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14-14 絶望の淵

永遠のはるか ☆彡 空のかなた

https://ncode.syosetu.com/n5265ex/

サイコサスペンス、お暇ならどうぞ。(時系列など修正中につき更新停止中。もうすぐ復活します)


 一方、アリエルたちがベラールの町を出たちょうどその頃、領都奪還に出たフェイスロンド軍は街道をグランネルジュの北門近くまできて思わぬ苦戦を強いられていた。


 毒矢の攻撃はカタリーナ派の魔導師たちが解毒魔法の起動式を使えるようになっていることから、その脅威は薄まっている。しかし大都市グランネルジュを併合したダリルは都市部の北側をぐるっと守る強固な防護壁を築き上げ、フェイスロンド軍の奪還作戦を阻んでいる。


 フェイスロンドの領都として栄えた大都市グランネルジュはもうダリルの一部となっていて、ダリル領民たちの入植が進んでいる。これから奪還しようとする街はフェイスロンダ―ル卿のよく知る領都グランネルジュではなく、いまはダリルの街だ。


 更には王都プロテウスにある神聖典教会から神殿騎士団長ホムステッド・カリウル・ゲラー司祭枢機卿カーディナル・ビショップ自らが大軍を率いてグランネルジュ防衛に出ていることもあり、少々の攻撃を加えたところで北門を突破することができない。これはフェイスロンダ―ル卿にとって1つ目の誤算だった。


 防護壁を築いていることは報告を受けていたが、まさかこれほどまで急ピッチで工事が進むなどとは考えられなかったのだ。


 それもそのはず、グランネルジュは東西に12キロメートルある都市だ。北半分を覆う形で防護壁を建設するとなると単純計算で18キロメートルにもなる。高さ20メートル規模という防護壁を、延々18キロメートル建築する土木魔法技師を総動員したとしてもその資材はどこから持ってきたのか。

 わずか数か月そこらの短期間で完成できるわけがない……。



 そして戦力に関しても大きな誤算があった。

 フェイスロンド陣営がそうであるように、神殿騎士たちには神官が追従していて、負傷者が出ると可及的速やかに治癒魔法を使うことにより、結果的に無傷で戦線を維持することができる。圧倒的に守るダリル軍の方が有利という状況で、奪還作戦を指揮するフェイスロンド領主、フェイドオール・フェイスロンダ―ルは徐々に追い詰められつつあった。


 攻撃の要、攻城戦に用いられる魔法は、単純明快な土魔法だ。城塞、とりわけ防御力の弱い門に向けて、土魔法で持ち上げた大岩を投げてぶつけるだけ。岩が重くなればなるほど、要求されるスピードが大きくなればなるほど難しくなる。攻城土魔法は高位の土魔導師にしかできない芸当だ。


 フェイスロンドが誇る魔導学院の長、カタリーナはシェダール王国でも指折りの土魔法の使い手だ。もちろん攻城戦魔法も得意としている。だがしかし、大都市や城などという都市防御を考えると、まずはその都市を作るとき付近にある岩場の一切を更地にする必要がある。マローニがそうだったように、ノーデンリヒトもそうであるように、平坦な土地に浮かぶよう都市が作られる。つまり、この世界の大都市には、周囲に攻城戦に使えるような硬度、質量を持った岩など転がってはいないのだ。


 ないなら作り出せばいい。自らの派閥に属する魔導師たちを総動員して土を圧縮し岩を作り出す。その岩は通常の攻城戦には使えないほど小さなものだったが、カタリーナほどの魔導技術者が土魔法で加速させると門を破ることも可能だ。


 現にいくつか門に穴をあけることには成功したが、門の前に巨大な岩壁がみるみる立ち上がると、防護壁の上に16基のバリスタが顔を出した。これは先ごろノーデンリヒト要塞前で戦死した第七の騎士勇者ハルゼルが帝国に伝えたものだ。


 バリスタの一撃は速く重い。

 命中精度も高く、盾5枚をやすやす抜けて人を殺傷するだけの貫通力がある。


 盾を無効化するこの新兵器が投入されたことに加え、通常の炎魔法よりもはるかに広範囲を焼き尽くす連携炎魔法が、グランネルジュ奪還作戦を戦う兵士たちの脅威となった。カタリーナクラスの魔導師があと10人いてもこの門を抜くことは難しいほどに。


 防護壁が難攻不落なのだ。

 寄れば毒矢と魔法攻撃に曝され、そもそも北門に辿り着くことすらできない。


 連携炎魔法、魔法の同時詠唱により、単発で使用するよりも数倍、数十倍の威力を出せるというのは帝国の魔導学会が発表した論文で見たことがある。恐らくは帝国の魔導を真似たのだろう、しかしそれだけではない。


 カタリーナには、この辺り一面を焼き尽くす範囲化された炎魔法を見て分かった。停戦に合意したはずの王都プロテウスが、王国最大の魔導派閥、アルド派を戦場に派遣しているに違いないのだ。


 セクエク・アルドはこの世界で、フォーマルハウトに次ぐ実力を持った炎魔法の権威と言われている。アルド派などと派閥を作って魔導学院の学長に収まる前は『煉獄のアルド』と呼ばれ恐れられていたほどの実力者だ。アルド本人は自ら進んで戦争になど肩入れするような男ではないが、シェダール王国最大の魔導派閥であるその組織力は侮れない。


 そしてまたダリル軍、神殿騎士たちは敵であるフェイスロンド軍をよく研究していた。

 攻守のかなめはカタリーナ派の魔導士たち。特にカタリーナ本人を戦場でうまく働かせないようにすることが重要だ。そしてその作戦は見事に功を奏した。ダリル軍は門から一歩も打って出ることなく、遠隔物理攻撃と魔導師の攻撃のみで5000いたフェイスロンド兵を撃退し続け、いまやその数およそ3000にまで減らすことに成功している。


 戦死者数にして、実に2000対0 ……。結果は圧倒的だった。


 これは建国してから4000年もの間、大きな戦争を経験していなかったが故に魔導師の有用性を見誤ってきた軍部への明確なプレゼンテーションとなった。魔導師など戦場で役に立たないと考えられてきた用兵の常識を覆すに十分な結果だった。


 バリスタや毒矢の混ざった遠隔攻撃と、広範囲を焼き払う炎魔法の脅威に晒されたフェイスロンド兵、とりわけグランネルジュ奪還作戦を指揮するフェイドオール・フェイスロンダ―ルはバリスタの槍が届かない位置に陣を敷いて、ただ睨み合うことしかできずにいた。もちろんノーデンリヒトから魔王軍が援軍に来るという情報は耳に入っていたが、それが間に合うのか間に合わないのか、瀬戸際の決断を迫られる。



 防護壁の強固な守りを抜くことができず、遠隔攻撃の射程外に陣取って援軍を待つ作戦だということは誰の目にも明らかだった。神殿騎士たちは好機とみて動きを見せる。


 フェイスロンダ―ル卿の眼前、北門が開くとフルプレートを身にまとった神殿騎士たちを先頭に、途絶えることなく続々と敵軍が打って出た。その数は5000、いや6000、7000と瞬く間に膨れ上がり、目のいい物見兵の報告では28000まで増えたという。


 神聖典教会の支配が及ぶ南方諸国、とりわけアムルタ王国など小国の旗も見られる。南部諸国連がダリルと連合を組んでグランネルジュに駐留していたのだ。これはフェイスロンダ―ル卿にとって3つ目の大きな誤算だった。



「ご領主、もはや安全に撤退することも叶いませぬ。ご決断を」

「カタリーナ、心配しなくてもよい。もとより私はグランネルジュに辿り着けず死ぬつもりはない。皆のもの! フェイスロンドの剣は折れない! 手を伸ばせばグランネルジュに届くぞ」



「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」」」」




 相対あいたいするフェイスロンド軍にはあずかり知らぬことだが、実はこの大増援には無視することができない大きな理由があった。



 これはボトランジュ、ノーデンリヒトがドーラの魔族軍と連合を組んでフェイスロンドに向かうより2か月ほど前のことだ。


 魔王フランシスコがアリエルたちの戦闘力を値踏みするため、破壊されたセカ港の様子を見てみたいものだと言い、視察に訪れた日、セカでは領主ベルセリウス家の親類縁者となった魔族の王を歓迎する一方で、魔王が来ると聞いて恐怖するものも少なからずいたのも確かだった。


 もちろん復興途中のセカにはシェダール王国をはじめ、アルトロンド、ダリル以外にもアシュガルド帝国や、南方諸国などという外国から潜入しているスパイがいて、魔王フランシスコが軍を率いてボトランジュに来たという情報は、包み隠さず本国へと送られた。


 その内容はこうだ。


『魔王フランシスコ、動く』


 第一報がももたらされてから斥候たちは慌ただしく動き回り、魔王軍の侵攻をいかにして防ぐかという議論が尽くされた。その結果のひとつがグランネルジュ防衛戦というわけだ。



 アルトロンドにある神聖典教会の総本山、神聖ドレイク城にて、最高位、教皇ゼミテ・ド・サンテ十四世は教会幹部たちが集まる定例ミサの冒頭で語った。


「この世界に再び暗雲が立ち込めてようとしています。未来が脅かされているのです……。母なる女神ジュノーは神託を下されました。ひとはみな女神ジュノーのもとで平和に、幸せに、慎ましやかな生活を送る権利があるのです。光なき異教徒の侵略から、ひとを守りなさい。ひとの生活を守りなさい、ひとの街を守りなさい、ひとの未来を守りなさい。祝福されし女神ジュノーの子らよ、汝らの持つ盾は弱きものを守るため。汝らの持つ剣は闇に捉われた異教の輩を打倒するためにあるのです」



 神聖典教会最高指導者『教皇』の談話は教会の意思として瞬く間にシェダール王国全土に伝わった。

 これにより、魔族排斥の思想はより強固なものとなり、トリトン・ベルセリウスが人生をかけて終戦にまでこぎつけた1000年の戦争が、再び繰り返されることとなった。


 前回はノーデンリヒトから魔族を追い払うため。今回は、魔族の侵攻を防ぎ、人々の暮らしを守るためという名目でだ。もちろんノーデンリヒトとボトランジュは魔王と手を結んだ人類の裏切り者として、女神の敵となった。



 ダリルよりも南の南方諸国、これは日本でいう地方自治体レベルの小国がずらりと集まっていて13の王国が名を連ね軍事同盟を結んでいる。神聖典教会の支配地であるから人類の敵である魔王軍との戦闘に馳せ参じるというよりも、ダリル劣勢と言われる中、もし万が一にもダリル領が負けでもしたら、国境を接する南方諸国の脅威となる。国土を戦火に焼かれるの防ぐため、フェイスロンドを戦場にして食い止めようと踏んだのだ。


 各国、各陣営が様々な思惑を秘めて戦場に出てきた。


「光の戦士たちよ、あれに見えるは魔族の傀儡フェイスロンダール率いる敗残兵どもだ。思う存分武勲を挙げよ! 進軍マーチ!!」


 戦場に号令が響いた。一斉に叫び上がる鬨の声。

 フェイスロンド軍3000に対し、女神の神託を得た28000の兵、最前列を務めるのは異教徒から女神の子らを守る盾、聖なる神殿騎士団。フルプレートの鎧を着込んで大盾を構えながら歩調を合わせてゆっくりと、一歩一歩、踏みしめながら近付いてくる。



 エルフの魔導士、カタリーナはダリル軍がグランネルジュに侵攻してきたときの戦闘で何十人もの弟子が倒され、その家族を奪われた。グランネルジュ奪還戦、この戦い、何としても勝ってグランネルジュを取り戻すと固く魂に誓った。


 もとより弟子たちの亡骸を葬った土地をダリルの者が土足で踏み歩くことを許すつもりはない。


 防護壁の後ろにコソコソ隠れていた神殿騎士たちが続々と出てくるのを見て、カタリーナは腹から込み上げるわらいを我慢できずにいた。


「くくく……、貝のように殻に閉じ籠っていればいいものを、打って出てくるとは都合がいい。今こそ数を減らす好機だ! 魔導師は砲撃戦用意! 敵の矢の射程にはくれぐれも気をつけろ」


 カタリーナは最前列が神殿騎士と知るや、盾の前に出て攻城戦魔法で使うために作った人の頭ほどの岩を敵陣に向かって砲撃戦のごとく次々と撃ち込んで先制攻撃を加えた。敵軍の誇る毒矢の射程外から岩を降らせる。恐ろしく回転が早く、連射機能を備えた投石器のようなものだ。着弾したところで爆発するわけではないので、口で言うほど敵の数を減らすことはできないが、一方的に先制攻撃を加えることができるという意味は大きい。



 だがしかし、28000の歩兵を相手に投石したところで、倒せる兵の数は無視できる数だった。

 カタリーナは敵軍の将兵のいる位置を見極め、狙い撃ちにすべきだった。岩は直撃しなければ敵兵を倒すことも出来ないサイズなのだから。


 迎え撃つフェイスロンド軍に対し、ダリル連合軍は徐々に間合いを詰めて、ついには弓と魔法の射程に入った。まずは敵後方からファイアボールの魔法が無数に飛来する。


「カタリーナ学長、盾の後ろまで下がってください、もう弓の射程です」

「かまわん! 耐火・耐熱障壁を展開! すぐに毒矢が飛んでくるぞ、魔導師は盾から出るな!」


 魔導師の割合が多いフェイスロンド軍にとって炎術師の放った射程ギリギリまで飛来するようなファイアボールなどものの数ではない。だがしかし、耐火・耐熱障壁を展開せざるを得ない状況に追い込まれる。


 炎が次々と落ちてくる中、障壁で受け止めるフェイスロンド兵たちの頭上、鏑矢かぶらやの高い風切り音を合図に山なりに黒い煙のように立ち上がるのは、敵軍の放った毒矢だった。神殿騎士の盾の後ろ、ずらりと整列して長弓を引くのはダリルの誇る弓兵。一分間に20射という連射速度で空に向かて毒矢をばらまく。ファイアボールは魔導師に障壁魔法で手一杯にさせるための手段であり、本命はやはり毒矢。


 一度に2000、3000と放たれる矢は、わずか60秒の間に4万、6万と頭上に降り注ぐ。盾を傘に防御していてもかすり傷ひとつで致命傷となることから、剣戟を交わさずとも矢の雨を浴びせかけただけでもう戦況は大勢が決まったようなものだ。


「カタリーナ学長!!」

「くっ……ぬかったよ……」


 肩に深々と矢が突き立ったカタリーナを心配して弟子が駆け寄る。


「次弾に備え反撃のチャンスを窺え、私はだいじょ……くはあっ……」

「カタリーナ! カタリーナを下げろ! 戦線を維持しろ、一歩も引くな。一人も死ぬことは許さんからな」


 カタリーナが毒を受けたことで前線は一気に崩れ始めた。

 必死の攻防続くグランネルジュ北門の戦いは、もう誰の目にも勝敗が明らかとなった。


 しかし神殿騎士たちの攻撃は執拗で、降伏の勧告もなかった。ただ殺すことを楽しむように殺戮を続ける神殿騎士たちに対し、フェイスロンドの戦士たちは獅子奮迅の戦いを見せたが毒矢の掠った者も多く、蹂躙を許すまで僅かな時間持ちこたえたに過ぎなかった。


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