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11-16 黄昏ゆく教会の丘にて

次話は土曜か日曜にでも。週3投稿いけるうちは月水金を柱に投稿できればなあと。


「よっしゃ、どうよコレ。完璧すぎるだろ」

「ゾフィーちょっとやりすぎたんじゃない? ほら、あそこの建物壊れてる」

「えーっ、なんで? ジュノーの焼いたところは?」

「私はちゃんと地図の通り、ほら、ちゃんと見なさいよ。私にミスはないわ」


 今の今まで帝国軍の支配地域を全て灰にしたところで、突然何の前触れもなく教会の丘に戻ってきたと思ったら、さっきセンジュ商会でジュリエッタにもらった地図を開いて、あーでもない、こーでもないと言い合ってる。どうやらジュリエッタが油性ペンで囲った「帝国軍支配地域」をその線の通り、塗りつぶすようにきれいさっぱり地図から消してしまったという事らしい。

 ネレイドもジュリエッタもまさか土地ごと深くえぐり取られてしまい、これまで陸地にあった区域の一部が水没してしまうなんてこと考えもしなかったろう。


 これにより、直線距離で1200メートル、平均して幅400メートル程度の長方形に近い五角形ではあったが、セカ港は港の設備がまるごと破壊され、一部水没してしまったこと。アリエルたちが破壊した帝国軍の支配地域だった地区は最初に爆破された帝国軍司令部のあった宿までが綺麗にジェミナル河と繋がり、まるで運河に掘られた人口の港のようになってしまった。


 そんな大破壊を目撃しながらも、一歩も動けずただ口を開けてみていただけの男が二人いた。

「ねえ、この人たちどうするの? 捕虜?」

 最初の、宿のロビーからゾフィーのパチンで教会の丘に転移してきたとき、実はこっそり帝国軍の男がいっしょに転移していたのだが、その後のことはもう、筆舌に尽くしがたく開いた口の塞がる事がないような光景を目にしたため、声を出すことも出来なくて突っ立っているしかできず、ひたすら無視されていた二人にようやく話題が及んだ。

 せっかく拾った命なんだ。誰も見てない間にこっそり走って逃げりゃよかったのに、わざわざ注目を浴びるまで待っているなんてアホとしか言いようがない。


 その男とは、一人はアリエルたちを司令部のある宿に案内したカロッゾという男で、もう一人は、ジュノーの姿を見て、剣を鞘に戻し、一歩引いた位置で命令に従わなかった親衛隊の男だ。

 ゾフィーの気まぐれだったのか、転移させるついでだと思われたのかは分からないけれど、それでもあの時の判断が功を奏して、今こうして生きている。


 このまま帰ってもらうか、それとも捕虜になってもらうか。二人の処遇を決めかねていると教会の中から人の気配がした。何人か転移してきたようだ。


「うっわ、港が燃えてるのか? 何事だ。いったい何があった?」

 イオだ。マローニのほう片付いたのか、イオたちがセカの方まで様子を見に来てくれたらしい。

「燃えてるのか? いや、火の手は勢いがなさそうか。しかしすっげえ煙……あれってもしかしてアリエルやったのか?」

「ゲハハハ、アリエル先輩やることがはえーな。ってジュノー先輩! こんなとこで奇遇っすね」


「ベルゲルミルお前な、まず最初に俺と目が合ったのになんでジュノーしか眼中にないんだよ」

 マローニからセカに転移してきた男たちは、先行しすぎた俺たちを助けるために、マローニの方ひと段落つけてから急ぎ駆け付けてくれた戦士たち20名だ。ちなみにイオ、ベルゲルミル、ハティと、そして、まさか教会から出てくるとは思えなかった縫いぐるみの熊野郎までいた。


「よーう、派手にやったみたいじゃねえか。今夜は酒でもどうかと思ってよぉ、樽で持って来たぜ」

「ダフニスおまえホント酒しか……いや、まだこいついい匂いがする。ロザリンド! ヒネるんだ」

「そうねえ、どこの猫の骨か知らないけど、私を避けて挨拶なしってのが気に入らない……」

「まてって、ロザリィ、まってくれぇぇぇぇ!」

「ひっ……」

「ああっ、エアリスを怖がらせましたねっ。ダフニス有罪ですっ」

「俺何もしてねえのになんでだぁぁぁぁ」


 ダフニスが無事に絞め落とされたので、やっとイオたちと話ができるようになった。いやあ、ダフニスがくるといつものことだけど、ロザリンドが大喜びでダフニスの気を失わせて、モフモフのソファーが出来上がる。そしてロザリンドとサオが絶妙の温かみを帯びたダフニスのソファーに背中を預けるんだ。

 最近は毛づくろいをしっかりしてもらっているようなので、手触りも座り心地もいいらしい。


「ああ、イオ。この二人実は帝国軍の生き残りなんだけど、話ができそうだったからとりあえず連れてきた。話を聞いたら帰してやってくれ。あと帝国軍で分かってるのは酒場の前へ遺体を片付けに行った10人っくらいかな。そっちは自治会に任せりゃいいだろ」

「分かった。二人を預かろう。とりあえず身分は捕虜で構わんな。ときにアリエル、あの煙は?」


「セカ港は帝国軍に占領されてたんだ。自治会の話ではセカ市民は一人もいないってんで燃やしといたほうが復興しやすいと思ったんだけど……どうした?」

「ああ、なんだそういうことか。ならいいんだ……なら」


 なんだかイオの様子がおかしい。セカの抵抗組織に連絡のとれる者を走らせておいて、俺の方を一切見ずに、よそ見をしながら、この花いっぱいの草原だというのに、どういう訳か俺の横に腰かけた。

 サオでもなく、パシテーでもなく、ゾフィーでもジュノーでもなく、はたまたロザリンドでも てくてくでもない、俺の隣にだ。

 ボトランジュでも一、二を争うであろう強面こわもての悪役顔を地で行く、あのイオ・ザムスイルガルが、わざとらしく口笛なんか吹いちゃって、顔だけあっち向きによそ見をしながら、お花畑に座ってる俺の横にきて、何を考えているのか知らんが、どっかりと腰を下ろすもんだから緊張して俺の方も何をどうすりゃいいか分からなくなってしまった。これから一体何が始まるんだ?


「なあアリエル、ちょっと。ほんのちょっと教えてほしいことがあるんだが」

「……なにぃ?」

 イオすまん。ちょっと訝しむ癖が抜けなくて、露骨にイヤそうな声が出たわ。

「いや、迷惑なのは分かってるんだが、ちょっとさ、お前ほら、魔人族の綺麗な奥さんもらったからさ、どうしたら俺も……」


「はあ?? ロザリンド? お前いま誉められたぞ?」

「聞いた! キミなかなか見所あるな」

 ガキの頃からつるんでいると男どもの視線の行方というものはだいたい窺い知れる。このメンバーの中じゃ、ジュノーかパシテーばかりが注目を浴びて、いちばん背が高くて目立つはずのロザリンドが男どもからは敬遠されるという憂き目にあってるんだ。ただデカいがゆえに。


「違う! 間違えた。ちょっとまってくれ。えーっと、ほら、魔人族の女の人には何を贈れば喜ばれるのかとか、知りたいだろ? 普通は」

「ロザリンド、間違いだってよ」

「はあ……この世界は冷たい。うら若き乙女に対してもっと優しくなるべき」


「いや、ロザリンドさんはもちろん妹さんだから綺麗じゃないはずがなく……ただ喜ばせるには」


「大丈夫かイオ、何を言ってるのか分からん。具体的に誰を喜ばせたいんだよ?」

「おお、アリエル相談に乗ってくれるか。実はな、あの……べリンダさんのことなんだが……」


「なあロザリンドぉ! イオがべリンダのこと好きなんだってさ。どうすりゃ落ちる?」

「ちょ、おまっ。アリエル声が大きい。大きいって!」

「へーっ、べリンダねえ……でもそれじゃあダメだな。べリンダは脳筋だからド直球じゃないと落ちないわよ。絶対」

「きっと大丈夫ですよイオ。ロザリィも師匠にド直球一発で落とされましたし、たぶんうまく行くと思います」

「サオっ! ストップだ。俺いまイオのせいで黒歴史をほじくり返されようとしてるよな」

「俺のせいじゃないだろ、お前がワザと大声でみんなに聞こえるように言うからバチが当たったんだ」

 バチを当てるのはだいたいが神さまだし。この世界の神様っていやあジュノーだし。ジュノーならもっと酷いバチを用意して当てに来るよ。


「丁度そこに転移魔法陣があるからべリンダ呼び行こうか? ノーデンリヒトに居るよね? 確か」

「待て待て! まずは付き合ってる人が居ないかを確かめてから、迷惑にならないよう、手紙をしたためて、それから日を決めて食事に誘う……、いや食事に誘う時ってどうすればいいんだ? 服装は? 花束を贈るのは俺のキャラじゃないし、いやキャラを崩して意表を突くのも手だと聞いた。なあアリエル、夕陽を背負って、ちょっと表情に影を作るのもいいと聞いたんだが、その時の夕陽と俺の立ち位置を詳しく教えてくれ。どんな角度がいいのか良くわからん」

「めんどくさいプロポーズだな」

「プロポ……だと? 違う違う。まずは気を引いてからじゃないと何も始まらんだろう」


 ダメだこりゃ……絶対振られるわ。

「こりゃネレイドさんに相談したほうがよさそうだ」

「む? 騎士団の先輩のネレイド・コンシュタットさんか? 頼りになるのか?」

「騙されたらダメですよ。うちのお父さんは女性を口説くのにきっと世界で一番頼りになりませんから」

「ああっ、エアリスおまえ、告げ口はマイナスだぞ。サオに言いつけてやる」

「お師匠はもう私を認めてくださいましたから」


「「「えええっ!!」」」

「マジで?エアリス。いつの間に? えええーっ、お祝いしないと。みんな! サオが弟子をとったぞ!」

「へへー、私こっそり聞いてたの」

「よし! やる気が漲ってきた。明日にしようと思ってたけど今日いくぞ。サオとエアリスをセカ市民みんなで祝えるように、俺いまからアルトロンド追い出しに行こうと思うんだが、お前らもくる?」


「ほう、とうとうこのイオにもアリエルから声がかかったか。光栄だ。行こう! ハティはどうする?」

「行くに決まってるだろ。ボトランジュの英雄が弟子をとったのならお祝いだ。ベルゲルミルは?」

「俺も行きたい。絶対行く。だがちょっと待ってくれ、数分でいい」


 ベルゲルミルは捕虜の男、カロッゾという男と、今地図から消えた帝国軍占領地の方を見ながら、なんだか話し込んでいるようだった。同じ姓を名乗っているからもしやとは思ったけれど、知り合いだったらしい。だいたい姓なんてのは人族が好む『血筋』を示すものだから、この世界にポッと召喚されてきた召喚者には姓は与えられない。エルフ族の多くがそうであるように、名だけを名乗るのが普通だから、ベルゲルミルがカロッゾ姓を名乗っていたとしても、身内だとは考えられない。そう言えば世話になった人の名を名乗らせてもらってるとかなんとか……、聞いたことがあるけど。


 別にどんな話をしてるのかなんて聞きたくもないけれど、ハゲのくせにやけにいい表情で話してるもんだから、ちょっとだけ気になったが、ベルゲルミルは今しがた捕虜になったほうのカロッゾの背中をポンポンと叩いて何か含み笑いを見せると、こっちに合流した。

 捕虜はここのお留守番チームと一緒に残して、後でセカの自治会(抵抗組織)に引き渡されるということになった。こいつらの処遇と立場が悪くなるんじゃないかと思ったけれど、逃亡兵だと思われるよりはマシなんだそうだ。

 留守番チームは今日は働きすぎのゾフィーとジュノー、あと、お祝いされる側のサオとエアリスで、今からアルトロンド叩いて追い出すチームは、俺、ロザリンド、パシテー、イオ、ハティ、そしてベルゲルミルに、いま頭を抱えながら目を覚ましたばかりのダフニスは強制的に参加させられることが確定済み。


「ふあぁー。よく寝たのよ? ん、マスターどこいくのよ?」

「おっ、てくてく。これから殴り込みなんだ。おまえも……」

「アタシは興味ないのよ。泣かされて帰ってきたらカタキとってやるぐらいしてあげるわ、アタシお留守番」

 みんな体はなまっていないようで、軽く身体を動かして準備運動するだけで戦闘態勢が出来上がる。さすが何年も戦場で戦ってる男たちの強化魔法だ。ピンと張り詰めるように冴えわたっている。

 特にハティは若い頃と比べても体力の衰えまったくないんじゃないかってほどの強化を張り巡らせている。

「なあアリエル、アルトロンドの奴らってどれぐらいいるんだ?」

「少ない少ない。帝国と比べたら半分も居ないよ」

「そ、そうか。なら大丈夫そうだな」

「ハティ、アルトロンド軍は2万いるの」

「ちょ! 俺ちょっとお腹が痛くなって……可愛い妻と10人の子らが俺の帰りを待ってるんだけど」

「大丈夫だよ、そろそろ行くぞ! 今日を開放の日にしよう」


「あなたの無茶に付き合わされる生身の人が死ぬってば。私も行かなきゃ……」

 ジュノーが立ち上がって尻をはたきながら、世話の焼ける子たちね……って言わんばかりの表情で準備しかけていると、ジュノーの影から真沙希が現れた。短剣? を消しゴムみたいな砥石でタッチアップしながら、まるで歴戦の勇士の風格を漂わせながら……。


「ジュノーは休んでて。私も少しなら治癒魔法使えるからケガぐらいなら平気。傷は残るけどね。腕落とされたりしたら帰すから、その時また生やしてあげて」

真沙希まさき来るの? マジで? 危ないぞ?」

「大丈夫。兄ちゃんの友達は私が守るよ」


 真沙希の装備する剣は、短剣に見えたけれど、実は短剣より少し長めで、刃渡り30センチぐらいの小剣といった形状だった。小さな体格でも懐に入り込んで振りの速さを重視し手数で圧倒するタイプの小剣だ。どう考えてもセーラー服の女子中学生が持っていていい代物じゃない。ナマクラには見えないからちょっと見せてもらったらSAGANOの銘入りで、相当な業物わざものだ。


「くっそオヤジめ! 俺にはナイフひとつ打ってくれなかったくせに真沙希にだけか!」


「ゲハハハ、アリエルの日本の妹か。同じ顔してんのな。よろしく、俺も日本人でベルゲルミルっていう。セーラー服なつかしいな、この世界でも流行ればいいのにな」

「可愛いな。その服もとても似合ってるね。年はいくつだい? もしよければ息子の嫁にどうかな? ハティ・スワンズだ。よろしくな。ハティおじさまって呼んでくれ」


「接近禁止だ! ハティおまえ何おれの妹に手出そうとしてんの? イオもダフニスも接近禁止。3メートル以内に近付いたら爆破するからな」

「挨拶ぐらい……」

「ひでえな兄弟 せっかく俺が」

「ロザリンド、ちょっとヒネって! こいつら揃いも揃って真沙希を狙ってやがる」


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