表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/566

13-07 光の女神でも匙を投げる宇宙最強の病

 ダウンフォール更新頻度が週一に落ちる予定が、頑張ったので土俵際で粘り、週二投稿頑張ります。

 次話は月曜で。


 書き溜めてあったラブコメ小説を放出しています。お時間が許ましたらこちらもどうぞ。

 https://ncode.syosetu.com/n1497en/

「転生したら多重人格でした(仮)」

 ハーレム要素なし。即落ちなし。対象年齢ちょっぴり高めです。


「兄さま? もう少し寝るの? 外に領主が来てるの」


 朝にはめっぽう弱いはずのパシテーに起こされた。ネストの中が異次元というか、異世界なせいですぐ外に接近する人の気配をまったく感じないのはちょっとした不具合だ。でも解決する糸口すら思いつかない。



 時計を見るともう朝8時。どうやら寝てたのは俺とてくてくだけだったらしい。


 身だしなみセットを出してネストの外に出ると手桶を持ったままの状態で、すでに大勢の人たちに囲まれていた。フェイスロンダール卿がいて、その隣には昨日ジュノーが助けた奥さんと、もう一人、なんだかオフィーリアさんに似たような、切れ長の目をしてるローブ姿の、かなり高位の魔導師らしいエルフ女性がすっごい値段の高そうな杖を持って立っていて、なんだかその人のことが気になってしまった。


 杖の先端に光る宝石は握り拳ほどもある魔導結晶。恐ろしい値段が付く代物だろう……。


 純血のエルフで年齢は人族の感覚で35ぐらいに見える。ってことは200~300は行ってると考えるべき年長者だ。グレアノット師匠と同じぐらいか。


 いや、なんだか様子がおかしい。あの魔導師、俺の顔を見てなんだかニコニコしてる。

 ちょっとまて、フェイスロンドに知り合いなんてそう多くない。と言うか、フェイスロンドの知り合いなんてフェアルの村の人たちばかりだ。だいたいエルフの魔導師で……あああっ、もしかするとオフィーリアさんの知り合いか、もしくはグレアノット師匠の友達かも! そういえばフェイスロンドに昔の友達がいると聞いたことがある。


 誰が見ても分かる魔導師とはこんな格好をするものです! みたいな黒ローブに杖なんて鉄板の格好をしてるってことは、かなりの古株に違いない。


 ここは行儀よくしておかないと師匠に恥をかかせることになって、あとが面倒だ。

 サオは? サオはどうしてる?


 キョロキョロしてサオの所在を確かめてみると、サオはいままさにエアリスに[セノーテ]で手のひら一杯の水を得る魔法を教えてるところだった。つまり俺はこの窮地にありながら、寝ぐせで髪はボサボサになってるし、まだ歯も磨いてない状況で、フェイスロンド領主の前に立ってるわけだ。


 その女性は両手を広げて膝を折り曲げるというエルフ女性に古くから伝わる挨拶をしてくれた。年長者に先に挨拶させてしまうなんて失礼を働いてしまったようだ。


 続いてフェイスロンダ―ル卿も右手を胸にあててぺこりと……。


「うっわ、すみません。今起きたばっかりで、まだ顔も洗ってないのに……おはようございます。おはようございます」


「おはようございますベルセリウス卿、おはようございますベルセリウス派のみなさん。まずは紹介させてください、こちらまず昨夜助けていただいた妻のレグルス。そしてこちらがフェイスロンドが誇る魔導学院にて学長を務めるカタリーナです」


「ああっ、すみません、昨夜も気になったのですが "卿" なんて敬称やめてください。俺はボトランジュのベルセリウス家から分家したノーデンリヒトのベルセリウス家で、しかも家出同然で飛び出した放蕩息子です。家名を継ぐ気なんてサラサラありませんから」


 先ほど挨拶していただいたというのに、ここでまたカタリーナのほうからぺこりとひとつ挨拶していただいた。カタリーナと言えば領都グランネルジュの魔導学院学長で、シェダール王国で2番目に大きな魔道派閥、カタリーナ派を率いる女傑だと聞いている。


 まるでVIPのような扱いに驚いた。だいたいベルセリウス派の魔道派閥なんて、魔導学院のほうに登録もしてないし、するつもりもない。大きな魔道派閥の人にしてみれば邪道だし歯牙にもかけられないはずが、まさかこんな歓迎されるなんて考えてもみなかった。


 カタリーナさんは昨夜、西の門を守っていたらしく、ベルセリウス派が援軍に来たということを今朝知って、慌てて強化魔法かけてすっ飛ばしてきたらしい。人でも跳ねたらどうする気だろう。


「グレアノットと手紙のやり取りをしてますから、あなたの事は彼の弟子になった頃からよく知っているのですよ。アリエルくん。7歳で爆破魔法を使ったことも、精霊王になったこともね」


「やばっ、やっぱり師匠のお友達でしたか。てか師匠って綺麗なエルフの女性と文通できる人だったんですか! すみません、寝ぐせのまま出てきてぼーっとして挨拶が遅れた事とか、師匠にはどうか内密にお願いします。パシテー、サオ! エアリスもこっちきて挨拶しなさい」


「あははは、ほらフェイスロンダール卿、言った通りでしょう? あの堅物の弟子にしては、いいかんじに砕けてる。これであの豪傑アルビオレックス(中略)ベルセリウス卿の孫にして教会から2000ゴールドの賞金を懸けられたお尋ね者だっていうのだから素敵よね。やっと会えたわね、アウトロー」



 まずは俺たちの魔道派閥、ってかグレアノット師匠の弟子で俺の妹弟子にあたるパシテーから始まり、俺の弟子のサオ、そして孫弟子であるエアリスも挨拶を済ませると、


「あら、相手方が奥さまを紹介してくださったのに、あなたが私を紹介しないなんて失礼ですよ」

 なんてゾフィーから順番にジュノーやらロザリンドやらがワラワラと出てきて、大所帯なりの大変な挨拶の応酬となってしまった。真沙希まさきは挨拶したけれど、てくてくは闇の精霊だから朝は弱いということで起こすのは勘弁してもらった。カタリーナさんは精霊を見たことがないらしく残念だと言うのでイグニスを呼び出すというサオのサービス精神に助けられた感じだ。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、ゾフィーさんのことで少し質問が……いや、失礼しました。いまのは忘れていただきたい」


 カタリーナさんの目は誤魔化せないか。そういえば昨夜ハムナさんにも看破されたし、エルフの多い地域だと誤魔化すほうが疲れるな、こりゃ。


「何をおっしゃりたいのか分かります。そう、ゾフィーはダークエルフです。もうこの世界に純血種はゾフィーしかいませんが、混血種ならドーラに行けば多く住んでいますよ」


「おおおっ、まさにダークエルフではないかと思っていたのです。もうフェイスロンドではダークエルフの形質を受け継いだ混血もほとんど見られなくなってしまった。まさか純血? ということは父親と母親も純血なのですよね? 赤い瞳のダークエルフなんてまるであの、神話の戦神のようです」


「あっ、私ですか? 私は時間の止まった世界で眠っていたようなものですから……、そうですね、私が生まれた頃のスヴェアベルムではダークエルフなんて珍しくもない、ありふれた存在だったのですが。そう言われるとなんだか寂しいですね。戦神なんて肩書はとっくに返上しています、なにせ負けいくさばかりを繰り返しましたから」


 さすがのカタリーナさんもゾフィーがあの神話に出てくる戦神だと聞いてマネキン人形のように静止してしまった。まるでゾフィーが時間停止魔法なんてのを完成させたのかと思うほどに。


 頭を抱える俺の横で溜息をつくジュノー。

 ゾフィーが心配して気遣ってくれる。


「どうしたの? 頭が痛いの?」

「頭痛がするよ」

「ジュノー? ベルの頭痛を治療してあげて」


「頭痛のもとはゾフィーなんだから、元から絶たなきゃダメだと思うわ」


「あああっ、ぞっぞっぞっ……」

 カタリーナさんは時間停止から脱出したらしいが次は舌が麻痺しているようで、ゾフィーの名前を噛みまくってちゃんと言えてない。パシテーか誰かが麻痺パラライズの状態異常魔法を完成させたのかと思うほど弱体デバフがキマってる。


 そりゃあ聞きたいことがたくさんあるだろう。山盛りあるだろう。今日だけじゃ全てを聞ききれないほど質問があるだろう。だけどゾフィーという女は、そんな人にでも親切に接してしまう女なんだ。


「ああ、そうなのよね、確かに私スヴェアベルムに転生したからウッドエルフの両親に産んでもらいました。私もう純血じゃないかもしれませんね」


「ちがっ!」

「そこ?」

「ちがうとおもうの」

「そこじゃないと思いますっ」


「ゾフィーはもう黙ってて!」



----


 今にも戦闘が始まりそうなのに会食とは行かないが、焼きたてでアツアツの白パンをたくさん出してもらえたので、戦時で肉不足が続いていると聞き、こっちは[ストレージ]からノーデンリヒト特産のガルグネージュを5頭出して献上しておいた。


 てか俺たちが魔法を使うたびにカタリーナさんの視線が非常に厳しい。さすがに他派閥の魔法の使い方に関して質問するということはないが、魔法を見て盗むことは魔導師にとって当然の学習法だ。

 たったいま[ストレージ]からガルグネージュを出したのを、何やら分析の魔法? のようなものを使って マナの残滓を読み取っているのだ。そう言えばさっき俺がネストから出た時は挨拶前だったから動けなかったのか、パシテーが出てきたネストなんか魔法陣が立ち上がった地面の土まで採取するという念の入れようだった。


 ゾフィーに聞けばすんなり教えてくれると思のうだが……。理解できるかどうかは別として。


「ねえあなた、解毒魔法の起動式を試したいの。毒になって」


「えーっ、朝っぱらから毒かよ」


 ひどい。ジュノーが酷いことを言う。いくら俺に毒が効かないとはいえ、苦しいのは同じなんだけど。


 とはいえ、俺は無詠唱で誰にも気付かれずに毒に侵されることができるという、まったく使い道のないと思っていた恐らくは世界で一番役に立たない力なんだけど、よくよく考えてみると、今初めてこの水の権能が役に立つ時なのかもしれない。


 気乗りはしないけど、ここは一発、頑張って毒になってやろうじゃないかと思うぐらいのやる気は出た。


 白パンを頬張りながら『ああ、また血の涙なんて流したらフェイスロンダール卿たちにどう言って誤魔化すかな』なんて考えたながら毒になったけど、血の涙が出る前どころか、毒になったかならなかったぐらいのタイミングで起動式が入力され、毒は浄化された。


 さすがジュノーだ。


「治癒師の皆さん、たったいまテストもしました、解毒魔法の起動式を公開します。ただしこれは高位の水魔法になるので、使える人は限られていると思いますが……」


 ジュノーが作ってすぐに公開した解毒魔法はなかなか適性のある人が見つからなかったが、さすがと言っておこう、カタリーナさんと、カタリーナさんの派閥の中から二人、エルフの水魔法使いのひとに適性があった。


 まあ、その魔法がちゃんと起動したかどうか効果を確かめるのはもちろん俺。ということで、全員の起動式魔法が完成するまで何度も毒になるという酷い目に遭うわけだけどね……。


「起動式を公開した以上、相手にこのことがバレると毒の組成を変えられてしまって解毒魔法が使えなくなります。昨夜の解毒薬にしてもそうです。こちらに毒を解除する手段があるという事は極秘にしておいてください。もし万が一、毒の組成を変えられて解毒の魔法が効かなくなった場合は、起動式の第一節で組成に対応していますから8文字目から82文字目までを変更することで対応できる可能性があります。もし分からなければこの人に毒矢を突き刺していただければ一両日中に対応しますので……」


「ひどいよねそれ!」


 解毒を試すのには毒になる必要があることは分かるけどさ、ジュノーって冷たいようで公益性を最優先だし、身内が痛い目みても自分が全部治せるから多少の犠牲は厭わないんだよな。そのくせ他人が自分のことをどう思うとか、そういうのはどうでもいいらしい。やっぱ女王の資質って凄いと思うわ。


 俺の犠牲もあって解毒魔法は完成したわけだけど、どうやら新魔法ってことでジュノーに命名権があるらしく、カタリーナさんたちはまず名前のことを聞いてきた。


「この魔法の名前は何? って聞いてるよ?」

「何だっていいわよ。そんなの」


「せっかくだからカッコいいの考えたらいいのに」

「ええっ? [爆裂]とか[スケイト]とか? 私につけろって?」


 バカにされた……ジュノーがいま俺のネーミングセンスをバカにしやがった……。


「バカにすんなよ、確かにその二つについてはまだガキだったからそんな名前になってしまったが、[相転移] という魔法もある。どうよこれ。カッコいいだろ」


「それいくつのとき考えたの? 中二臭いんだけど……」

「いくつだっけ? パシテーとネーベルを旅してた時だっけか?」

「14ぐらいなの」


「絶賛発症中じゃないの!」

「中二病は全宇宙でも最強の病だからな。その力は凄まじく、光の女神であっても治療できない」


「師匠っ! 私にも移してくださいっ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ