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13-06 自分に出来ること

 来週あたりからダウンフォール更新頻度が落ちる予定です。すみません。

 書き溜めてあったファンタジーを放出しています。お時間が許ましたらこちらもどうぞ。

 https://ncode.syosetu.com/n1497en/

「転生したら多重人格でした(仮)」はじめました。


 ダウンフォール! 次話は金曜の予定です。


 フェイスロンダ―ル卿はジュノーがつきっきりで解毒魔法を試している女性の手を握り、意識が途切れてしまわないよう、ずっと声をかけ続けている。


「大丈夫だよ、この人は腕のいい治癒師なんだ。私のように取って付けの治癒魔法じゃないからな、いま解毒の魔法を試してもらってる。凄いだろレグルス。だから安心して、な。必ずよくなるから」


 「邪魔だから離れて。気が散るから」


 ジュノーにかかれば領主でもお構いなし。ほんと容赦のない叱咤しったを受けていた。


「これはダリル兵の使う毒に対応した解毒薬です。うわごとを言い始めた人に飲ませて」

「げ、解毒薬があるのか!! はやく、うわごとを言い始めた者にだ。なんと、解毒薬まで……」


 俺はサナトスから預かった解毒薬200瓶のうち100瓶をフェイスロンダ―ル卿と周りを囲む治癒師たちに手渡し、使い方を教えると、すぐさま3つのテントに配られた。ジュノーが来たから平気だと高をくくっていたが、実はけっこう状況は逼迫ひっぱくしていて、患者の容体はあまりよろしくないらしい。


 てくてくの筋弛緩魔法とサナトスの解毒薬と、治癒師たちが頑張った甲斐あって、俺たちが到着してからはただの一人も毒などという卑劣な手段に命を奪われることなく、それから1時間もしないうちに解毒の魔法が完成したらしい。いままで唸っていた女性の顔色がみるみるうちに赤みを帯びはじめ、呼吸も深く、心拍も力強く拍動し、容体は急速に落ち着きをみせる。


「できた! よく頑張ったわね。解毒魔法はこのままフィールド化するから治癒師には治癒魔法の使用を止めて休んでもらって」

 ジュノーの指示を聞いても何のことか分からない治癒師たちは、自分の担当するケガ人たちがことごとく皆同時に解毒されてゆくのを見て息をすることも忘れてしまうところだったというのに、毒矢を受けた傷までスッと消えてしまうところまでをも目撃した。


 術者は赤い髪の少女。テントの中で風もないのに、見事なまでの赤髪が突風に吹き上げられるように見えたという。



「お……おおおぉぉ」

 フェイスロンダ―ル卿も言葉にならないようで、ただ声を上げるばかりだ。


「ここ終わり! 隣のテントに行くから、治癒師の方に指示をお願いします」

 フェイスロンダ―ル卿は喜んでいる間もなく、隣のテント、そしてまたその隣のテントへ向かい、解毒と治癒を同時に施すという離れ業を見せられ、溢れ出す涙でお礼を言う言葉が伝わらないほどの号泣であった。もちろん、言葉は分からなくとも、その気持ちは十分すぎるほど伝わってきたのだけど。


 ここフェイスロンドでは神聖典教会の事を良く思ってない者も一定数いるため娘にジュノーという名をつける親はそれほどいないそうだが、それでもジュノーと名付けられた娘は確かにいるそうで、フェイスロンダール卿がジュノーという名を聞いただけで『あの女神か』などと露骨に疑うことはなかったけれど、それでもテントの中でたったいまジュノーのフィールド化した治癒魔法を見た者たちの中には女神ジュノーの再臨という者が少なくなかった。


 フェイスロンドではジュノーの評判が悪いかもしれないと思ったけれど、どうやらそれも杞憂だったようだ。


「治癒魔法も施しておいたから大丈夫だとは思うけれど、それでも容態の監視だけは続けてね。毒は消えてるはず。起動式を作るのはちょっと時間が欲しいわ。水の魔法だから適性のある人あまりいないと思うけど……」


「水の魔法なら俺が使えると思う。ジュノーの起動式次第だが」

「水は得意じゃないけど起動式に出来る程度なら私も試してみる価値ありそうよね?」

 真沙希まさきも水魔法ある程度使えるそうだ。ほんとこいつどんだけ力あるの?って思うんだけど、だからって無理やり聞き出そうとしたら姿も気配も消してどこかに隠れるからホント手に負えない。


真沙希まさき、おまえ光と水とあと何使えんのよ?」

「秘密。兄ちゃんに教えたら減るし。私はクロノスのボケをぶっ殺すために着いてきてるんだから、あんまりコキ使わないでね」


真沙希まさきの出番なんて無いから。俺が倒すし」

「絶対無理。負けることはなくてもさ、兄ちゃんクロノスのこと嫌いじゃないでしょ? 美月みつき姉ちゃんとパシテーを殺されたって言うけど、厳密には転生して蘇ったしね。兄ちゃんは甘いから無理、絶対になんだかんだ理由付けて殺せないんだから私がやるの。わかった?」


「断る。あの卑怯者は俺がぶっ殺すから」


「ウソだね、じゃあなんでわざと逃がして放ったらかしにするのさ? 私らの留守中、クロノスがノーデンリヒトを襲ったら壊滅するよ? 兄ちゃんはクロノスを信頼してるんだ。だから安心してこんな長い寄り道をしてる」


「確かにそうだな、俺はクロノスを信頼してる。だけどちょっと違うぞ? 友情なんてこれっぽっちもないからな。俺が信頼してるのはクロノスが打算的で計算高いところだ。ノーデンリヒトにサナトスたちが生きてさえいれば、俺がどれだけ苦戦しても、世界を滅亡させることはないと知ってるんだ」


「へえ、じゃあ先にナントカって帝国に向かわず、こんな逆方向に来てる理由はなぜ?」


「この先にはサマセットがあると言うし、ダリル領主は生かしておくことができない。まあ急げばすぐに終わることだけど、時間をかけてテルスが出てくるのを待ってる。それだけだ」

「テルスはアルカディアには居なかったわよ?」


「たぶんヘリオスやユピテルと一緒にニライカナイだろ」

「兄ちゃんもしかして、テルスが通ってきた道を逆行してニライカナイに殴り込む気なの?」


「俺の可愛い真沙希まさきが、なんでそんな武闘派ぶとうはになってしまったんだろうね? ぶっ殺すとか殴り込むとか、そんな人聞きの悪い言葉を使わないで欲しいよ」


「兄ちゃんのじゃないから! でもさ、大きな問題があるよね、その作戦」

「問題? はて、なんだろう? 言ってみて」


「テルスをどう倒す気?」

「テルスは俺たちの事、何か言ってたか?」

「やりやすいってさ、アシュタロスもリリスも、まるで負ける気がしないって。手紙書きながらよそ見しつつ戦っても勝てるって言ってた」

「く――っ、腹立つなあ。それなんだよな、俺もジュノーもテルスには相性悪すぎて全戦全敗なんだわ。それでな、俺もバカなりに万年の時間をいろいろ考えたりしてさ、すっげえ薄い可能性に賭けてみたいと思ってんだけど……真沙希まさきはテルスとどうよ? 戦えるか?」


「まず勝てないわ。ジュノーが相性悪いなら私も相性悪いと考えるべきね。似たような属性持ってるし」

「ってことは、困った時のゾフィー頼みだな」


「怪獣大戦争になるわよ。ほんと頭痛がしてきた」




----


 俺と真沙希まさきが今後の事を雑談していると、ようやく全員の無事を確認したのか、フェイスロンダール卿がテントの暗幕をくぐって出てきた。

 まあ、あの話は真沙希まさきとはあまりしたくない。真沙希まさきをイライラさせるばっかりだからね、そのうち怒りだすんじゃないかって思ったところで、タイミングよくフェイスロンダ―ル卿が出てきてくれて、助かったようなものだ。


「あ、私はこれで失礼します……」

 真沙希まさきはフェイスロンダ―ル卿の顔を見てネストに沈んでいった。またあとでグチグチ言われるんだろうな。


 フェイスロンダ―ル卿は真沙希まさきがスッと消えたのを見てキョロキョロと辺りを探していたけれど、当の真沙希まさきは異次元の彼方だ。


「あっ、あの……。お話しておられたのに腰を折るような真似をしてしまい、申し訳なかった。いまの女性は? いったいどちらへ?」


「シャイなんです。もう自分の部屋に戻ってますからどうかお気遣いなく」


「ああっ、そうでしたかベルセリウス卿、今回の助力、本当に、どうお礼を申し上げていいやら……あなたがたベルセリウス派は妻の、いいえフェイスロンドの民の恩人です」



 ジュノーが最初に解毒し、治癒した女性はフェイスロンダール卿の妻、レグルス・フェイスロンダールその人だった。たぶん二番目の奥さんだったと思う。


 フェイスロンドは教会とダリルが毒矢を使うことから近接戦をやめて、防護壁の上から弓で反撃するか、それとも魔法を使うかという遠隔戦闘のみで防衛していたらしい。


 でもそれじゃあ門の守りはとても手薄だ。敵兵の中に高位の土魔法を使う攻城戦に長けた者がいたら一発で門を破られてしまう。そして明日にでも揃うであろう合計5万という軍勢は、ここベラールほど小規模な街を攻めるには数が多すぎる。


 きっと一人も逃がさないように取り囲んで、確実にフェイスロンダール卿を殺害し、フェイスロンド領全体を奪うつもりなんだ。


「お疲れでしょうフェイスロンダール卿。どうせまた明日には進攻が始まります。明日に備えて眠っておいてください。俺たちも今日はもう休みます」

 

「そうね、どうか奥さまの傍にいてやってください。彼女はきっと今、あなたを必要としています」


 ジュノーに持ってかれた! ってかジュノーとてくてくしか働いてないんだから仕方ないけど。




 俺たちがテントの入り口に立っているとどうやら邪魔らしい、ポリデウケス先生が不機嫌そうな顔で、袖を肘までめくりあげ、手桶の水を運んできた。


「機嫌悪そうだなあ……どうしたんだよ先生」


「ああそうだ、私は桶に水を汲みに行ったり、湯沸ゆわかしの手伝いしかできなかったよ。剣士ってやつは無力なんだよ、今にも仲間の命の灯が消えてしまうって時に、水を汲みに行ったり、湯沸ゆわかしの手伝いしかできないんだ」


 ポリデウケス先生はダフニスが毒にやられたと聞いた時、自分に何ができたかと考えたら、何もできないんじゃないかと思って、自分の無力を感じていたところだったんだそうだ。そんなとき、この救護テントの惨状に出会い、そして実際に何もできなかったのだからそう考えるのも無理はないだろう。


「先生、出来ることを全力でやればいいんだよ。何から何まで全部やって人を救おうだなんて、先生は強欲すぎるよ。戦って敵を倒して、そして目の前で倒れている人の傷まで癒そうだなんて、先生はジュノーにでもなるつもりかい?」


 ジュノーの万能ぶりを見て知っているだけに、ポリデウケス先生もこれには苦笑するしかなかった。


「くくくっ……、そうだなアリエル。ちょっと欲張りすぎたらしい。私は剣を磨いてから眠っておくとするよ。明日に備えてな」


「ああ、おやすみ先生」


 先生はその辺で寝るらしい。

 俺はジュノーとてくてくを連れてネストに沈むとする。


 明日には5万の敵軍が目の前に揃うだろう。


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