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02-08 短話抄 ベルセリウス家の食卓

2021 0728 手直し



―― マローニ北部にあるベルセリウス家の本宅。


 アリエル編入の日、夕食の食卓にて。


 だだっ広い会食場で、12人掛けのロングテーブルに着いたシャルナク・ベルセリウスの家族たち。移る病気を患っていて人前に出ることができないプロスペローの母、エリノメも同席していた。


 今日の食卓の話題は、中等部の教育長から連絡を受けたアリエルの事だった。


「なあプロス、聞いたよ。アリエルくんは無事飛び級の試験に合格し、特待生になったそうだな」

 アリエルの規格外な力を聞きつけ、上機嫌なシャルナクにすこし気後れしたようなプロスペローは視線を落とし生返事で応えた。


「う、うん」


「実はさっきポーシャがうちに来てな、客室をもう一部屋使わせてほしいって言うんだ。まあ部屋をいくつ使おうとかまわんのだが、一応理由を聞いてみたら、アリエルくん、まさかあのグレアノット教授の弟子だったんだってな。それがまだ10歳だというのに高弟に認められて入り弟子が来るんだと。高弟だぞ? 驚きだ、いやはや、お前の従弟いとこは凄いな。プロスペロー」


「う、うん。なんか比べられるとね。彼は規格外すぎてさ。親父、平凡な息子で申し訳なく思ってるよ。俺」


「なあプロスペロー、お前なにか勘違いしてないか? 私はただ聞いた話で判断するんだが、アリエルくんの力な、きっと敵を多く作って、必ずや早死にをするたぐいの力だと思う。過ぎたるはなおおよばざるが如しと言うだろ? 何事もほどほどの節度が大切なんだ。父さんはお前にそんな力を求めてはいないよ。平凡、大いに結構。お前が所帯を持ってな、家族を大切にして、奥さんに心配かけずに慎ましやかに暮らせばいい。そうだな、父さんには孫を抱かせてくれたら、それでいい。そしてプロスペロー、お前も長生きして、お前はお前自身の手で孫を抱くんだ。息災で長生きするのが一番なんだぞ? 過ぎた力など持たなくていい。なあ、母さん」


 エリノメはこの話に乗り気ではないらしく、フォークを置いてただ視線を落としただけだった。


 エリノメの仕草を、一瞬チラッと窺ったプロスペローは話を続けた。


「慰めはいらないよ。それと父さん、俺は妻も子もいらない。結婚する気もないからね、孫の顔を見せられないのは悪いと思うよ。跡取りが欲しいなら今からでも頑張って弟でもつくって。あー、でもアリエルの妹弟子、パシテー先生。すっごい美人なんだよな。ちょっと羨ましいかな」


 息子プロスペローが珍しく饒舌に話す。声のトーンには変化がなかったが、少し寂しそうな表情になったことを、エリノメは見逃さなかった。


 シャルナクは今この会食場に流れる、こわばった空気に気付かず、いつも通りの会食と雑談を続けた。

「なに? 本当か。あの天才の? ブルネットの魔女が?」

「うん。今日、立合うのを見てたけど、あのパシテー先生が何もできなかったし」


「アリエルくんは剣士じゃなかったのか? 魔法もそこまでの腕なのか?」

「一方的だったよ」


 そしてプロスペローの声が一段低くなって、伏し目がちに話を続けた。


「ねえ母さん、アリエルは今日、爆破魔法を使ったよ」


 空気は重く、プロスペローとエリノメの肩にのしかかった。


「……!? 爆破魔法?……、間違いないの?」


「ああ……俺が爆破魔法を見間違えるわけないだろ?」


「まさか……」


 母子の会話のトーンが下がり、空気がピリッとしたのを敏感に察して、ようやくシャルナクにも空気の変化を悟った。妻と息子の会話の内容に違和感を感じたからだ。


「ん? どうしたエリィ? プロス? 何の話をしている?」

「いや、なんでもないんだ、父さん。編入試験を実際に見なかった奴らはアリエルのうわさでもちきりなんだけどさ、でも、アリエルの応援に来てくれた俺の友達とか、実際に見た奴らは揃ってドン引きだったよ。……俺はアリエルにどう接すればいいのかわからないんだ」


「そうか。まあ、父さんはトリトンの家族に義務を果たすし、お前はお前でうまく立ち回ればいい。でもな、アリエルくんがどんな力を持っていようと、彼はベルセリウス家の嫡男だ。分家したとは言えね。父さんにとっては甥っ子だし、お前にとっては年の近い従弟いとこだ。ベルセリウス家は、身内に対して寛容じゃなきゃいけない。これは代々伝わる家訓だからね、プロスペロー、お前の調停力に期待しているよ」


「やっぱりなあ、実際に見てない人は、そういう反応になるんだよな」



----


 食事のあと、シャルナクが書類仕事をするため書斎にこもると、使用人を通してプロスペローが母エリノメの居室に呼ばれた。


 二人とも食事のときは穏やかな表情を崩さなかったが、エリノメは険しい表情になっていて、プロスペローは面倒くさそうに母親から視線をそらし、不機嫌そうに眉根を寄せている。


 プロスペローの態度が反抗的であったが、そこには触れず単刀直入にエリノメが切り出した。


「詳しく聞かせて」

「詳しくも何も、アリエルは爆破魔法を使った。それに低位の転移魔法も常用してるよ」


「転移魔法? まさか!」

「知らないよ、俺には関係ないしな」


「関係ないだなんて……言わないで……」

「いいや、関係ないね。俺は早くこの家を出てゆきたい、それだけが願いさ」

 プロスペローはエリノメと離れて暮らすため、街の中心部にある別邸で暮らし、別邸から学校に通っていたのだが、運悪くアリエルたちの家族が避難してきたせいで実家に戻る羽目になってしまったのだという。


 シャルナクの妻でありプロスペローの母であるエリノメ・ベルセリウスが移る病で療養中というのもウソだ。病気ですらなかった。


 二人は随分と折り合いが悪い、いびつな親子だった。



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