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11-02 マローニのアイドル

「うー、まだ眠いのよ……」

 ゾフィー版の、ゾフィーが許した者であれば誰でも入ることができるという新ネストでスヤスヤと寝てたてくてくが、数時間しか寝てないというのに引っ張り出されたところだ。これからゾフィーがパシテー謹製の部屋を沈める作業をするらしい。ゲストルームも備えた平屋建ての家みたいな感じだけれど、普通の家との違いは、出入り口の扉も、窓もないという事だ。外からは光が入ってこないので窓なんかあっても景色も何も見えないし、扉があったところで、外に出たところで何もない空間があるだけだから出入り口のドアも必要ない。明かりをつけるのはジュノーの仕事だけど、帝国陣地の大型テントのような眩しい光源よりも、天井を照らすタイプの間接照明でお願いしておいた。

 この作業が終わると、俺のネストに入ったサオのネストに入ってるハイペリオン。……というマトリョーシカ人形のような『入れ子』構造が出来上がるので少し期待してる。


「んー、ゾフィーちょっと質問。ネストの中でハイペリオン出したらどうなるの?」

「あなたの影から飛び出るわ。あなたがネストにいても、地上に小さな丸い影を落としているから、そこから魔法陣が立ち上がって飛び出すよう、出口をひとつに纏めておきました」

 2つの転移魔法陣の出口をひとつに統一したということか。ならいざとなったら俺の影からハイペリオンを出すことも……できるのかな?


「サオ、今の聞いてたか? ネスト出入り口の転移魔法陣の説明ちゃんと聞いとけよー」

「さっき聞いたんですけど、サッパリです」

 朝食を終えた後の、いつもより遅い朝の鍛錬をしているサオを捕まえて転移魔法陣の説明を聞いとけと言ったものの、さすがに時空魔法を展開する転移魔法陣なんか理解できないらしい。さすが俺の弟子だ、サッパリ理解できない俺と同じく、訳の分からない転移魔法陣をくっ付けられてしまったのに何の不安も感じていないあたりに、弟子の奥ゆかしさを感じる。


「ねえロザリィ、ヒマですっ。私の16年の成果も見てください、私も腕を上げたんですよっ」

 鍛錬の途中にヒマもくそもあったもんじゃないと思うんだけど、汗ばむほどに身体が温まったサオが、16年ぶりにロザリンドの剣を受けたいらしい。まったくもってマゾっ気のある弟子だ。


「へえ……それは楽しみね。あとでジュノーに頼んでみるわ。サオ確かに強くなったから、ケガさせちゃいそうだし」

「もう! ロザリィは自分がケガをすることなんか少しも考えてないんですね。イグニスもいるし、昔みたいには行かないですよ」

「そんな事ないわよ。私はだいたいいつも酷い目にあってるけど……」


 サオはサナトスがロザリンドに殴られたことを見てたくせにもう忘れたらしい。俺も見てたから分かったけど、精霊防御の正体は簡単な転移魔法 ?のようなものだ。戦闘中ロザリンドがサナトスを捕まえたとき、アプサラスは確かに、サナトスにネストを被せるようにして別の次元? 亜空間? へと転移させた。そのネストそのものが目に見えないからサナトスがそこに居るように見えたけど、その実、サナトスは『そこには居なかった』だけで、実体は別の世界にいた。だからロザリンドじゃなくても、俺やゾフィーといった時空魔法を使える者にはその仕組みが見えてしまうし、やたらめったら目がいいジュノーにも見えたろう。ロザリンドなら素手でも剣でも、ゾフィーなら時空そのものを切断することで対処するだろうし、俺だったら、そうだな、こっちの世界に居る精霊だけをフッ飛ばす。いつものようにボカーンって感じで。


 俺は精霊防御の成功例をまだこの目で見たことがないからいちどサオに実演してもらいたいところだけど、ロザリンド相手じゃどうせ無理だ。実戦形式で立ち会ったりなんかするとサナトスと同じく、アバラの2~3本ヘシ折られるだけだろう。


「サオ、ダメだよ。サオのケガはジュノーが治してくれるけど、イグニスの怪我を治せる人がいない」

「師匠まで私がコロッとやられると思ってるんですね。……悔しいです」


「違うのよサオ。マスターもロザリンドもたった一度見ただけで、アタシたち精霊の手の内が分かってしまったのよ。ヒトの身体が水に変わったり、炎に変わったりするわけがないってことを、いとも簡単に見抜かれてしまうアプがドン臭いのかしら?」


「もう! 師匠もロザリィも嫌いです。サナトスが身体を水に変えて勇者たちの攻撃を華麗に躱していたように、私もこの身体を炎に変えて、ボウッ! って攻撃を躱して、そしてニヤリって不敵に笑いたかったです。まだ出してもない技を先に破られたみたいで、とっても不愉快です」

「ねえサオ、身体が水に変わったり炎に変わるってことは、攻撃を受けてるんじゃないの? 華麗に攻撃食らってんじゃん」

「そうですけど、違うんですー。魔導学院の子たちはみんな憧れてるんですから」

「私はちょっと違うな。敵の攻撃を全部こう、無防備に受けてから『ニヤリ』と笑って『フン、効かないね』って言ってやるほうがカッコいいと思うわ」

「プロレスだろそれって。サオはぜったいマネしちゃダメだからね」

 このままロザリンドのペースを許すと、きっとサオの攻撃を全部受けてやろうか……みたいな流れになりそうなので、あらかじめ釘を刺してプロレスの流れにもっていかないという意味も含めて、俺がその精霊防御とやらを見せてもらうことにする。


「じゃあサオ、イグニスの防御で俺の攻撃を躱してみるか? そうだな、サオはそこに立って、俺がサオのおっぱいを触りにいく。サオはそれを炎に変わって躱せばいい」


「……」

「どうした? サオ、触れないんだろ? ならきっと俺の手が火傷するだけだよな」

「イヤです。私を誰だと思ってるんですか? 師匠の弟子ですよ? 師匠が高位の水術師だってことを忘れるとでも思ってるんですか。私、騙されて胸を触られるところでした。師匠はイグニスとすべての女性の天敵です」


「天敵とは酷いなあ。あんな防御に頼ったりさえしなければサオも相当強いと思うけどなあ」

「嘘ですよ。そんなことがあるわけないです。パシテーなんか、私たちがあんなに必死で戦っても勝てなかった白い勇者たち、一瞬で2人も倒しちゃうし。あれ放っておいたら5人とも全員倒してましたよね? それに相手がゾフィーとかだったらデタラメすぎて戦う方法も見つかりませんよ。きっとジュノーさんも恐ろしい力をもってるに違いないです」


「え? 私? ちっとも恐ろしくないわよ。可愛いだけの女の子だし、弱点あるし。敵も味方もみんな知ってるんじゃないかな? 私には治癒の権能も魔法も届かないの。だから私いつも真っ先に狙われるの。モテる女はつらいわね」

 ジュノーの弱点は他にもある。耐魔導障壁が強い分、物理防御がパシテー並なんだ。

「サオ、騙されちゃダメ。16年前にも私言ったよね、ジュノーは怖いって。でも実際は想像以上に恐ろしい女だったわ。ビーム兵器みたいな魔法を使うから手に負えないわ」


「ビームって何ですか? でもロザリィなんて弱点絶対にないですよね、師匠なんかパーフェクトじゃないですか」

「あー、私はいろいろあるわねー、ゾフィーにもジュノーにも指摘されまくってるわ」

「え? ロザリンドの弱いところ? 頭でしょ? ガサツだしデリカシーもないしさ。サオはマネしちゃダメよ。ダークエルフは頭が悪いの」

「じゃあ師匠は? 師匠は弱点なんかありませんよね!」

「ちょっとサオ、反論とかフォローないの? 納得しないでよ……」

「俺の弱点は知ってるだろ? 俺はサオのおっぱいに弱いんだ、俺の顔がサオのおっぱいに、こう、きゅっと挟まれたりしたらもう、一発で降参してしまうだろうね……。ちょっと試してみるか」


「絶対イヤです!」


「はい、マスター振られてめでたしめでたし。じゃあ、アタシそろそろ中に入れてほしいのよ。太陽キライなの」


 パシテーが作ってくれたネスト専用の部屋は、俺たちの居間兼寝室が広く取られていて、ベルセリウス別邸の居間よりも少し広い。火を焚いちゃいけない完全密室なのに煙突にも繋がってない暖炉があるけれど、これは魔法暖房専用の暖炉。薪をくべたりすると全員一酸化炭素中毒でお亡くなりになってしまう。ただ暖炉の形を模しているのは俺のリクエストなんだ。心が落ち着くと思って。


 ベッドはキングサイズ+αのものを3つずらっと並べて置いて、そこに全員が雑魚寝する形になるのだけれど、まあこれはずっと前からの慣例のようなものだ。ロザリンドは角がなくなったおかげで、ベッドに穴を空けることもなくなったし、キングサイズ+αという規格外サイズのおかげで、足を延ばして寝られるようになった。前世魔人族の頃から小さく丸まって寝ることが癖付いているので、伸びて寝られるようになるまで時間がかかるだろうけど。


 外に繋がる扉はついてないけれど、別室に繋がる扉はついている。

 扉を出ると短い廊下があって、客間が3部屋。廊下の突き当りには転移魔法陣。

 客間はいずれもツインの部屋になっていて、そのひと部屋をてくてくが占有するらしい。窓もカーテンもついてない部屋が理想なのと、あと夫婦たちと寝室を共にするのはいろいろ問題があるのだそうだ。キッチンと食堂はないから、基本的に食事は外でとることになる。ただ、外が嵐だったりしたら居間でメシ食うぐらいのことは考えてる。中だけですべての生活ができてしまうと、豪華客船で旅をしているような気分になってしまって、俺の好きな旅の形じゃなくなってしまうからね、せめてメシと風呂ぐらいは開放感のある外で済ませたいところだ。


 俺がここに入ると地面に小さな影が残るだけの状態になるらしい。でもその小さな影の上に何か乗せられたり、物を置かれてしまって出られなくなっても困らないように、その場合はゾフィーの作った転移魔法陣にならいつでも転移できるようになってる。そのために、廊下の突き当りに転移魔法陣があるのだから。


 ってことはゾフィーのネストに入ったところにある転移魔法陣から、セカだろうがエドの村だろうが、ドーラのドルメイ山脈だろうが、外にある転移魔法陣のどこへでも飛べるってことだ。

 これまではセカの教会に行かないと転移魔法陣が使えなかったのに、今後は俺の影を経由すれば、転移魔法陣のどこへでも飛べるようになった。設置したばかりのノーデンリヒト要塞前にも飛べるので、旅の利便性は上がるばかり。一気に世界が狭く感じるようになった。快適すぎる旅を約束された気分だ。


「オッケーならアタシが一番乗りで寝るのよ……」

 てくてくがスッとネストに沈んだので、俺たちはこのままマローニに向かう事にした。今ごろポリデウケス先生は兵をたくさん集めて転移魔法陣の前でいまかいまかと待ち構えてるだろうし、俺は今日中にセカまで行ってしまいたいから午前中にマローニを開放してしまいたいと考えている。

 帝国軍としてマローニを通ったとき見た感じでは大した兵力は残っていないはずだ。兵の大半はノーデンリヒト要塞攻略に向かったんだし。


「ん、じゃあとりあえずマローニまでよろしく。市街戦は市民に損害を与えないようしたいから……、どうしようか、ゾフィーとサオはお留守番するか?」

「え? なんで? いちばん大損害与えそうなあなたが出て私がお留守番するの?」

「俺マジで信用ないのな」

「マローニって、来る途中で馬車を買った街でいいのね?」



―― パチン!


 予告なく問答無用で飛ばされるゾフィーのパチンで瞬間移動した先は……とても見覚えのある門構えに焼け焦げ、門扉が閉じられたマローニ南門前だった。以前立ち寄った時に補給を受けたのがこの場所だったというたったそれだけの理由でゾフィーはここに転移したのだろうけど、いまはどういう訳か、数千の帝国軍人たちが周りをぐるっと囲んでいて、なんだか物々しい雰囲気になってる……何やってんだ?


「砦攻めの訓練をしているみたいよ?」


 なるほど、このマローニ南門を仮想ノーデンリヒト要塞と見立てて、攻め手と守り手に分かれて数千の規模で模擬戦闘訓練を行ってるらしい。


 しかも間の悪いことに、全員の注目の集まる門前に突然現れた6人の男女。

 アリエル達を囲む帝国兵がザワザワしはじめ、全員の視線が集まった。


「ここ、前来たときはこんなに人いなかったのにね……」

「ほんとゾフィーってば、やることが雑よね……」

「大丈夫だ落ち着け、まだバレてない。何事もなかったかのように街に入れてもらおう」

 睨みつけられ突き刺さる視線を受け流しながら、俺たちはこの場違いで強張った空気から逃れようと早足に立ち去ろうとしたその時、すぐ近くに居た将校が叫び声をあげた。


「サ……サオだっ! サオの襲撃だぁぁ!」



「すみません師匠、バレました」

「あらら、アイドルはつらいわねぇサオ」


 俺たちの中にサオを見つけて狼狽える帝国兵たち。けたたましく笛の音が鳴り響くと大慌てで包囲陣形を取り始めた。


 南門の近くにやぐらを作り、その上から監督していたのだろう、千人隊長のアクエフが俺を見つけるとすぐに梯子を下りてきた。この男、少し前、俺とロザリンドが酒場で喧嘩したのを咎めた千人隊長だ。この男がいるなら事情を話せばこの状況をなんとかしてくれるはずだ。


「まてまてまて!……勇者サガノだな? ちょっとまて、後ろのエルフは敵軍の将サオに似ておるが……」

「ああ、どうも。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「そんなことよりも、その後ろに……」


「ああ、サオに間違いないけど、今はそんなことどうだっていい。話を……」

 うまく会話が成り立たない。間違いない、この千人隊長、俺の苦手なタイプだ。


「勇者サガノ! ノーデンリヒトに向かったはずのあなたが、なぜ宿敵のサオを伴ってここにおられるのか、説明願いたい」

「サオを連れてマローニに来た時点で分からないのか? 察しが悪いと言うか何というか……まあいいや。サオ、この千人隊長との交渉はお前に任せる。そうだな、目的はとりあえず俺たちを中に入れてもらえるようにすればいいか。こいつらがここを放棄して帰ってくれれば満点だな。決裂しても構わんから好きにやっていいよ」


「はい師匠……では、コホン。アシュガルド帝国軍に次ぐ! 1時間待ってあげますからマローニを放棄し白旗を挙げてボトランジュから出て行ってください。言ったとおりにするならばお前たちは無事に国へ帰れますが、もしそうしないならあなたたちはもう助かりませんっ!」


 サオは交渉事が苦手だった。


 ……いや、これは率直すぎる表現だけど確かに的を射ている。サオのめんが割れた時点でもう開門して俺たちを素通りさせてはもらえないだろう。ということは交渉というよりも降伏勧告を受け入れろと脅迫気味に迫るのも間違ってない。もちろんこいつらに正常な判断ができればの話だが。


 俺たちを包囲する数千の帝国軍は歩調を合わせながら徐々に包囲を狭めてきていて、防護壁の上からは数百の弓兵たちが矢をつがえて号令を待っている状態だ。見た感じあの矢にはやじりが付いていて、これまで使っていた訓練用の矢ではなく、実戦用の矢に取り換えられているようだ。

 これはあまり芳しくない状況だろう。


 アリエルは気付かれないようこっそりと包囲する背後の兵士たちの集団の中に[爆裂]を転移させた。その数、50か所。


「おいおい、サオの話を聞いてなかったのか? 俺たちは勇者だし、お前らは訓練してたんだろ? 外の奴らが装備してるのは刃引きの剣じゃないのか? それでも剣を向けるような奴は容赦しないからな、よく考えて答えないと今度は大勢の死者が出るからね、ちゃんと検討しろよ?」

「何を……、たとえ勇者が100人力だとしても、これほどまでの戦力差を覆せるわけがなかろう。勇者サガノ、おまえを謀反むほんの疑いで拘束する。敵軍の将サオがここに居るとなれば、我が軍は願ってもない好機とみた。抵抗は無駄と心得よ」


 アクエフの出方がヘタな方向に確定してしまったので、ジュノーとパシテーは耳を塞いで次の瞬間襲ってくるだろう衝撃波に備えてしゃがみ込んでいる。


「師匠、すみません。決裂しました」

「これは仕方ない。サオの責任じゃないよ」

「はいっ。ハイペリオン、戦闘開始ですっ」

 サオがハイペリオンを呼び出すのと同時に、あらかじめアリエルが転移させておいた50発の[爆裂]が同時に起爆され、辺り一帯は凄まじい爆音と衝撃波に襲われた。


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