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11-24 死亡フラグ

「エアリスっていうのか。なんか爆発する人に似た名前だけどグレイスに似てて可愛いな。よろしく。でもサオの弟子なのか? マジで? ぜったい酷い目にあうよ? 痛いことされるよ?」


「ち、違いますよ。痛い目にあうのはサナトスがドン臭いからです」


「ガハハハ、ウソだな。俺もだいたいサオと立ち会ったら痛い目にあってきたからな!」


「違います。この熊もドン臭いんです。何なら今からドン臭いのみんなに見てもらいますか?」

「要らねえよ! 今日はもう覚えてるだけで20回ぐらい死にかけたしよ。暫くはもういいって。サオが暴れたら大怪我しちまう……」


「し、師匠、わたし暴力女みたいに言われました。カタキ取ってください」

「カタキなんか要らないだろ。そんなことよりダフニスお前いまここでアリー教授に求婚しろ!」


「はああぁ? なんで俺が? なんでこっちに飛び火してくんだよ」

「うわあロザリンド! ダフニスがひどい『何で俺が』って言ったよ。最悪だな、遊びなんだぜきっと」


「ええっ、ダフニ―そうなの? 私泣いてしまうニャ……」

「まってくれ兄弟! 落ち着いてくれ、いま俺ぁ今までのことを激しく、急激に反省したくなってきた」


「聞こえんな。なあロザリンド」

「まさかダフニスがそんな無責任な男だったとは思わなかったな……私は残念だよ。エーギルの墓前に何て報告すりゃいいんだ……ダフニスが婚期を逃した行き遅れ女を騙くらかして……」


「あああぁぁ、酷い、酷いニャ……確かに私きっともう最後のチャンスニャ。婚期を逸してるし、年増だし、とっくに行き遅れてるニャ。遊んでくれるだけでも幸せなの……」


「だ――っ、くっそ、ヒデエったらありゃしねえ! くっそ、これも自業自得ってやつかヨ」


「よくわかってんじゃないかぬいぐるみ野郎!……、はい皆さん静粛に! はい遠くに居る人も注目! いまからダフニスが愛するアリー教授に求婚するらしいです。ちなみにアリー教授といえば、セカの魔導学院で教鞭を振るっていたカッツェハーフの人ですからね。今日のこの善き日に、二人を祝福してやってください!」


「師匠さすがですっ! ガハハ熊に天罰がくだりました。わたし師匠のそういう所すっごく尊敬しています」


「くっそ……サオの思惑通りかよ、大事おおごとにしやがって。覚えてやがれ」


 そうしてダフニスは、この場に居る50人以上の人たちが静かに見守る中、その巨体には似合わぬ、蚊の鳴くような小さな声で、ずっと考えていたのだろう、照れ隠しによそ見をしながらまず最初に「こんな俺を愛してくれてありがとうな」なんて言葉を置いてから「もしよければずっと一緒にいてほしい。願わくば俺が死ぬまで」なんてキザなセリフを吐きやがった。笑えねえったらありゃしねえ。


 せっかくこの場でみんなの笑いものにしてやろうと思ったのに、ちょっと感動してしまった。


「うわー、なんかいいよ。感動したよ。涙が出てくるぜ……」


「タイセー! もう泣いてんのか」



 篝火も炭になってしまって、中に芋でも放り込んでおけばうまく焼けそうな感じになってきた。この短時間に大量の酒が消費され、その辺でぶっ倒れてる人が多数。もちろんネレイドさんはピクリとも動かない。歩いて帰れる人は帰り支度を始めている。徹夜で焚火を囲むやつらを残して、そろそろ祝宴もお開きになりつつある。


 今夜はセカの街から占領軍の勢力を追い出したことでみんな祝いに来てくれたが、ついでと言っちゃなんだけど、サオが弟子をとった祝いと、ダフニスがアリー教授と婚約した祝いと、あとイオがべリンダをセカ観光地巡りに誘った祝いが追加され、みんなの心に大きな記念日が刻み込まれた。


「ダフニス、お前に死亡フラグが立ったぞ!」

「縁起でもねえこと言わねえでくれ」



----


 そして夜は更けてゆき、俺たちは大所帯になったがゾフィーにパチンしてもらってフェアルの村に飛んだ。転移魔法陣を使わず乗らず、ちょっと狭い範囲にみんな集まってもらって、あらかじめここの教会の丘にある赤い花をいっぱい摘んで、一抱えの花束をつくってから飛んだんだ。


 フッと次の瞬間にはフェアルの村の、忠霊塔のあった広場だった。

 真っ暗だと思っていたフェアルの村には焚火たきび篝火かがりびが焚かれていて、こんな森の中だというのにセカの教会前よりも明るく、周辺には即席のテントがいくつも設営されていた。


 焚火の周辺で夜警していた夜の見張りたち6人といきなり鉢合わせになった。

 距離わずか3メートルといったところ。いきなり俺たちが現れたので、腰を抜かしてる奴もいる。

 俺たちというよりも、ほぼダフニスを見て驚いたのだと思うが……。


「あーあー、こいつらホント懲りないよなあ」

「ねえあなた、どうする? 早めに指示を」

「んー、とりあえず仲間呼んで集めてもらった方が手っ取り早いだろ」


 ここに6人、テントの中で寝てるっぽいのが20ぐらい。

 少し離れたところに突貫工事で檻作ってて、その中に1、2、3、えっと7人。


 簡易牢に入れられてるのは、たぶん捕まったばかりのエルフで、どうやらダリルの奴ら性懲りもなく、またここに中継基地を作ろうとでも考えてるらしい。普通、基地が襲撃されて無くなってたらそこ避けると思うんだけど、


 エルダーの森に人の気配を感じないから、森に伏兵を潜ませているようでもない。ってことは目の前の兵士だけ注意してりゃいいってことか。兵士何て呼ぶのもおこがましい、人さらい団だがな。


 真沙希まさきの気配がうまく分からず最近ちょっと自信のない気配察知スキルを働かせてみると、敵の数はざっと26。こんな中隊規模でエルダーの森を捜索しまくってエルフを狩り出しているのか。

 ってことは他にも別動隊がいると考えたほうがいいな。


「うわああぁぁぁ! 獣人だ! 敵襲! 獣人の襲撃だああああぁぁ!」


 3メートルのベア―グが一番目立っているようで、焚火を囲んでいた兵たちは各々自分の得意な武器をダフニスに向けて構えている。


「なんでみんな俺にばっか槍向けてんだ? くっそハンマー置いてきちまった」


 深夜の森にけたたましく響く笛の音に叩き起こされたか、兵士たちが眠っている筋肉と脳に鞭を入れて忠霊塔の広場に集まってくる。中にはたった今まで酒を飲んでたようなフラフラの足で飛び出してくるような奴までいた。よくぞ起きてきたってところだ。ダフニスなら笛が鳴ったぐらいじゃ起きないし、ネレイドさんなら屍のように返事もせず動くことはないだろう。


 とはいえ戦えそうなのは22~23人ぐらい。弓櫓ゆみやぐらもなければ建物のひと棟もない。すべて破壊したあとハイペリオンが焼き尽くしたので、隠れるところにも事欠くようなありさまだ。


 槍を持ち、弓を構え、剣を抜いた者たちから遠巻きに俺たちを包囲する陣形をとりながら、号令をかける立場の指揮官が配置につくのを待っている。


 てか遅いよ。俺たちじゃなくても奇襲されたらお前らひとりも生きてないぞ。

 前来た時はそれなりに練度が高く、よく訓練されてるなと思ったけど、指揮官が変わればこんなものか、最低限の見張りだけ置いてあとは敵地のど真ん中だろうが装備品を外して部屋着とか敵襲を考えてるとは思えない。そんな裸同然の装備に武器だけもって飛び出てきた者が数名と、酒のせいでちょっと足もとが定まってない奴も数名。兵士の中には弓兵が多いようだ。


「おいおい、やる気マンマンのとこ悪いが笛は勘弁してくんないかな。俺たちがここに来た理由は慰霊だから静かに祈りたいんだ。それと、お前たちが攫ってきた7人のエルフたちは俺たちがいただくからそのつもりで」


 装備をつける時間もなかったのだろう、布の部屋着で飛び出してきた男が、こちらの陣営にエルフが多くいることをようやく認識したらしい。大声で檄を飛ばした。


「獣人とエルフも居る? フェイスロンド軍か! 返り討ちにしてくれる!」


「違うよ。俺たちはノーデンリヒト人だ。小隊規模の兵がいるってことは隊長がいるはずだが、お前がそうか? ならここにきて正座しろ。尋問を始める」


「ここはダリル軍の陣地である、貴様ら……」

「ふざけるな! ここはフェアルの村だ。静かなエルフの隠れ里があった。ちょっと目を離したスキにお前らみたいなのが沸いてやがる。一匹見たら100匹はいると思えってか? お前らホント虫なのな」


「ええい、構わん。男と獣人は殺せ! 弓を射よ!」


 隊長格の男の号令がかかり、この暗がりの中、矢が飛んできた。

 暗くてよく見えなかったけど、とりあえず、俺に向かってくる矢を2本、イオとサナトスを狙った矢が1本ずつの4本はとりあえずカプセルに捕えてストレージに収納した。


「ぐあっ」

「ああっ! ダフニィー」


 アリー教授に命中するコースに飛んできた矢をダフニスが庇って助けた。矢は気配を発さないから暗いと見えないんだ……。


 矢はダフニスの左腕に刺さったが、ダフニスの腕は太く、筋肉のせいかこの至近距離で射られたというのに、貫通するまでは至らない。


「ゾフィーは手を出しちゃダメ、こいつらの背後に7人捕まってる。ロザリンド!」

 ロザリンド半歩前に出たときにはもう、ダリル兵26人のうち、先制攻撃を仕掛けてきた弓兵5人は全員がもれなく地面から飛び出した岩の槍に、ケツの穴から脳天までを綺麗に刺し貫かれていた。


 レダってこんなにも戦い慣れていたのか。しかも容赦がなさすぎる。レダの静かな怒りがオーバーキルを誘発してるようだ。そこまでしなくてもこの程度の相手なら簡単に倒せるのに。


 ロザリンドとパシテーが武器を持った者たちを次々と倒してゆくと、あとに残ったのは目の前に立っているこの部屋着の男と、その隣にいる副官と思しき男。加えて酒のせいか武器を構えることすら忘れて、ただ俺たちを包囲するのに参加していたような男2人だけとなった。


「いらんことをするから命を落とすことになるんだぞ? さてと、お前たちには……」

 いろいろ聞きたいことがあったから尋問しようかと思った矢先に、後ろの方からアリー教授の叫びが聞こえた。その声は急を告げていて、欠片かけらも猶予のある状況ではないことを物語っていた。


「ダフニー! ダフニー! アリエルさん、ダフニーの様子がおかしいの、治癒魔法を」

「ジュノー! たのむ。死亡フラグなんて洒落にならん」


「やってる。でもおかしい。たぶん毒! 毒矢よこれ」


「なっ! ロザリンドはやく矢を抜いてやって!」


「ダメ、矢が折れそう、ダフニスお前……力を抜けって! 肉が締って矢が抜けない」


 よろしくない状況だ。ジュノーほどの使い手でも毒を消し去ることはできない。毒は異物として体内に留まって、身体を破壊し続ける。治癒魔法は毒に破壊された組織を修復し続けるからジュノーがいる以上は誰も死なないけれど、毒が身体から消え去るまでの時間ずっと苦しみ続けることになる。


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