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17-15【ゾフィー】アルド学長の勝算

 話は少し戻るが、前の騎士団長だったショーン・ガモフは緻密に計算を重ね、王国軍、王国騎士団、近衛騎士団、神殿騎士団、衛兵隊など、王都プロテウスの全兵力をベルセリウスに向けても勝てないと試算したからこそ、ベルセリウスとは戦うべからずと国王に上申した。それはアリエルの前世、まだハイペリオンも幼く、現在のベルセリウス派と比べると何十分の一とい勢力しかなかったにもかかわらず、ベルセリウスの魔法に最大級の警戒をしたということだ。


 ベルセリウスと戦うべからずなどといい、討伐の兵も送らないと決めたショーン・ガモフを弱気だと正面から批判したのは当時、王国騎士団で副団長を務めていたトーラス・ハモンドと、もうひとり、王都魔導学院の学長であり、シェダール王国最高の魔導師、セクエク・アルドだった。


 アルドはショーン・ガモフが『ベルセリウスと戦うのは割に合わない』と言い出したとき『ベルセリウスの魔導師など、私の炎で消し炭にしてみせましょう』と豪語したのに、王や王国軍を代表する重鎮たちの面前で『あなたの実力ではアリエル・ベルセリウスと戦っても勝ち目はない』と言われ激高したという過去があった。


 この男も王国騎士団長トーラス・ハモンドと同じく、ベルセリウス派が襲撃してきたのなら、それを自らの魔法力をもって撃退してみせなくては沽券にかかわるという理由がある。


 王都魔導学院では、ノーデンリヒト、アシュガルド帝国に続いて、ついに魔法のグリモア化に成功し、無詠唱での魔法起動にも到達した。もはや王都の魔導師のレベルは、ノーデンリヒトやアシュガルド帝国に劣るものではない、技術で並んだのだからあとは魔導師の質で優っていると考えている。


 シェダール王国最強と言われたセクエク・アルドが、これまで長大な起動式を入力していた大型の炎系魔法が、いまやほぼ無詠唱で繰り出せるようになったことにより、権力者の間では大悪魔と言われ蛇蝎のように嫌われるアリエル・ベルセリウスと対等に戦えるのは、アルド学長以外いないとまで言われるようになった。


 しかし、そんな噂とは裏腹に王国の議会を動かす元老院議会がショーン・ガモフの進言どおりアリエル・ベルセリウスをアウトローと認定し、王国法の外側にいるもの、王国法によって追われることはないが、守られることもない。誰に殺されても関知しないという立場を崩さず、未だ討伐の議論すら行われていない。


 つまり、シェダール王国の中枢では、アルド学長の実力ではアリエル・ベルセリウスに勝つことは難しいと考えているのではないか? アルドにはそれが許せなかった。


 それほどまでにグリモア詠唱法というものは、魔導師にとって革命的な大発明だっということだ。

 先にグリモアを実用段階にまで高めたノーデンリヒト、アシュガルド帝国も、グリモアは最重要軍事機密となっていて、情報提供など一切見込めない状況だった。


 王都魔導学院は、グリモアを実用化したソンフィールド・グレアノット教授がマローニ魔導学院に在籍していた頃、学院に予算を計上していた取引先、錬金術師などに発注していた物資とカネの動きを徹底的に調べ上げることで、グリモアの仕組みと材料を推測し、必要な試行錯誤はすべて試した。更には莫大な予算を消費することで、ようやく王都魔導学院もグリモアの実用化に成功する。


 とにかく、アリエル・ベルセリウスに対抗するためには、無詠唱で魔導を使うものを育てなければならない。そのままでも負ける気などサラサラなかったが、当面の目標をグリモアの実用化としたアルドの狙いはある意味で正しかった。


 ノーデンリヒトのグリモア詠唱法に対抗できる技術を開発し、ベルセリウスの爆破魔法に対抗できる魔導師を育てなければ、シェダール王国に未来はないのだ。いまシェダール王国で最も潤沢な資金により運営されているのは、王都魔導学院であることは間違いないだろう。


 潤沢な資金力にモノをいわせることで、グリモアを開発することに成功したアルドは、王都魔導学院でカリスマ的指導者にまで昇りつめた。王国最強から、王国4000年の歴史の中で最高の魔導師とまで言うものまでいる。


 グリモアはそれほどまでに魔導師の世界を変えた。

 魔導の運用を根底から覆すほどの効果をもたらした。


 今日、ベルセリウス派の魔導師が王都をうろついているというなら、アルドはこれまで使ってきた予算に見合った働きを見せつけなければならない。


 たかだかグリモア詠唱法を実用化したぐらいでノーデンリヒトの魔導師を超えていると考えたアルド、この世界で最も栄えていると言われたシェダール王国の首都、王都プロテウスを代表する王都魔導学院の学長を務め、王国最強とまで言われる炎術師であるプライドがその目を曇らせていることに誰も気付かない。


 いや、実際にセカでベルセリウス派の戦闘を目撃した王国騎士団の者は、たとえその戦力差に気付いていたとしてもアルドほどの権力者に向かって『あなたの魔導では、おそらく通用しません』などと言えるわけがなく……。


 王国騎士団としては、魔導学院に期待しているのは、防壁を作る土魔法と、あと騎士たちを魔法攻撃から守る障壁の魔法ぐらいであったが、それでも炎術師セクエク・アルドの名は世界中に轟いているので、グリモアを得たことで、どれだけ戦えるか見ものではあった。


 そんな騎士団の冷ややかな視線に気付いていないのか、アルドは高揚感を抑えきれない様子でしゃしゃりでてきた。


「これは弟子のファミル、城壁魔法の首席であります。王国騎士団のお歴々が守ってらっしゃるのですから出番などありえませんが、実はこのファミル、分析魔法を使わせると恐らく世界でも右に出る者はおりません。相手がベルセリウス派の魔導師であるなら、必ずやファミルが役に立つでしょう」


「急な話ですまんなアルド学長。魔導学院からはどれだけ出られる?」


「グリモア装備の魔導兵が三個小隊、合わせて38名の優秀なものを手配しました。急な話で準備に手間取っておりますが、点呼は取りました。準備ができ次第、すぐここに集まります。配置はどうされますか」


「おおっ、これほど急な招集にグリモア装備の魔導部隊が三個小隊も集まったのか。障壁魔法を幾重にも重ねていただけると防衛が楽になる。王国軍にも援軍を要請したのでいかほどの勢力になるか分からんが、駐屯地が市外だからな、時間的に間に合わんだろう。騎士団は今すぐ出せる最高の精鋭を揃えた200出す。配置はダイヤモンド隊形を基本に正面に100、右翼と左翼から挟み込む陣形をとる。魔導兵三個小隊は、小隊を正面と左右に分けて配置すれば十字砲火を浴びせられる理想の形になるな」


「了解した、では魔導師部隊は遠隔攻撃と対魔導障壁を担当する。先月の合同訓練でやった通り、騎士団の守る陣まで到達されないよう先制攻撃で倒す、もし万が一、我々の攻撃をかいくぐってそちらまで到達した場合は、城壁魔法を駆使して守備に回ります」


「うむ分かった、万が一はないだろうが、もしベルセリウス派の魔導師とやらが騎士団と交戦するようなことになれば、こちらは東西南北の門を守る四騎士が対処する。支援魔法のほう、よろしく頼む。神聖典教会の治癒師ヒーラーはまだ来ておらんのか」


「出動の要請は出したのですが、教会はいつもケツが重くていけませんな。集合に間に合ったためしがない」


「ふははははは、その通りだ。教会はやることが遅くてかなわん。ところで神殿騎士は出てくると思うかね? グランネルジュに展開していた神殿騎士団の精鋭部隊が壊滅させられたと聞いたが」


「いえ、グランネルジュでの戦闘に敗れた神殿騎士団が引き上げる際、襲撃にあって行方不明になったと言われておりますが、戦闘の痕跡も、死体も見つかっておりません。ベルセリウス派が戦闘を行ったのなら派手な痕跡が残りますし、そもそも殺すつもりならグランネルジュから撤退させたことが説明できません。襲撃にあったというのは根も葉もない憶測に基づいた悪質なデマです」


「ほう、なるほど。そう言われてみればそうだな。ではこれもホムステッド・カリウル・ゲラーの策略か何かということかな」


「衛兵隊はそう見ています」


「ふははははは、なるほど。あのタヌキめ、何を企んでおるのやら……」




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