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11-20 祝宴(2)イオ・ザムスイルガル

「ああっ、ロザリンドほらべリンダ発見! イオはどこだ!」

「ん? どうした? 俺ならここだ!」

 ロザリンドがすっごい笑顔でべリンダの手を引いてきた。ほんと悪だくみしてるときのロザリンドってすっげえいい顔するのな。根っからの悪人にしか見えない。


「おおっ、アリエルじゃないか。生き返るってどんな気分なのか教えてくれよ」

 開口一番で身も蓋もないことを聞かれてしまってどう答えたらいいか分からない。普通なら「よくやったな」とか「しびれるわ」とか「ステキ」とかあってもよさそうなものだ。


「もう死ぬのはもうゴメンだから生き返るのもイヤだよ。……ってほら、イオ。ほらほら」

「……あ、ああ」


 それだけ言ってべリンダを横に座らせてスタンバイさせてやるという大サービスのお膳立てをしてやったというのに、当のイオは黙り込んだ挙句、よそ見をしだすという体たらくだった。

 こいつホント、女に対してからっきしダメだなと思ったその時、逆にべリンダの方がイオの傷を見て驚きの声を上げた。


「ああっ、イオどうした! ケガしてるじゃないか。誰にやられたんだ! ぶっ殺してやるから言ってみろ」

「さっき俺たち10人でアルトロンドの陣地にカチ込んだんだ」


「10人だと? たった10人で敵陣に? アホか。きっとアリエルとロザリィにそそのかされたんだろ! なあイオ、こんなアホどもに付き合ってたら命がナンボあってもたりないぞ? それでケガしてちゃつまらないじゃないか」


「ああ、そうだな。怖かったよ。次から次へと敵が押し寄せてきてな。俺が剣を一振りする間に3人が襲い掛かってくるんだぜ? 俺なんか場違いだった。命なんかいくつあっても足りないと思ったよ。だけど、横を見るとハティが必死の形相で頑張ってて、コンシュタットさんがいて、ポリデウケス先生も乱入して助けてくれて、俺がやられたら崩れるから倒される訳にはいかなくて、ギリギリだったけどな。何とか勝てた」


「ロザリィ、イオはどんだけ相手にしたんだ?」

「2万!」

 ドヤ顔でピースサインしてるように見えるけど、平和ピースとは真逆のような気がする。


「アホーッ! ムチャクチャじゃないか。アホ代表の父さんでもそれはやらないって。イオもハティも良く生きてた。もうアリエルになんかついて行ったらほんとにダメだぞ。もう懲りただろ?」


「それがなぁ、どういう訳か気分がいい。アリエルたちとならまた戦うよ。足ガクガクに震えながらな」

「あはははは、そいつあいいな。私も付き合ってやるからその時は呼んでくれ。先にチビったほうが酒を奢るってことでどうだ?」


「俺はもう懲りたからなーっ! やらねえ! 絶対やらねえ! アリエルとは酒のむだけでいいや」

 ハティはもう本当に懲りたらしい。可愛い嫁さんと10人も子ども居たらさすがに可哀想か。


 そんなハティの向こう側でイオは、弱気を嫌う魔人族べリンダを前に、本当に弱いセリフを吐いていた。聞いたべリンダの方も「2万の大軍に突っ込んで怖くないなんてウソだよ」なんて慰めたりしながら、奇しくもイオを元気づけてやるような形となった。


 それでケガを負ったものの、戦いには勝って気分を良くしたのは分かる。だけどまたやりたいなんてのはもうマゾとか変態を通り越して戦闘ジャンキーだとたしなめられていた。確かに戦闘中、イオの脳からはドーパミンやらエンドルフィンやら、脳内麻薬が過剰分泌されてラリってたに違いない。

 あんなのがクセになったらベルゲルミルみたいに禿げる。


 べリンダに慰めてもらいながら少し小さくなってるイオは、アリエルに向けて、疲れているのか、それとも安堵の表情なのか、またはその両方が混ざったかのような複雑な表情を浮かべながら、ずっと聞いてみたかったことを、ようやく口に出すことができた。


「なあアリエル、俺も少しはマシになったか?」


 アリエルは少しだけ困惑したが、イオとの接点はあまりなかったせいか、何のことを言ってるのか容易に察することができた。そう、ガキの頃、中等部最後の実技大会決勝でのことだ。

 なんでもイオは俺とパシテーがあの後すぐに旅に出てしまった事について、マローニに居づらくさせてしまったんだなと思って、責任を感じていたらしい。


「マローニを守ってたのはイオなんだろ?。サオが言ってた。マシだなんてとんでもない」


「そんな、俺なんかまだまだだって思い知らされたところだぞ? たったいま」

「なあイオ、戦士の謙遜は美徳じゃない。イオの功績はどれだけ誇っても足りないぐらいだ。母さんやサナトス、妹たちを守ってくれてありがとうな。本当に感謝してる」


 ここまで話を聞くと、イオは今までしてきたことが正しいことだったと認められたような気がした。深く大きなため息を一つ吐くと、まるで縁側に座ってひなたぼっこを楽しむ老人のように柔らかな表情になる。これまでいつもピリピリしていて鬼気迫る気を発散していたイオが、やっと安堵のため息をついた瞬間だった。


「どうしたんだ? イオはアリエルと何かあったのか?」

「ん? ああ、ガキの頃の話さ。俺がアリエルに突っかかって思い知らされただけだよ」


「へー、楽しそうな話だ。聞かせろよイオ」

「中等部最後の実技演習だから、俺が14でアリエルは4つ下だから……、10歳かよ。まあ、俺がケチョンケチョンに負けた話だから、酒の肴に丁度いいかもしれんな」

「あははは、あのなあイオ、アリエルが10歳ってことはロザリィも10歳。あのべストラが一騎打ちで

倒されたんだ。ノーデンリヒトに死神がいるってドーラの戦士がみんな震えあがってた頃だぞ? よく死神に突っかかったな、私らは話を聞いただけでガクガクブルブル震えてたってのに」


 その後、べリンダはウェルフ最速最強の戦士べストラがどれほど強かったのかをイオたちに滾々(こんこん)と説明し『そんなアリエルと戦ったお前は凄い』と結論付けた。

 もちろんそのあと『ふたを開けてみたら可愛い義弟おとうとになってた』というオチを付けられたのだけど。


「あ、そうだった。べリンダって、人族の都会に来たがってたよな」

「そう! 実はワクワクが止まらないんだ」


「なあイオ、疲れてるとこ悪いけど、べリンダの案内してやってくれない? 俺たちちょっと忙しくてさ」

「わわわわ、分かった。セカ観光ならこのイオに任せておけ。どこへでも案内するぞ。どこへでもだ」



 その後、イオはべリンダといい空気になりつつあったところ、センジュ商会のジュリエッタさんに首根っこを掴まれ、マローニを追い出されるなんて不甲斐ない衛兵たちに代わって、センジュ商会がマローニの住民に食料を配るなりして支援していたんだという事を、まあジュリエッタなりにきちんと説明していたのだけど、傍目から見ると強面こわもてのイオが女豹のようなジュリエッタにこれでもかってぐらいガミガミ怒られてるようにしか見えなかった。


 もちろんいつもなら助けてくれるはずのネレイドさんは酔い潰れて大イビキかいて夢の中。誰もイオを助けることができず、何度も頭を下げさせられた上に翌日すぐに退去勧告を取り消すようくれぐれも念を押されてた。アリエルについて行ったせいで酷い戦闘を命からがら生き延びて帰ってきたところだというのに、その叔母にこれでもかってほど怒られたのだからたまったものではない。


「アリエル、ちょっと来なさい。話があるから」

「いたたたた、何かな? 耳ひっぱらないで、伸びるから! 俺エルフになったらどうすんのさ……」


「ビアンカさんと同じ顔してると思ってこのイオ油断したっ。恐ろしい女だった」

「あはははイオ、お前さん昨日までとはずいぶん印象変わったな。とてもいい顔してるじゃないか。しかしあの女恐ろしいな、アリエルが耳引っ張られて連れてかれたぞ? 大丈夫か?」


「アレはジュリエッタ。ビアンカ義姉ねえさんの妹よ。相変わらずキッツいわねえ」

 せっかくいい感じのカップルができそうだというのに、間に割って入るようなハーフエルフの女は、ボトランジュ領主アルビオレックスの末娘でトリトンの妹コーディリア。アリエルからすると叔母にあたるが、ハーフエルフなので今だに20歳ぐらいの見た目を維持している見た目チート。若く見えるが中身は40過ぎのオバちゃんなのでこの女も相当にキツイことを忘れてはならない。


「しっかし、派手に暴れたわね……、イオも一緒に暴れたって?」

「10人で2万のアルトロンド軍に正面から突っ込んだってさ。アホだ」

 べリンダが上機嫌でイオたちをアホだアホだという。よほど気に入ったらしい。


「で、イオはどう思った? アリエルのアホのことさ。破壊神アシュタロスに見えた?」


「いーやアリエルは英雄だよ。1000年続いたノーデンリヒト戦争を終わらせただけでも歴史に名を残す快挙だというのに、俺たちは今日また目撃したんだ。理解したよ、アリエルを敵に回して戦ったら、そりゃあ悪魔だの破壊神だのって言われても仕方がない。もちろん死神もな。だけど共に戦えば英雄だ。どんな不利な状況もひっくり返す力に、みんなしびれるんだ」


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