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12-11 苛立ち

うーん、ちょっと追加して分けます。すみません。


「逢坂先生、何かご存じなのですよね? ならば……」


「証言を拒否します。第一、嵯峨野さがのくんに何を説得するのですか? 訳が分かりません。そんな何千人も殺してしまったあとから『お願いだから軍に戻ってくれないな?』なんて説得しようだなんて考えられません。脱走した兵士が離反した時に仲間を殺すというのは重罪じゃないんですか? 捕らえて罪を償わせるのが法治国家ですよね。それに私が嵯峨野くんの敵に回る事なんてこと絶対にありません。クラスを分断しないでください。なんであの子たちと敵対して倒すだなんて発想が出てくるんですか? 私の生徒たちを嵯峨野くんたちと戦わせるなんて、そんなひどいことさせないでください」


 拒否? 証言を拒否する? 確かにサガノがやったことは軍法会議どころの騒ぎじゃなく、通常の手続きならば説得したところで軍に戻ってこられるわけもない。逢坂先生がサガノを心配するならば、帝国に戻ってきて軍に拘束されるよりも逃げたままのほうが安全だと考えるのも頷ける……か。


 常識で考えれば逢坂美瑠香おうさかみるかの言う通りだ。

 だがこの帝国第三軍ではエンデュミオンの思惑が全てなんだ。エンデュミオンが許すと言えば許されるのがこの帝国第三軍だということを……うーん、説明するのも面倒か。


「ですがこのままだと、必ずやサガノは帝国の敵となり、あなたの生徒たちを殺すことになります」


「そんなこと私が許しません。嵯峨野さがのくんをぶん殴ってでも止めてみせます。そんなことにならないよう私がウルトラ頑張ります。でもおかしな話ですよねイカロスさん、あなたはさっき『サガノが離反する可能性も当然頭の中にあった』とおっしゃいましたよね、なぜ嵯峨野くんたちが離反する可能性が『当然』頭の中にあったのかを詳しく話してくださいませんか? 私、納得できません。何か私たちに隠し事をしてらっしゃるんじゃありませんか? 嵯峨野くんが一方的にそんなことをするなんて考えられないのです」


「逢坂さん、あなたのその教師としての立場も理解します。ですが!」


「いいえ! そんなことを言ってるんじゃなく、あなた方が何か、嵯峨野くんを怒らせるようなことしたんじゃないですか? って言ってるんです。どうなんですかイカロスさん。心当たりは?」


 イカロスは息の根の止まる思いだった。まさかこの逢坂美瑠香おうさかみるかという女、本当は現在もサガノと通じているのではないかという疑いまで出てきた。

 いやしかしそれはない、ノーデンリヒトからここエルドユーノまでは途中船を使っても1ヵ月はゆうにかかる距離だ。飛行船を飛ばして直線距離で一昼夜かかる距離が横たわっている。この女が今でもサガノと通じているとして、飛行船よりも速い高速通信の手段を持っているとは考えられないことだ。情報が早すぎる。


 ということは逢坂美瑠香、単に頭がいいのか、やたらとカンがいいのか。どっちにせよ、今ここでこの女から情報を聞き出すことを最優先にした方がよさそうだ。


 ならば致し方ない……か。ここにきてまだ1か月そこらの少年少女には理解できない話かもしれないが。


「心当たりは……ないとは言えません」


「心当たりがあるのでしたら対処法の一つや二つ簡単に思いつきそうなものですが。まあ、どちらにせよ嵯峨野くんがそこまで怒っているなら、うちの生徒たちじゃお話にならないってことはもうご存知ですよね? できればお引き取り願いたいのですが」


「私はあなたに聞きたいことがどんどん増えて行く思いです逢坂おうさか先生。あなたはサガノのことをよくご存じのようだ。高校1年生の6月に召喚されてきて、もう何年もサガノのことを見てきたかのようなことをおっしゃる。……サガノのことで何か知ってること、離反したことに対して何か心当たりがあるのでしたら、どんな小さなことでも構いません、話してください」


 イカロスも逢坂美瑠香おうさかみるかに疑惑を持っているということをあからさまにしたことで、言葉を受けた逢坂のほうも、さっきとは打って変わって、きつく睨みつけるような視線をイカロスに向けて答えた。


「知らないとは言いませんよ。ですがあなたも不都合な真実には口を閉ざしているじゃありませんか。ならば私としてもなんら協力する気はありません。まず嵯峨野くんが怒った理由を教えてください。今あなた方の知ってる情報を全て提供してください。隠し事をしている間は私も協力しません」


 逢坂美瑠香おうさかみるかの言葉はイカロスの痛いところを突きつつ、欲しい情報をチラつかせることで、相手を交渉のテーブルから立たないよう椅子に縛り付けるというものだった。軍という秘密主義の中で機密にあたる情報を引っ張り出そうというのだから並大抵のことではない。


 まずイカロスの狙いは今のところ、勇者になって離反した嵯峨野深月さがのみつきの情報を得るため、逢坂美瑠香に協力してほしいということだ。これまでの言動でイカロスの興味を引くという目的は十分に達している。隠している情報を引き出すため、協力するというエサを針に付けて池に垂らすという意味では的確というほかなかった。イカロスは大喜びでエサに食いつこうとしているのだから。


 もはやこの場の主導権はイカロスにはなく、逢坂美瑠香のほうにあるように見える。


 訓練所に残った17名の生徒たちは逢坂美瑠香のことを、若くて頼りにならないけど自分たちのことを第一に考えてくれるお姉さんのような存在だと評価していた。

 しかし今日のこの談話室での応酬を聞いていると、この軍のエリートを相手に一歩も引かないばかりか、むしろ押し返している。頼りにならないという評価は徐々に変わりつつあった。


「それでは生徒たちはまあ、宿舎の方に帰ってもらいましょうか。あなたもその方が話しやすいのではなくて? イカロスさん」


「待ってくれ先生、俺らはアカの他人か? 無関係だとでもいうのか? 俺はここで話を聞くぞ」


「俺もだ先生、嵯峨野が敵になったっていうなら、戦うか、戦わないかは、自分が決めることッスよ。いくら先生でもそこまでは強制しないで欲しいッスね」


 逢坂美瑠香おうさかみるかは、生徒たちにとって、ここでこれ以上この話を続けることには害悪にしかならないと判断したから、もうみんな宿舎に帰りなさいという意味で言ったのだけど、ここでも全員一致で生徒たちは話に同席することを選んだ。


 クラスの総意をもってこの場で話を聞くことになり、あの特命を話さざるを得なくなった。

 あれを話さないと話が前に進まないと思ったのだ。


 ここから先は少し話の内容が混み入ってしまう。機密に触れることになるかもしれない。

 だがあの特命を知れば少しはこの世界の『強いものが全てを得ることができる』という単純明快なルールのことを理解できるだろう。


 イカロスは立ち上がって、まず最初にタマキが戻ってきても部屋に入れないよう内側から鍵をかけた。

 極秘任務であったため、くれぐれも口外無用を約束させた上で、まず最初にこのアシュガルド帝国の生い立ちから、赤髪の女性で高位の治癒師というレアケースがこの国でどれだけ名声を呼ぶかということから説明せざるを得なかった。


「仕方がないな、なら帝国が建国されたときの情勢から話す必要がある。話は遠回りになるが……この国の歴史から説明する」



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