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15-16 神器の致命的欠陥

 一方、エアリスが戦ってると知って、押っ取り刀で出てきたロザリンドが心配そうな面持ちで、その戦いっぷりを見ている。


 エアリスは貪欲だ。サオの戦うさまを見学しながら、自身も覚えたての無詠唱で、見様見真似みようみまねの土魔法を展開し、盾を操って騎士と戦っている。1対1のタイマン勝負ならほぼ互角にすら感じるほどだ。レプリカとは言え神器を装備した神殿騎士たちの中でもエリート部隊なのだから、まさか14歳の少女にここまで追い込まれるなんて思わなかったろう。その表情には焦りが色濃く映し出されている。


 エアリスの"力への渇望"は凄まじく、剣を教えるロザリンドが"エアリスは危うい"と心配するほど鬼気迫るものだった。

 その理由はおそらく、一分、一秒でも早く敵を打倒するだけの力を得たいという焦りに他ならない。魔法も剣も、早く上達したいのは誰もが思う事。しかし、エアリスの動機の大部分は憎しみであるし、大きく膨れ上がった殺意を隠そうともしない。ロザリンドはその点を"危うい"という。


 今日、こうやって神殿騎士たちとまみえ、戦う機会を得たことに喜びを感じているようだ。


「しかしエアリスの盾術は見てられないな」

「うん。でも鈍器としては有効よ?」


 ロザリンドは盾を盾として満足に使えないのだから鈍器として使えるだけでも優秀だという。確かにその通りだ。


 エアリスは盾を魔法で大きく振り回して、その質量にスピードを乗せて単にぶつけるだけという、簡単明解な戦略だったが、それに剣と魔法の攻撃に加えることで、受ける騎士にとって無視できない致命攻撃のバリエーションが増えた。これが大きい。

 ただひとつ言えることは、その使い方でいいなら盾じゃなくても、その辺の岩でいいのだが。



―― ガン!


 盾の受けた衝撃が音となって木霊する。

 エアリスが力任せにぶつけた盾の攻撃をセオリー通り、がっちり盾で受け止めてみせた神殿騎士の男だったが、その衝撃が重すぎたことから、盾が吹き飛ばされそうになってバランスを崩し身体を露出させた。物理的なダメージは吸収されてしまうが、相手の盾を吹き飛ばす攻撃としては有効だ。


 エアリスは剣を振り、回転しながら舞うように遠心力を乗せ、ガラ空きの首を狙った。


 しかし神殿騎士も最前列を任されるような実力者だ、そう簡単にはいかない。

 だが神殿騎士をぐらつかせたことで戦況は一気にエアリスへと傾く。格闘技の試合でいいのが一発入ったときのように。


「いまよ、ほら畳みかける!」

 ロザリンドが手に汗握ってセコンドについた。


 常人なら必殺のパターンにはめられ、首を裂かれているだろう。しかし神殿騎士の中でもエリートとされている実戦経験もある部隊だ。そう簡単には殺せない。まさにギリギリだったが、紙一重、教会の誇る絶対防御の籠手こてのみで防いだ。たとえ骨折したとしても首を取られるよりましだ。


 しかし今回はエアリスの剣のキレが勝った。



―― ッイイイィィン!


 神器の持つ防御力を上回り、神殿騎士の右腕が回転しながら真上に打ち上がる。


 しかし、その代償にエアリスの剣が折れてしまった。鈍く響いた金属音は、折れたエアリスの剣から発せられた断末魔だった。


 ロザリンドの表情が渋い。この下手くそ! という顔だ。

 剣が折れたのは、力任せに叩いたからだ。エアリスは攻撃がうまく決まらないことに焦ったのか、瞬間的に防御魔法を疎かにしてまで、ここぞと言うときだけ強化魔法にテコ入れしている。

 アリエルは強化魔法と防御魔法のバランスを臨機応変に切り替えるその器用さに感心したが、やはり防御を疎かにするのはダメだ。確かにロザリンドの言う通り、エアリスは危うい。


 折れた剣を惜しげもなく投げ捨てたエアリスがしゃがみ込んだかと思うと次の瞬間には足を払っていて、倒れる神殿騎士とは逆の動きで伸び上がり、たったいま斬り飛ばして宙を舞った騎士の腕を空中で掴みとると、その手が握っている剣を取ってクルッと回転させ、男が倒れるのと同時に、剣を突き立てた。


 狙ったのは首。フルフェイスヘルメットと胴鎧のつなぎ目の部分だ。下方向からなら剣の切っ先が自由に入る隙間がある。


 エアリスは神殿騎士の最精鋭部隊と剣を交え、ギリギリの戦いを制した。

 拾った盾を投げたり、剣が折れたりと、見ていてヒヤヒヤさせられたけれど、貪欲に、泥臭く勝利した。

 際どい攻防だったが、こういった戦いから得るものは多い。


「やるねえ! エアリスはアマンダのライバルになりそうな気がする」


 油断していると魔王フランシスコですら追い込むというアマンダと比較するのは褒めすぎだとは思ったけれど、エアリスはひとり倒しただけで満足せず、何かコツでも掴んだかのように、神殿騎士を掴んでは投げ、足をかけてはひっくり返し、瞬く間に3人倒してしまった。


 アリエルは言葉を失った。急に数レベルほど上がったかのように……、いや、ちがう。神殿騎士たちのほうが弱くなったかのように、エアリスにまるで歯が立たなくなった。


 エアリスは自分でも信じられないといった表情で一瞬だけ両手のひらを見つめ、何か明かりがついたように、気が付いたような表情を見せた。


 だがしかし、この鉄火場で動きを止めちゃダメだ。


 相手は戦闘のプロフェッショナルだ。そんな大きな隙を見せて見逃してもらえるほど甘くはない。



 …… やられる!


 アリエルが[爆裂]を転移させ、ロザリンドが咄嗟に『北斗』を構えた瞬間、エアリスの死角から剣を振り上げた神殿騎士がバランスを崩した。

 いや、足が滑って転んだかのように見えた。まるで氷の上で足を掬われたように。つるっと滑って尻もちどころか半回転してバックドロップ食らうかのように、真っ逆さまにひっくり返った。


 アリエルには一瞬、エアリスが砂の魔法を使ったかのように見えた。その昔、アリエルが強敵とまみえるとき多用した、敵の足もとを掬う魔法だ。

 いや、どうも違う。あれは転び方が不自然だ。出した[爆裂]の明かりで地面を見ても砂に変わった形跡がない。

 ロザリンドもいまの神殿騎士の動きの不自然さに眉根を寄せて訝る。確かにおかしい。


 二人の疑問に答えたのはエアリスだった。



「サオ師匠っ! こいつら土魔法で崩せますっ!」


 戦闘中、信じられないセリフを聞いて思わず振り返ったサオと、

「マジか!」

「えええっ!」


 アリエルたちも驚きの声を上げた。


 それは技量で圧倒できず、力でも劣り、額面通り魔法も満足に通らないという苦境にあって、死に物狂いで勝利しようする貪欲な執念がもたらしたエアリスの大発見だった。


 まあ、その時すでにロザリンドは刀を抜いていて、エアリスを死角から襲うような卑怯者は、転んだと同時に鎧ごと両断されていたのだけれど、さすがに今エアリスが言った内容はアリエル自身、耳を疑った。



 そういわれてみれば、さっきエアリスにトドメを刺された騎士は、足を払われて大げさに背中から落ちた。言われてみると、わざと背中から落ちたかのようだった。そして今のやつも、エアリスがよそ見をしているところ斜め後ろから剣を振りかぶって襲い掛かろうとしたとき、ツルっと滑ってバックドロップのようにひっくり返った。不自然きわまりない。


 そもそも他人の身体を土魔法で持ち上げたり、動かしたりすることができたなら、剣士など誰もやらない。みんなこぞって魔法を習得し、土魔法使いだらけになっていたことだろう。


 しかし実際には『マナを持つ』『他人の身体からだ』には土魔法を使えない。いや、厳密には『とても使いづらい』のだ。特に強化魔法や防御魔法を展開していると、皮膚から沁み出たマナが他者の土魔法を防ぐ。この現象を『滑る』という。剣士がこちらに向けて向かってきたのを、土魔法使いが人に向かって魔法を行使し、持ち上げたりなんてことは当然、当たり前のようにできないようになっている。


 それが出来れば、パシテーが世界最強だし、カタリーナも、グレアノット師匠も将軍クラスを狙えるほどの腕前なり、ポリデウケス先生やハティ、イオがどんなに頑張っても、アドラステアに勝つことが出来ない。マローニの中等部、年に一度の実技大会は恐らく全学年で魔法クラスの花組が勝利するだろう。


 そういえば土魔法の先生だったパシテーでも、確か、過去に一度だけ使ったっけか? というレベルの話だ。ジュリエッタやネレイドさんと初めて会ったとき、エルフの賞金首の武装を解除させたときに使ったのを見たっきり。あの時は降参して強化と防御を切った相手を壁にたたきつけた。


 アリエルもその昔、マナを暴走させたパシテーを土魔法で引き寄せたことがあるけれど、先に[爆裂]を当てて気絶させたから強化も防御も途切れ、他人の身体に作用することができた。

 強化魔法の乗った相手に土魔法など使えないのだ。


 そこそこ強力な、ありとあらゆる魔法防御が幾重にもエンチャントされまくっている神器のレプリカを装備しているのに、あんな対魔法防御の塊みたいな装備を魔法でどうにかできるなんて……普通は考えないし、試してみるなんて発想すらない。だけど今のエアリスの言いようでは "試してみたら出来ました"とでも言わんばかりだ。


 エアリスの報告を聞いたサオは、早速自分を取り囲む神殿騎士たちの足元を掬うのに土魔法を使い、全員をドリフのコントのようにズッコケさせて倒し、エアリスにサムズアップで応えた。正直言って、目の前で起こってることが信じられない。防御力を突き詰めすぎた神器の致命的な欠陥を見つけたのは、14歳の、魔法使サオいの弟子なのだ。



 そうなるとアリエルも試したい。


 今まさにサオに向かって囲もうとしている神殿騎士のうち一人に土魔法を試す。

 ごく基本的な、大岩を浮かばせてこっちに引き寄せる土魔法で捕えて、こっちに引き寄せてみた。



―― フワッ……。


「うわああああああぁ!」


 みっともない叫び声を上げる神殿騎士が、ロザリンドの足元まで転がってきた。

 カプセルの魔法で包まなくとも、石に作用するのと同様に引き寄せたり投げたりできそうだ。


 短時間で土魔法の作用ラインが切れるものの、土魔法に適性がありさえすれば簡単だ。

 この弱点が予め分かってさえいればフェイスロンドはあんなに苦戦しなかっただろうに、ほんとカタリーナお気の毒さまだ。


 アリエルの土魔法で0.5秒程度だったが、神器レプリカがマナを分解して引き剥がすまでの時間的猶予がそれだけあれば、10メートル転がすぐらいのことはできた。いや、マジでできてしまったことに驚いている。


「なんでだ? これはできなかったはずなのに……」


 アリエルの傍ら、ジュノーは腕組みをしながらいま起きたことをつぶさに観察、分析していた。


「魔法防御が強すぎて自分のマナも鎧の外に出る前に消えるんでしょ? そんなもので身体を包んでしまうから、物と同じに土魔法で捕えられるってことね?」


 なるほど、マナを遮断する鎧なのだから辻褄は合う。

 マナが外に出ないということは人形などと同じことだ……。分かりやすく言うと、ひとだけなら土魔法で浮かばせることはできないが、ひとが入って密閉した箱、つまりコンテナのような物ならどうとでもなるということだ。


「すごいな。エアリスの発見は戦況を変えるぞ」

「もしかして、このことに気付いてたら、あの勇者キャリバンもあんなに苦労しなかったってこと?」

 ロザリンドは20年前の戦いを後悔しているようだ。


「そうかもしれないな……」

「死なせてしまった部下に謝りたいよ……」

 だけどキャリバンはあの神器がなくても相当強かったと思うが……。


「カタリーナに教えたら悔しがるぞこれ……」


 致命的な弱点が露呈し、蹂躙され始めた神殿騎士たちのやられっぷりを見ながら、ジュノーがなにか思いついたらしい。


「あなたは土魔法得意じゃないでしょ? じゃあ風魔法のカプセルで包んでみて。5秒ぐらいもたないかな?」


 起き上がろうとする神殿騎士を大きめのカプセルに……。

 フッ! と包んだ。


「お、入ったな」


 ジュノーの言うとおりだ。カプセルの魔法もマナをもつ人体を包むことが難しく、包んだところでシャボン玉のようにパチンとすぐに割れてしまうのだけど。


 しかし神器レプリカによって鎧の内側から滲み出す使用者のマナすら分解されてしまうのなら……風魔法の[カプセル]に入ると言う事だ。



 ―― 3秒経過……5秒……。


 3メートルぐらいの高さで保持してみる。



 ―― 6、7、8秒


 重さを感じない。


 不安定さも、今のところ感じない。大丈夫だ。



 ―― 9秒、10秒……。


 突然、安定の度合いが崩れてきた。神器のせいだろう、カプセルの壁が内側からどんどん侵食されているように思う。



 ―― 12秒経過、13秒……パチン。



「うわあっ」


 ガチャッ!


 重い音を立てて男は地面に落ちた。衝撃や打撃など物理的な攻撃もほとんど防いでしまう防御魔法をエンチャントされているので、3メートルぐらいの高度から落ちただけじゃ怪我をしないと思ったが、衝撃だけは食らうのか? それとも防ぐのは外傷だけという普通の強化魔法と同じものなのだろうか?

 ちょっと痛そうだ。


 引き寄せられた際に手放してしまった剣を見つけたのだろう、剣のある方向にローリングして取りに行こうとしたこの神殿騎士をアリエルはもう一度カプセルに捕らえた。



 いまの実験では約13秒だった。風魔法のカプセルは13秒の間、神殿騎士を捕らえて保持していた。

 ならもう一つ実験だ。



 ―― フッ!


 ストレージに収納してみた。



「思った通りだ……。収納できた。何の問題もなく」


 ストレージ収納実験を見たジュノーが露骨にイヤそうな顔になった。。


「やめて。あなたのストレージには私の下着や着替えのスペアも入ってるんだから! そんな男を一緒に入れないで。見られたくないし、なんだかとっても不快」


「いや、ジュノーの着替えとかはちゃんと収納ボックスに入れたうえでストレージに入れてるから大丈夫だってば。ストレージは下着が散乱してフワフワ浮かんでる空間じゃないからね」


「イヤなものはイヤなの、早くその男を出して」


 そりゃあ半年も入ってりゃ1秒ぐらいの記憶が残るだろうが、いま出してもストレージの中に入れられたのは瞬間的すぎて何も分からないのにさ。



 ―― フッ!


 カプセルに入れられた男は、アリエルの思った場所に現れた。

 内側からカプセルの内壁を叩いてる。何か叫んでいるように見えるけど、声が聞こえない。

 カプセルの魔法は防音壁にもなっているようだ。これはひとつ賢くなった。



 ―― ヒュッ!!


     ……ガツン! カシャカシャカシャッ……。



 アリエルはカプセルが割れる前に急加速させ、サオの足元に転がしてやるつもりが、思ったよりも軽く加速したようで、神殿騎士のうち何人かを巻き込んだ。神器レプリカを着せてさえいれば、人を生きたままストレージに収納して、取り出すことが可能だということだし、砲弾のように撃ち出せるということでもある。


「サオ! カプセルにも入るぞ」


「……ニヤリ! 圧縮して潰してやります」


「そんな酷い発想を俺よりも先に思いつくな! ダメだぞ、そんなグロい残虐シーン、エアリスに見せられないだろ?」


「ええっ、サオ師匠! わたし見たいです」

「ダメだからね!」

 この師弟、グロOKなのか……。エアリスこええ……。

 とはいえ気になったので、アリエルはサオたちが戦っていて、すでに倒された神殿騎士の装備品の中から兜ひとつ脱がせてポイっと投げそれをカプセルに捕らえた。


「よっこらしょっと」


―― ギュっ!


 アルミホイルのようにクシャクシャっと丸まって、玉になった。



―― とすっ


 13秒後にはカプセルが割れて、地面に落ちた。

 触れないほど熱くなってるけど、カプセルが割れたということは、いまだ魔法防御は失われずに残っているということだ。重さは変わらないまでも、野球のボールほどのミスリルの玉が出来た。


 ふうん。なるほど。[爆裂]の圧縮で簡単につぶれる。


「サオ、これヤバい。圧縮禁止な」

「師匠は甘いですっ! 簡単に倒す方法があるなら!」

 とはいえ、アリエルにとってこの神器に傷をつけず敵を簡単に倒す方法って、たぶん毒魔法ぐらいだし。ゾフィーとロザリンドは真っ二つにしてしまうだろうし、ジュノーはビーム出して大惨事になる。パシテーほか真沙希たちはもう寝てるから、サオとエアリスに頑張ってもらった方がいい。


「違うって。この防具はなるべく全部いただこう。ノーデンリヒト軍が接収する」

「あっ、それ賛成です師匠!」



----


「こんどハティかポリデウケス先生に着せてみよう!」

「あははは、私もダフニスに着せたいな」


「サイズがないよ」


 ダフニスは身長3メートル、体重500キロの巨熊だから所詮は人サイズの鎧など着込めるわけもなく、どうせロザリンド的にはこれを着せてどこかにぶん投げてやろうって腹積もりだろうが、サイズがないおかげでダフニスは命拾いした。



―― ドガッ!


 ―― ズササッ!


「ふうーっ、師匠っ! パチモン神器は一網打尽にしましたっ、残る普通の装備の神殿騎士だちはどうしますか?」


 金ピカに装飾された神器レプリカを装備していた神殿騎士の精鋭部隊は50ほど。それらぜんぶ片づけたサオは倒れた者たちを次々と投げて積み上げてゆき、死体がうず高く積みあがった。


「サオ、交渉してみろ。穏便に済ませるように」

「はいっ、ムチャクチャ怒ってますっ! 無理でした」


「はやっ! マジか。じゃあ望み通りやってやればいい」


「はいっ! 了解です師匠っ! いっくよーイグニス!」


 サオは神器装備の神殿騎士たちを倒し切ると、次にノーマル装備の騎士たちに狙いを定めて、これまで我慢を強いられてきたイグニスがストレスを発散するようにはっちゃけてしまって、神殿騎士たちひとりひとりを篝火のように炎上させ、街道以外に何もないような平原に、雲まで赤く染め上げるほどの大火災を引き起こした。その数、数える前に燃えてしまった。たぶん500ぐらい。



 ―― ゴウオオオオォォォオウウウウウオオォォォ!!


 怪我人を乗せた荷車もいっしょくたにして燃やしてしまったのでアリエルに嘘をいって命を長らえたハンス・ワトキンスとは会う事もなかった。

 というか、どれがハンス・ワトキンスなのかも判別できない。


 サオはエアリスの腕前とスピードを信頼しているようで、手加減せずにイグニスの力を解放した。

 エアリスは欲張ってサオの近くで魔法の起動など見ていたので、少し逃げ遅れたが木綿の服の裾を少し焦がした程度ですんだ。神殿騎士団の誇る盾が魔法攻撃に対してどれだけ効果を発揮するのか、その性能を身をもって体験したことにより、エアリスも一枚、戦利品にした盾を手に入れることにした。


 盾の表面には翼を広げた女神の彫刻が施されていて、なかなかに女性的なデザインであること、強力な防御魔法がエンチャントされているため、薄手に軽く作られていることがエアリスのお気に入りになった。


 だけどその盾に彫られた豪奢な女神はたぶんジュノーだ。



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