13-15 敵対国の合同モニュメント
読み返すと酷かったので書き直しました。
2024 0206 手直し
作者体調不良によりダウンフォール更新頻度が落ちています。書き溜めてあったラブコメ小説を放出しています。お時間が許ましたらこちらもどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n1497en/
「冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています」
話はそろそろ終盤です。ターゲット年齢ちょっぴり高め。残酷な表現あり。R15
町の外の見張りはここの守備隊の人に任せておくとして、俺たちはあまり機嫌のよろしくないジュリアさんと、あと真っ赤な髪のエルフ混ざりの男について、町長さんトコへいくことになった。
ジュリアさんもそうだけど、この赤い髪のエルフ混ざりのひとも苦虫を噛み潰したような表情でポリデウケス先生を見ている。
まあ、町を出たのか追い出されたのか、そんなことはどうだっていい。どうせこの赤髪のオヤジがなにかしでかしたせいに決まってる。ほんと、この町を出て行くとき、いったい何をしたら30年以上たってこんな顔されるんだろう。
アリエルが問うた。
「先生、町を出るとき何かあったの?」
「いや? なにもない。なにもないぞ?」
「ジュリアさんってひと、最初から先生に対して好意的じゃ無かったよね。そして先生が昔飼ってた馬の名前はジュリアだった。何かあったに決まってるよ」
「お前に見せたっけ?」
「ナンシーが誘拐されてパシテーとユミルがいて、山小屋を急襲したじゃん」
「あああっ、そか。そうだった。だけどそれは言うな。頼むから言っちゃダメだ」
「ほらね、何か隠してる」
「そんな事よりも……なあアリエル! 3つかぞえるって……普通は『ひとつ』から爆破しないものなんだぞ?」
話を逸らそうとするポリデウケス先生の挙動が不審だった。
よほどなにか聞かれちゃまずいことがあるということなのか。
ならジュリアさんに直接聞くまでだ。
「みっつ数えるから選べって言ったんだよ?『ひとつ』で決断しないと、ひとつ、ふたつと徐々に追い込まれるのは当たり前でしょ? そして3つ目で時間切れ全滅。これが普通だよね」
アリエルの暴論に対し、サオが感嘆の声を上げた。
「師匠さすがです。私やっぱり最初のジャブが弱いんですよ。だから舐められるんですね。分かりました次からは最初から爆破します」
サオが交渉に失敗するのは、まず見た目から舐められてるからだろう。
対するアリエルはといえばダリル兵の間ではちょっとしたアイドル並の知名度だし、ダリルマンディ襲撃のとき力を見せているから名前を言っただけで相手はビビってくれる。
サオの名はボトランジュの狭い範囲限定で、王国軍とアルトロンド軍、そして帝国の勇者軍に手酷い被害を与えてるから有名だけど、いかんせんこんな可愛い女の子だってことまで細かい情報が届いてないし、そもそもサオはダリルでは無名だ。
市街戦じゃなくてフィールド戦闘なら最初からハイペリオンを出しっぱなしで行けばいいのではないかと思った。
「まあダリル相手ならなんだっていい。奴らは報復で奴隷にされてもまったく心が痛まないからな」
しかしポリデウケス先生は戦争はなんでもありじゃあないと前置きしたうえで、
「私が見た限りではフッ飛ばされるか消し炭にされるばかりだったが? ここに居た奴らは最初から及び腰だった。もっと他にやりようがあったんじゃないか?」
つまり先生は森で爆破魔法を使った事に対して小言を言い続けてる。
アリエルがボッカンした森は果樹園になってて、この小さな町の重要な食糧供給源だったらしい。
戦時で行商などの流通が途絶えてるだろう辺境の町で、住民たちの食糧を危機にさらすのは良くない。
まあ、ポリデウケス先生としてはマローニ防衛戦を兵糧攻めで敗退したことを根に持っているのだが、それをアリエルにまでいうのは少しお門違いというものだろう。
とはいえ、いくらダリル兵が潜んでいたとはいえ果樹園を爆破したのは他でもないアリエル自信なのである。果樹園を管理しているのが町長だということで、アリエルたちはいまダリルの奴らが会わせろと言っても門前払いにされた町長のもとへ連行されてきた。
とは言え、向かった先は通りを歩いてすぐ近くの広場。テントを張ってダリル兵たちの対策をしているのだろう、急ごしらえの野営地といった様相で、慌ただしく人々が行き来している。さっきの爆発音が町中に轟き渡ったことで、" いったい何事か?" と子どもから年寄りまで、家から出てきたようだ。
広場は円形で、中央には石碑が立ってる。
町の規模は小さいのに、やけに石碑の広場が大きく感じる。石畳だし綺麗に清掃されていることから、この町のひとたちが綺麗好きなのか、それとも専門の清掃員が雇われているのかどちらかだ。
中央に建立された石碑は、石板を切り出してきた一枚岩をもとに彫られているらしい。ジュノーが石碑に興味を持ったようだ。
「ねえ、あの石碑みて。ミスリルを含んでるわね……」
アリエルはジュノーに手を引かれ、小走りで石碑の前に立つと書かれていた文字に目を奪われた。
石碑にビッシリと刻まれている左半分はアマルテア文字だ。そして右半分は……、
「ソスピタの儀式文字……」
ジュノーが小さな声でつぶやいた。ソスピタの文字の中でも儀式文字といわれる古い文字だ。
ミスリル原石は風化しにくいという特性を持つ。ゾフィーの転移魔法陣が万年の間人に踏まれ続けても未だ起動するのは風に削られることがほとんどないからだ。
わざわざミスリルの含まれる原石で石板を作ったのだから、これは偶然ということもない。
後世に残すため、ミスリル原版で石碑を建立したのだ。
今でこそ学校があり、文字の読み書きは一般的に庶民であっても学ぶべきものだが、ソスピタ王国があった1万年も2万年も前の古代に一般の庶民は文字などとは縁遠い生活をしていた。
王族や貴族など高貴な者が使う儀式文字と、役人などが書類仕事に必要な識別文字というものがあって、これらはおよそ日本語に置き換えると前者が漢字、後者がひらがなに相当する。
まだある。
ソスピタの儀式文字というものは、もともと古代の神代文字をもとに作られているので、魔法陣を書くときに使用される神代文字に似ている。そしてさらに言うと、ジュノーが考え出した起動式も魔法学者たちは神代文字として理解しているようだが、ジュノーが考えて公開した起動式はどちらかというとソスピタの儀式文字のほうが本質的に近い。
だからこそ起動式そのものの解読は困難を極めている。
アリエルがパッと見た限りでは、外国人が漢字を見たような感覚なのだろう。
もちろんサッパリわからないという意味で。
だけどそれは石碑の右側だけ。
石碑の左側に書かれているのはアマルテアでも広く普及していたザナドゥの文字だ。
アリエルにとっては勝手知ったる懐かしい文字なので、記憶をたどりながら読める。
アリエルが黙読している視線に気づいたのか、サオが問うた。
「師匠、これ何て書いてあるんですか?」
アリエルは碑文を読んで聞かせることにした。
----
天星242年
アマルテア国王はザナドゥ97か国すべてと戦い、勝利し正義を成し遂げ英雄王の称号を得た。
天星250年
スヴェアベルムとアルカディアの報復によりアマルテアは滅亡した。
国民は生きたまま焼かれ、英雄王は王妃と共に磔刑に処され焼かれた。
天星266年
スヴェアベルムに英雄王が顕現され、戦いはまだ終わっていないことを示した。
戦争を遠い異世界の事だと思っていたスヴェアベルム人は国土が、村が、森が焼かれることの恐ろしさをようやく理解した。
天星294年
スヴェアベルムは焼き尽くされ全てが灰に沈み、英雄王により再び正義は為された。
人が愚かであるがゆえに正義は為されたのだ。
アマルテアの民よ、いかなる苦難にも立ち向かえ、いかなる不条理にも膝を屈するな。
しかし憎しみは捨てよ。憎しみは世界を歪ませるものだ。
誇れアマルテアの民よ、我々は英雄王の民なのだ。
----
「……って書かれてあるんだけど、これ書き残したのはセイラムか……セイラム? セイラムなあ。ちょっと思い出せない。ジュノーそっちのソスピタ文字は?」
「こっちはつまらないことが書かれてある。ソスピタ滅亡の経緯が書かれてあるだけね。書いたのは、えーっと、セナン・ウィッカール・ソスピタ。知らない名だけどウィッカール家のひとね。ソスピタとアマルテアは血で血を洗うような戦争を続けていたのに、双方の生き残りがここで暮らしているなんて、なんだか感慨深いわ……」
アリエルの記憶では、ソスピタの王城を焼いて国王を殺したのはジュノーだった。
ソスピタ滅亡の経緯って、ジュノー本人のことが書かれているのでは?とアリエルはすこし訝った。
「ソスピタ滅亡の経緯って何だ?」
「私が生まれた頃のソスピタは斜陽の王国だったからね、栄光の時代を知らないの。ここには衰退してしまった支配力を十二柱の神々に求めたことが過ちだったと書かれている。支配力を得るため他者の威光を借りてしまった。そのせいでなし崩し的に最も戦いたくない相手と正面から代理戦争を戦うことになって、その結果、取り返しのつかないことをしてしまった。これは間違いのない正しい歴史だと思う。ウィッカール家は分家されて、本家オウル家のことを良く思ってなかったから冷静な分析ができたのかな?」
ジュノーの言うソスピタ王国が "最も戦いたくない相手" というのは他でもない、ジュノー本人だろう。
ソスピタ王はリリスと名乗った魔女の正体がジュノーであることを知りながら戦う選択をした。
自らが次期王座に指名したジュノーがソスピタの未来を明るく導いてくれると信じていたにも拘わらずだ。断腸の思いだったろう、もしジュノーに味方すればスヴェアベルムもアルカディアも敵に回すことになる。そうなればソスピタの国土が、国民が危機に晒されるのだから。
そしてジュノーも血の涙を流しながらソスピタの兵と戦った。もうあんな思いはしたくない。
ソスピタを滅ぼしたのは、他でもない。ジュノー本人なのだから。
石碑の左側にはアマルテア語で心構えが、右側にはソスピタの儀式文字で戒めが書かれていた。
双方の国が亡びるまで憎しみを募らせ、妊婦であっても斬り殺されたほど激しく戦った者たちが仲良く一枚の石板に書き記したこと。当時の災厄と呼ばれた暗い時代を生きた者が語って遺した言葉は心に重く響いた。
俺たちが石碑の前で話しているのが聞こえたのか、少し驚いた素振りのジュリアが声をかけた。
「その文字を読めるの?」
ジュノーが応える。
「見ての通り、私はソスピタ人ですから……」
「いえ、それは見れば分かりますが、この文字を読める人はもう居なくなって久しいの……あなたはどこの出身なの? どこでその文字を習ったの?」
「えーっと……」
ジュノーもまさかこの文字を読める人がこの町にもいないということまで頭が回らなかったようだ。
面倒なことになりそうな予感……。




