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15-04 グローリアスとの会談(1)襲撃の真相

物語りはがっつり会話で進行します。あと数話は会話回が続きます。過去のあらすじをほじくりかえすようでいながら、気がついたら急展開だった!みたいなのを目指します。


 トラサルディ・センジュの口がうまいのは確かなのだろう。確かに話を聞きたくなる展開にもっていくのがうまい。正直なところ、日本に帰っていた約16年の間に、この国がどうなってしまったのか。興味は尽きない。


 アリエルは少し話を聞いてもいいんじゃないかと思った。それが相手の思うつぼだとしても。


「これこれエアリス、まったく要らんとこばかりジュリエッタに似おってからに……。まあ、なんだ。酷い話だと思うかもしれないが、ボトランジュはアリエルを勘当するとか、親子の縁を切るとか、ボトランジュから追放するとか、とにかく形の上だけでも無関係を貫けばよかったのだ。ビアンカには悪いが、トリトンは分家したのだからボトランジュは上っ面だけでも王国の言う事を聞いたフリをすればよかった。ノーデンリヒトに向けて兵を派遣して、形式だけでも睨み合っていればよかったのだ。アルビオレックス卿は良くも悪くも男前すぎた。王都や教会の要求をのらりくらりと聞いてるフリをしてれば、ここまで酷いことにならなかったとは思わんかね? もちろんアリエルが勘当されてボトランジュを追放されても、センジュ商会は全国に28拠点あるからね、ビアンカの実家を頼ってくれさえすれば匿ってやるぐらいのことはしたさ。しかしボトランジュは選択を誤り、時代は最悪の方向へ向かった。セカは圧倒的戦力で迫る王国、帝国、そしてアルトロンドの連合に対して、戦争を避けようとしなかったんだよ」



「話を戻すようだけど、セカ侵攻のトコ、もうちょっと詳しく教えてくれないかな。俺たちスヴェアべルムを留守にしてたから、よくわからないんだ」



「それは構わんが、話が長くなるぞ? こんなとこで立ち話をする気なのかい? お茶でも飲みながら座って話したいのだが?」


「いえ、たったいまエルフの家族を保護したばかりだし、俺たちがこの場にいないと不安になるでしょう? だからこの場の立ち話でいいじゃないですか。お茶はまた別の機会にでも」


「なるほど、アリエルにはお茶を嗜むという素晴らしい趣味を教えてやらねばならんか……。しかしアルカディアに行ってたって噂だけど、まさか本当だったのかい? じゃあこんどアルカディアの話を聞かせてくれないかね」


「たいくつな話でよければね……」


「これはこれは、お茶なしで話す気力が出てきたぞ。よし、当時の情勢なあ、うーん。じゃあセカ侵攻に関わる決定的な事件から説明するよ。まず、そうだな、神聖典教会は、アルトロンド領主、ガルディア・ガルベスと組んでボトランジュに兵を送った。覚えてないとは言わせないよ? キミら夫婦がアルトロンド最強と言われていたノゲイラ将軍と、先代の神殿騎士団長アウグスティヌス枢機卿を打倒した戦闘だ。あの戦闘はアルトロンドにとって悪夢だった。サルバトーレ会戦は屈辱の歴史になったんだ。アルトロンドは敗戦したことで領内は上を下への大騒ぎになった。危機感を覚えたとか、そんなレベルの話じゃない」


「アルトロンドってもっと余力があったと思うんだけど? そこまで追い詰められてたの?」

「当時のアルトロンドのことは、ダイネーゼ氏に聞けばいい」


「ん? 私にお鉢が回ってきたようだ。サルバトーレでの敗北後を話せばいいのかな? う――ん、どうだったかな。アリエル・ベルセリウスは悪魔とも死神とも言われていたな。時同じくしてダリルマンディ襲撃の情報も一緒に流れてきたせいで議会は大混乱。ダリルじゃ領主を殺されたんだからね。しかもドラゴンと共に攻めてくるって聞いたから、ヒトだとは思えなかった。しかし、ノルドセカに渡った5千の兵士と、サルバトーレ高原に駐留していた3万2千もの兵士をたった一夜にして焼き尽くしたというその力は、純然たる事実として正確に領内に伝わった。みんな殺されると思っていたよ。悪魔だとしか思えなかったからね、農民までがアシュタロスの再来だといって、アリエル・ベルセリウスを恐れた。教会もないような小さな村にも牧師を派遣して、怯える住民たちを落ち着かせて回ったほどだ。近くアリエル・ベルセリウスがアルトロンドに侵攻するという信頼できる筋からの情報を得て、兵士を総動員して襲撃に備えた。私はガルエイアにいて家族と祈りを捧げていたがね」


「その情報源知ってる気がするな」

「ええ、最悪の奴だったわ」

「最低野郎ですっ!」


「ほう、アリエルに勘付かれていたとしたら情報を流した間者も大したことはなかったんだな。だけど現実にはその情報通り、それから程なくして、アルトロンドが最大限の警戒網を敷く中、どこかから入ったのか、アリエルたちはアルトロンドの奥深くまで侵入していた。いったいどのルートから侵攻したのか参考までに聞かせてくれないか?」


「ああー、ジェミナル河流域の、湿地帯があるでしょ? あそこ歩いて移動するのは骨が折れるけどね」

「なるほど、やはりそうか。アルトロンド軍は陸路を警戒していて、帝国軍はジェミナル河を遡行して来る船を徹底的に臨検して警戒していたんだ。結果、どちらもアリエルたちを見逃したということだな」


「マジで? あの時俺たちは辺りに誰も居ないことを不審に思っていたんだ。兵士も居なければ釣り人の小屋にも人の気配がなかった。それなのに気がついたら囲まれてたんだ。逆にハメられたと思ってたんだけど?」


 アリエルはここでひとつ不審に思った。

 気がついたら囲まれていたのは確かだし、アルトロンド兵も光モールス信号で連絡を取り合い、14万すべての兵士がリアルタイムの指示を受けて、流動的に動いていた。

 あれは明らかに帝国軍の主導によるものだ。現に12万もの戦死者を出しながら、アリエルたちは10人の勇者が待ち構える陣まで誘導されたのだから。


「フン、当時のアルトロンドにキミらをハメるほどの余裕などなかったさ。領都エールドレイクでは、戒厳令が敷かれ落日後は何があろうと都民の外出を禁止していたんだ。戒厳令だぞ? 信じられん、占領下でもあるまいに……」


「ガルベス卿はそれほどまでにアリエル・ベルセリウスを恐れたということだろう。ダリルマンディでは軍が総崩れにされた挙句、領主セルダル卿が殺されたというのに、当のアリエルは涼しい顔で屋敷を出てきたと思ったら、通りの向かいにあるレストランに入って普通にメシ食って帰ったそうだからな」


「くははは、あれは傑作だったな。ガルエイアでその話を聞いたときには苦笑しきりだった。あれは本当なのか? 狂っておるとしか思えん」


「うーん、ちょっとだけ情報が歪められてる気がするよ。それとひとつ、いま聞いた話から重大なことが抜け落ちてる。俺たちがダリルマンディに行ったのは、とあるハーフエルフの女性を探して、足跡をたどるとエレノワという男に攫われてダリルに連れ去られことを突き止めたからなんだけど、えっと、この話していいの? エレノワ騎士伯って、息子さんだよね? 気分を害することになるかもしれないけど?」


「父が若いころ、盗賊やごろつきのたぐいであったことは、本人から告白されて知っている。多くの人に迷惑をかけたとな。今さら何を言われたところで気分を害することはない」


「そか、じゃあ話そう。エレノワはまあ、王都で暗躍していた小さな盗賊団の幹部だった。エルフを攫って売れば莫大な利益を得られるってことで、盗賊や人さらいから一段ランクアップして、ダリルで奴隷商人をやってると聞いた。まあエレノワがどんなことをしたのか、息子に聞かせる話じゃないから言わないが、エレノワ商会で話を聞いたら、とっくの昔に売ったという。じゃあ買い戻すから売った人を教えてくれと言ったら、ダリル領主、ヘスロー・セルダルだった。まあそこでちょっとした小競り合いになったんだけど、まあ、エレノワ騎士伯にセルダル家までの道を案内してもらうことにしたんだ」


「人質にして通りを練り歩いたと聞いたが?」


「まあ、そうともいう。だけどこれはきっと主観の相違というもので、立場によって受け取る印象が違うと、その程度の違いだから気にしないでほしい」


「いーやそこは譲れない。人質にされて通りを練り歩いたなど、当時の父はレイヴン傭兵団のトップだった。大恥をかかされたも同然なのだよ」


「すまん! ちょっとしたいざこざがあって、俺も頭に来ていたから恥をかかせてやろうと思ったのも確かだ。しかしまさか殺されるとは考えなかったんだ。仮にも下級貴族なんだからさ」


「謝るのか? これは驚いた。あのアリエル・ベルセリウスから謝罪を取り付けたのか。これは……大手柄を立てたと父の墓前に報告せねばならないが……、いま聞き捨てならぬことを言ったな。父を殺したのは、ベルセリウス卿、貴様であろう? そう報告を受けているが?」


「違うね。ダリルマンディでは大規模な市街戦になったから大勢死んだと思うが、やってもないことを俺がやったように言うのはやめてもらえるかな? 先代のエレノワ騎士伯を殺したのは俺じゃない。なあパシテー、あいつ名前なんだっけ?」


「名前は名乗らなかったの。でも命令したのは親衛隊長なの」


「なんだと? 当時の親衛隊長はデストラーデどのか……、父の葬儀で弔辞をいただいた。まさかデストラーデどのが嘘をいう訳がない」


「じゃあパシテーが嘘をいうとでも? ちょっと考えればわかることだろ。俺が殺したなら爆破魔法でバラバラ。パシテーに倒されたなら短剣で切り刻まれてるはず。ハイペリオンだったら見分けがつかないぐらい黒コゲだ。エレノワ騎士伯は何本もの槍に貫かれて死んだ。俺たちと一緒に貫いて殺すためにな。仮にも下級貴族なんだ、もちろん死体の検分ぐらい済ませてるよな? 槍を装備していたのは誰だ? 考えてみるがいいさ」


「ぐっ……槍だと? 槍を装備しているのは親衛隊か……。確かめねばならぬ……確かめねば……」


「まったく、人を親の仇だというなら、まずは親の死にざまから知るべきだよ。俺たちはエレノワ騎士伯と共に、ダリル領主の屋敷で門前払いを受けた。エレノワ騎士伯は残念だった。セルダル家の門をこじ開けて入ると、探し人はあっさり見つかったよ。いま思えば見つけたエルフ女性を連れて、どこへなりとも逃げればよかったのだろうけど、所有者であるセルダル卿と話して、奴隷の身分から解放するように迫ったんだ」


「興味深いな。殺す気はなかったと?」


「そうだよ。俺の探し人はあっさりと身柄を解放された。それはいい、だけどさ、実は俺たち、王都からアルトロンド経由でダリルに入るとき、ダリル軍が俺たちと同じコースで北上する行列とすれ違ったんだ。これがさっき言った、話から抜け落ちてる重大なことだ。兵士たちに聞いたから間違いない。すれ違った奴らはダリルの領軍で、ボトランジュを攻めるためサルバトーレ高原に向かってたんだぜ?」


「本当かアリエル。それは初耳だ。その情報はなかったな。ではダリルマンディ襲撃の前からダリルはアルトロンドと協力し、ボトランジュを攻める密約が為されていて、すでに派兵していたと。なればすでにダリルはボトランジュと敵対しているではないか。もしそれが本当ならダリルマンディを襲撃したというのも、一方的にアリエルに非があるとは言えないのではないか?」



「どうだっていいよ今更。だから俺はセルダル卿の身柄を拘束し、ノーデンリヒトへ連行すると言ったんだ。容疑はアンタらと同じだな。不法な奴隷狩りと人身売買。それに加える形で、ボトランジュに兵を送ったこともちょっと咎めて、もしそれがイヤならダリル領でエルフの奴隷を解放し、これまでタダでこき使った賃金を払ってやれと、まあ受け入れるには難しい提案だろうけど、話し合いで穏便に解決する道筋も提案したよ。結局セルダル卿はノーデンリヒトに連れ去られるのを拒否して、その場で息子のエースフィルを後継者に指名すると、俺に決闘を申し込んできた。一騎打ちを受けろと。そのまま虜囚となって人質のような扱いで息子の足枷になりたくなかったんだ」



「決闘? 一騎打ちだと? それはまことか。では見届け人は!?」


「見届け人は領軍トップのゲンナーとかいう男が買って出たよ。その時のやり取りは、息子のエースフィルも、執事のなんだっけ、ありがちな名前の……セバスチャン! そうセバスチャンは最初からセルダル卿との会談に同席していたからな。嘘だと思うなら聞いて確かめるといい。俺はダリルマンディを襲撃したような格好になっちゃいるが、ヘスロー・セルダルを暗殺したりなんかしてない。あれは挑まれた決闘だった。だからこそ俺たちは堂々と玄関から屋敷を出ることが出来たし、腹が減ったから目の前にあったレストランで飯を食ったんだ。その時、領軍はなにをしていた? 指をくわえてみていなかったか? レストランを出たところでレイヴン傭兵団とは戦闘になったが、ダリル軍はただ見ていただけだ。何故だ? ダリル領軍が手を出さなかった理由を考えてみればわかるだろ?」


「そうだな、ダリル軍はセルダル卿が決闘に敗れたから、それ以上手出しできなかったと考えれば辻褄が合う。状況証拠はアリエルの味方だ。エレノワ騎士伯、今の話に何か気になる点はあるかい?」


「いや、言われてみればそうだ。領軍はセルダル卿を殺害されたというのに、遠巻きに包囲するばかりでレイヴン傭兵団の戦士たちが殺されるのをただ見ていたという……。挑んだ決闘に敗れておいて、それを認めず公表もせず、こともあろうに暗殺されたなどと……。貴族の名折れではないか、父が死んだ真相にしても極めて疑いが濃くなった。エースフィルめ、まさかここまで腐っていたとは……」



「腐っているのはだいたいどこも変わらないんじゃないの? ただダリルの人が俺を恨むにしても、その根拠が間違っていたら寝覚めが悪いだろ? 俺が大勢の人を殺したのは確かだし、それに対して言い訳することはないよ。言いたいことはそれだけだ。じゃあダリルの件は終わり。俺としてはまさかアルトロンドがそこまで切迫した状況だとは思わなかったね。なんせ兵士の数が尋常じゃなかった。14万だよ? どんだけカネ持ってんだと思ったけど……、いやちょっとまって。おかしいな」



 アリエルはこの奴隷商人たちの話に乗せられてるフリをしながら、自分たちの知らないところでどんな動きがあったのかなど、興味深く聞いていた。もちろんダリル軍のプライドを維持するために捻じ曲げられた情報にはしっかり訂正を入れながら。



 しかし所々で、話の整合性がうまく取れなくなることがあった。

 当然、アルトロンドもダリルに諜報員、つまり斥候を忍ばせているだろうから、斥候が領都エールドレイクまで情報を持ち帰ったとするなら、自分の目で見たことを報告するはずだ。決して誰かから人伝手ひとづてに聞いたことを報告するなんてことはない。では誰がアルトロンドに、そんな混乱を招くようなウソの報告をしたのかということだ。


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