのだ。


 そのせいでアルトロンドは、ボトランジュ、ノーデンリヒトとの戦いで劣勢になったからと言って、降伏して被害を最小限度にとどめるという選択肢はなくなった。


 アルトロンド領主ガルディア・ガルベスはベルセリウス家に対し、血縁断絶を仕掛けボトランジュではなく、ベルセリウス家を滅ぼす覚悟を見せた。つまり、ベルセリウスの血を引くものは皆殺しにして、すべてを奪うと宣言し、それを実行しているのだ。


 そもそも大貴族と呼ばれる、アルトロンドのガルベス家、ボトランジュのベルセリウス家、フェイスロンドのフェイスロンダール家、ダリルのセルダル家は、シェダール王国建国の折、力を合わせて国王と共に戦った英雄たちの末裔だ。その四大貴族同士が血縁断絶をかけて争うなどシェダール王国4000年の歴史上初めての事だった。


 アルトロンド領主、ガルディア・ガルベスがベルセリウス家に対し、血縁断絶の戦いを宣言し直系である3人の息子を処刑したというのは、世界をとどろかせる大ニュースとなった。


 プロテウス城の玉座に座り、ベルセリウス家の次世代を担う領主直系の男3人が処刑されたとの報告を受けた国王ヴァレンティンは、酷いめまいを覚え、大臣たちの会議を中断して自室にこもったという。


 同じくダリル領主エースフィル・セルダルは、エルフの血が混ざっているという理由で、交戦状態だったフェイスロンド領主、フェイドオール・フェイスロンダールの妻のひとりを捕らえ、兵士たちの慰みものにした挙句、元服前の子どもまで殺害してしまった。


 シェダール王国ではこともあろうに、王国を守るべき四大貴族がこぞって血で血を洗う血縁断絶の内戦を繰り広げる内戦状態となっていて、もはやひとつの国としてのていを為してはいない。


 ボトランジュの最重要拠点である領都セカを奪われたベルセリウス家は敗走を続け、遠く北の果てにある痩せた土地、ノーデンリヒトにまで追い詰められていたのだが、そこにアリエル・ベルセリウスが帰還したことにより、一気に風向きが変わってしまった。


 稀代のアウトロー集団である。大悪魔とまで揶揄された男は自らの派魔導派閥を率いて彗星の如く現れると、わずか半日でセカを奪い返してしまった。


 占領下にあったセカは帝国軍が5万、アルトロンド軍が2万と、王国軍が8万という規模でしのぎを削っていたが、それも朝からマローニを解放したアリエルたちが、何かのついでと言わんばかりに午後からセカに乗り込むと、その日のうちに開放してしまった。


 特に帝国軍が支配していたセカ港は地図から消滅てしまうなど甚大な被害を被ったが、強大な力を見せつけた。


 その力を見せられて、それでもなお、アリエル・ベルセリウスと正面切って戦おうなどというものは居なくなった。誰であっても、それが国家であってもだ。


 その後セカ市の南東側の街区を占領していた2万のアルトロンド軍は、久しぶりの再会を喜んだアリエルとその友人たちがヤンキーの襲撃の如く、ただ勢いに任せたような、まるで作戦などない、正面からの殴り込みを決行し、アルトロンドもその日のうちに敗北してしまった。


 戦力、アルトロンド2万に対し、アリエルたち不良集団はたった10人という多勢に無勢であった。セカ開放は、たしかにセカに住むボトランジュ人たちにとって狂喜すべき祝い事であったが、打ち負かされた三陣営としては、もはや脅威などというなまっちょろい問題ではなくなってしまった。


 のちにノーデンリヒト国家元首、トリトン・ベルセリウスが休戦を提案したら、三陣営とも二つ返事で受けざるを得なかったというのが正直なところだ。もちろん、セカで何があったかを目撃することができなかった、ダリル領主エースフィル・セルダルは休戦の提案を拒否したのだが。


 魔王フランシスコ率いるドーラとノーデンリヒトの連合軍の侵攻によりあっけなく敗北。

 アリエルが酸化したダリルマンディ攻略戦は、わずか半日で制圧を完了した。


 これでダリル領はドーラが奪い取ったも同然だった。

 魔王フランシスコはドーラに住む者たちの悲願だった"凍らない土地"を手に入れた。


 ドーラとノーデンリヒト連合軍が快進撃を続ける中、苦労して奪ったセカ南東地域を失ったアルトロンドはアリエル・ベルセリウスが帰還したことで連戦連敗を繰り返した。頼みの綱のアシュガルド帝国軍はノーデンリヒト要塞前とマローニ、そしてセカ港で大敗を喫し、休戦協定にサインしてからというもの、動きが分からなくなっている。


 水面下で繋がっているアシュガルド帝国があてにならない以上、もちろんアルトロンドは生き残りをかけて軍備を整える半面、水面下では王都プロテウスとも力を合わせて戦うべく話を進めているという。


 ガルディア・ガルベスはベルセリウス家の男を3人処刑した時から、どちらかが滅ぶまで終わらない戦いを戦っているのだ。休戦中だからと言ってただ休んでいるわけではない、ここが正念場と捉え、戦時よりも慌ただしく動き、次の戦いのために準備を整えている。


 よってサルバトーレ高原を挟んでセカにほど近いガルエイアの街は、現在、最重要警戒拠点となっている。


 当のアルトロンド領民、とりわけガルエイア城塞の外に住まう一般市民の感覚では、もう敗戦は時間の問題だと考えているせいか不甲斐ない軍人や政治家たちに対するうっぷんが溜ままっていて、今にも爆発しそうな状況、といえば分かりやすいだろうか。ここ数十年、エルフの人権をカネで売買してきたおかげで好景気に浮かれていた者たちにも終わりの始まりが見えている。まだアルトロンドが勝利すると考えているのは、情弱の少数派だけだ。


 アルトロンド領民の多くが魔王フランシスコ率いる魔族軍の侵攻におびえながら毎日を生きている。32年前の魔族排斥、エルフ族の奴隷化から始まった熱病のような好景気はもはや見る影もない。


 そんなひっ迫した社会情勢下にあって、まだアルトロンドを救おうとする者たちがいる。


 奴隷商人の秘密結社として暗躍するグローリアスの幹部、ヴィルヘルム・ダイネーゼと、パシテーとは母違いの妹であり、奴隷解放運動を指揮するアルトロンド評議会議員の家で生まれ育ったイングリッド・ディル。


 二人は宿敵のような関係だったが、滅びの危機に瀕するアルトロンドを救うため奔走する。


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