13-12 サオ無限ループ 【挿絵】
またサオの挿絵を描いてしまいました。サオは描きやすいです。
ダウンフォール! 次話はまた来週の平日のいずれかに。
「03-08 アムルタ王国にて」にも【挿絵】入れておきました。興味がありましたらどうぞ見に行ってやってくださいまし。
作者体調不良によりダウンフォール更新頻度が落ちています。書き溜めてあったラブコメ小説を放出しています。お時間が許ましたらこちらもどうぞ。
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「転生したら多重人格だったアサシンが高貴な聖騎士に恋をしました」
ターゲットとする対象年齢ちょっぴり高め。残酷な表現あり。R15
俺たちはフェイスロンダ―ル卿よりフェイスロンド領の詳細な地図と、捕虜になったダリル兵から軍の侵攻情報を入手し、更に西へ向かって街道を移動する。
要するにサマセットの町に向かう道すがら、うっとおしいダリル兵がいるようなら全部叩いて進むというモグラ叩き作戦だ。さながら無双系のゲーム画面を彷彿とさせるような絵面が随所にみられるフェイスロンド領では、各個撃破してゆくしかない。
次の大きな町はダーラルという街。で、ここにもダリル兵たちがふんぞり返っていて、今まさに奴隷馬車が車列を作って出発してゆくところだった。
「サオ、行ってきなさい。交渉に失敗しても兵力ぜんぶ街の外に引っ張り出せばいい」
「はいっ師匠、決裂しました。戦闘になりますっ!」
「マジで? もう決裂したの?」
「いっくよ! ハイペリオ――ン!」
―― ドドドドゥォオオオオオォォウオオオンンン!!
街の中にも敵兵がたくさんいて、街を破壊せずに倒すためには、俺とサオは不向きなのでサブに回り、敵兵たちは人質を取ったり籠城したりなど、力の限り抵抗してみせた。
「あーもう、超面倒なんだけど。ぜんぶ爆破しちゃろうかなホント……」
「ダメだよ兄ちゃんはもう引っ込んでて。そんなことするから破壊神だの悪魔だのって言われるんだよ。その家族がどれだけ肩身の狭い思いをするか分かってるの? 私たちがなんとかするからさ、引っ込んでなさい」
籠城している兵士や人質をとって立てこもってるやつらには、真沙希の隠密スキルが有効だった。数十人が立てこもる建物でも、夜に明かりがフッと消え、阿鼻叫喚の血の海地獄になってしまうのに、室内で立てこもっていられるわけがない。そんなスプラッタホラーな状況に出くわしたら俺でも飛び出して外に逃げるし。
それでも、街の規模が大きいと投降の呼びかけをするのも時間がかかり、すべてのダリル兵が投降するまで2日を要した。
こんなトコで2日もかけてしまって予定が狂ってしまったので、ダーラル市長が宴を開いてくれるというのを丁重にお断りして俺たちはさらに西へ向かうことにした。
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次の大きな町はコフェインという町で、ここにもしっかりダリルの兵士たちが駐留していた。
今回はサオが交渉に行って決裂したら外まで逃げてこいというパターンでやってみることにした。
「師匠! 決裂しましたっ。鬼の形相です」
「おまえ何言ったんだよ!」
ものすっごい数の敵兵がワラワラ出てきて襲い掛かってくるけど、気配を読んでみるとまだ半分ぐらいコフェインの町に残っているように感じた。
「ハイペリオ―ン!」
―― ドドドドオオオォォンンン!!
「パシテー頼む、町で籠城してるやつらなんとかして」
「ん。やってみるの」
市街戦になると[爆裂]が使いにくくなり、俺とサオ、ハイペリオンももちろんお払い箱。
ダリル兵との市街戦闘では主にロザリンドとジュノー個別撃破していたが、パシテーが籠城する兵士たちに幻覚を見せて投降させるという技を開発し、それがうまくいってからは概ねスムースに兵士たちに武装解除させることができた。
もちろん武装解除して投降した兵士たちがその後、市民たちにどんな扱いを受けるかというのは、これまでの行いがものをいう。俺たちがどうこう言える問題じゃない。
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そしていま俺たちが来てるこの街は、ファクタールの街と言って、ここを過ぎると次はネーベルという、そろそろフェイスロンドの西の方に来た感じで、さすがにここまでくると異世界の風景が見られる。
街の中に森があって、大木に寄り添うように暮らしてる人が多いというファンタジー情緒あふれる街だ。
「サオ、行ってらっしゃい。そろそろ慣れような」
「はいっ師匠、決裂しましたっ! むちゃくちゃ怒ってます!」
「だから何を言ったらそんなに怒られるんだー!」
「ハイペリオ――――――ン!」
―― ドドドドオオオォォンンン!!
「パシテー、残りは頼んだ!」
「いいかげん面倒なの」
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ふう……ベラールの街を出てもう何日かかったか忘れたけど、やっとネーベルまできた。
「兄さま、久しぶりなの。この街好きだったの」
パシテーが好きだったこのネーベルの街、フェイスロンド第二の都市で20万ぐらいの市民がいるはずだけど、ここには5万ほどのダリル兵がいるらしい。
実はむかーし、俺はパシテーとふたりで旅をしていた頃、ここネーベルにしばらく滞在していたことがある。
俺が中等部を中退して家を飛び出したあと、日本に帰る方法を探して、エルフの遺跡が多くあるこの辺りに滞在してたんだ。あれから20年ぐらいたつ。
俺は緑と巨木の森に市街地が同居したような、ファンタジー要素丸出しの街区『森の区』があって、巨木に寄り添うように、高層ビルのような家がいくらもへばり付いているという、他の街では見られない建築がある。まあ、大喜びだったのは俺じゃなくて建築家肌のパシテーなんだけど。
繁華街であっても全般的に緑が多いから、パシテーが好きな街は俺の好きな街でもある。
風景は20年前から驚くほど変わってない。あの日のまんまの街並みが残っている。ただひとつ違うのはダリル兵たちが占領していて、戒厳令が敷かれていることだ。だからエルフの若い女性は一カ所に集められていて、奴隷馬車が行列になって準備されている。
もしかすると何度か奴隷馬車が行き来した後かもしれないけど、もうネーベルのエルフたちは攫われることはない。俺たちが許さないから。
「サオもっぺんいくか」
「うー、先にパシテーが幻を見せて全員を街の外に出したほうがきっと早いですぅ……」
おっ? おおおっ?
「「「それだあ!」」」
もうフェイスロンドでの戦闘も終わりそうな勢いだというのに、今更ながらそんな素晴らしい作戦を立案したのは、他でもない毎回失敗していたサオだった。何という逆転の発想か!
作戦その1、その辺の兵士を攫って最高司令官の名前やら居場所やらを全部聞き出す。
作戦その2、真沙希とパシテーが忍び込んで、最高司令官を含めた偉い人たちに幻を見せる。
幻の内容は、たった今、急使が情報を届けたというもの。
「領主の仇敵アリエル・ベルセリウスがネーベルに向かって侵攻中。全軍をもって迎え撃つべし」
というウソでもない本当の情報を伝えただけ。俺が昔、パシテーの母親を救出するとき、ダリル領主を倒していることから、俺を含めたベルセリウス家は、ダリルでは蛇蠍のように嫌われているだろうという、ポリデウケス先生の予想が見事に的中した形だ。
「先代領主、へスロー・セルダル卿を暗殺したベルセリウスがネーベル東側で目撃された。すでに近郊まで来ている。市街地に入れると厄介である! 全軍を持って迎え撃て! 必ずやベルセリウスを討て」
「「「「オオオオオォッ!!」」」」」
ネーベル東側でピザを焼きながらとろけるチーズのうまみに舌鼓を打っていると、出るわ出るわダリル兵。
「おおっ、きたきた。マジで来たっ」
「サオ、あのバカどものところに行って、軽く降伏勧告をしてやれ」
「うー、師匠ぜったいに決裂すると思ってます。私ちっとも信頼されてません」
「ちがうよサオ、俺はサオの事をいちばん信頼してるんだ、サオは俺の期待に応えるよ。絶対にな」
「はいっ、師匠の信頼が熱いです。頑張ってきます。でもピザをぜんぶ食べてからでもいいですか?」
「大丈夫さ、まずは大軍を並べて威嚇する。バカどもの考えそうなことだ。ゆっくりピザ食ってから行けばいい」
サオはロザリンドと二人で『出てけ交渉』に向かった。ロザリンドは敵の顔をしっかり見ておきたかったんだそうだ。どうせ戦闘が始まったらもう見られない。
「……で、なんであなたは敵陣の足もとに地雷をいっぱい埋める作業をしてるの?」
「準備」
「サオ可哀想……」
「違うよ。サオとロザリンドが襲われたらどうするんだよ? 相手はダリルだぞ? 俺は万が一に備えておく必要があるんだ」
……なんだか数分も話してない様子なのに、二人ともすぐに踵を返し、こっち向いて歩いてくる。
話し始めて1分? ぐらいなんだけど。ロザリンドが居てもダメなものはダメか?
「師匠!! 決裂しましたっ、頭から湯気が出る勢いで激怒してますっ」
「あーもう、あいつらムカつく。超ムカつくわ。ぶっ殺すって言ってやったからお願い」
「こうなると思ってた!」
「ハイペリオ――――――ン!」
―― ドドドドオオオォォンンン!!




