13-03 サオの貫禄
ロザリンドが落馬した男の首根っこ引きずって、サオが馬から降りようとしない女の方を無理やり力尽くで引きずり下ろしたところだ。
「女のほう捕まえました。そっちの男が暴れたらこの女の頭を吹き飛ばしますっ」
「きっと頭吹き飛ぶより早くこいつの首が飛ぶわよ」
「むーっ! ロザリィに挑まれました。はいそこの男、今すぐ暴れなさいっ! 実は私もう[爆裂]を仕込んでいるということを思い知らせてやります」
「わーっ、まてまて! お前らがストップだ。サオお前、誰に思い知らせる気だよ、その女の人に何を思い知らせてどうする気なんだ」
それがどうやら、サオがどうしてもロザリンドに腕前を見てほしいらしい。
16年間ずっと一人で鍛錬してきて、俺には全力を見せたけど、ロザリンドにはまだ何も見せてない。サオは自分の腕が上がったことを、幼馴染のロザリンドに見てほしくてウズウズしてるんだ。
そんなことよりも、サオのいまのマイブームは [爆裂] 隠しらしく、あちこちに爆裂を仕込んでいる。
師匠の俺としては、いついかなる時も地雷を踏まないように注意する必要があるので、むちゃくちゃストレスの溜まる旅だったのだけど、さっきもうしないって約束してくれたので、ようやく少し油断しながら外を歩くことができるようになった。
「わたしの次の目標はロザリィから一本取ることなんです」
次の目標? ってことは当面の目標はクリアしたってことか。俺から一本取るのはもうクリアしたから、つぎはロザリンドってことなのかね?
くっそ、なんか1面ボス扱いされてるのが気に入らない……。
「あなたの事はもうどうでもいいみたいよ?」
「お前も所詮は2面ボスだからな。俺と大差ないぞ」
「私もさっき挑まれたの……」
「サオっ、おまえパシテーにも挑んだのか?」
開始! の合図で始める模擬戦だったら……うーん、パシテーか。サオの勝ち目は薄いなあ。
「はいっ。とりあえず全員に挑んでみて自分との距離感を確かめますっ」
「全員か! もしかしてゾフィーともジュノーともやるの?」
「はいっ」
「兄さま、サオって思ったより武闘派なの」
「ドーラの出身だってこと忘れてたよ……。まあいいや、みんなに泣かされても知らんからな。さてと、どっちから話を聞けばいいんだ?」
このエルフのカップル、ようやく目が見えるようになってきたようでサオとゾフィーの顔を交互に見ることで、やっと俺たちがダリルの手の者じゃないことを理解したようだ。
「う……エルフ? エルフの女がこんなところで何をしてるんだ。まさかキャンプしてたのか? ダメだ早く東へ、この先にカナデラルという街があるから、まずは東へ向かうんだ」
この男、焦りを隠そうともせず俺たちにカナデラルへ向かえと言う。この先にベラールって街があるんじゃないのか?
「リンドン、騙されちゃダメ、このひとエルフじゃない!」
エルフ女性に指さされ『エルフじゃない』と指摘されたのはゾフィーだった。
「ええっ? 私ずっとエルフなんだけど何? ねえ、私ってどこかおかしいの?」
パッと自分のストレージから100均の手鏡を出して、この薄暗い中、上から斜めから顔を確認するゾフィーに鼻でフッと笑ってたジュノーが呆れたように言う。
「おかしくないってば。いつも通りガサツなダークエルフのゾフィー。間違いないわよ。この人はゾフィーがウッドエルフじゃないって言ってるの」
「あーん良かった。どこもおかしくないのね?……」
「ダッ……ダークエルフぅ? アンタら正気か?」
「ええっ、私の頭がおかしいの?」
「それについてはきっぱりと否定できないけどゾフィーは黙ってて。この人たちはダークエルフを見たことがないの。あなた達ももうダークエルフに突っ込むの禁止! ちっとも話が前に進まない」
「へへー、私は魂が半分ダークエルフなんだ」
せっかくジュノーが話を仕切って前に進めようとしてくれてるのに、ロザリンドがさらに脱線させるようなことを言い出した。それに乗ったジュノーの言葉で話はもう明後日の方向に行ってしまって、馬から引きずり降ろされたエルフの男女のことなんて放ったらかしで脱線し始めた。
「まてロザリンドお前、話が先に進まないってば……」
「違うわよ常盤、あなた肉体もダークエルフの血が25%混ざってるの。もしかして知らなかったの?」
「ジュノーもさ、ほらこの人たち座らせてるしさ、先に検問をだな……」
「へ? どういうこと? 私は……」
「常盤右京、スヴェアベルムのガンディーナ出身で、ダークエルフのハーフ。あなたのお爺ちゃんはダークエルフで、お婆ちゃんはアマルテアのハルジアンと聞いたけど?」
「はあああああ? うちのお父さんハーフエルフなの? なんでジュノーがそんなこと知ってんのよ?」
「待てーい! いまアマルテアと言ったな。ハルジアンのクソどもがどうしたって?」
もう座らせてるエルフの事なんてどうでもよくなった!!
ハルジアンはアマルテアの隣国 "ハルジア" に多く住む半獣人だ。アマルテアには住んでないし、ハルジアンはアマルテア人"デナリィ族"をバカにしてたからな。ムカつくんだ。
それはいいとして……、ジュノーが言った言葉。アマルテアのハルジアンと聞こえたが聞き間違いか? 聞き捨てならない言葉が聞こえた。
いやジュノーはいま確かにハルジアンといった。スヴェアベルムには居なかった種族だ。なんでロザリンドがハルジアンなんだ? 訳が分からん。ああっ、でも昔のちっこい美月、そう言われてみるとハルジアンの面影があったかもしれない。だけどそんなの……。
「ロザリンドおまえハルジアンだったの?」
「知らないってば。なにそのハルジアンって」
「兄ちゃんも美月ねえちゃんもジュノー落ち着いてほら、その話はまたこんどにして、今はこの人たちに話を聞かなくていいの?」
ハムナと呼ばれた女は、すぐ横に座らされている男の身を案じ、寄り添いながら庇うように前に立つと、いちばん話しやすい同族のサオに向けて言った。
「あ、あのー、私たちは急いでいるので、もう帰っていいですか?」
「師匠っ! 私がリーダーだと思われてますっ。弟子をとって師匠から一本取ったからでしょうか、貫禄が出たようです!」
「えっとすまん、こいつの言ったことは忘れてくれ。ちょっとこっちの話が混み入っちゃって悪かった。じゃあ手っ取り早く話を進めよう」




