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11-23 レダの悲しみ

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 アリエルがもしかするとルーが生きていてこの世界でひっそりと暮らしているかもしれないと、一抹の不安を感じていた頃、教会の転移魔法陣に転移してきた一団があった。


 外から聞こえてくる歓声に釣られて早足で飛び出して喜びの輪に加わろうとするのは、元セカ衛兵だった者たち。


 一団に混ざってセカに来たサナトス。生まれて初めての大都会で浮かれ気味になっているのとは対照的に、くっついてきたレダの気分は曇っていて晴れることはなかった。


 レダはここの転移魔法陣を何度か使ったことがある。すぐ西側にある西側の転移魔法陣に乗ったらフェアルの村に帰れるはずだという事も。


 フェアルの村。ここはレダの生まれ故郷の村ではないが、奴隷狩りから逃れてきた家族を温かく受け入れてくれた村だ。遥かフェイスロンドの西の端っこに位置する広大なエルダー大森林の南にあった、まるで時間が止まっているかと思うほど、のどかな村だった。退屈な村を飛び出してきたとはいえ、レダにとって返しきれない恩のある人たちが、もうみんな居なくなってしまっただなんて考えたくもなかった。


 平和に暮らしているはずの家族が……、知らない間に父も母も、姉さんさえも、もう村ごと死んでしまっただなんて信じられない。


 西の転移魔法陣に乗ってアスラの神殿まで戻り、村に戻ったら、お転婆のレダが戻ったということで、村のみんなは難しい顔をしながらヤレヤレといった表情をみせてくれるに違いない。

 今はもうフェアルの村がなくなってしまっただなんて。


 幼い頃の記憶を辿って嘘だ嘘だと繰り返している。


 信じられる訳なんかない。ウソであって欲しいと願う気持ちと、もうフェアルに戻っても仕方がないと思う気持ちが混ざって渦を巻いて、その表情は深く沈み込んでいる。教会の外からはこんなにも歓喜する声が聞こえてくる。セカはいま喜びに沸いているのに。


 レダはこの薄暗いキャンドルの光に彩られた荘厳な教会で、胸を震わせる喜びの歌にも素直には喜ぶことができなかった。セカの人たち、出口の見えない屈辱の日々からの解放、それは喜ばしい事なんだろう。


 アリエル兄ちゃんが助けに来るのが間に合ったのだから。


 英雄というものは、必ずやギリギリで助けに来るものだ。これまでレダはアリエルに何度も救われてきた。だけど、フェアルの村は救われなかった。


 レダは西の転移魔法陣に足をかけて一瞬ためらう。しかし一瞬グッと険しい表情を見せたあと瞳に決意を宿らせると、教わったばかりの起動式を入力してアスラ神殿への転移を試みた。


 …… 魔法陣が立ち上がることはなかった。


 レダのそんな姿を見ていたのは、サナトスたちから少し遅れてセカに転移してきたタイセーたちだった。

 タイセーはフェアル村の惨状を知っている。タイセーの知るフェアル村は、ゆっくりとした時間が流れているエルフの隠れ里だなんてイメージではなく、奴隷狩りの前線基地があっただけだ。


 タイセーはレダに声を掛けることも出来ず、ただ目が合ったので挨拶だけを交わし、教会を出た。



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「ようアリエル、暴れたらしいなあ」

 タイセーもセカに来てくれたらしい。エマさんと、バーバラと イヴまで来てる。タイセーんとこは家族総出か……。


「あれ? この子は?」

「カンナ」


「おおおう、カンナちゃんか。大きくなったなあ。抱っこしてあげたの覚えてる? 覚えてない? じゃあもういちど抱っこしてあげたら思い出すかなきっと!」


「噂通りのスケベだわ! サオとグレイスに言いつけますからね」

「くーっ、カンナちゃん厳しいなあ。もっとチューしとくんだった。ところでタイセー、おまえもうハーレム完成かよ! ハーレム作るの早すぎ罪でロザリンドにヒネってもらおうか……」


「私をハーレム団の構成員に数えないでください」

「まてまて、そんな事より……あの子ってお前が連れてきたミツキちゃんの身内だろ?」


 タイセーの話によると、レダが思いつめた様子で転移魔法陣の西の石板に乗ってたのだとか。


 迂闊だった。


 この場に花びらを残して俺よりも一歩早く教会へ向かったパシテーを追って教会に入ると、礼拝堂への出入り口扉が開けっ放しなせいか外の騒ぎが礼拝堂に響いて、いつもの静けさなんかどこかに吹っ飛ばしたかのように賑やかにだった。礼拝堂のベンチに座って雑談してる市民も少なくない。


 右奥、教会施設の中央にある石板の中庭、西の石板に腰かけて佇むレダと、何も言わずにただ寄り添うサナトスがいた。


 レダって傷がなくなって改めて見るとほんとドロシーに似てるなあ。


「よう、どうしたんだ? サナトス。レダも早く外に出て、サオを祝ってやってくれ。弟子をとったんだ」


「そうだね、ごめんね兄ちゃん、ちょっとフェアルが気になってさ……」

 知ってた。家族が死んでしまったと聞いて気にならない人なんているわけがない。


「なあレダ、いまもうフェアルはもう村がなくて、ダリル兵の前線基地があったんで、戦闘の跡しか残ってないけど、それでいいならちょっとだけ、花を手向けるぐらいしかできないけど行ってみるか? サナトスもタレスさん家族に祈りぐらい捧げに行ってもバチあたらんからな」


「ああ、俺も行く。戦争が終わってから挨拶しに行くつもりだった」


「私も。前行ったときはダンたちの供養もせずに帰ってきたし」


「ダン? レダの家族を護衛してたって言う?」


「べリンダに聞いたのよ。もとは兄さんの近衛でさ、ルビスを除けば一族でも相当強かった。私が見た限りじゃあダリルの兵にダンを倒せそうなやつなんて一人も居なかったんだけど。矢の当たり所が悪かったのかなあ」


 魔人族を供養するのに何を持っていけばいいのかと聞いたら、やっぱり酒なのだとか。

 ベアーグと同じじゃないか。これってもしかして魔人族云々じゃなくてドーラの風習なのかもしれない。


 なんだかドーラ組が多く集まりそうなので仕切りはロザリンドに任せることにした。


「イオには悪いけどそれならべリンダにも声かけたほうがいいな、ダフニスにも声かけんと」

「二人とも強制参加だよ」


 レダの家族と、フェアルを守ったドーラの戦士たちに献花するため、この大騒ぎが終わった頃にでもフェアルへ向かうことになった。とりあえずはサオのお祝いと、あとサナトスにエアリスを紹介しないといけない。続柄どうなるんだろ、ビアンカの妹の娘だから、ビアンカの孫からするとひと世代エアリスの方が上になるのか。


「なあ俺のグレイスは? なんで来てないんだ」

「グレイスは[スケイト]もできねーし、峠まで歩いて2日かかるってば。俺のって何だよ……」


 これは不具合発生だ。ゾフィーに頼んで転移魔法陣をトライトニアに移設してもらわねば……。


 ダフニスもべリンダも当然OK。イオがべリンダにくっついてくるのに戦士の追悼だのなんだのいろんな理由付けてたけど、まあ断る理由もない。アリー教授がダフニスにくっついてくると言った方が驚いた。

 アリー教授みたいな研究者はそういうことに無頓着だと思ってたから。


 ざっと15人、タイセーのハーレム団はエマさんたちがドロシーの仲間だったということで4人増えて19人という大所帯になってしまった。


「なんか大所帯になってきたからゾフィーに送ってほしいんだけど、どこに居るのかと思って」


「さっきジュノーと真沙希まさきと教会の屋根にいた」


「なんでそんなとこにいんのよ!」


「ジュノーが人多いとこ苦手なんだよ」

「へえ、なんか弱点発見よねそれ……」


 サオとエアリスは……ジュリエッタに捕まってる。……でも、なんだか機嫌がよさそうだ。


「やあジュリエッタさん、えっと、こちらサナトスとレダ……」


「あはははは、えっと、ごめんなさい、顔見ただけで分かるって凄いわ。えっと、私の顔みたら分かると思うけど、ジュリエッタです。えっと、ビアンカの妹だから、どうなるのかな。エアリスはアリエルのイトコだから、サナトスのお父さんの叔母にあたるかな。で、こっちがエアリス。ほら、挨拶しなさい。もう、ホントにこの子は……」


 エアリスはサナトスの顔を見ながら言葉もなく、ただぺこりとひとつ挨拶をして見せた。


「エアリス? どうした?」


「すっごく母さんに似てるし、私にも。もしかして私の兄さんだとか、そんな展開ありそうで怖いよ」


「ねーから」

「ないわよっ」

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