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【番外編】破壊魔法(前編)

すみません、今年が終わるまでちょっと忙しくなりそうなので更新間隔のびのびになっちゃってます。

ホントごめんなさい。

前後編に分けた番外編です。

過去の戦争で最強を誇ったテルスの破壊魔法についてその正体を考察する回となります。

後編は数日中に。


 アリエルはニヤリと笑ってゾフィーからカードを受け取り、イシターに手渡した。


「テルスは俺たちの前に立ちふさがると思うが、もし万が一、ノーデンリヒトが襲撃を受けたらこれを」


 イシターはカードの裏と表をペラペラと確認しながら問うた。


「これは何?」


「ゾフィーを召喚するマジックアイテムだ。使い方はカードに書いてあるから誤動作させんなよ、一回しか使えないからな」



 アリエルはそう言うと死体も片付けずに踵を返し、鍛治工房へ向かった。

 背後から声がした。イシターだ。


 アリエルは足を止めて振り返らず、そのままの姿勢で話を聞いた。


「テルスの破壊魔法、知ってるとは思うけれどあれは土の属性。あと、テルス自身、破壊魔法の力を『分解』って言ってた。私には意味が分からなかったけど一応伝えておくわ。カードありがとうね、負けそうになったら使わせてもらう。それとここであったこと、シャルナクの耳に入らないようくれぐれもお願い」


 そう言うとイシターの気配はフッと消えた。

 いや、気配はベルセリウス家の二階の屋根の上に移動したから消えたわけじゃない。



 アリエルは何か言いたげにしてはいるけど何も言わず背を向けたゾフィーとまだ納得のいってない表情のジュノーをなだめすかして屋敷に帰し、建て付けの悪くなった工房の扉をくぐって炉に火を入れた。イシターが言った『分解』という言葉が頭から離れずにいた。


 過去に戦闘した経験からテルスの攻撃パターンと、いま聞いた『分解』という言葉との整合性を取ろうとしていた。



 ……テルスはアルカディアの主神だった。

 正確には覚えていないが、アリエルはアルカディアで200回以上転生して同じ時を繰り返し生きた。ザナドゥのアマルテア生まれという自覚も今はほとんどない、転生を繰り返すうちアルカディアの日本人、嵯峨野深月さがのみつきとして生きた時間のほうが数百倍も長く生きている。だから今ある知識の大半は高卒程度とはいえアルカディアで学んだ学習成果だ。


 神話戦争当時、テルスが『分解』と言ったなら、アルカディアでの『分解』と同じ意味だ。



 アリエルは記憶の糸を手繰たぐる。

 遠い遠い昔、自分たちの攻撃手段がまるで通用しない敵と初めて対峙した、苦い経験だった。



 初めて攻撃を受けたのはザナドゥで連戦連勝を続けて、すこしいい気になっていた頃だった。

 もちろん油断していたわけではないが、アマルテアに凱旋帰国する途中の風光明媚な山間の湖のほとりをぐるっと周回する、隊商も通るような街道だった。


 丘が、山が、森がまるで蒸発するように消失してゆくのを想像できるだろうか。

 最初は何が起こったのか理解するのに時間がかかった。ゾフィーがすぐ転移魔法を使ってくれなければ奈落のような暗い穴にどこまでも落ちてしまっただろう。最初はそれがテルスの魔法だとは思わなかった。


 その時、苦し紛れに撃った爆破魔法が想定していた数千倍か、それ以上の超爆発を起こした。

 ベルフェゴールが転移したのは数十キロ離れた寒村の外れだったが、しばらくすると建物が倒壊するほどの大地震が起こり、夜だというのに空がまるで夕焼け空のように燃えた。

 

そして全てを無に帰すほど猛烈な衝撃波が襲った。

 国境の村はたんぽぽの綿毛を吹き飛ばすように散った。遥か遠方で起きた大爆発の影響が半径100キロ以上に及ぶ。たった一度、魔法攻撃が交錯するだけで地形が変わる。爆心地には最初から何もなかったかのように地殻から丸ごとえぐり取られ、海の水がなだれ込むまで、ただ暗い大穴が開いていた。


 見渡す限りの大地を消失させる、一番大規模なものだと目分量でおよそ半径1キロ。

 そんな広範囲のものが全て消失する。土も岩も山も、木も水も人工の建造物も何もかもだ。


 イシターはあの消失現象を『分解』と言った。



 ……っ!


 あの日、あの時、ゾフィーの転移魔法で逃れるとき、確かに突風が吹いた。

 ベルフェゴールは風の匂いが違うことに不信感を抱き、アマルテアに帰ってキュベレーに状況を克明に話して「こんな魔法があるのか?」と聞いてみた。


 実際に攻撃を受けたベルフェゴールは風の魔法で襲撃されたものだと思っていたが、キュベレーは違った回答をした。


「大地の精霊がざわめいているわ、強力な権能を振るうものが来た、まるでザナドゥの世界すべてがマナの濁流に飲み込まれてしまったよう……」


 つまり、世界中の地下に張り巡らされた樹木のネットワークで、根から伝わってきた情報でキュベレーは、強力な土の権能を持った神がザナドゥに降り立ったといった。



 当時のベルフェゴールは誘爆という現象を知らなかったせいでテルスとの戦いは熾烈を極めた。

 ものの半日で燃え尽き、大量の灰を噴き上げて海に沈んだ島国もあった。



 テルスは基本的に自ら間合いに入ってくることはない。近接攻撃を行わず、遠隔魔法攻撃に特化した戦闘スタイルだ。数キロ以上も離れたところにいて、自らの強力な土魔法で操る飛行術で常に高空にあり、当時のベルフェゴールたちをおよそ中心に捉えて破壊魔法を放つ。



---- 回想 ------



 ベルフェゴールたちがザナドゥで敵対する国を攻めていたときのことだ。

 敵国の兵がベルフェゴールたちの顔を見るなり脱兎のごとく退却していった。それは鮮やかな引き際だった。

ベルフェゴールは当然なにか罠があると思った。たとえば地面が蒸発して消えるような罠だ。


 計略に疎いジュノーですら違和感を覚えるという稚拙な退却戦術だ、ベルフェゴールやゾフィーが気付かないわけがない。


「ねえねえ、イヤな予感がする……。どうせまた地面が消えて私たちは落ちるのよね……、あーやだやだ、転移したが先が海じゃなければいいんだけどな、ずぶ濡れなんて嫌だし」


「落ちてる最中に転移するんだもの、転移した先に地面があったらケガをするわよ」


「落ちる前に転移してくれたらいいじゃん!って話よ。ゾフィーのノロマ! あーあ、できれば温かい常夏の海がいいなあ……」


 などと軽口を叩いていると、地面から湯気のような『もや』が立ち上がるのが見えた。



「きたっ! 破壊魔法だ! ゾフィー! 上空、できるだけ高い所へ転移してくれ」


「上空? 何か考えがあるのね、わかりました」


「えええっ? なにそれ、私また海に落とされるの? 最悪! ほんとマジ最悪」


「文句言わないの」


 ゾフィーはベルフェゴールとジュノーがしがみついたのを確認すると、


 ―― パチン!


 と指を鳴らした。



 ゴウウオオオオォォウウウウゥゥゥ……


 転移先はおよそ上空3000メートルといったところか。冷気が肌を突き刺さるし空気が薄い……。

 瞬間的に耳がキーンと鳴ってババっと抜けた。急激な気圧の変化だ。


 眼下には破壊魔法によって蒸発してゆく地面が半球状に地殻をえぐり取ってゆくのが見える。

 ざっと見積もって半径1キロ、ベルフェゴールを中心に球状に削られるとしたら、最深部までも1キロメートルだ。


 ジュノーはその時その優れた視力で、魔法範囲に入っている村も蒸発して消えてゆくのを見た。


 ベルフェゴールはすぐさま巨大な風魔法のカプセルを作って3人を包み、冷気と落下する風圧から身を守った。地面消失現象のつぎ襲ってくるのは爆発的な突風だ。


 吹き飛ばされる前に敵の術者を見つけ出す必要がある。


「ジュノー! お前の目で探してくれ。この大破壊の範囲の外に必ず術者がいる。それっぽいのが居たら……」


 ベルフェゴールが話を終える前にジュノーが叫んだ。


「山脈の高いところ! なんだろ、金色の鎧? 飛んでる? まさか……」


「山脈の高いところってどこ? ジュノー、指さしてくれないと」


「あそこよあそこ、ほら!」


 ベルフェゴールやゾフィーには1キロ離れたところにいる人なんて見えなかったが、ゾフィーはまずその手に剣を握ってからジュノーの指示どおり転移した。



 ―― パチン!



 ゾフィーの転移はブラインドショットに近かったが、ワープアウトしたところからわずか20メートルほど離れたところ、見下ろせる位置に金色の獅子の面の付いたフルプレートが浮かんでいて、まずはジュノーが先制攻撃を仕掛けた。


 あの金色の鎧が敵の術者かどうかなんてお構いなし。先手必勝、なんでもありのやったもん勝ちだ。


 頭上に光の輪が現れ、それが広がって霧散すると同時に指先から熱光学魔法、つまりジュノーのレーザーが発射される。発射されてしまってはもう避けることは叶わない。ジュノーの狙いそのものが不正確であったなら命中は避けられるだろう、しかしジュノーの動体視力はこの距離の獲物を絶対に逃さない。


 白色よりも僅かに青みがかった6000ケルビンの光は確かに金色の鎧を貫いたかに見えた。

 しかしジュノーの熱光学魔法は鎧まで届かず、まるで転移魔法のワームホールに吸い込まれたかのように消失してしまった。


 ベルフェゴールの作戦は偶然にも恵まれてうまく事が運び、してやったりと思った。しかし攻撃は防がれ、あろうことか金色の鎧に気付かれてしまった。

 狙い通りにはいかなかったが、敵はジュノーの攻撃を受けるまではこちらの接近に気付かなかったということだ。


 つまり気配を頼りに狙いを定め、ベルフェゴールの頭上に破壊魔法を落としているわけではない。恐らくは目視によって位置を確認し、遠隔攻撃を加えたという事で間違いないだろう。


 ジュノーの攻撃が無効化されたのを見て眉も動かさず、次の一手を繰り出したのはゾフィーだった。

 ゾフィーならこの間合い、剣を一振りすれば時空そのものを切断できる。



 シュバッ!


 自由落下しながらゾフィーは金色の鎧に向けて剣を振った。

 しかし鎧は剣を振る軌道からゾフィーの時空断裂を読み、身体をひねってギリギリでかわし、その時鎧の背中についていた日輪を模したような造詣のものが斜めに切断され、バラバラと壊れた。


 次の瞬間、下から猛スピードで岩塊が打ち上げられていてベルフェゴールを狙う。

 目まぐるしく攻守が移り変わり、敵のターンになったということだ。


 ゾフィーが機転を利かせて金色の鎧の背後に転移し、岩の攻撃を躱すと、土産とばかりにベルフェゴールは手のひらに練り上げていた爆破魔法を発射した。



 ―― ドウオオオォォォンンン……


 無防備な背中に命中させた爆破魔法だったが、そのときベルフェゴールにはハッキリと見えた。

 爆風や衝撃波といった物理的な現象ですら届かず、1ミリのダメージも負わせることができなかった。


 このとき大地を根こそぎ消し去った破壊魔法の突風が吹きあげ、ベルフェゴールの爆破魔法に引火し、大爆発が起こった。


 視界の全てが爆炎で満たされる前にゾフィーがいち早く誘爆を察知し、すぐさま転移してくれたからこそ大事なく逃れることができた。これについてはゾフィーの判断を尊重したい。


 一方、落下の衝撃を軽減するため、いったん海に落とされたことでジュノーの機嫌を損ねてしまったけれど、きっと熱光学魔法がものの見事に防ぎ切られたあたりから機嫌は悪かった。



---- 回想終わり ------


 ベルフェゴールとジュノーの魔法攻撃はあの金色の鎧に対し、無力だった。

 しかしゾフィーの攻撃だけは避けるしかなかった。つまり、あの金色の鎧はベルフェゴールとジュノーを相手にするなら優位に戦えるが、接近戦でゾフィーと戦う力を持ってないという事だ。


 以後、ベルフェゴールたちと金色の鎧の魔導師との戦いは熾烈を極め、ザナドゥが滅んでしまったことは歴史に記憶された通りだ。


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