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16-12 予期せぬ遭遇戦(9)魔法核融合【差し替え】


 すみません、前話、16-11 を書き直し、編集したつおもりでおりましたが、書き直したものを最新話として投稿してしまうというミスがありました。結果、同じ内容でちょっと違うだけのものが2話連続していたと言う……まるでエンドレスエイトのようなデジャヴを感じられた方もいらっしゃったのではないかと思います。幻影に騙されていた感を楽しんでおられたのかもしれません。ですが間違いなので訂正いたします。もうしわけない!! ぼさーっとしてました。

 頑張って急いで書き上げたものを差し替えておきます。



 アスモデウスの野郎、まさかサオに発見される前からタイムラグを見越してミーティアを起動していたとは思わなかった。


 ジュノーに対する奇襲が成功していたとしても、その後必ずゾフィーに殺されることも計算の内で、全てを巻き込んで自らの命も絶つつもりだったのだ。


 アスモデウスはジュノーの頭上を狙う以上、チャンスはたったの一太刀だということも分かっていた。

 奇襲で先制攻撃を加えたあとアンチマジックを食らうことも読んでいたのに、それでも自ら命を捨てる覚悟で襲い掛かってきた。いや、違うか……。こちらに幻影を見破るサオが居たこと、それ自体が大きな誤算だったのだろう。サオが居たからこそもう逃げられないと思ったに違いない。


 ミーティアが落ちてくる速度がさっきよりずいぶん遅い。


 その理由もわかった。単純にデカいのだ。



「ジュノー、隕石ミーティアの大きさは?」

「120メートルぐらいある。さっきの5~6倍ね、落ちてきたら地図を書き換える必要があるわよ。速度が遅いから落下まで40~60秒あるけど、転移して逃げた方がよくない?」



「はははは、そうだ。逃げればいい。必要な命と諦める命を選んで、残りは捨ててゆけ!」

 逃げれば仲間が死ぬ、逃げなければみんな死ぬ、そんな状況を作り出して、一生消えないトラウマを植え付けようとしている。


《 まったく、性格の悪い野郎だ…… 》



 ―― ゴキッ……。



 何かが砕けるような鈍い音がした。

 ゾフィーがただ握力を使ってアスモデウスの首をへし折った音だ。防御魔法もかけられていない、柔らかな首を力任せに握っただけ。スナック菓子を袋の上から握りつぶしたような、そんな音だ。


 首を折られてなおアリエルから視線を外さないアスモデウスの目から瞳孔が開いてゆくのが見えた。ザマア見やがれとでも言わんばかりの、いかにも満足げな薄ら笑いを浮かべながら安らかに死んでゆくところだった。


 聞きたいことは山ほどあったが……、まあ、こんな奴にお望みの結末を見せてやる必要はない。

 ゾフィーは最悪の場合のことを考えて転移魔法で逃げる準備する必要がある、せっかく無力化したアスモデウスからアンチマジックが外れるぐらいなら殺しておいたほうが後が楽だ。



 アリエルはアスモデウスが死んでゆくのを横目で見ながら、ほとんど効果がないだろう爆破魔法をストレージから転移させて遥か高空にあるミーティアめがけて何発も撃ち込んだ。


 キラキラと光って見えるだけで、遠すぎるのか音も聞こえないし、ほとんど効果があるようにも見えない。ミーティア表面に当たってるかどうかさえ怪しい。


 パシテーもサオも、ありったけの爆破魔法を力の限り撃ったが、パシテーの爆破魔法では大気圏を出るまでの射程がないので役にたたないし、サオの転移魔法の精度では、そんな何十キロも先の120メートルのマトに当たるわけがない。


「耐土魔法障壁、耐火魔法障壁、展開します!!」


 エアリスの声だ。パンドラやアマンダたちと協力してミーティアを防ごうとしている。

 出てきてはいけない場面だと言うのに、気付かないうちにエアリスが出て障壁を張り巡らせる手伝いを始めていた。外の声がネストの中にまで聞こえるというのは便利なのか不便なのか……。


「エアリス、出てきちゃダメだろうが!」


「私にもできる事はあります!」


 ジュノーは熱光学レーザービームで隕石を切断しようと試み、わずかばかりの効果があることが分かったが、ゾフィーが次元ごと空間を切断するにしても、軌道が変わらない以上衝突を避けることは出来ない。さあどうする……。



「ジュノー! 切断は無理だ。だけど必ず俺が爆破して見せるから手伝ってくれ」


「わかったわ! どうすればいいの? 早く指示して」


「中心点に一点集中させて穴をあけられないか?」

「回転してるけど!」


「そこを何とか!」

「難しいことを言うわね、わかった。精度を上げてみる」


「たのむ、俺はそこにとびきりホットな奴を撃ち込んでアレを破壊するからな」

「それっていま落ちてくるミーティアよりは安全なんでしょうね?」


「たぶん大丈夫だ!」


 ジュノーは熱光学魔法レーザービームを一点集中させゆっくり回転しながら落ちてくる直系120メートルの岩塊に対し、小さな穴を正確に穿つ。ジュノーの視力と魔法精度のなせる業だ。


 アリエルは静かに瞑目し、両手のひらを胸の前に差し出した。


 この危急を告げる状況にあって、精神統一から入る必要があった。

 昂る気持ちを落ち着かせるとしばらくして上空には巨大な、太陽のように見える炎の球体が現れた。それはみるみる膨れ上がった。傍目には桁違いのファイアボールのように見えるが、その内容は少し違った。


 中に詰め込まれているのはマナだけではなく、マナと魔気に水素のブレンドされた高濃度のガスだ。水素も魔法により電気分解し作り出したものをストレージに貯め込んでいたものだ。べつにこんなこともあるだろうと考えて準備していたわけじゃない。


 その質量は空気よりも軽く自然と浮き上がっていく物理現象を更に上書きする土の魔法で抑えながら、密度をどんどん高くしてゆくとガスは液化しはじめ、こんどはスヴェアベルムの重力に引かれ始めた。アリエルは開いた手のひらを合わせるように、少しずつ閉ざしてゆく。


 すると燃えさかる球体スフィアみるみるうちに縮んでいった。白く直視できないほどの輝きを見せる光源となり、それはやがて青白く短い波長に偏光してゆく。


 高く高く空に向かって浮かび上がり、肌を焼く高熱を放ち始めた光球はやがてその温度を感じさせなくなった。

 アリエル得意の『相転移』という水の魔法で熱の移動方向を逆にすることで放射して逃げようとする熱エネルギーを一点に圧し止める。


 これにより熱は通常の高いところから低いところに移動する性質が逆転され、光球は加速度的に熱量を蓄え、その輝きが強くなるにつれ、逆に不安定さを増す。


 それは16年前にバラライカの周辺と一帯を吹き飛ばし、直径約8キロものクレーターを作った大量破壊魔法だった。いつもアリエルが使う爆破魔法とは似て異なる魔法だ。


 通常の爆破魔法を考案する元となった魔法であり、アリエルの前身ベルフェゴールと一緒に暮らした姉がわりのルーが理論構築し、まだ幼いベルフェゴールに教えた『魔法核融合』という、非常に高難度な魔法だった。


 その狂おしく輝く激しい光と、内包するすさまじいエネルギーにむかって手を伸ばし、羨望のまなざしを送るサオ。


 あれこそがサオの憧れ、自由への渇望が求めてやまぬ光。


 サオはこれこそが『真の爆裂』だといった。

 いま天空に浮かび、恐ろしいまでのエネルギーを内包しながらも抑えきれず今にも全てを滅ぼしてしまいそうな『魔法核融合』こそがベルセリウス派、真の奥義だと。


 少し前、師アリエルに教えを請うたものだ。それをサオは、やってみせてくれたら見て盗むと言った。


 瞬きする時間も惜しいと言わんばかりに、師の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを見て、その奥義を盗もうとするサオ。こんな緊急時にしか学ぶ機会がないだなんて、ひとは不幸な弟子だと言うだろうか。


 しかしジュノーの急告!

 レーザーを撃ち、射角を微調整しながら叫んだ。


「おそい! 早くしないと間に合わないって!」



「ゾフィー、俺をあそこへ!」


「はい、いきますよ」



 ―― パチン!



 アリエルはゾフィーとともに、何度か段階的に転移を繰り返し、自由落下しながらもどんどん高度を上げてゆき、高度にして1万メートル以上、髪が、まつ毛が、涙が凍るほどの低温に晒されながら、青紫色に輝くエネルギーの塊をジュノーが撃ち続ける熱光学魔法の穿った穴を目印にし、レーザー誘導するよう正確に撃ち込んだ。




―― うおおおおぉぉぉっ!!


   ―― 弾けろっ!



 アリエル渾身の叫びはかき消された。気圧の低い、ほとんど音のない世界での叫びだった。


 だが、魔法に気合と言霊は十分に乗った!




 そして地べたに這いつくばって天を仰ぎ、女神に祈りを捧げる……、ただ防御の姿勢をとることしかできない者たちを直視できないほどの光束が世界を真っ白に染め上げてゆく。


 これこそ世界に破滅をもたらす光だ。




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