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09-11 袂を分かつ者たち

「あーあー、やらかしちゃった……」

「兄さまかっこいいの」


 半ば呆れ顔でニコニコするロザリンドと、久しぶりに聞いた爆音に心を震わせるパシテー。

 ずっと不器用に[爆裂]を操るアリエルの傍で背中を預けて戦ってきた2人だからこそ、失笑を禁じ得ない。


 魔導教練を受け持つタマキは想像もしていなかった。この子らはつい先日。まだ半月だ。この世界に召喚されてきたばかりなのにもう爆破魔法を使って見せた。剣ならもともと日本で剣をたしなんでいた者もいて、最初の一次選抜から勇者の水準に達するほどの実力者が居るのもおかしくはない。だが、これまで魔導に触れ合ったことがない分、魔導師の教練は年間を通してカリキュラムが組まれている。召喚翌日から14日、一次選抜が始まって、まだたった8日だというのに、これほどの威力を見せる爆破魔法が使えた者など未だかつて一人もいなかった。

 こんな早期に爆破魔法を成功させるだなんて、これまで何十人の勇者を輩出してきた帝国陸戦隊第三軍としても予想だにしていなかった。だから魔導師志望の者も剣士志望の者たちと混ぜて訓練させていたのだ。


 深月アリエルにしてみると抑えに抑えた起動式爆破魔法。

 周りにいる者は全員が勇者候補だ。多少の飛礫ひれきが飛んだところで周りの者が被害を受けるなんて考えていなかった。まさか中等部の実技じゃあるまいし。


 だが、いくら勇者候補が集まっているとはいえ、まだまだ未熟者の集団だった。

 常時防御魔法を展開しながら訓練している者など、全体の3割も居ない……。


「ちょ、ジュノー頼む」

「死ぬような怪我人も居ないようだから私の出る幕はないわ。救護の人に任せてれば大丈夫」

 


 甲高い笛の音がけたたましく響き渡る。救護班を呼ぶホイッスルだ。

 待機していた救護班が慌ただしく行き来する。この偶発的な魔法事故でケガをしたのは重軽傷者合わせて7名にのぼった。



----


 その日の夕食で全員が集まっているところ、深月アリエルは謝罪の機会を得た。

 いや、クラスメイトの視線が『謝れ』と無言の強制力となって強張った空気になっていたのだ。

 んなもん12歳のころのサオでも防御魔法を張って最低限、自分の身ぐらい守れていた。それすらできない素人集団のど真ん中で事もあろうに爆破魔法を使ったのだ。これは深月アリエルが悪い。


「みんな。すまん」

 深月アリエルが少し頭を下げて謝ると逢坂おうさか先生がフォローに入ってくれた。


「いえ、嵯峨野さがのくんは悪くない。あんな魔法初めてだったんだものね、あんなすぐ近くでやらせた魔導教官の責任です。気にしないで」


 ほんと申し訳なさすぎるこの重圧。

 爆破魔法も、自爆も、暴発も、これまで何度もやってるんですなんて口が裂けても言えない……。



「ちげえ! ちげえよ!」


 声を上げたのは今日も担架で運ばれ、腕の骨を2か所骨折した韮崎アッシュだった。

 こいつ救護室のヌシになりたいのか、それとも救護室に可愛い女の子でもいて会いに行くためわざとケガしてるんじゃないかってほど毎日毎日大ケガに見舞われるような無謀な鍛錬を続けている。


「ケガをした奴はみんな一番最初に習った防御の魔法をかけてなかったからだ。訓練中もずっとかけ続けていろと言われてたのに、防御魔法は疲れるのが早くて思うように動けないから防御をかけてなかったんだ。嵯峨野さがのに責任はねえ!」


「へえ……どういう風の吹きまわしなんだろうね? タイセー、あいつのこと知ってるのよね?」

「俺たちのほかにも自覚のあるやつがひとりいたって事だろ?」



「ちょっと待てよアッシュ、不用意な魔法の行使でケガ人が出たんだ。今後はこのようなことのないように、魔法組にはちゃんと心得てもらわないと、俺たちが訓練してる横で爆発されたんじゃたまったもんじゃない」


 美月ロザリンドとタイセーの次に勇者確実と言われている中山ソランが苦言を呈した。

 女優等生の委員長キャラは浅井ルシーダ、男優等生の生徒会長キャラがこの中山ソランだ。


 ファスナー式の白い学ランでも着てりゃサマになるとでも言えばいいだろうか。そんなありがちなキャラなんだけど、このクラスに居る奴は全員がアホタイセーやヤンキーの韮崎アッシュでも入学できる程度の偏差値しかないという事を忘れちゃいけない。(ジュノーとパシテーは除く)


「だから言ってんじゃねえか、お前は防御魔法をちゃんとかけてたからケガしてなかった。ケガをした7人は揃いも揃って防御魔法を切ってた。それだけだろ? 現に、爆発の一番近くに居た嵯峨野さがのを見てみろ、傷一つ負ってねえ!……俺ぁアホだからよ、ここに来てもう救護室12回目だ。なあ、お前らも分かってんだろ? 俺たちの前にここに来た先輩たちは、大半が戦死してんじゃねえか。なんでその事実から目を背けようとするんだ?」


 中山ソランは言い返すことができなかった。

 逢坂おうさか先生にしても同じ、召喚されてきた者たちの大半は戦死しているという事実はみんなが知っていることだ。勇者召喚で死んだ8人以外にも、このクラスメイトの中から今後死者が出るということを暗示するような話は不安を煽るだけだからと、その話題に触れないようにしているだけだ。


「今んトコ勇者確定なのは烏丸タイセー常盤ときわ嵯峨野さがのだけか? 中山ソランお前も勇者イケそうだよな? じゃあ烏丸タイセー常盤ときわと手合わせしてみろ。横から見てるだけで分かる。こいつら揃いも揃ってバケモンだよ。まったく勝てる気がしねえ。でもな、そんな力を持った勇者でも大半は戦死するんだぜ? お前らどう思うよ?……何が不用意な魔法の行使だ? なにが魔法組には心得てもらわなきゃだ。甘えたこと言ってんじゃねえ! 俺は強くなりてえ……強くなりてえよ」


 夕食の場がシンと静まり返る。


 ただ強くなりたいという韮崎アッシュの激しい熱情に向き合えるものなんて誰も居ない。

 まだ自分たちの置かれた状況を理解している者なんて、深月アリエルたち5人しかいないのだから。


「なあニラサワ」

「いい加減に名前を覚えろ、俺は韮崎にらさきだ。ここじゃあアッシュという名をもらった」

 焦燥感を露わにする韮崎アッシュに声を掛けたのは深月アリエルだった。


「明日からお前もこっちで鍛錬すればいい。つかの握り方からタイセーに教えてもらえ」

「お? 深月みつきがそんなこと言うなんて珍しいな。任せとけ、鍛えてやっからよ」

 

 タイセーは熱い奴だ。魂が熱い。

 たとえば額に漢字で文字を書くとしたら『熱血』でも『愛』でも『友情』でもだいたい似合うという殊勝なキャラクターだ。もしこの物語が熱血ラグビー学園ものだったら主人公張っていける。


 ジュノーとパシテーは韮崎アッシュの印象が最悪なのだろう、目も合わせようとはしなかったが、食事を終えたロザリンドは終始ニヤニヤしながら木刀の手入れを続けていた。それはもう気持ちの悪いほどに。



 気になったのは、中山ソランの眼差しだった。

 いま韮崎アッシュに遠まわしではあるけれど、実力を隠してダラダラと流してる美月ロザリンドやタイセーと比較して劣っていると指摘されたばかり。何か言い返したい事もあるのだろう、ギリッと歯噛みする音が聞こえてきそうなほど険しい表情でこちらを睨みつけている。


「何か用か?」

「いや、聞き捨てならないことを言われたんでな」


「何の話だよ? 俺たちは何も言ってないぞ?」

「いや、俺はお前たちに負けてないって言いたかった。それだけだ」


 中山ソランは甘く見られることが許せないタイプの人間なのだろう。他人より劣っているとは考えたくない類の奴だ。韮崎アッシュの言葉をそのまま受け取って、その怒りの矛先をこちらに向けようとしている。


 いや、この男もわずか2週間ぐらいで自分の置かれた状況を理解し、生き方を決めたのだ。こんな男がガチガチの帝国軍人になる。深月アリエルは帝国の勇者召喚の成功例を垣間見た気がした。


 近い将来、中山ソランが敵になるんだなと考えると少し複雑な気持ちになった。

 沈黙が流れて、睨み合う数舜。

 中山ソランは軽く膝を曲げて半身に構えている。


 そう、いつパンチが飛んできても対応できるよう構えながら挑発していて、しっかり強化魔法も防御魔法も展開済み。ケンカになることが分かっていて予め対策してから挑発しているということだ。

 つまり、状況的にケンカを売られたという事だ。


 まるでギルド酒場で絡んでくるゴロツキだ。


「戻ろう、深月みつき

 美月ロザリンド深月アリエルの肩に腕を回して、中山ソランから引き離した。

 こっちはやる気なんて少しもなかったけど、傍から見ると一触即発になっていたらしい。


 俺たちが食堂を出ると、中山ソランが何か言ったのだろう、食堂からどっと笑い声が起こった。

 きっと女に助けてもらったとでも言って笑い者にしたのだろう。

 

「食堂を吹っ飛ばされたら明日の朝ごはんが出なくなるから困るよ」

「中山にベーコン焼かせればいいじゃないか」


「争い事は可能な限り避ける。……でしょ? 目立つこともやめましょう。あなたは勇者に選ばれることが決定してるんだから、もう強く見せる必要もないでしょ」


「ああ、そうだな」



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