14-21 火種はくすぶり続ける
20181016 ちょっとずつ加筆して投稿当初5500文字→現在8000文字超になってしまいました。
大筋は変わっていませんが、物語の印象は少し変わっているかもしれません。
北門が開かれ敗残兵たちが一旦グランネルジュに戻ると、2時間ほどたったあと再び門が開いた。
出てきたのは武器を持たない者たちが大勢……。奴隷たちをすべて開放し、北門から送り出せと言っておいたのだから、早ければそろそろ出てくるかと思ったが、死者を埋葬するための一団のようだ
特に停戦を申し合わせたわけではないが、仲間の亡骸を埋葬するときは、すぐ横にどんなに憎たらしい敵がいたとしてもグッと我慢して何も言わず、目も合わせないというのが通例になっていて各陣営の者が総出で穴を掘り、戦士の亡骸を埋葬している。
フェイスロンド軍も例外じゃない。領主フェイスロンダ―ル卿自ら土の魔法で穴を掘る作業中だ。
そんななか、アマンダがまだ動けないでいるのを、ロザリンドが宥めているように見えた。
ハイペリオンに酔ったのか? それとも怖い目にあったのか……。
「どうしたロザリンド? アマンダどうしたって?」
アマンダはアリエルが近付いてきたのを察すると必死で涙を拭って何ごともなかったかのような澄まし顔を見せた。泣いてることを悟られたくないようだ。
「それがね……、戦場に来たのは初めてなんだって。死体を見たのも……。母さんそんなこと一言もいってなかったのに」
木剣を持っての道場稽古じゃ兄に負けず、父である魔王フランシスコですら追い込むほどの実力を持っていると聞いたけれど、戦場に出たこともなければ、死体の山を見たこともなかった。
そんな娘をロザリンドに預けて先行させようだなんて、あの人も相当なスパルタだ。
ロザリンドの拷問を目の前で見たのもきっと悪影響の一つだと思ったけど、そうじゃない。
魔王だの魔人族だの、獣人だのが跋扈する土地だから、イメージ的に勘違いしてしまいがちだけど、ドーラ大陸という土地は、長いスヴェアベルムの歴史の中でも人族の侵略に遭ったことがない。
部族間の小競り合いは多いらしいが、一度に何万もの兵士がぶつかって殺し合うような戦場には出たことがないのだ。
昔の話だが、ベルゲルミルはキャリバンたちとドーラに攻め込む計画があったと言ってた。
あの海流の速いノーデンリヒト海を小舟で渡るなど自殺行為だし、それなり以上の船を用意しないとあそこを渡り切ることは難しい。恐らく歴代の勇者たちと同じく、ドーラに攻め込むこと叶わずノーデンリヒトを解放したことで満足して凱旋するのがオチだったのだろう。
戦場になっていたノーデンリヒトはドーラの対岸に位置する。
海峡を渡った先での戦争だ、これはもう対岸の火事と言ってしまっても差し支えがない。
魔王フランシスコ率いるドーラの軍が、実は実戦経験ありませんなんてこと誰も想像しないだろうがドーラの魔族は、これまでずっと平和の中で生きてきたんだ。だからこそ勇者たちが帝国に撤退してしまったいま、海峡を渡って魔族軍が侵攻するのには最大のチャンスだと言える。もしかすると魔王フランシスコはそこまで考えて侵攻を決めたのかもしれない。
「そういえばロザリンドもノーデンリヒトに渡ってきたときはまだ実戦経験なかったっけか」
「初陣から勇者が相手だったからね、コテンパンに負けたの見てたでしょ?」
見てた。ただ見てたのはホント悪かったから『助けに入るのが遅かったよね』みたいな目で見るのやめてほしい。
「ロザリンドは負けたの?」
「うん、負けた。相手が勇者でムチャクチャ強くてさ」
「勇者? ブライやカンナよりも強いの?」
「んー、ブライって人の事は良く知らないけど、カンナねぇ……、どうかな、まだもうちょっとキャリバンに及ばないかなあ。あいつは別格だったからね、もう一度やれるなら次は一騎打ちで倒したいな……。なんか思い出したわ、誰かさんは助けてくれるの遅いしさ、アマンダは女の子がボコボコにされてるのを、ただ見てただけなんて男に引っかかっちゃダメだからね」
「悪かったから根に持たないでくれ。そんな事より、ロザリンドが攫ってきたアレ、相当なVIPらしいけど、あれの尋問どうする?」
「あんなのどうだっていいよ。護衛がたくさんついてたけど、そっちの方が本命ね、そのオジサンはただ偉いだけなんでしょ? 興味ないわ。そんな事よりもお気に入りのスニーカーが壊れたことの方が問題よ」
「スニーカーは予備を使えって、またいつかそのうち必ず日本に帰る道を見つけるからさ」
「ええっ? また殺されるの?」
「ちげーよ、悪かったよ。もう二度とそんなことはないから!」
ロザリンドの機嫌治ったと思ったのに、こっちに矛先が来るようじゃ藪蛇だったか……。
「ふーん、でもさ……。サオの言う事にも一理あると思うわよ。敵は殺しておかないと、次の戦場で味方を殺すんだから」
「んー? なら聞くが、お前ならどうした? あの8000の兵士たち、殺したか?」
「そうね、あいつら帰るとして、どこに帰るのかな? ダリルでしょう?」
「南方諸国の旗もあったが、ダリル軍が多いな。6000以上がダリルだろ」
「じゃあ生き残ったダリル兵は、いずれサナトスの敵になるわ。あなたはノーデンリヒトで生まれたヒト族だから、フェイスロンダ―ルの望みもくみ取ってやろうとしたのだろうけど、私はシェダール王国人だったことなんてないし、この世界の法になんて興味がない。まぁそもそも王国法なんて知らないし、知りたくもないわ。だからあいつらが生きて帰れたのは、あなたがそう決めたから。フェイスロンダ―ルなんてくだらない男が望んだからじゃない。そこ間違えないでね、あいつらは今日ここで死ぬ運命だった。それを曲げて生かしたのはあなた……。で、何を狙ってるの?」
危ないって、仮にも領主をくだらない男とか、聞かれてないだろうな……。
「しーっ! 声が大きいよ。何を狙ってるって……、そんな人聞きの悪いこと言うもんじゃないぞ? アマンダも見てるんだから」
「今さら人聞きとか、他人の評価とか、そんなこと気になるの? 過去には破壊神、今は大悪魔なんて呼ばれてるのに?」
「あはは、ちーっとも気にならないな」
「だ・か・ら、私はあなたが何を狙っているのかを知りたいだけ。だって帰しちゃったら市街戦で敵が増えるし、あなた面倒ごとが嫌いでしょ? それに今夜にでも母さんたちドーラの先遣隊がここに到着するのよ? 考えられないでしょ? 敵を増やす理由が分からない。絶対に何か裏があるわ」
そんなに勝ち誇ったようなドヤ顔決められてもなあ、見破られたのはいいとしても誰が聞いてるか分からないような状況では話すようなことじゃない。
「名探偵ロザリンドめ……まだ事件も起こってないのにな、先に犯人を見つけるなんて酷い話だ」
に――――っと、ガキの頃そのままの笑顔で応えるロザリンド。見透かしたようなことを言う癖は変わってない。
「ははは、名探偵の行くところ必ずや人が死ぬものなのよ……」
「迷惑この上ない名探偵だな。だけど今ここじゃあ話せない、また後でな」
そういってアリエルが踵を返し転がされている神殿騎士団長の尋問でも始めようかとしたとき、横から口を挟む者がいた。ジュノーだ。
「分からない? フェイスロンダ―ルの名の下で、捕虜を解放した。簡易法廷を開いて裁けば死刑になる者も全て帰したの。見なさい、生き残った戦士の顔を」
ジュノーに言われて辺りを見渡すロザリンドの目に映ったのは、悔しそうに歯噛みしながら、死んでしまった戦友の亡骸を埋葬するフェイスロンド兵の表情だった。
フェイスロンド軍は壊滅状態にあり、現在フェイスロンダ―ルのもとで戦っている者の中には正規軍じゃない者が多くいると聞く。家族を殺されたり、妻を、娘を奪われた志願兵の割合が少なくない。
多くの兵が領主の決定に納得できないはずだ。
そんなときのこと、アリエルたちから少し離れたところでいざこざがあったようで、激しく罵り合っているのが聞こえた。甲高い音のするホイッスルが吹き鳴らされ、もめ事を止めようと人が集まってはいるけれど、乱闘のような騒ぎとなり、黒山の人だかりが激しく殴り合っているように見えた。
「あー、刃傷沙汰になったみたいだ。怪我をしたのは……ダリルのほうだな」
「あなたが治療しろというならするけど?」
「いや、軍医に任せよう。ジュノーは疲れてんだからさ、もう休んでて」
「ひいきだ! アリエルがジュノーをひいきする……。私には労いの言葉一つかけてくれたことないのに」
「あーあ、ほんとバカね、だからさ、この人の悪だくみに私が邪魔だから引っ込んでろっていう意味なの。じゃあ私はもうネストでシャワー浴びてくつろぐからもう呼ばないでね。部屋着で出たくないし」
「悪だくみとか言わないでほしいけど、わかった。お疲れさん。助かったよジュノー」
「くーっ、やっぱ何か腹立つわー。ジュノーが3番目で私が4番目なのよね、これどうにかして逆転する方法ないかな? 武士は下剋上の志を持たねば……」
「誰が武士だ」
乱闘を気にも止めず雑談していると、騒ぎを聞きつけたフェイスロンダ―ル卿みずからが仲裁に飛び込むとダリル兵とのもめ事は収束に向かう。最初に手を出した者、短剣を抜いて丸腰のダリル兵を刺して傷つけた者については本当に残念だが、手かせを嵌められて自陣に連行されていった。
この戦いがアシュガルド帝国など、外国との戦争であるならば司令官は停戦を確認し合い、戦死者たちを葬るのだが、フェイスロンドとダリルの紛争は、もとを正せば大貴族同士の利権争いだ。停戦中ではないにせよ、同胞の亡骸を埋葬するときは争わないことが暗黙の了解となっている。そこでいざこざを起こした挙句に短剣を抜いて刃傷沙汰を起こしてしまったのはいただけない。
当然、ダリルのほうからは口々に激しい抗議が叫ばれていて……、フェイスロンダ―ル卿の思考回路をそのまま実行したとするなら、きっと騒ぎを起こした者や、乱闘に加担した者は罰せられることになるだろう。
法の執行者というのは感情に左右されてはいけないという。だがしかし、仲間を殺し家族を奪った敵を無傷で帰しておいて、それに納得できないからと口論の果てに乱闘騒ぎを起こした仲間を罰するなどということがあったとするならば、得も言われぬ不平等感が根強く残る。このいざこざや乱闘騒ぎは起こるべくして起こった事件だ。刃傷沙汰を起こさせてしまった責任は兵士たちの不満が沸騰寸前まで温度上昇していることを理解できない、愚かな領主にある。
フェイスロンダ―ル卿は、兵士たちの『命を懸ける理由』について、もっと深く考えるべきだ。
誰もがフェイスロンドのためなどと大きな目的で剣を抜くわけじゃない。領地に抱く愛着心なんて、家族や恋人に捧げる愛情のおまけ程度でしかない。多くの兵たちは、愛する者を守るため、攫われてしまった家族を取り戻したいがためという、究めて個人的な理由で戦場に出るのだ。
ここにいる兵士たちは自分たちの敬愛する領主の自己欺瞞を目の当たりにしたからこそ、たとえ戦友たちを埋葬する祈りの時間であったとしても乱闘騒ぎを起こすほどの不満を抑えきれない。
フェイスロンド領主、フェイドオール・フェイスロンダ―ルはこの場面でも選択を間違えたのだ。
もどかし気な憂いを含んだ表情で、遠くから事の成り行きを見ていたアリエルの視線に気づいたのか、やれやれ……といった表情を作りながら、フェイスロンダ―ルはアリエルの前に立ち、頭を掻きながら自らの部下がしでかした不始末の説明を始めた。
「いやはやお恥ずかしいところをお見せしました、事態はすでに収めましたので。ご心配をおかけして申し訳ない……」
アリエルが心配していたのはそんな事ではない。ダリルを追い出したあとにもこの土地で燻り続けるであろう火種のことだ。
お恥ずかしいのは兵士ではない。フェイスロンダ―ル卿、あなたの愚行だ。
そして、事態は少しも収まっていない。そんなことも分からないのだこの男は。
アリエルは寂し気な表情でフェイスロンダ―ルの恥隠しに応えた。
「フェイスロンダ―ル卿、あなたの考えは理解できました。だけど兵士たちが少し浮足立っているようですね、休憩を取らせてやったほうがいいのでは? 3日後には食料をたっぷり持った後続の部隊が到着しますから食事の制限も必要ないでしょう。おなかいっぱい食べさせてやった方が兵士たちの士気は上がりますよ」
「いやはや、食料の手配までして頂けたようで、いくら感謝してもしたりないほどです。先ほどの乱闘騒ぎも、我が軍の兵士たちの士気が高すぎたせいですね。まるで闘犬のようですよ。はははは、手綱を握るのも、闘志を抑えるのも苦労します」
「そうでしたか。それは気苦労の絶えないことでしょう。お察ししますよ。どうか身体など壊してしまわないよう、ご自愛ください」
「ありがとうございますベルセリウス卿、ご心配には及びません。そんな事よりも、あなたのほうがひどく疲れた顔をしてらっしゃる。今後の事はどうか私に任せて、お休みになってください。それと、カタリーナはどうしているでしょう? まだ意識は戻りませんか?」
「てくてくの治療は少し時間がかかります。一晩かかるか、あるいは二晩かかるか。いまサオの弟子のエアリスもついてくれてるので大丈夫ですよ」
「おお、そうでしたか。心配で心配で、私はもう気が気じゃなくて。そういうことでしたらお任せします、カタリーナの元気な顔が見られるなら」
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領主みずから喧嘩の仲裁に入ったり、戦死者の埋葬の指揮をとっているので、あちこちから名前を呼ばれ、フェイスロンダ―ルは多忙のままアリエルたちの前から踵を返すと、すぐさま埋葬したばかりの兵士たちに祈りを捧げる葬儀に呼ばれていった。
遠くから葬送の祈りをチラと横目でみたアリエル。この世界に生まれてガキの頃、何度かマローニの街で見た葬儀と同じ方式、そう、フェイスロンダ―ル家は敬虔な神聖典教会の信者で、フェイスロンドのため、神殿騎士たちと戦って死んだ兵士たちは、女神ジュノーのもとに召されるのだ。
アリエルにはフェイスロンダ―ルという男の、人となりが少し理解できたような気がした。
ちょっと疲れたような表情に見えたのか、ロザリンドが労いの言葉をかけてくれた。
「あなたも疲れてる。強化魔法も防御魔法もストレスには効かないからなあ、休んだほうがいいよ?」
ほんとその通りだ。頭の痛い問題をずっとグルグル考えるのは精神衛生上よくない。
だけどこれっぽっちも疲れてはいない。フェイスロンダ―ルの相手をするのにイラついてるのを悟られないよう、表情をこわばらせていただけ、それはまた別の意味で疲れる。それだけのことだ。
「精神的に疲れただけだよ。身体の方は全然元気なんだけどね、ストレスで押しつぶされそうだ。フェイスロンドの事を考えると本当に頭が痛い。ここはしばらく荒れるぞ?」
「へー?、それが狙いなの?」
「だから後で話すってば」
「もう会話の聞こえる範囲には誰もいないわ……。私たちの身内以外はね。身内に隠し事は良くないと思うんだけど?」
「隠し事とか狙いとか、ほんと人聞き悪いな。違うよ、フェイスロンダ―ル卿はシェダール王国に対する依存が強すぎるんだ。広大な領土を治める大貴族という身分を保証してくれるからね。でも俺たちにとってはそのシェダール王国も敵だろ? 王家が倒れたら当然、大貴族の身分も失ってしまう。なら俺たちが実際に王都プロテウスを攻めようって段階になったとして……、フェイスロンドはどっちに付くと思う? 俺たちの敵に回る可能性はどれぐらいだろう? 俺は半々ぐらいの確率だと思っているよ」
「あの気弱な男に私たちと戦うなんて決定を下せるとは思えないけど……」
ロザリンドは強者だからこそ、乱世で生き抜く力を持たない弱者がどう考えるか? ということが分からないのだろう、力に対して力で対抗するのは強い者の思考だ。では力なき弱者は流れに任せて絶滅の道をたどるか? 否、そんなことはしない。力を持たないからこそ、損得勘定で物事を捕らえ、より自分たちを甘やかしてくれる方に付く。戦って自由を勝ち取らなくとも、ダリルさえ追い出せればそれでいいと、最初から言ってるのだ。与えられた自由の中で賢く生きてくことを選ぶかもしれない。
アリエルは控えめに半々ぐらいの確率と言ったが、フェイスロンドが王国を離反する可能性は極めて低い。その時が来たら敵になることも考えておかなければならないんだ。
「だからさ、あの残念な領主の願いそのままダリルの奴らには帰ってもらった。まあ、それが俺たちの敵に回れなくなる布石になればいいなと思って。もちろんずっと俺たちの味方で居続けるならそれでいい、何も大きなことは起こらない。でも万が一、フェイスロンドが敵になったとき、被害はできるだけ小さくとどめたいからな」
「あの男ってそこまで警戒しなくちゃいけない相手なの? 私には大した事ないようにしか見えない。どうにでもなるでしょ? こんなやつら……」
「今はね。でもカタリーナさんの力次第では強大な敵になる」
「ああっ、そうか。あの人、闇使いになったんだっけ? なんで助けたのよもう……」
「だって敵になると決まったわけじゃないし、味方で居てくれるなら心強いひとだよ? カタリーナさんは」
「闇魔法は苦手だよ! 私そういえば闇使いに勝ったことないんだった!」
「はははは、ロザリンドは相性が悪いな……今なら簡単に負けることはないだろうけど、危険な相手であることは間違いないからね」
「その言われ方も腹立つな! 興味本位で教えてほしいのだけど、じゃあ闇使いと有利に戦えるのって……もしかして……」
「そ。圧倒的に有利なのはジュノー。あと、サオのような炎術師もわりと有利だし……まあイグニスとハイペリオンがついてるからな、サオなら負けない」
「ゾフィーとあなたは?」
「ゾフィーは相手が闇だろうと光だろうと関係ないな。俺はてくてくと戦った時には全敗したから偉そうなこと言えない」
「ボカーンで済ませばいいんじゃないの? いつものようにさ」
「時と場合による。たとえば今のように、周囲100メートル圏内に誰もいなくて、ロザリンドとアマンダがいる。この瞬間に襲われると[爆裂]は使えないだろ? 3人とも全裸になっていいなら喜んで使うけど」
「アマンダを全裸にするのは私が許さないからね」
「えええっ、なんで私が全裸になる話なの? 変態さんなの?」
「違うからね、変態を見るような目で見ないでほしいな! アマンダも剣士だから闇使いを向こうに回して有利に戦えるなんて思えないんだよ。だから万が一、カタリーナさんが敵に回ったときのことを考える必要があるんだ。あ、ちなみにパシテーはきっと本気で怒らせたらカタリーナさんと同じだからね、ジャンケンでひたすら "あいこ" を続けるようなもん」
「パシテー……本気で怒らせたら私じゃ勝てないってことか、何となく分かってたけどさ……」
「相性の話だよ。パシテーがロザリンドに本気で怒るなんてことないけどな」
「なんだか私も頭痛くなってきた。あーもう、ここもノーデンリヒトみたいに独立したらいいのにね、国家元首になったらいろいろと気苦労が絶えないから気の毒だとは思うけど」
「はいはい、トリトンに気苦労かけたのはほとんど俺だからね、反省してるよ……」
これから攻めるダリルを滅ぼすと、そこは魔王フランシスコの支配地となる(予定)。
ノーデンリヒトはドーラとの併合が進み、サナトスが次世代の魔王を襲名すると、長男が帝国にくだったシャルナクさんはボトランジュをサナトスに移譲するだろう。
これもあくまで予定だが、将来的にサナトスは広大な土地を治める国の王となる。
王なんて面倒なばかりで自由がないつまらない職だが、サナトスが選ばれたというならそれは光栄なことだ。だけどダリルが魔族の土地になったあと、ボトランジュとダリルの間を分断する形に横たわるフェイスロンドが敵になるなら、フェイスロンダ―ル家には倒れてもらうしかないということだ。




