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13-05 フェイスロンド領主、フェイドオール・フェイスロンダール

「転生したら多重人格でした(仮)」はじめました。ひどいタイトルですが、そのうち考えます。

 ダウンフォール!更新頻度が落ちるので、書き溜めてあったファンタジー小説を放出しています。お時間が許ましたらこちらもどうぞ。

 https://ncode.syosetu.com/n1497en/


ダウンフォール! 次話は月曜の予定です。


 俺たちがベラール北門に近付くと防護壁の上にたくさんのファイボールが掲げられた。隊長の号令ですぐさま撃ち出される炎弾だ。


 大声で叫んでも聞こえる距離じゃないし、パシテーに飛んでもらって攻撃を受けるのを見るのも嫌だ。


「ああジュノー耐火防壁お願い、みんなもうちょっと密集して。撃ってきても全部俺が受けるよ」


 俺が無防備っぽく先行して近付くと物凄い数のファイアボールが降り注ぐ。

 さながら弾幕シューティングのようだ。


 全て受けると言った手前、わざと全部受けてやったわけじゃないけど、防護壁の上から降り注ぐ魔法は大きくカーブしたり、落差の急なフォークボールの軌道を通り、正確に俺の耐火障壁に当たって消失した。

 戦場魔導士を何年もやってんだからこれぐらいは当然って事か。


「エアリス! 前に出ちゃダメですからね、師匠は油断さえしてなければ大丈夫ですから」

「サオ師匠、凄いです。防御魔法と障壁が肉眼で見えるなんて信じられません」

「わたしの師匠を倒すには油断を誘うしかありませんねー。なんでも色仕掛けが絶大なる効果を発揮するらしいですが、エアリスはまだ色仕掛けなんか禁止です。R18ですっ」


「俺を倒す相談も禁止だからな!」


 ってか、敵がファイアボールしか撃ってこないならサオとイグニスに任せりゃよかった。

 なんかしつこいし、もう顔も見えてんじゃないかってぐらい近付いてるんだけど、コソコソ土壁の後ろに隠れながら正確な射撃をしてきやがる……。



「おいおい、俺たちは援軍だ。攻撃をやめろ」


 聞いてない……か。爆破するわけにもいかないだろうしな、ああもう面倒だ。



―― ボボボッボボボボボッ シュワワワッ


 飛んでくるファイアボール全部とっつかまえて、片っ端から[ストレージ]に収納してやることにした。


 マナ欠の刑だ。



「開門してくれないか。俺たちは援軍だってば!」


 ファイアボールをバンバン撃ってきてた壁の上の魔導師たちが一瞬で沈黙したので声を掛けたんだけど、誰も顔を覗かせることもなかった。


 どうしようか? 門を破ろうか? と考えていると後ろからファイアボールを頭上に掲げ、あかりがわりにして自らを照らし出したハムナが大声で叫んだ。


「開門お願いします。この門を狙う敵軍は既に倒されました。この方たちはボトランジュの援軍です!」


「お前は夕方カナデラルに向かった……まさかもう? 早すぎやしないか」


 ひょこっと顔を出した男……あいつもエルフ混ざってるみたいだ。さっきから俺の呼びかけを無視しやがって、エルフの綺麗な姉ちゃんだったら顔を出すのかよ。


 まあ、俺だってそうする。


「ノーデンリヒトのアリエル・ベルセリウスが援軍だ。倒れた魔導師たちはただのマナ欠乏だから大丈夫だよ、知らないなら知ってそうな奴に取り次いでくれ」


「べっ……ベルセリウスだと? まさかベルセリウス派が援軍に来てくれたのか!」

「信じられないなら門を爆破して見せようか?」


「いや、しばし、しばし待たれよ」


「しばし待たれよって……ここ戦場で、いつ伏兵が現れるか分からないようなところで待たせるか?」

「得体の知れない男が暗闇から現れて戦場魔導士みんな気を失ったんだから当然、中には入れたくないわね」


 ジュノーが酷い……得体の知れない男だなんて言われたことがないのに。


「ハムナさん、偉い人ってどこにいるの?」

「ここにはいないと思います」


 北門のほうは敵の数も大したことないから決定権のある偉いひとが居ないらしい。これは失敗だった。

 こんなふうにフェイスロンド兵たちが貝のように引きこもっているなら南門にいる敵軍をぜんぶ蹴散らしてからでもよかったような気がする。


「あーロザリンド、もうここでキャンプでもするか」

「そうね、朝の鍛錬が実戦になりそうだけど、それでもいいわ。ちょうど目が覚めそう」


 俺たちは門の外で待たされたまま、防護壁の上では気を失った魔導師たちが担架に乗せられて次々と運ばれてゆき、交代の魔導師たちが次々と入れ替わっている気配を感じた。


 もう門を爆破して無理やり入ってやろうかとか、こんな低い防護壁飛び越えちゃってもいいんだけど、フェイスロンド領主が中にいるとなると、お行儀の悪いことをするわけにもいかない。


 ギイイイィィイィなんて音を立てて門が開いたのは、もうてくてくが20歳ぐらいになった夜半過ぎ。

 1時間も待たされて、身内の中では俺とてくてくとジュノー、あとロザリンド以外はダウン。ネストに入ってしまったから、たぶんもう寝てるんだと思う。特にパシテーはここの地べたでも寝てしまいそうになってたから絶対寝てるはずだ。


 俺たちは少しだけ開いた門の隙間からスッと横入りするように招き入れられると、そのまま通りを南に向かって案内された。街の灯りが意図的に消されている夜の街は、なんだか寂しい印象だ。

 人の気配はするのにここまで静かなのはあまり経験がない。なんだか街ぐるみで待ち伏せされてるみたいな気にすらなってくる。


 ちょっと不審に思ったのかポリデウケス先生が小さな声でヒソヒソと話しかけてきた。


「なあアリエル、なんで灯りが点いてないんだ? 人は居るんだろ?」

「防護壁の上にいた戦場魔導士たちの目が冴えるように暗闇にしてるんだと思うけど、もしかしたら門を破られて攻め込まれたときの事も考えてるのかもしれないね」


 そんな人気ひとけのない……というか、息をひそめてみんな家の中で隠れてる街の通りをまっすぐ南下すると、中央部からずっと南に、ひたすら南に……って、あれはこの街の南門か!

 なんだ? もしかして俺たちわざわざ北に回って、門の外で1時間待たされて、やっと入れてもらえたと思ったら中央の通りをひたすら南に歩いて南門まできてしまったのか?


 なんという回り道を……。ほら、やっぱりこんなことなら南門にいるダリル兵たちを蹴散らしてこっちの門から堂々と入ってきた方が絶対に早かった……。でもないか、おかげで街の中にどれだけ人がいるかって情報は気配で分かった。この街には大勢の避難民も暮らしている。


 門が見えると通りにまではみ出して特設されたテントがぼんやり光って見えてきた。テントの中で明かりが灯されているのだろう。気配を探ってみるとテントの中はけっこう人口密度が高い。3つのテントに各100人近い数が隙間なく詰め込まれているような感じだ。


 暗幕を引いたテント入り口から案内されて中にはいると、ざっと30人ほどのケガ人が治療を受けているところでだった。なるほど、この3つのテントは救護テントだった。おそらく毒を受けたのだろう、見覚えのある症例でうわごとを言い始めてる人が少なくない。


 俺たちがテントの中に通されると若い男、いやハーフエルフだから年齢は分からないが、人族にすると25歳ぐらいに見える、エルフにしては背の低い男が治癒魔法の手を止めずに話しかけてきた。


「おおっ、あなたがベルセリウス家の? 私はフェイスロンド領主、フェイドオール・フェイスロンダール。まさかベルセリウス家の御方自おんかたみずから援軍に来ていただけるとは思わず、私も出迎えをしたかったのだが、いましばらく待っていただきたい。治癒師の手が足りなくて手が離せないのだ」


 なかなかに効率の悪そうな治癒現場だけど、毒を受けた人を解毒薬なしに助けるためにはそうするしか方法がない。俺がジュノーに助けを求めるような視線を送ると目配せで応えてくれた。


「ねえ、毒を受けたひと1人に対して2~3人の治癒師がついて死なせないよう治癒魔法を連続してかけ続けてる。あんなことしてると治癒師のほうが先に倒れるわよ?」


「ああ、頼むよジュノー」

「解毒の魔法はまだ試したことがないから実験しながらになるわよ? それでもいいなら」


「解毒魔法!! そんなものが開発されたのか」

「まだよ。今から試すの」


 そう言うとジュノーは、ああでもないこうでもないと言いながらフェイスロンダール卿が治癒を担当していた女性の解毒治療にかかった。真っ黒なローブを着ていて肩に血がついている。毒矢を肩に受けたのだろう。すぐ後方に下げられたおかげか、毒の回りは大したことがないように見える。筋肉の緊張期は脱したようだが、まだ意識ははっきりしてるらしく、言葉少なではあるが受け答えは可能なようだ。


「あなたは解毒薬を、症状の進んだ人を優先させて! まだ死ぬ心配のなさそうな人は申し訳ないけど待たせておいて、解毒薬は数に限りがあるから」


「分かった! 痙攣の酷い患者には筋弛緩きんしかんを。てくてく頼む」

「分かったのよ」


「てくてくには闇の魔法で筋弛緩きんしかんを担当してもらうからね。痙攣が続くと危険になるんだ、瘴気が出るけど安心して、治癒師のひとはそのまま続けること」


 予め驚かせないように『闇魔法がくるよ』って言ってたにも関わらず、てくてくの足もとからザワッと立ち上がる瘴気の触手がワラワラと目の前をうねると、治癒師たちは闇の瘴気に驚き、ガタガタと震え始め、瞳には恐怖が色濃く影を落とす。

 唇をかみしめ涙目になっても、それでも治癒師たちは絶対に患者から離れようとしなかった。


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