02-20 マラドーナ装品店
20170810 改訂
読者さまより報酬金額の計算が合わないとの指摘ありました。ありがとうございます。作者が算数できないのバレるところでした。2017/12/17修正。
20210803 手直し
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パシテーは疲れているようでいつものように起きてこないが、朝だ。アリエルはいつものように朝の鍛錬をしている。防御魔法を常時展開しているので魔法の鍛錬というのは特にやらずとも、アリエルのマナはどんどん強化されてゆくし、詠唱の練習などしなくとも、アリエルは無詠唱魔導の使い手だ。なのでアリエルは実際に身体を動かして剣術の稽古をしている。
身体が目覚め、脳もシャキッとしたころ、パシテーが起きてエントランスに出てきた。
「おはよう、今日もいい天気だよ」
「兄さまおはよう。ねむいの」
「短剣の木剣買おうか? 5本ぐらい」
「いらない。バランスも重さも空気抵抗も違うの」
いいながらパシテーはまだ顔も洗ってないのに2本の短剣を取り出して、螺旋に操って複雑な動きをさせている。例えるなら二重螺旋、DNAの模式図のような形を巧みに描いていたかとおもうと、急に弾けるような動きに変わり、超スピードで先の読めない複雑な動作をし始めた。
前を行く短剣の航跡をもう一本が追い掛け回すような展開だ。
「うーん? 追いかけっこさせてるのか?」
「うん、逃げる方を本気で逃げさせたら、難しくなるの」
速い。昨日の朝の立ち合い時よりもまた一段速くなっている。どうやら軽くて空気抵抗の大きな木剣の短剣よりも、小さく薄く、それなりの重量感のある短剣(真剣)のほうが操るスピードを出すのに有利なんだそうだ。それでこれほどの速度を実現しているらしい。
パシテーは空気を斬り裂くように短剣であっても薙ぐ攻撃を多用するから、それを叩き落すにしても的が大きくなり、受けるほうとしてはやりやすくなるのだけれど、たまにくる突きの攻撃がバリエーションとして短剣の攻撃に厚みを加えていて、とても捌きにくいものとなっている。
だがしかし、パシテーは年頃の嫁入り前の女の子だというのに、顔も洗ってなくて、バサバサじゃなくても髪も梳かさずにアリエルの横で魔法の鍛錬をしに来るような子だ、まるでグレアノット師匠を見ているようだ。魔導師というのはこんなに美少女であっても、おしゃれや身だしなみという、女の子にとって基本的な原則よりも、魔法の鍛錬が優先されるという生き物のようだ。
「パシテー、先に顔を洗いなよ。まだ眠そうな顔をしてるぞ」
「あ、そうなの。忘れてたの」
これだ。天才なのに抜けてるところがある。このギャップがまたいいのだけど。
パシテーは2本の短剣を両肩の上、耳の横あたりに待機させたまま、身だしなみセットを受け取り、手桶を差し出しながら早く水を入れてくださいと促した。手のひら一杯の水を得る魔法『セノーテ』はそんなに難しい魔法じゃない。旅に出た時の利便性を考えると、絶対に使えたほうがいいのだけど、パシテー自身、水の魔法はサッパリダメで、とにかく適性がないのだから鍛錬するだけ無駄という姿勢を崩さない。
無駄な魔法を克服するだなんて、10倍の努力をしても効果はたかが知れてるんだから、そんなことに力を入れるよりは得意な分野を伸ばす方向で励んだ方が明らかに身つくのだそうだ。
なるほど、だから炎術師は炎が得意で、炎魔法しかほとんど使えないわけか。そういわれてみると長所を伸ばす方向で鍛錬を積むというのも間違っていないような気がする。
パシテーの鍛錬も熱を帯びてきたころ、エントランスにいい香りが漂い始めた。
そろそろ来るかな? と思ってたらすぐにきた。クレシダだ。
「アリエルさま、朝食の支度が整いましたよ。汗を拭いて食堂の方にお集まりください」
今日はパシテーも同伴なので、パシテーの分も手拭いを持ってきてくれた。パシテーはかしこまって手ぬぐいを受け取り、さっき顔を洗ったところなので、それを手に持ったまま鍛錬していた武器をしまって食堂に向かい、席に着いた。
朝食はゆで卵と白パンと絶品のパンプキンスープだった。かぼちゃのスープと侮るなかれ、コンソメに似た香りのするスープを基本として、季節の様々な野菜を一緒に煮込んでいるから、なかなか奥深い味が楽しめる。
さてと、今日は朝からギルド行ってガルグを換金して、そのあとパシテーの服を仕立ててもらいに行こう。自分の服は何故かすぐにボロボロになってしまう運命にあるようだから、高いのなんか買わなくていい。一番安いのが最適なんだろうけど、パシテーが可愛い服を着ててくれたらモチベーションが上がる。
食事を終えたアリエルがスケイトを起動し別邸の格子門から勢いよく滑り出ると、パシテーは飛行しながら門をくぐらず、飛び越えてついてきた。こんなとこポーシャに見られたら思いっきり叱られるのに、なんでパシテーがしたときはポーシャに見つからないのかと、少し不満だった。
ギルドのウェスタンドアを押して中に入ると受付にカーリが座っていた。かるく会釈をして、ざっと見渡す。ギルド酒場はけっこう賑わっている。奥の方にはポリデウケス先生がいて、朝っぱらからカードに興じているようで、すこぶる機嫌がいい。どうやら勝っているらしい。
カーリが受付にいるってことは土曜か。ってことは明後日は学校に行かなくちゃいけない。
なんだかもう面倒くさくなってしまった。やっぱり学校なんて行かないで済ませたほうがよかったに決まってる。学校があるおかげで、どれだけ遠出しても5日で帰ってこなくちゃいけないのだから、自ずと行動範囲が決まってしまうし。
「兄さま、これ」
パシテーは背伸びしてギリギリ手の届く位置に貼ってあった、ガルグ三頭1ゴールドの依頼カードを取って俺に手渡した。その背伸びの方法というのがもう、ギリギリ届かない高さだったものだから、一旦依頼ボードにべったりと身体をつけて、右肩を入れてさらに上を目指し、そしてそこから指で這うように壁を一歩二歩と匍匐してギリギリ依頼カードを取ることができたのだ。
「うん、パシテー、高いところにあるものを取る時は浮かんでもいいと思うけど?」
「いいの?」
「いや、いまの背伸びの動作がカワイイから、やっぱダメ」
「うー」
「やあカーリ。今日もこれで」
カウンターに座っているカーリに声をけてパシテーが無言で登録証と依頼カードを出す。
ガルグの狩猟はBランクの依頼なので、限定解除のアリエルが受けないと見習いDランクなパシテーは受けることができない。とってきたガルグのほとんどをパシテーが狩猟したもので、アリエルは運び屋をしているだけだとしても。
「はいアリエル。あれっ? パシテー先生、なんか雰囲気かわったね?」
「まだ俺は居ない事になってんの? パシテーがきたらもうみんなパシテーパシテーだからなあ」
「ひがまないひがまない。はい受付完了。登録証とはいカード。どうせ終わってんでしょ?」
「うん。納品行ってくるよ」
裏の納品カウンターに行くと、ユミルがディーアを納品してるトコだった。
こんな朝早くからもう鹿を獲ってきたらしい。日本に居たころ、14歳というと、何も考えずにただ惰眠をむさぼって、プラプラと遊びまわっていただけなのに、この世界の若い衆ときたら、なんて勤勉なんだと感心してしまう。
「お、アリエル。今日はなに捕って来たんだ? ああっ、パシテー……せんせい」
「ユミルおはよーう」
「遠慮しながら先生を付け加えたね」
「いきなり呼び捨ては難しいさ。で、なに捕って来たん?」
「俺はだいたいガルグネージュだよ」
パシテーは依頼カードと登録証をもってカウンターに行き、テキパキと手続きを済ませてる。
パシテーはこういう事務的な仕事をさせると早い。アリエル本人が苦手だと思っていることから率先してこなしてくれるなんて、旅の伴侶としては最高のパートナーだ。
ユミルのディーアを鑑定し終えたスコルさんがこっちにきて、地べたに並べているガルグネージュを値踏みし始めた。もう鑑定は始まっているらしい。
「お、今日もガルグネージュかい?」
「20あるけど納品しすぎて値段が下がるならもう少し寝かせておこうかな。あと、難民キャンプと俺たちの食べる分をとっておきたいから納品は最大15までということで」
「うむ。ではこちらの高値が付きそうなものから15頭鑑定しよう」
なにも指示をされていないのに横に立ってた若い兄ちゃんが走って出て行った。おそらくまた肉屋がエプロンをしたまま走ってくるのだろう。
肉を出したら走れと条件づけられたパブロフの犬みたいな勢いで躊躇なく飛び出していった。
ユミルは初めて見た『ストレージ』の魔法に興味津々、食い入るように見ている。
「アリエル、この魔法俺にも教えてくれよ……」
「うーん、どう説明したらいいものか……ユミル、並行世界とかって分かる?」
「なんだそれ?」
パシテーは最初から躓くユミルを慰めた。
「ユミル、ぜったい無理なの。訳わかんないの」
ややこしい説明を始めさせられる前にパシテーが助けてくれて、スコルさんの手が挙がった。
「150%が12頭、残り3は他と比べて一回り小さいからこの分は140%でどうか」
パシテーがとったガルグにも同じ点数が付いた。毛皮も無駄にならないよう最低限の傷のつけ方だったということだ。アリエルの期待する以上に点数が付いた。まずまずの成果だ。肉屋がこの条件で全部買い取るなら決めよう。
肉屋は迅速。決まればすぐに受け取って、すぐに解体したいのだろう、さっき走って行った兄ちゃんといっしょに、息を弾ませながら走ってきた。
「ああっ、この前の冒険者さん。今日もとってきてくれたのかい? おおお、貴重なガルグネージュがこんなに。鑑定のほうは?」
「こっちの12頭が150、これとこれとこれ、3頭に140の点数を付けたんだが」
「点数には文句はない。しかし量が多いな。2日3日じゃ捌けない」
肉屋の店主は、肉の量が多すぎて、いたんでしまう前に売り切ってしまうことができないと不安を漏らした。
そこでアリエルが提案する。
「おじさん、こいつでベーコン作ったらムチャクチャ美味しいから、絶対に売れるよ」
売り込みのついでにノーデンリヒト特産の、ガルグネージュベーコンがどれほど素晴らしいか宣伝しておくことにした。ガルグネージュの価格が吊り上がれば自身の懐が潤うことになるが、アリエルはそこまで考えていない。ただ、ガルグネージュのベーコンは確かにうまいから、いっぺん食べたら絶対に売れるからだ。
「ガルグネージュのベーコンは通常のガルグのベーコンと比べても数段上なんじゃないかってぐらい美味しいんだ。ひとつアドバイスをするとしたら、塩を少しだけ薄めにしたほうが脂の甘みが際立って美味しく仕上がる、ノーデンリヒトの味はマローニでも必ず受け入れられるよ」
ベーコンなら保存も効くし、常温のまま隣町に持って行ってもいたまないから絶対に試す価値はあるし、肉屋でガルグネージュベーコンが手に入るなら、ベルセリウス家の食卓にもあがるだろう。
そうなると自らの懐も潤うし、マローニの商店も潤うし、最終的にはまたベーコンになってベルセリウス家の食卓に上ってくれると丸儲けの算段だ。誰も損しないのにみんな儲かる。
「なるほど、試す価値はありそうだ。そういう事ならすべて買い取るよ。ベーコンが成功したら足りないぐらいだ」
「うん、ありがとう。じゃあ俺の方も文句なしで手を打つよ」
「よし、成立だ」
スコルさんは査定表にサインすると、納品証明書を作ってパシテーが受け取った。
アリエルとユミルが覗き込む。そこには150点x12、140点x3と書かれてあった。
「うっわ、すごいなアリエル。えーっと、いくらになるんだ?……」
ユミルも算術が弱いらしい。これで740だから7ゴールド4シルバー。
日本円に換算(アリエル調べ)すると約74万円という高収入になる。
これをパシテーが数時間で狩ったことを教えてやるとユミルはがっくりと肩を落とした。
「狩人の生活が脅かされる……、ヤバいなあ、14歳でもう狩人の将来を暗く感じたよ」
「今日はパシテーの服を買いに行くから、纏まったお金が必要だったんだ。いつもはこんなに持ち込まないから相場までは崩れないよ」
「あはは、そう願うよ」
「兄さま、おかね」
7ゴールド40納品証明を受け取り、ユミルに手を振る。ギルドカウンターに戻ったら早速カーリに納品証明を手渡し、ポイントに変換してもらうことにした。
「カーリ、これ。納品証明」
「はい、、って、え? ポイント150%が4件と、140%が1件ってアリエル、たぶんランクアップするよ。ちょっと待ってね、計算するから」
なんか計算尺みたいなので確認してもらったところ、二人とも冒険者ランクがアップした。
晴れてCランク冒険者ということで、登録証を更新してもらうことに。
「パシテーは一発でCランクになったの? 間違いじゃなく?」
「ポイントは山分けだけど、DランクなのにBランクの依頼150%クリアを5倍もすればそりゃ一発で上がるわよ」
ランクアップに必要なポイントは非公開らしい。
ギルドに対する貢献度が元になって算出されるのだけど、貢献度なんて言う不確かなものを数値化するといろいろややこしい問題が出てくるそうな。
特に今みたいに冒険者が不足していて依頼が積みあがってるようなときはランクアップしやすいので、チャンスだという。
ということは、マローニとセカじゃ同じAランクでも評価が違うってことになるから、基準は全国共通だけど、同じランク同士でも都市部の冒険者はマローニのような田舎の冒険者よりも格上だと思ってるというのはあるらしい。もちろん地域によって差があるわけじゃなく、違いがあるのは地域独特の依頼内容らしいけど。
マローニのような田舎だと依頼のほとんどは狩人の延長だけど、都市部だと隊商の護衛だとか盗賊の討伐、誘拐された人の救出なんていう、本来は衛兵たちがやるべき仕事の依頼が思ったよりも頻繁にあるということだ。要は動物相手の狩人なんかより人さまを相手に戦う方がエライってことなんだろ。
盗賊の相手した経験から言わせてもらうと、ガルグネージュの方がよっぽど手ごわいのだけど。
ちなみにAランクになると登録証が銅板のカードになるから一気に格が上がる。
その上はもうご想像通り、Sランクがシルバー板、SSランクがゴールドになる。
「ありがと。んじゃちょっとパシテーの服あつらえに行ってくる」
―― ギィ……。
薄暗いギルドからウェスタンドアあけて外に出て、アリエルたちは服屋へと向かう。今の収入でちょっと懐が温まっていて、どこかホクホクしているから、ちょっとぐらい無駄遣いしてもいいのだ。
パシテーは洋服を買いに行くと聞いて上機嫌になり、ふわふわ浮き始めた。
「パシテー、浮いてる浮いてる」
「あ、気が付かなかったの」
「耐火のローブ売ってる店は? 魔導学院の近くの? あそこ?」
「うん、あそこ魔導師のローブ扱ってるから好き」
のんびりと大通りを北に歩いて、役所の角を左に折れると、レンガ積みと木造が組み合わさったような、大きめのショーウィンドウを擁する店があり、入り口ドアのアーチに看板が掲げられている。
マラドーナ装品店。
看板がピンクだ。どぎつい。なんだか子どもが入っちゃいけないような気がする。そんな店だ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。思い切って入ってみよう」
店に入るのに思い切りが必要だなんて、どこかの風俗店に入る高校生のような心境だと、今の気持ちを例えようとしたのだけれど、実は前世でも18歳で死んだものだから風俗店なんて行ったことがないことに気付いた。風俗ぐらい行ってから死ねば良かったと心底思った。
「兄さま?」
「いや、マジでなんでもないから」
風俗店のことはこの際きっぱりと忘れてしまおう。どうせマローニにもそんないかがわしい店はないのだから。
店に入ると所狭しと似たような箱が……。ああ、この箱は初等部の制服で、こっちの箱が中等部の制服……ここは制服を扱っている店なんだ。
「いらっしゃいませ。」
左腕にマチ針がいっぱい刺さってる針山を装備して、右手にはたくって纏めたメジャーを持つ、40代と思しき痩せた女性が迎えてくれた。
「耐火素材の服が欲しいのだけど、仕立ててもらえるかな?」
「ええ、扱っていますよ。不燃繊維のグレードはどうしましょ?」
店員の話によるとグレードは3つ。
Cグレードは燃えにくい難燃繊維を使っていて非常に燃えにくいもの。
Bグレードはちょっとした魔法ぐらいじゃ燃えることはないが断熱の効果もそこそこ。
Aグレードは最高級で火魔法が得意な魔導師のファイボール程度なら耐えられる障壁なみの耐火効果を得られるらしいので迷わずAグレードを選んだ。Aグレード以外の選択肢はない。
「パシテー、フード付きのローブでいいの? ちょっと細身に仕立ててもらおうよ? そのほうが絶対可愛いから」
「兄さまが可愛いと思うのがいいの」
「よし、任せなさい。じゃあ、フード付きのロングコートで。袖もシルエットの細身のコート。長さは膝丈。裏地の色も黒で、断熱素材があれば嬉しいかな。ちなみに、ニーソックスを履くのに抵抗はないかな?」
「ちっちゃい頃はいてたの。大丈夫」
「仕立て屋さん、今日の仕立てぜんぶ色は黒。黒は黒でも本当に黒い漆黒でお願いしたい」
「喪服レベルだねそれは。3回ぐらい染めなおさないといけないからちょっと高くつくんだけど?」
「そこに妥協したくないのでお願いします」
「同じAグレードの素材でニーソックスいける? 伸縮性どう?」
「生地を薄くしなくちゃいけないから破れるリスクはあるし炎の中に突っ込んだりするのは推奨できないけど、それでもBグレード以上の性能は保証するよ」
「んじゃそれでニーソックスを。あと、ベリーショートのパンツと、パンツ下ぴったり長さのプリーツミニスカートでレース付き」
「あ、可愛いわねそれ。パンツの股上は浅くする?」
「当然でしょ。あとインナーは露出を抑えた感じのビスチェで」
「失礼だけど、お嬢さんのお胸じゃ肩紐外せないけどいい?」
「うっ……、そうか、じゃあキャミソールと比べたらどうかな?」
「いくらニーソックスとロングコート前提でも、これから冬になるから、それではかなり寒いのではありませんか?」
「魔導師はマナである程度体温調節できるけど、でも、ノーデンリヒトは軽装じゃ寒いな」
「私あまり得意じゃないの」
「ミニスカとニーソで大丈夫? 足が20センチぐらい露出するけど」
「女の子のオシャレは気合いなの」
ぐっ! とこぶしを握り締めて気合を力説するパシテー。いい子だ。
「じゃあ、秋冬限定で、袖が七分でミニ丈のスリムチュニック。ナイフベルト巻くからスカートと同じ長さで!」
また暖かくなって来たら夏服を買いにくればいいさ。
「基本は真っ黒で、素材は違うけどできるだけ色合わせてね。これで全部」
早口でまくし立てたのを全部理解してもらえたのかパシテーは採寸に引っ張って行かれた。
「それでは、細かいデザインなどの打ち合わせをしましょうか」
「はい、妥協しませんから」
あちこちの末端につけるフリルのデザインや織り方、マイクロミニスカートのプリーツ幅や、どのボタンを採用するか、ポケットの深さに至るまで細かく指定できたので、大喜びで全部指定してやることにする。パシテーが採寸から戻っても打ち合わせはなかなか終わらなかったけど、それから20分後に、やっとすべての要望を伝えることが出来た。
「かしこまりました。えーっと、代金は5ゴールド2シルバーになりますがよろしいですか?」
「ご、5ゴールド2シルバー……、たかいの……」
「はい、出来上がりはいつごろになりますか?」
「5人の服飾職人で取り掛かるので仕立ては4日ぐらいでできそうですが、それから染色の色合わせに3~4日ほどかかる見込みです」
「それでお願いします。出来上がったら、中央区にあるベルセリウスの別邸に届けていただけますか? その際にはアリエルの注文だと言ってもらえれば分かると思います」
「あっ、ベルセリウス家の方でしたか、これはこれは、気が付きませんで、申し訳ございませんでした」
「いえ、別邸に居候させてもらってる身ですから」
アリエルはお金を支払ってマラドーナ装品店を出た。
看板からイメージされたピンクな印象は一切なく、そのギャップも手伝ってかこの店はなかなか好感度が高く感じた。注文した服の仕上がり具合によっては贔屓にしてやろうと思う。




