09-29 遥か南よりきたる
新キャラたちの簡単な設定です。
騎士イカロス 178センチ 40すぎ 帝国に情報戦の有効性を広めた。
騎士アドリアーノ 185センチ 40手前 細身の両手剣 長髪で痩せ型
騎士ウェルシティ 155センチ 30手前 細身で小柄な女勇者 二刀流だが左は刺突剣を持つ変則系
騎士スカラール 175センチ 惨劇のスカラール ベルゲルミルたちと顔見知りの壮年。キャリバンの親友だった。
騎士ハルゼル 175センチ 40すぎ 剣と弓を使う パシテーを殺した張本人
5人全員が日本人で、勇者。騎士の称号は強い/弱いではなく、弟王エンデュミオンに選ばれた忠実な僕であるかどうかということと、それに見合った功績を上げたかどうか。
全員がセイクリッドと同等かそれ以上の実力を持っているが、特別な能力を持っているということはない。
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舞台は変わってここはノーデンリヒト要塞前。
アリエルたちがマローニを出てから18日が経過したノーデンリヒト前の帝国陣地。
あと2日ほどでアリエルたちが本隊と合流する予定の朝のことだ。
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まだ朝食をたべようかという時間帯、ノーデンリヒト攻略部隊の後方にある竜騎兵飛行基地に皇族専用の飛行船が降りてきた。
事前連絡もなく突然に弟王エンデュミオン専用機が降りてきたことでことで空軍司令官は狼狽し、戦々恐々と整列してタラップから降りてくるのを迎えたが、乗客の中に皇族の姿はなかった。
颯爽とマントを翻し、降りてきたのは騎士勇者5人と、それに付き従う治癒術師たち。
エンデュミオンの切り札ともいえる7人の騎士勇者のうち、なんと5人までがこの地にやってきたのである。この戦力の一極集中はどうだ、戦争など今日にでも終わってしまうかもしれない。
5騎士の来訪は早馬の伝令によりすぐ前線に居るセイクリッドたちに伝えられた。
7人いる騎士勇者のうち5人までが各自とも専属の治癒術師を付き従えての前線派遣となると、ただの視察や巡察の類じゃあない。
確かに補充を要請したところ、マローニから昨夜到着したばかりの兵が1万も大量増員されたことに加え、まさか騎士勇者が5人でパーティを組んでくるなどとは思ってもみなかった。
その力はひとりひとりが筆頭勇者セイクリッドと同等かそれ以上。更には各自に専属で付き従う治癒術師が治癒と障壁を受け持つので、騎士勇者ともなると、たった1+1人で十分な戦闘単位が完成する。
そんな騎士勇者が5+5の10人という大戦力で、このような周囲500キロの間には茶店もないようなド田舎に集まるなんて異例のことだ。
いくら騎士勇者とはいえ、皇族専用機に自前の馬まで乗せてくるわけにはいかなかったらしく、この飛行場から数キロほど徒歩で移動しなくてはいけなかったが、それでも午前中の戦闘には間に合うよう、前線に馳せ参じ、まずは司令官のテントを訪れた。
「弟王エンデュミオンさまからの密命を受けている。今後はこのイカロスが指揮を執らせてもらうぞ。これが命令書と辞令だ。我々が来たからにはこんな戦争すぐ終わらせて早く国に引き上げさせてやるからな」
今後この戦場で指揮を執るというイカロスという男。勇者の称号を得てから15年を数える大ベテランだ。弟王エンデュミオンとは年も近く、最も信頼されている男でもある。
「はっ、北方攻略軍指令のエンデバルドです。命令しかと賜りました」
「そうか、いま指揮を執ると言ったばかりで申し訳ないが、今日の戦闘も引き続き指揮を執ってくれ。我々はみな戦場に出て敵戦力と直に剣を交え、敵の防御に穴をあける方法を探る。ここには筆頭勇者がいると聞いたが?」
「はっ、最前線の士官テントに。今すぐ呼びに……」
「いや、構わんよ。我々が直接向かおう。増援の1万はまだ出さずにおいてくれ。あの1万でこの戦、勝ってみせるからな。ではエンデバルドどの、時間通りに始めて、時間通りに終わるんだぞ。サービス残業は士気が下がるからな」
そう言ってイカロスたち騎士勇者の一行が最前列にある小高い丘に建てられた指揮官テントに向かうと、テントの前でひとり体操をして体を温めている男と目が合った。
ビシッと気を付けの姿勢をとり、直立不動で胸を張るセイクリッド。
「ああ、やめろやめろ。同じ日本人だ。帝国を離れてるときぐらい楽にしようや」
「は、はあ」
「勇者は3人いると聞いたが? 他の2人は?」
「メシ行ってますけど、いつも時間には間に合いますよ。それとあと2~3日後にまた3人ほどルーキーが到着するらしいってことは聞いています」
「うむ、そうか。ところで……何人死んだ?」
「マローニ攻略も含めると、もう2万は死んだはず……ですかね。シェダール王国軍の犠牲者を含めると倍近い被害が」
「いや、日本人がだよ。俺たちの同胞は、こんな異世界の果てで何人死んだんだ?」
「軍を離反して敵側に付いた者を勘定に入れないとしても7人。7人が命を落としました」
「……7人か。帝都にいると前線で何が起こっているのかまったくわからん。帝国を裏切って敵についた日本人が何人もいるらしいと聞いたのもつい先週の事でな。……しんどかっただろう、同胞と剣を交えるのは。だがもう終わりにしよう、この戦、すぐに終わらせるからな」
「いえ、急いては無駄に兵たちを死なせるばかりになるかと」
「そうならないために情報をくれ。報告書を読んだだけじゃ何も分からんからな。まずは情報だ。セイクリッド、お前がいままで戦ってきた敵の情報をだ。そのうえで俺たちも今日の戦に打って出て、強敵と剣を交える。そうすれば自ずと攻略の糸口は見えてくるってもんだ。なあオヤッサン」
「イカロス、儂はこの要塞を越えた先の、ずーっと北にある砦に用があるんだ。こんなチンケな壁、とっとと抜いちまおうや」
年の頃は60手前といった壮年の紳士は騎士勇者スカラール。その昔、友が命を落としたというノーデンリヒト北の砦に酒でも手向けてやるためノーデンリヒトくんだりまで同行してきたと言う。
「まあ、今日のところは探りを入れる程度でいいだろう。軽く……軽くな。ルーキーの到着までまだ時間はあるんだろ? のんびりしてる時間はないが、俺たちの作戦に余裕があるってのは珍しいことだからな。まあ楽しませてもらうさ。セイクリッド、先導のほうよろしく頼むぜ」
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いつものようにいつもの如く、朝から兵士たちは順に整列したところで進軍の太鼓が打ち鳴らされ、そしてまた、いつものようにセイクリッドたちはノーデンリヒト要塞に向けて侵攻を開始する。
セイクリッドたち勇者3人と回復役の神官2人。この最小の戦闘単位でいつもなんとかやりくりしてきた戦場に、今日は先輩たちが5人+5人の変則型パーティで参戦している。
ノーデンリヒト要塞の門が開き、魔軍の者たちが出てくると騎士勇者の側に知った顔があったらしい。
「んー、まさか裏切者ってのがお前だったとはな。生きていたか……ベルゲルミル」
「ん? 誰だ? フルフェイスアーメットをかぶってそんなこと言われてもな。まず面体をはずして面ぁ見せろや」
「いや、やめとこう。思い出話をしたところで儂らこれから殺し合うんだ。いつものように粛々と殺すとするよ」
剣と剣の打ち合う音、爆発音、そして断末魔の叫びが飛び交う戦場。
いつものように戦い、そしていつものように死ぬ者も出る。昨日も今日も同じように、名も知らぬ兵が死んでゆき、減った分を補充するだけという戦いを繰り返す。
戦闘で命を落とした犠牲者の数は帝国軍のほうが圧倒的に多いけれど、100万の兵を誇る帝国軍にしてみれば想定内の被害だった。たった1人の戦士が死ぬことで大きな痛手となるノーデンリヒトとは状況が大きく違う。




