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09-30 戦力分析


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 ノーデンリヒト要塞前の戦闘で朝から夕方まで要塞攻略の戦闘をこなし、陣に戻ってきた兵士たちの中に、イカロスたち騎士勇者の姿があった。


「終わった終わった。さて、今日の雑感ってやつを聞かせてほしいのだが? まずは年長者に敬意を表して、オヤッサンの話から聞かせてもらおうかな」


 いかにも一仕事終えてきたような風体のイカロス。甲冑を脱いでべとべとになった汗を拭いながらジョッキにがれた常温のビアーを受け取ると、片手間でスカラールに話を振った。


「きっちいな。年寄にあんま激しい運動させんなよイカロス。なんだあのサナトスってやつ、剣技は未熟だがそれ以上にあいつ自身の地力が強い。ありゃ無理だな。殺せねえどころかモタモタしてたら儂のほうが殺されっちまう」


 オヤッサンこと騎士勇者スカラール。殺していい敵と殺しちゃいけない敵を区別するのが苦手。

 『殲滅のスカラール』の異名で恐れられたほどの豪傑だが今日はサナトスとレダの戦力分析を担当した。


「レダって女の子とも遊んでたでしょ? どうでした?」


「ああ、あんなに可愛らしい女の子なのにツエェのなんの。サナトスとアレが2人がかりになると手が付けらんねえ。1人じゃあ引き付けておくことも無理だ。なんだありゃ、猫耳キャバレーのジャレコちゃんよりも恐ろしい女だ。サナトスとは離しておかないと殺されるのはこっちのほうだぜ? あとベルゲルミルも帝国くににいた頃と比べて相当腕を上げてる。野郎もトシだから力は衰えちゃいるが恐ろしいタイミングで痛いところを突いてくる。ありゃあ戦場で磨いたいくさカンってやつだな。要注意ってほどじゃねえが、ナメてっとこっちに犠牲者がでるぜ?」


「オヤッサンならあの2人をどう攻める?」


「サナトスとカワイ子ちゃんは常にお互いを視野に入れながら戦ってる。常にお互いを気にかけてるってこった。羨ましいねえ。素晴らしいカップルだと思うよ? だがその絆の強さ、そこがツケ込むスキになる。むしろどっちかを危機に陥れれば2人は必ずお互いを助けに動く。そうなると2人は手が付けられないほど強くなるが、戦場には空白が生まれるだろうな。おっと忘れるとこだったが、ベルゲルミルは1対1なら儂らでも足止めされちまうぐらいの圧力もってるが、逆に言えば1対1なら簡単に足止めできる程度の相手だってことだ。戦力的にはそれほど脅威じゃない」


「アドリアーノは? サオって防人、どう見る?」


 アドリアーノは185センチほどの長身で年の頃は40歳手前ぐらい。ちょっとヒョロッと華奢に見えるのが印象的だが。身長に合わせた長剣を振るう。騎士勇者の中でも剛の剣という事もなければ突出して速い訳でもない。ただ高次元でバランスしていて、特筆すべきポイントはないが、総合力が高いせいでスキのない強さを誇っている、そんな男が今日はサオの戦力分析を担当していた。


「うーん、爆破魔法を2発練って同時に撃ってくるし、飛んでくるスピードが恐ろしく速い。盾が2枚常に浮かんでいて矢もバリスタの槍も弾かれてしまうのを見たよ。間違いないね、あれは土の魔法だ。 あれで接近戦も素手で相当やるなんて恐ろしい才能だ。あんな奇麗なオネエチャンだけど、サシでやりあったら俺じゃ勝てないな。仮にイカロスと2人がかりで連携しても守りに徹してこられたらたぶん勝てない。ってか、今日の感じだと傷もつけられなかったけど、ブライのアホがべったりついてるから、先にブライを何とかしないとサオを倒すのは夢のまた夢だ」


「おいおい、それだけじゃないだろ? お前ならサオをどう攻略する?」

「サオの爆破魔法な、あれ詠唱してんのか? 気が付いたらもう練り上げてた。グリモアを見てる素振りもないから、浮かんでる盾の裏にでも貼り付けてるのかな? 爆破魔法を連発してるようでいて、ひとつ練り上げるのに5秒。今日はずっと5秒かっきりだったから、たぶんこの詠唱時間キャストタイムは正確だよ」


「あの複雑な爆破魔法をわずか5秒間隔で撃ってくるってことか?」

「ああ、それも疲れ知らずにバンバン撃ってくる。だけど俺に言わせりゃ5秒のスキは大きいと思うがね? イカロス、アンタが盾の隙間を抜けて懐に入り込むことができれば、10回は殺せる時間だろ?」


「お前はまた私に汚れ仕事をさせる気か? アドリアーノ。私は女を殺すのは気が進まないんだ」

「俺は心が優しいから剣筋が乱れてしまう。やっぱここはイカロスさんにお任せしますって」

「地獄に落ちやがれ。……で、ウェルシティはどうだった?」


 ウェルシティと呼ばれたこの女騎士、パッと見の年齢は20代後半だが身長155センチと勇者にしてはもっとも小柄な日本人女性。二刀を振るうが左手には刺突の剣『エストック』を持ち、乱戦よりも一騎打ちを得意とする。騎士勇者の中でも相当な実力者だ。今日は一歩引いた位置から仲間の補助をしながら敵のコンビネーションや作戦の分析を担当していた。


「私はアンタといっしょ。サオを攻めきれないアドリアーノやレダってちっこいエルフの相手で手一杯だった筆頭くんの援護に回ってたけど、そうね、結論から言うと、レダって子も殺せないかな。私けっこう本気で打ち込んだんだけどね、生身の腕でガードして剣を弾いたのよ? ガキン!ってさ。何アレ……。剣で斬って血が出ない者をどう殺すか考えるより、他にもっと殺しやすいやつを確実に殺したほうが楽よね」


「うむ。具体的にはどいつから片付けるのがやりやすい?」


「私は3匹の獣人が手っ取り早いと見たわ。熊よりもあの2匹の狼男たちのほうは脅威ね。目で追うのがやっとのスピードで変幻自在に進路を変えてくる。右かと思ったら左から来たり、1匹にかまけているともう1匹が必ず襲ってくる。あの2匹はコンビネーションがとてもうるさい。でも私たちを倒すほどの力は持ってないと思う。熊の方は身長3メートルぐらいあったからタンクになったら厄介だと思ったけど、ありゃガチガチの脳筋ね。まるで狂戦士バーサーカー。あの熊なら相性いいかな。楽に倒せると思う」


「そうだな、私も雑感として似たようなイメージだったよ。人族の戦士は特別な力はないし、後ろのほうに居た魔導師もあれだけ混戦に持ち込めばもう爆破魔法なんて使えずに豆鉄砲みたいなファイアボール撃ってただけだからな。魔法使いは接近戦になると脅威じゃない。ってことは? 魔人のサナトス、かわい子ちゃんのレダ、そして防人サオ。この3人がノーデンリヒトのかなめだ。……で、ハルゼルは? 離れたところから戦場全体を見渡してみてどうだった?」


「俺の本職は弓だからあんまり近寄りたくはないが……、全体を見た感じでは、やはり防人さきもりのサオがかなめだな。そして、今日出てきた敵の中には、サオの代わりができるほど守りの強い者はいないし、たった1人しかいない治癒師があのブライだってことが敵の弱点だと思う」


「ほう、あのブライが弱点というのは?」


「そう。ブライは強いから護衛が必要ないんだ。治癒師を守る者がいないってことは弱点にしかならない。明らかな人材不足だよイカロス。ノーデンリヒトの魔軍は人材が枯渇し始めてるんだ。だからブライに誰も付けられない。迂闊さを誘えばいくらでもいくらでも付け入るスキはあるんじゃないか?」


 イカロスはこれまでここで実際に剣を取って戦ってきた勇者たちにも情報を求めた。


「セイクリッド、カレ、グレイブ、端っこで小さくなってたらダメだぞ。遠慮するな。お前たちも何か言えよ。私たちがこの戦に勝つ方法を、何でもいい。提案してくれ」


「いーや、まさかアンタらみんな揃って、勝てないとか殺せないなんて言葉がポンポン飛び出してくるとは思わなかったんで、ちょっと見直してたところですかね」


 スカラールはフン……と鼻を鳴らし、今日は誰も殺せなかった剣の手入れをしながら皮肉交じりに応えた。


「いま強がって嘘ついても明日になったらすぐバレちまうからなあ、イカロス」


「そうだぞ、相手の強さを認めたうえで勝つんだ。魔軍は手ごわいとは聞いていたけどな、他に何かないか? なんでもいい。俺たちがまだ知らないことで、絶対に知っておいたほうがいいこととか……」


 イカロスは何でもいいから情報を求めた。

 セイクリッドは少し俯いて考え込む。

 役に立つ情報ではないかもしれないが、これまでマローニとノーデンリヒトで戦闘してきて、よくわからないが触れてはいけなさそうな……懸案があった。


「今日はいなかったけど、たまに出てくるエルフの少女が……いや、あの少女だけ得体が知れない。たぶん夜戦に備えて昼間は休んでるんだ」


「報告書にもなかったな。特徴は?」


 報告にしては心もとない。『たまに出てくるエルフの少女』の『得体が知れない』など、軍で上官に報告するのには著しく情報量が少なく、まるで心霊スポットで見た幽霊の報告をしているかのようだった。


「報告書に書けるようなことは何も分かっちゃいないんだ。あれは……うまく説明できないが、ひとことで言うと闇だ。いちどマローニ攻略のとき夜戦を挑んだことがあるんだが、一瞬で2000の兵を失った。どんな手段で攻撃してきたのかも分からない。ただ、闇が襲ってきたとしか。遺体も完全に無傷だったしな。先行してきたあの1万の増援、ここにきて一個師団の投入なんて、いったいどんな大盤振る舞いかと思ったら指揮官が変わるというじゃないか。……ってことは夜戦も想定してるんだろ?」


「当然だ。一個師団の兵を5つの大隊に分けて、ここにいる2000と合わせて6大隊、24時間のうち各大隊が1日4時間ずつ交代で攻めれば24時間常に攻撃できる。敵を休ませることも、眠らせることもなくな。これを2~3日も続ければ魔人だろうが魔王だろうが簡単にヒネれると思うがな。敵さん人材不足らしいし」


 さすがイカロスといったところだ。

 数の有利を使って相手を眠らせない、休ませないといった戦闘を提案している。

 

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