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09-23 失われた村へ

「ねえあなた? こちらの方も紹介してくださいな。」

「あ、ああ、こっちがアッシュで、こっちがルシーダ。んー、友達ってトコかな。んで、そっちのエルフはえーっと、息子サナトスよめあねむすめってところかな?」


「レダの縁者なのね」

「知ってんのか?」


「私は私なりに助けようと思ったけど、オバケじゃ力が及ばなくてさ。今はみんな北の地に行ってしまったみたい」

「サナトスを? ……あ、ありがとうございます」


「ねえロザリン、サナトスは私たちの子。お礼を言われる筋合いはないわ」

「あんなグチョグチョになってまで助けようとするなんて狂ってるわ」

「あはは、ジュノーにイケズ言われるのもなんだかね、愛おしいわね。戻れたんだって実感が沸いてきたわ……ジュノー、おいで。ほら、抱きしめてあげるから」


 ……すたすたとゾフィーに駆け寄り、おもむろにその豊満な胸に飛び込むジュノー。傍目も気にせず抱き合って再会を喜びあう。

 世界一強くて、底意地の悪さは宇宙一だと思っていた、あのジュノーが、女性の胸に顔をうずめ、しくしくと泣いているのを見た者たちはみな一様に複雑な気持ちだ。


「よく頑張ったねジュノー。私の留守中この人を支えてくれてありがとね」

 ゾフィーが厚手のハンカチを出してジュノーに手渡す。


「この人、ちょっと見てないと車に轢かれるしさ、一人にすると高確率で爆発するしさ、この前なんて私の知らないところに転生したと思ったらあっさりと殺されてくるしさ……」


 ジュノーは受け取ったハンカチで涙を拭きながら愚痴を言い始めた。

 その言葉は半周回って背中からグサグサ刺さる


「いや、面目ない」

「記憶がなかったのだから仕方ないわ。でも、ロザリンやパシテーをよく転生させたわね。そっちのほうが驚いたわ。一体どうやったの? 世界樹に祈りでも捧げた?」


「キュベレーに助けてもらったんだ」

「ええっ? キュベレーも転生してるの?」


「いや、分からないな」


「そっか……。じゃあ私の愛しい人を殺してくれたのは、どこのどなたかな?」

 誰に殺されたかと聞かれてもなぁ『うわぁぁんゾフィー! 負けて殺されたよー、カタキとってよー』って泣き付いてるみたいでヤだな。


「こ、殺されてねーし」

 

「クロノスよ。3人揃ってクロノスに殺されてきたの」

 あっさりジュノーにバラされた。


「面目ない」

「あー、はいはい、イシターの夫だった若造ね。なに? あいつも転生しているの? この時代に」


「プロスペロー・ベルセリウス。俺の従兄だったんだぜ? 笑えるよな」

「ペロペロ? あっ、……そいつたぶんいまもサナトスたちと一緒にいるわ。笑い事じゃないわよ。すぐに向かう?」

「いや、まずはこの子の村へ。フェアルの村はエルフの隠れ里、ほら、西の転移門。エルダーのあそこ」


「わかった。西の転移門ね。みんな集まって。もっと近くに」


―― パチン!

 ゾフィーは魔法を発動させるときにパチンと指を鳴らす。

 そういう動作が必要なわけじゃなく、ただ周りにも分かりやすいからなんだ。もちろん戦闘中は音もなくパッと消えてパッと現れ、パッと真っ二つにして消えるんだけど。


 半ば廃墟と化した教会に乾いた音が鳴り響くと世界はグニャリと歪み、景色が変わった。

 そこは鬱蒼とした森。涼しい乾燥した空気から一気に湿度を多分に含んだ空気と入れ替わる。


「お、前よりも少しマシかあ」


 以前のようにお供え物はなかったがアスラの神殿は大切に保存されているようだ。

 雑草も抜かれているし、ここまで上がってくる参道もそれほどには荒れてない。


「え? ……ここは……」


 ミツキは懐かしい森の香りがいっぱいに詰まった空気を肺いっぱいに吸い込んでもまだ信じられないといった表情で呆然とする。まさかフェアルに戻ってこられるなんて思ってなかったのだから。


 フェアルの村で言い伝えられる神々の道と、アスラの神殿にまつわるお話。


 ここは神にしか通ることを許されない道。

 母がレダたちと一緒にフェアルの村に来た時、通って来たという。


 ミツキは嘘だと思ってた。ここは山頂の行き止まり。ここから世界に続く道なんてないのだと、そう思っていた。


『アリエル兄ちゃんは私の神さまなんだ』


 アスラと一緒に森を駆け回る、お転婆の鼻つまみ者だったレダが言った言葉。


「……ア……、アリエル兄ちゃん?」


「あはは、兄ちゃんかぁ、レダから聞いたんだね」

「…………」

 言葉も出ないミツキ。まさか自分を選んでくれた帝国の勇者さまが、レダのアリエル兄ちゃんだなんて。


「みんな死んでしまったって言うからさ、お酒でも供えに来たんだけど……」


 村のほう、500ほどの気配がある。村人かな? とも思ったが、そうでもないらしい。

「ロザリンド、パシテー、念のため剣を。ジュノー、ちょっと俺の髪を金髪にしてくれ。頼む」


「え? なんで金髪にする必要があるの? 訳わかんない」

「ダリルのバカどもにアリエル・ベルセリウスが帰ってきたことを知らせてやらなきゃいけないだろ? タイセー、アッシュお前らは手を出すなよ。何があっても」


「はい。金髪にしてみたけど、それでいいの?」


 自分じゃわからん。

「ロザリンド? パシテー? どうだ? ……なんだよタイセー?」


「いや、お前の金髪が似合わな過ぎて引いてんだ」

「なんか取ってつけたような金髪ですっごい違和感よね。テレビドラマとかで劇団の子が不良の役するのに無理やり悪ぶってるみたい」

「私も好きじゃないの」


「男は金髪よりリーゼントだぞ嵯峨野さがの。チャラチャラしたのは好きじゃねえ」


 大不評を買ってしまった。


「だから今だけだって」


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