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11-04 開放の連鎖、セカへと。

次話はできるだけ早く。土曜か日曜にでも間に合えば。

間に合わなければすみません、来週になります。

アリストの街→カナデラルの街へ変更



 マローニを占領していた帝国軍は宿舎で休んでいた兵たちもとうとう武装解除させられ、投石を受けながらゾロゾロと南門から追い出されようとしていた頃、アリエルはセンジュ商会に来ていた。開けっ放しの倉庫扉から中に入ると、ノーデンリヒトに行く前立ち寄ったとき馬車と食料を用意してくれた男が居て、忙しそうに荷造りをしていたが、入り口に人の気配を察するとアリエルたちに気付いた。


「あ、その節はどうも。すみませんね、どうやら風向きが変わったらしくて……我々も退去しなくてはならなくなりそうです」

「ああ、それは大変だ。ところでセンジュ商会は情報も扱ってるんだろう?」

「はい。しかし内容によります。ノーデンリヒト軍の方にもご贔屓にしていただけるチャンスがあるなら、お話だけは伺いましょう」


 さすが商人だ。敵味方の区別なく、金になる事には鼻がきくらしい……。なんて絶対にないね。センジュ商会のセカ支店っていやぁジュリエッタんトコだろ? あのジュリエッタが無節操に金の匂いのする方に付くなんてことないない。センジュ商会は本店が王都プロテウスにあるから、ここの支店がどっちの流れを汲んでいるかによって話の持って行き方を変える必要がある。

 ただこういう商人の気質はイオが嫌うから、センジュ商会はマローニを追い出されることになるのだろうけど。


「そう言えば勇者どの、先ほどどの騒ぎを聞きましたよ。ドラゴンを召喚なさったとか?、なるほど、本物のドラゴンの鱗をいただいていなければにわかには信じられないような話でしたが……」


「ああ、さすが耳が早いな。生きたドラゴンのほうは譲れないが、実は新鮮な状態でドラゴンの肉もたっぷり在庫があるんだ。名前ぐらい聞いたことがあるだろう、ミッドガルドという。そのミッドガルドの肉でどうだ? うまいぞ」


「……っ! ミッドガルド! まさか、先日頂いたあの白銀の鱗は……」

「そう、それがミッドガルドの鱗だ」

「ありがとうございます。鱗の出所がミッドガルドとなると価値が跳ね上がりました。まさかあの凶悪なドラゴンを狩る者がこの世界に居ようとは思いもしませんでしたので、……申し遅れました、わたくし普段はセカのセンジュ商会であきないをしております、コルシカと申します。すみません、勇者どの、お名前をいただいても構いませんでしょうか」


「俺か? 俺はアリエル。少し前までアリエル・ベルセリウスだったけど帝国軍に入ったことで勘当されてしまいそうなんだ。だから俺の姓には今のところ何の価値もない。ちなみにセンジュ商会は母ビアンカの実家だからね、一応親戚なんだ」

「ベルセリウス家の嫡男は全員が見事なまでの金髪碧眼きんぱつへきがんだったはずですし、アリエル・ベルセリウスどのとは一度お会いしたことがありますが、年齢がどうも釣り合いません」

「世界一の賞金首じゃなきゃ顔を変える必要もなかったんだけどな。この世界から教会がなくなってしまえば戻すよ」


「……ふむ。なるほど、そういうことでしたか。合点がいきました。アリエル・ベルセリウス氏がドラゴンを使役していたことも、爆破魔法を無詠唱で使えることもボトランジュでは子どもでも知っている周知の事実でございますから、姿かたちは違えども、あなたがアリエル・ベルセリウスだと言うことは状況証拠が証明しております。本家の親戚筋であるベルセリウス家との繋がりは確保しておきたいところですから」


「さあ、それは難しいかもしれないよ? あんたら奴隷を商品として扱ってるだろ?」

「はい。アルトロンドや王都プロテウスでは相当な利益を出しているようですが、セカのセンジュ商会では一切扱っておりません。奴隷をご所望でしたら、どうぞ王都プロテウスのセンジュ商会をご利用ください」


「んー、いいね。奴隷を扱えばとんでもなく儲かるだろうに。セカのセンジュ商会、代表者は誰だ?」

「代表はジュリエッタ・コンシュタットですが?」

「おお、ジュリエッタさんか! 俺の叔母にあたる。あなたがジュリエッタさんの忠実な部下だというなら信頼できそうだ」

「はい。私はセカのセンジュ商会に丁稚奉公から入って20年。今は主よりマローニの出張所を任されております。実は、あなた様ともお会いしてるんですが? 覚えてらっしゃいませんか?」

「パシテー、覚えがあるか?」

「うーん、もしかしてジュリエッタについてセンジュ商会行ったときかな? エルフの賞金首のことですったもんだしたときなんだけど……でもごめんなさい、ちょっと分からないの」

「おおっ、素晴らしい。エルフの賞金首を捕まえてきた折でした。今の問答であなた方が本物のアリエル・ベルセリウスどのであることが確認できました」


「よし。ジュリエッタさんの部下なら信頼できる。用件は聖剣グラムだ。神聖典教会から王立魔導学院に持ち込まれたと聞いた。それが今現在、どこに保管されているのか正確な情報が欲しい」

「噂は聞いていますよ。でもあれはもう折れていると聞きましたが」

「ああ、根元からポッキリとな。その刀身の行方が知りたい……。頼めるな」

「分かりました。確約はできませんが手を尽くしましょう。こちらからの連絡は? マローニのベルセリウス家に申し出ればよろしいでしょうか?」

「本宅ではなく別邸のほうに住まう予定だけどしばらくは留守が続くと思う。でもとりあえず別邸に知らせてもらえればこっちから顔を出すよ」


「かしこまりました」


 ジュリエッタが出張所を任せるほどの部下なら信頼できるので、聖剣グラムの所在調査を頼んだ。

 俺たちは休む間もなく次の目的地、セカへ向かうことにした。今日中にセカも開放するって言ってしまった手前、のんびりもしていられない。


「アリエル、お前の帰りを祝う街の人たちに応えてやれよ。アリエルさえ戻れば帝国なんかに絶対負けないって、みんなずっと待ってたんだぜ?」


「みんなが帰りを待ち望んでたのはアリエル・ベルセリウスだよ。俺はアリエルを名乗っちゃいるけど、アルカディアの日本人、嵯峨野深月さがのみつきなんだ。手を振って声援に応えたりなんてできないよ」


「中の人はアリエルなんだろ?」

「背中のチャックをびーっと開けたら中から俺が出てきそうな言い方だけど、中の人なんていないからね。……さあ、ぼちぼち飛ぼうか」


「ああ、飛べるぜ。ノーデンリヒトに飛ぶ起動式と、マローニと、あとセカ。ジュノーさまが3つの起動式を考えてくださったからな。しかも転移魔法陣の起動トリガーだから入力は強化魔法より簡単ときた。これなら魔法が苦手な兵士でも魔法陣が使える」


「何してんの? こっちだよ? 近くへ」

「え? セカ行くんじゃ?」


「セカとマローニはまだ繋がってないんだ。あっちにも1枚石板を置く必要があるんだよ」


―― パチン


「はぁっ? 訳が分からん。ここはどこだ?」

 ポリデウケス先生は起動式を入力もしてないし、アリエルに『こっちだよ』と言われて転移魔法陣の設置された石板から降りた瞬間にゾフィーのパチンでセカの教会中庭に出たもんだから少し混乱しているらしい。セカ~マローニ間の転移魔法陣を設置するため、早速整地から始めるパシテー。ここは行き先不明の転移魔法陣が2つあるので、けっこう手狭になってしまった。

「なあゾフィー、これとそれ、どこに繋がってんの?」

「んー、どこだっけ? 一つはずっと東のソスピタよりもまだ東の湿地帯を抜けた先で、もう一つはソスピタの南、エイステイル居留地なんだけど、まだ使えるのかな?」


 ソスピタと聞いたポリデウケス先生がなんだか感慨深げな表情になった。うまく説明できないけど、要するにぼ――――っと間の抜けたような顔をしている。転移魔法陣の設置はパシテーとゾフィーに任せるとして、まずはポリデウケス先生に状況説明をしなくちゃならない。


「先生? ここはセカの神聖典教会……。敵地のど真ん中だけど、知らん顔で歩けば怪しまれることもないと思うけど、どうするかな、ボトランジュ軍がどこにいるか心当たりは?」

「セカから馬で5日だから200キロぐらいかな。西へ行くとボトランジュとフェイスロンドの領境にカナデラルという街がある。ってか、何千なんて規模の軍隊を養えるような街はカナデラルを過ぎるともう領都グランネルジュか、遥か西のネーベルまで行かないともうないんだ」


―― ドスン!

「設置完了」

「相変わらず仕事が早いなゾフィー」

「パシテーが完璧すぎるのよ。後で水平を微調整する必要ないもの」


 これでマローニとセカが繋がった。じゃあとりあえず悪目立ちするゾフィーとサオはネストに入ってももらうとして、俺たちは徒歩で教会の丘を降りて、セカのセンジュ商会の方へと向かった。周辺の外郭にある小さな町村を含めると50万の人口を誇っていたほどの大都市セカだ、はさすがに広くて全てを探索するのは無理。それに今セカは王国軍とアルトロンド軍、そして帝国軍がセカの統治に名乗りを上げていて、現在に至るもまだ分割案が採択されていない。ということは、占領時のどさくさで攫われた人たちがいるにせよ、セカ市民はまだどこが統治するか決まってないから無事と言っていいのかもしれない。


 セカ市街では占領下であっても人は生きていかなくちゃいけないので、慎ましやかにも生活する姿があった。俺が知ってるような豊かな街じゃあなくなっていたけれど……。商店に溢れていた野菜や魚介類はほとんどなくなっていて、店先に並んでいるのは粗末な干し肉の類が目立つのみ。宝石店など装飾品や高級衣料品店などという店は扉を堅く閉ざし、ショーウィンドウの中は略奪の跡が残るのみだった。


 なんだか寂しい街になったなあ……などと考えながら通りを歩いていると、俺たちを挟み撃ちにするような格好で敵軍が近付いてくる気配を感じた。どうやら強化魔法が展開済みだ。


「先生、強化かけといて。どういう訳か挟み撃ちにされるらしい」

「なんでバレたんだ? マローニを追い出したやつらはまだ南門のトコで穴掘ってる最中だろ」


 それにしては規模が小さい。あっちもこっちも30人ぐらいずつ。合わせて60人ぐらいか……。


―― ガッシャーン

 俺たちが接近してくる気配に警戒していきなり攻撃されても大丈夫な態勢を取ろうとしたところ、すぐ目の前の安そうな酒場から二人の制服兵が転がり出てきた。

 もちろん自分の意志で転がって出てきたわけじゃあなさそう。


「帝国軍は出ていけ、汚ねえケツなんざ見たくもない」

「俺たちが来なけりゃ負けてたくせに勝ったら手のひら返すのか? 王国騎士サマはよ」

「騎士を愚弄するかこの東の蛮族の分際で……」

「んだとコラァ! やっちまえ、ボコボコにやっちまえ、実力の差ってもんを見せてやる」


 酒場のウェスタンドアから激しく恫喝し合いながら男たちがワラワラ出てきたと思ったらすぐに殴り合いが始まった。この真昼間から酒飲んで喧嘩とは平和すぎて涙が出そうだ。どうやら今、強化魔法をかけて走ってきてるやつらの目的は俺たちじゃないらしい。


「大丈夫そうだ。ロザリンド、抜いちゃダメだぞ」

「こいつら帝国軍と王国騎士? ヒマそうね」

「前線から遠いところで睨み合って縄張り争いしてんだ。力余りまくってんだろ」


 さっきの気配はやっぱり援軍で、併せて60が加勢に入り、まるで80年代のツッパリヤンキー映画みたいな乱闘に発展してしまった。兵士だと言わないと分からないぐらい、セリフも見た目もヤンキー……いや、見た目はヤクザにしか見えないけれど、ちょっと帝国兵が優勢か。


 すぐそばに居たおじさんは王国騎士団を応援している。てか、帝国軍を応援してるやつはいない……。


 ああっ! そうか。今まで考えてもいなかった。シェダール王国がセカを統治するようになったとしても市民たちの生活は大きく変わらないけれど、帝国の統治は植民地支配だ。支配されてしまうとその地域の市民は帝国の二等国民になってしまうのだから、誰一人として帝国の支配なんか受けたくないんだ。


 ……この状況はもしかすると使えるかもしれない。

 いや、使わない手はない。


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