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11-01 朝の陽射しを浴びながら

十一章、まったり進行から始まりました。

アリエルたちが強くなりすぎたので、戦闘シーンどうしようかと悩んでいます。

次話今週中に。



 サナトスとレダとグレイスに、うちの身内の女たちを紹介して顔合わせをさせるという大役を済ませたことで、なんだかひとつ大きな仕事を終えたような気分になった。

 俺の思い出の中のサナトスはまだ2歳の、可愛い盛りだったのに、まさか俺を二回りも大きくしたようなマッチョデビルに成長してたもんだから、俺の方はといえばまだ脳の切り替えスイッチがうまく動作ししていない。ロザリンドの方は日本でもずっと心配してたし、サナトスのことを抱き締めたくても16年間も別世界に居て、遠すぎて手が届かなくて、望みが叶わなかった。もう100%照れ隠しなんだろうけど、抱き締めるかわりに関節技をかけるという、倒錯した愛情表現を続けている。

 こんな母子のスキンシップもありだと思い始めた頃、とうとう背中からスリーパーホールドを決めて、絞め落とす気か! と思ったその時、力が抜けてしまったかのように首を抱き締めるような格好のまま、ロザリンドのいつもの挑戦的な眼差しを涙が覆い隠した。

「ごめんねサナトス。母さん帰れなかったんだ」

 サナトスは何も言わなかったけれど、背中から首に回された手をギュッと握ることで応えているのだろう。


「うー、サナトスが浮気してるようにしか見えなくて複雑だよ兄ちゃん……」

「俺も母さんに抱っこしてもらいたいなぁ……」

「ドン引きだわ!」

 俺の可愛いグレイスはツッコミ担当だった。


「え? なんで? ビアンカだぞ? グレイスも甘えまくってんだろ? どうせ」

「甘えてなんかいないわよ。え? 兄さんってトシいくつなの? サナトスのお父さんよね?」

「15だけど、今年16だからグレイスと同い年だ」

「なんで私よりも後に生まれてんのよ!」

「仕方ないだろう? 俺たち生まれたばかりのグレイスを抱っこしたんだぜ?これでも。なあパシテー」

「ん。私はグレイスのおしめ替えたの」

「俺はお風呂いれてあげたことがあるし」


「……!」


 同い年の女の子におしめ替えてもらってたなんて屈辱的だったのだろう。それからグレイスは真っ赤になったあと何かを思い出したように青ざめ、放心状態になってしまった。黒歴史がフラッシュバックしたときの典型的な症状だ。

 息子のサナトスが親の俺たちよりも年上で、妹のグレイスは甥っ子サナトスよりも年下で、俺よりも何か月か早く生まれてる。こんな、他人が見たらどこか滑稽に見えてしまうような家族でも、俺はそれでいいと思った。どうだっていいんだ、こうやって無事に再会できたのだから。


 ロザリンドは16年分、溜まりに溜まっていたものを全放出するかのようにサナトスラブだし、俺はさすがにあそこまで自分の欲望に忠実にはなれないけど、サナトスの成長も見られたし、グレイスが美しく成長したのも見られて満足してる。


 真横から照りつける朝の光を受けながら、どこまでも高く、抜けるような空を見上げて、ひとつ深呼吸といっしょに、睡眠不足の脳みそに喝をいれてやるため、ぐーっと伸びをして身体を目覚めさせた。

 俺たちは16年間という時間を失ったが、大切なものは取り返せたような気がした。


「なあレダ、アスラとアプサラスは?」

「あー、アプはさっき、すっごい剣幕で てくてくに怒られてさ、むちゃくちゃ泣かされてたから、しばらく出てこないと思う。アスラとイグニスはきっと、ゾフィーに会うのが照れくさいのね」


「アプのバカがいい気になってるからロザリンドにボコられたのよ……」

「てくてく、それは違うって。アプは全力だったって」


「まあまあ、てくてく……」

「マスターは関係ないのよ。これはアタシたち精霊の問題なの。アタシたちの中で、アプだけがマスターを奪われたことがないの。マスターを殺された後で反省なんて絶対に許されないのよ」

 精霊の世界にもいろいろあるらしい。けど、じゃあ逆に、どうやればロザリンドにボコられずに済んだのかと聞きたくなってきた。


「さあて、今日はもう寝て、起きたらマローニでも見に行くか」

「あ、あの、マローニはいま帝国の……」

「大丈夫だよグレイス、敵がいたらついでに追い出しとくから。もうすぐマローニに戻れるぞ? ノーデンリヒトもいいとこだけど、グレイスはまだ勉強とかもしなくちゃいけないだろ?」

「ついで? ついでに追い出せるような敵ひとりも居ないわよ、ねえサナ、お兄ちゃんを止めて」

 しょぼくれたようにうつむいて小さく首を横に振るサナトス。いつもお兄ちゃん面して偉そうなくせに、サナトスはいざってときになると全然役に立たないことが分かった。ならばと振り返ってレダに助けを求めても、意図的に視線を逸らされてしまった。レダもダメならとサオを見ても、なんだか申し訳なさそうに苦笑してるだけ。だれもアリエルを止めてくれようとはしなかった。


「ねえグレイスはずっとトライトニアに居て見てなかったし、昨夜の話もさ、部屋にいて聞いてなかったから知らないでしょうけど……」

「知ってるわよ。兄ちゃんが別人のようになって帰ってきて、サナが殴られたって」

「アル中になって帰ってきたクソオヤジが息子を殴ったような言い方やめてもらえるかな!」

 レダにフォローお願いします! というジェスチャーでブロックサインを送って、フォローしてもらえるよう促してみた。たのむレダ。


「違うのよ、外に居たあの何万の帝国軍たちも、もう……」

「サオがやっつけたって聞いたよ」

 思いのほか正確に情報は伝わっているようで安心した。そりゃそうだ、帝国兵を倒したのはサオとハイペリオンであって俺じゃあない……。俺が倒したのは、えっと、誰だっけか。えーっと。名前忘れたな……。


 グレイスが心配してくれてるのはまあ、分かる。俺の顔なんて1ミリも覚えてなくても、トリトンやビアンカたちが心配してたのをずっと見て育ったのだろうから。


「なあグレイス、心配してくれてありがとうな。だけどさ、帝国軍や王国軍がマローニに攻めてきたのは、実は俺のせいでもあるんだよ。教会とケンカしてたからさ」

「知ってる。コーディリアから聞いたもん。兄ちゃんアホだって。一国の軍隊相手にケンカしてるって」


「まあコーディリアがアホって言うのは愛情表現だからいいとして、まあ、俺を口実に攻めてきて、俺以外の何も関係のない人たちが襲われて、家を、土地を、家族を奪われるのは許せないんだよ。だから俺は、死神と言われても構わな……おおっと、死神は今もうサナトスなんだった」


「勘弁してくれ……死神なんてカッコ悪いし」

「じゃあ、みんなに聞こうか。俺とサナトス、どっちが死神が似合ってる?」

「私はアリエルかな。私が子どもの頃、ノーデンリヒトの死神って聞いて怖かったし」

「俺はサナトスに一票。グレイスは?」

「サナかな」

「サナなのよ」

「兄さまは童顔過ぎるからサナトスなの」

「ん、ビジュアルからするとサナトスのほうがカッコいいわね」

「私もそう、サナトスのほうが死神って感じするし」

「もうサナに決まりですねっ」


「あー、サナトス。家族会議の多数決により、死神の称号を授与します。ありがたく拝命するように」

「マジかよ!……でもまあ慣れてるからいいか」

「往生際がよすぎて怪しいぞ?」

「いや、アリエルなんて女の子みたいな名前つけられなくて良かったなーって」

 この、サナトスのくせに勝ち誇ったような顔しやがって……


「ほーう……ママに背中から抱っこしてもらいながらそんなことを言うのか、じゃあお前の名はフローラ! フローラにする」

「マジかよ、横暴だろ? そんなことできないだろ?」

「いーやできるね。俺が世界を変えるんだ。お前の名前を変えることなんか造作もないさ、フローラ」

「ねえサナトス、謝ったほうがいいわよ。あの人、日本でも深月みつきなんて女の子みたいな名前つけられてるから、他人に女の子の名前を付けることに抵抗ないみたいだし、サナトスの名前を付ける時だって、私たちが反対しなければオードリーになってたのよ?」

「ぐっ、この、ご、ごめ……」

「んー? どうした? きこえんなあ?」


「謝ったわよちゃんと。サナトスは私がつけた名前なんだから、絶対に変えさせないからね」

「母さん……」

 なんだなんだ、お前らその空気は! いい雰囲気になってきたんじゃないの?


「おいサナトス、お前だけはマザコンなんて絶対に許さんからな!!、いいか、それは俺んだ」

「はあ? 何言ってんの? あなたマザコンでシスコンだったわよね? しかも相当重度で手遅れの」

「そんなんじゃないからね、ほらグレイスがドン引きしてるじゃないか」

 話がマザコンとか、あっち方面にスライドしてしまった以上は旗色が悪い。これ以上突っ込んだら藪蛇になるという、引き際を示すサインだこれは。


 でもまあ、こう言っちゃなんだけど。よかった。

 サナトスは巻き込んでしまったから露払いぐらいはしなくちゃならないだろうけど、もう誰も傷つけさせるようなことはしないと、今日俺は心に誓った。


 悪者わるもの上等、深淵の悪魔上等、破壊神も上等。

 この世界に存在する悪名の全てを俺のために用意しとけって言いたいほどに。


「マスター! アタシそろそろ眠いのよ……」

 ん? てくてくが寝られないのか? あ、そうか俺の影からネストが撤去されてしまって、てくてくには不便なことこの上ないようだ。いまのてくてくは15歳バージョンなので抱っこして移動するのもちょっと気が引けるし……朝からゾフィーの新ネストつけるんだけど、先にやってもらうか。


「なあゾフィー、てくてくが眠いって。ネストの設置いまからしてくんない?」

「いいわよ。でも朝、作業するときになったら起こさなきゃいけないけど? いいかな?」


 ゾフィーが適当に1分ほどで魔法陣を書いた暫定ネストになんの疑いもなく飛び込んだてくてく。

 多分あの中は、ただひたすらに真っ暗闇の、宇宙ほど広い空間が広がってるだけだ。そんなとこに入ってなんでスッと眠れるのかが分からんのだが……。


「んじゃあまあ、今日のところはお開きにすっか、ハラ減ったなら食べ物出すけど?」

「師匠、寝る前に食べたら太っちゃいます」

 パシテーにコテージ頼もうと思ったけど、半分寝ぼけてそうなので無理。しゃあない。毛布だけ出してここで寝よう。


「んじゃここで仮眠すっからさ、サナトス、朝ごはんできたら起こしに来て!」

「マジか! 俺を寝かさない気か」

「違うわよ、サナトスを寝かさないのはレダの・や・く・め」

 ロザリンドのお茶目な突込みにどう反応していいか分からないらしい。平常心を装っちゃいるけど、まだ若いなレダ。耳まで真っ赤だ。

「サナトス、戦争は必ず終わらせる。俺が約束する。お前は安心して幸せな家庭と、あと3人目をつくれ」

「マジかよ! ……っておいレダ大丈夫か? なんかレダが熱出したみたいなんだけど?」


 息子夫婦ってのは本当にイジリ甲斐があってよろしい。

 次の世代を担う若者が、サナトスが、こんなクソみたいな世界でも、まっすぐに育っていることを、俺は誇らしいと思った。


 ま、俺の方が若いんだけどね。


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