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14-08 ルーの探し物

永遠のはるか ☆彡 空のかなた

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サスペンスホラーに耐性ある人むけ。お暇ならどうぞ。(注:不快な表現あり)


 逢坂ルーは植木鉢から零れ落ちるマナを見ただけで一瞬で判別した。瞬きを忘れ、網膜に映った情報を少しでも速く脳に送る必要があったが、いくら見ても、どう見ても間違いないように見える。あれは覇王樹の果実、アマルテアで言う世界樹の実だった。他の誰が見間違えても、世界樹に育てられたルーとアリエルだけは絶対に見間違えることはない。


 無意識のうちに駆け寄ろうとする逢坂ルーを制止してアリエルは言った。


「ストップだルー、これは取引だからな」

「なぜあなたがアレを持っているのですか? 答えなさいベルフェゴール、なんでアレがこの世界にあるの? ああっ、ダメよあんな素焼きの植木鉢に植えたら乾燥してしまう! ねえ、私に……」


 気が動転したように食い下がる逢坂ルーに、人差し指を立て左右にリズムを取りながら、チッ、チッ、チッと舌を鳴らす。アリエルは逢坂(ルー)の小さな身体を抱きかかえるよう前に立ち塞がって食い止めると、もう一度同じ言葉を繰り返した。


「取引だよルー。この世界樹の実はもしかするとこの世界に転移してきたとき命を落とした8人を生き返らせる手立てになるかもしれない。ならルーは、ルーの知ってるテルスの情報を俺たちと全て共有、そして俺たちは組む。つまり手を組んで共闘するんだ。そうすればどちらも幸せになれるよね? ウィン・ウィンの関係になれるよね」


「違うよベルフェゴール! それは鈴木くんたちを生き返らせるのには使えないの。あなたの考えてるようなものじゃないのよ、扱い方を間違えるとこの世界を滅ぼすことになるかもしれない危険なものなの」


「これが危険なものだということは知ってる。だけどこの世界じゃうまく根付かないんだ。だからいまのところは安全だけど、もしあれが危険なものになるとしたら、ルーの手に渡ったときだと思ってる。逆にルーなら安全にこの世界の大地に根付かせることができるんだろ? てかルーにしかできない。だから俺はこれをルーに渡す。いつかルーに会えたら、その時渡そうと思って持ってたんだ。だからこの提案を断っても、この世界樹の実はルーに渡す。だけどご褒美と言っちゃなんだけど一つお願いを聞いてくれってことさ」


 逢坂ルーはアリエルに食い止められてはいたが、傍目から見るとただ抱き締められているようにしか見えなかった。ジュノーやロザリンドの苛立ちをよそに睨み合う……いや、見つめ合う二人……。


 ルーのすこし厚ぼったい唇が動こうとするけれど、言葉が出ず、視線を落として小さく首を横に振る。

 そして再びアリエルの目をじっと見て、ルーは……それでも答えられなかった。


 ルーの言葉が喉まで出かかっているのにそれをまた飲み込む様子をみたアリエルは何か話せない事情でもあるのだと悟った。

「ルー、もしかしてテルスは俺たちの知ってる奴なのか?」

「まだ……答えられないの。私もまだ半信半疑なのよ……まずは確かめる必要があるの」



「その話は抱き合ってしなくちゃ出来ない話なわけ?」


 いつの間にか抱き合っていた! 顔も近い。話の内容が聞こえなければ今にもキスするんじゃないかって誤解されてしまうほどに。


 ジュノーが不満を漏らしたことでハッとして我に返ったアリエルとルーの二人は慌てて離れ、取り繕うように目線を逸らし合った。


「じゃあテルスの情報はいいや。でもテルスと一人で戦うなんてことはよしてくれ、戦う時は、俺たちも一緒だ、これでいいだろう? お願いだからうんと言ってくれ」


 二人よそ見をしながらもしっかりと横目で数秒ほど見つめ合ったあと、ようやく観念したのかルーのほうが小さなため息をついた。


「分かりました。その条件で承諾します。はあ……覇王樹の果実を目の前にぶら下げられ、それを欲してしまった私を誰も責めることなんてできないわ……。だけどベルフェゴール、こんなのどこで手に入れたの? 出所は? スヴェアベルムに覇王樹があるなんて聞いたことがないのだけど?」


 アリエルはてくてくから素焼きの植木鉢を片手で無造作に縁を掴む格好で受け取り、それをそのまま左から右へ逢坂ルーに手渡した。

「ん。約束だからな、まあこれの世話は俺たちには荷が重くて、どっちにしろルーを探して託すつもりだったんだ。ルーは戦った事ないから簡単に滅ぼすとか言うけど、テルスだけはガチで手ごわい。言葉を返すようで悪いけど、こっちも下手したら世界が滅ぶから」


 アリエルは大切な実をこんなに早くルーに手渡すことができて、やっとのことで一息ついた。まったく、あっちでもこっちでも、何か少し間違えただけで世界が滅ぶという。まるで命綱なしの綱渡りじゃないか。そして逢坂ルーはテルスの事を知らない訳じゃなかった。十二柱の神々に選出されたとき、一通りの面通しはしているようだった。もちろん、今は転生して姿を変え顔も変わっているはずなので、頼りになるのはマナを見て判別する目だけなんだろうけど、さっきジュノーのオートマトンを簡単に見破ることができたから、その点については申しぶんない。


 逢坂ルーは素焼きの貧相な植木鉢ごと受け取ると、石畳の上にそっと置き、まずは世界樹の実をその手に取った。


 世界樹とはアマルテア建国以前からあったと言う、樹齢数万年、その高さたるや3000メートルを超え、東西南北に広がる枝の範囲は20キロメートルに渡るという巨樹だった。木漏れ日の降り注ぐ樹下には支配下に入った通常の樹木が深い森を形成していた。太陽光の足りない分は、世界樹からもたらされるマナを養分にして森は育つ。


 世界樹は植物種しょくぶつしゅで最大最強を誇り、動植物すべてひっくるめて最長寿の生物だった。

 ザナドゥでは、樹木も人と同じく意志を持っていると考えられている。

 現に世界樹と触れ合ったベルフェゴールとルーには当たり前の常識だが、樹木というのは単純に人とコミュニケーションを取る手段がないだけで、植物同士は根と根が触れ合うことで世界規模の超巨大ネットワークを構築している。


 覇王樹というのは世界樹になり得る唯一の種で、通常は高さ200メートル程度とされるが、従えた森の規模によっては1000メートルを超える巨大樹へと成長し、光合成とともに地脈から吸い上げる莫大な魔気のエネルギーをマナへと変換させ、その膨大に膨れ上がる余剰マナによって精霊を生じさせることがある。アマルテアのキュベレーがそうだったように。


 覇王樹の果実がこの地に根付いて、万が一広大な森林を支配下に収めることになったら新たな精霊を生じさせることになるかもしれない。そうなったとき、人類に突き付けられる選択肢は多くない。共存か、死かだ。


 逢坂ルーは、自分の右手の指から指輪を外すと、手のひらに握り込んだ。キュッと少し力を入れたように拳を結ぶ。

 再び手のひらを開いてみると指輪は濃い灰色の粉末になっていた。そしてさっきまで世界樹の実を植えていた植木鉢も、世界樹の実を植えていた土も白っぽい粉に元素変換すると手のひらにあった濃い灰色の粉末をサラサラと落として、混ぜた。その後粘土質のように固まってきたのを薄く延ばして組み立て、箱を形成すると……どこかで見たような質感、テカリの材質へと変化していった。

 その時この場にいた皆、ルーの手元と元素変換の技術だけを見ていたせいか、ルーの表情が怪しく微笑んでいたことに気が付かなかった。何かとてつもないことを考えているような顔で……。


「ミスリルだよねこれ、マジか! 純ミスリルなんて手持ち少ないんだ、ルー頼む俺にもちょっと作って」


 仕方ないわね……と、少し上機嫌になったルーは弟の願いを聞くのにやぶさかでなかった。

 まずは少量のミスリルを用意してそれをカルシウムに混ぜ、全てをミスリルに変換した後、粉末だったものをインゴットの形に成型するだけだ。アリエルはこうも簡単にミスリルが手に入ることに驚いた。

 金よりも貴重で高価なミスリルの3キログラムインゴットを5本も作ってもらった、これでまた新しい魔法剣の開発が捗る。


「おおっ、おおおおっ。すごいな。ついでに金も!」

「ダーメ。ベルは覚えてないかな? アマルテアの東側にあったレクイエ王国、あそこはインフレで滅んだのよ? 金なんて毒にしかなりませんからね」


 アリエルは心の中で絶妙の間をとり力いっぱいツッコミを入れた。

『ウソつけ―!』と。


 ザナドゥにあってアマルテアと国境を接していたレクイエ王国は小国だったが大きな港をもち、南北に突き出した岬にあるという立地から貿易の中継点として栄え、莫大な富を得た国だった。カネで買えるものは全て手に入れた国王が次に欲したのは不老不死。そう、愚かなレクイエ国王は、世界樹攻略に兵を差し出したのだった。


 もちろんキュベレーとルーが守る世界樹の森はそう簡単に攻略できるわけなく……。

 攻略軍は数回来ただけ。その悉くが屍になり、森の土を肥やす養分となったのだ。


 まだ少年だったベルフェゴールは、きっとまた準備して攻めてくるだろうと考えていたが、それ以来もう二度とレクイエ王国が攻めてくるなどということはなかった。それどころかレクイエの国内はハイパーインフレが吹き荒れ、貨幣が価値を失って、経済基板を失ったレクイエはそれからほどなくして王が倒された。後に王になるベルフェゴールがひとつ胸に刻んだ印象深い事件だった。


 レクイエ王国ハイパーインフレの原因は、レクイエの財務院が銀行に出す金の含有量を下げたことが原因だった。

 これまで1ゴールドで買えていた品物が、1ゴールド貨幣から金の含有量が半分になったとすると、お金の価値は半分になる。まずはそれが原因でレクイエ金貨の価値そのものが暴落する。金貨の発行を一時中断するなどしてインフレに対処すればよかったのだが、レクイエ王国は世界樹攻略するために兵を増員していた。インフレだからといってお金がありませんじゃ済まないので、致し方なく財務院が金貨を乱発したことにより、市場に出回るゴールドの量が数倍、数十倍、数百倍、瞬く間に数千倍となり、つい半年前まで1ゴールド貨幣だったものが3か月後には100ゴールド貨幣、いまは1000ゴールド貨幣と、数年を待たずしてハイパーインフレ状態に陥り、これまで私財を貯蓄してきた王国民たちの財産そのもの全てがゴミクズのように価値がなくなった。


 レクイエ国民たちは何年も、何十年も汗水たらして働き、ためたお金をぜんぶ集めてもパン3個しか買えないなんて悪い夢を見ているようだった。その怒りの矛先は愚かな国王へと向けられたという。


 しかしベルフェゴールはレクイエの財務院が金の含有量を下げるわけがないことを知っていた。

 あの国の金貨の価値が下がったのは、どこぞの元素変換なんてチートを使う女が金庫に忍び込んで、片っ端から金の含有量を下げて回ったという。ただそれだけの事だ。


 ルーは国を滅ぼすのに剣を使わない。皆の前に立って煽動しない。決して英雄になろうなんて考えない。

 表立って人を殺したりせずとも国なんて簡単に滅ぼす力を持っている。

 どこの陣営だって戦時中は財政が苦しい、目の前に金があると飛びついてしまう。だからこそ毒にも罠にもなり得るというのだ。


「分かったよ。ミスリルありがとうな。じゃあえっと、ルーはこれからどうするのさ? 俺たちと一緒に行動する? バラバラになると連絡とか密にできないからちょっと困るかな。俺たち西回りでダリルから攻める予定なんだけど」


「私にはやることがあるから単独行動する予定だけど……」

 言いながら今しがた世界樹の実を保管したミスリルの箱をフッと消して見せた。ストレージだ。それを見て黙ってられない女たちがルーに掴みかかるように縋った。


「ああああ、逢坂おうさか先生! ストレージですよね、いまのストレージですよね! もう完成したの? まさか半日? 半日でできたの? ちょ、私に教えてください!」

「先生私にも、私にも教えて欲しいの!」


 ジュノーとパシテーがルーのストレージ魔法に食いついたのを眺めながら、サオがじっとりとした目でチラチラこっちを見ている。そう、この世界の師弟関係と言うのはかなり厳しい掟がある。師匠の目の前で他の者から魔法を習うなんてことはご法度なのだ。


「んなトコでモジモジしてるぐらいならサオも教えてもらえよ。ルーは俺の姉さんだからついでに挨拶もしとけ、な。俺はストレージの仕組みがちっともわからんから教えられん」

「は、はいっ。了解です。師匠のぶんまで理解できるよう、しっかりと学んできます。エアリスも行きますよ!」

「分かりました! サオ師匠に負けないよう精進します!」


 せっかくルーと再会できて、積もる話もあったのだけど、やっと雑談でもしようかという空気になった途端、女どもがルーを捕まえて離さない。何とかしてストレージの魔法を教えてもらおうと殺到したものだからルーは引っ張りだこで話もできなくなってしまった。学校の先生という職業病をわずらっているせいか、ちゃんと論理だてて説明しているのだけど、その説明が難解でストレージを使えるはずのアリエルにも強力な睡魔に襲われるほど。


 アリエルは自分のストレージからアウトドア用の銀マットを出して石造りの塔の屋根に敷き、ゾフィーとロザリンドを座らせてそこに寝そべった。久しぶりにゾフィーの膝枕で少しだけ横になることにした。どうせ女たちは朝まで魔法のお勉強だ。パシテー夜弱いのに大丈夫かな……、なんてことを考えながら、ウトウトし始め、いつの間にか意識を深い深い闇に落とす。




----


 さっきまでノーデンリヒトの物見の塔にいたはずが、アリエルは闇の中にいた。

 色彩感のひとつもない、何も映像のない夢の中にいることを考えると、どうやら眠ってしまって夢を見ているらしいという事は分かった。

 闇、闇。温かいのか冷たいのか分からない闇、立っているのか浮かんでいるのかもわからない。


 なるほど、ひとつだけ分かったことがある。五感のすべてを遮断されているんだ。

 だから光を感じない、温度も感じない、上も下も分からない、地に足を付けている実感がないことから浮遊感? のようなものを疑似的に感じているだけだ。


 しかしマナの発する気配だけは感じることができた。

 側に誰かがいる、すぐ近くに。

 アリエルの身体を優しく抱いてくれている。とても懐かしい原初の記憶に刻み込まれた感覚だ。温かさを感じないのがとても残念だが、柔らかな球体を感じさせるような、大いなるマナに抱かれている。


「ああ、会いたかった。キュベレー」

 自分の声帯から出た声が骨伝導で伝わって鼓膜を震わすでなく、聴覚を解さず、自分の声が脳に直接響く不思議な感覚だった。レコーダーに録音したように、聞きなれた声ではなかったが、その声が自分の声だということは本能的に分かった。



テープレコーダーって知らないヒト多いですよねー。

テープレコーダー → レコーダー に修正しました。これでICレコーダーのような録音機器になりました。そういうことにしといてください。


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