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08-36 【日本】 タイセーの決意


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 マローニにセイクリッドたち勇者軍が到着し、激しい戦闘を開始したその日、時空を超えた日本では深月アリエルたちも中学2年生の夏休みに入っている。


 烏丸大成タイセーは3年で一番強いやつを拳で簡単にのしてしまって以来、2年にして番長という地位に上り詰め、力によって中学の支配者となった。それなりに悪い友達に囲まれることもあって、幼馴染の深月アリエル美月ロザリンドとは疎遠になるかと思われたが……、深月アリエルたちがちょくちょくや電車に乗ってどこか山のほうに行ってるらしいと聞いて、何をしているか気になるらしく、デートとかエッチなことをしてるわけじゃないことを重ね重ね何度も確認したうえで、半ば無理やり付いてきたのだ。


 ちなみにタイセーに深月アリエルの情報を流したのは妹の真沙希まさきだった。

 どうやら妹に多大な心配をかけているらしい。


 ジュノーの話では真沙希まさきもこっちの事情をなんとなく知っているらしい。わざわざ口に出して言わないが、心配をかけていることは確かだ。


 もしかするとずっとスヴェアベルムに帰る方法ばかり考えていたから、それが伝わったのかもしれない。


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 深月アリエルたち一行は電車とバスを乗り継いで、周囲に人の気配のない山奥の高原へとやってきた。

 ゲスト参加したタイセーはというと、リュックサックに飲み物と着替えとお弁当を持って来いよと言われたのに、深月アリエルも、常盤ときわひいらぎ嵐山パシテーも、4人とも誰一人としてそんなもの持ってない。むしろ手ぶらでハイキングに来たようなものだ。


 どんどん谷に奥まった所へ向かう。ここは山に囲まれた谷あいの奥まった広場のような場所。

 深月アリエルは少し広くなった場所に陣取って、

「ここらでいいだろ。あたりに人の気配ないから大丈夫」

 といった。


 タイセーは何が大丈夫なのか? と思ったが、常盤ときわひいらぎが柔軟体操を始めると何が始まるのかと思ってぼーっとしていたタイセーの目の前で繰り広げられる神速の立ち合い。


 本気で木刀を振るう常盤ときわと、涼しい顔で躱して的確に反撃するひいらぎ


「ほら、何度言ったら分かるの? 防御が疎かになってる。困ったら薙ぎにくる癖も直しなさいって。簡単に付け込まれるわよ。ほら、こんな風に!」


「ぐあっ……」


 タイセーは流れる脂汗を拭いながら思った。

 あの常盤ときわを手玉に取るなんて簡単な訳がないのだけど……。


「なあ深月みつき、俺さ……常盤ときわから一本取ったことないんだぜ? その常盤ときわが木刀持って、なんで素手のひいらぎにボコられんのよ? ワケわかんねーわ」


「んー、俺たちはまだ弱いってことさ。もっともっと強くならないと」

「異世界で戦争してたって、あの話か?」


「そうだよ。……おまえも来るんだろ?」

「ああ、行くぜ!」


 何度挑んでも届かなかった美月ロザリンドが簡単に負けるところを見て、なぜかやる気マンマンのタイセー。いまの美月ロザリンドの剣筋すら見えてなかったくせに、どうすればそんなやる気が出てくるのか教えてほしいぐらいだ。


「ほい、これ木刀な。パシテー!、タイセーの相手してやってくれ。あまり大けがさせんなよ」

「え? パシテーちゃんが? ちょ? マジで? 防具つけてくれないと俺さ……」



―― バキッ!


  ―― ドゴッ!


「練習にならないの」

「ぐあっはっ……井の中の蛙って、本当に居たんだな……」

 

「ひと事みたいに言ってんじゃないわよアホタイセー。絶望してる暇があったら木刀を振りなさい」

 美月ロザリンドにアホ呼ばわりされるタイセー。


 タイセーも、まさか戦いや武道とはまるで縁がないだろうと思っていた嵐山パシテーにすら手も足も出せず簡単にのされてしまったのだから慰めの言葉もない。とっくに治癒魔法は飛んで骨折も裂傷も治癒済みだが、そのまま大の字に寝転んで空を見上げる。


「ああ、県代表になったぐらいでいい気になってたわ。やべえやべえ、まさか飛ぶとか……ないわー。剣筋が見えないばかりか動きまで見えねえ……おまえらに追いつける気がしねえ」


 折れようとする心を勇気で補強し、よっこらしょと起き上がって木刀を素振りするタイセー。言葉にも剣にも、いつものキレがない。

「なあタイセー、剣に迷いがあるぞ。いつもの思い切りの良さはどうした?」


深月みつきにも分かるようじゃダメだな……」


「なあタイセー、そんな時はさ、起き上がるのをやめて寝っ転がったままでいい。流れる雲を眺めてるだけでもいいんだぜ? 何かに追われるように鍛錬しても身につかないよ。そんな時はいっぱい怠けて、たまに気が向いたら頑張るぐらいが丁度いいんだ」


「へえ……深月みつきがねえ……いいこと言うなあ。目から鱗ってやつかも」

「俺が言ったんじゃねえよタイセー、お前がそう言ったんだ。あっちの話だけどな」


「そうなのか……はは、俺らしいっちゃ俺らしいな」

「そうだな。お前らしいな。ははは」


 タイセーは素振りしていた木刀を地面に置いて、美月ロザリンドジュノーの激しい鍛錬を遠い目で見ながら思いもよらないことを口にした。


「なあ、俺がエルフ? を見たって言ったら、信じるか?」

「いつの話だ?」


「えっと、空を駆ける金色のドラゴンを見たって騒ぎになった日あったろ? あの日だ」

「タイセーがキングギュドラを見たとか騒いでた日か……4年ぐらい前だっけ?」


「ああ、緑にも青にも見える綺麗な瞳でな。外人さんだと思ったよ。髪の色も光の加減で緑なのか青なのかわからないような子だった。海浜公園から砂浜に出る堤防の階段のさ、てっぺんから2段下に立ってて俺と目線が同じだったから、、あの時の身長から計算して170センチ以上の長身だな。耳はこう、こんな感じに尖っていて、小顔で首が長かったな。モデルさんみたいだった。だけど、なんていうかそこには居なかった。ここがもう説明できないんだ。そこに居ないけど、そこに居て、目が合ってしまって、そのコもちょっと驚いた顔をしてたんだ」


 深月アリエルはタイセーの話が下手くそすぎるうえに状況がわからないから何とも言えないけど、身長170ちょいの青や緑の髪っていやあ、ごくありふれたどこにでもいるエルフ族の女だ。


「うーん、他に特徴は?」


「特徴? 髪色と目の色と耳が特徴にならないのかよ……うーん、息をするのを忘れてしまうほど美しいと思ったね。おかしいだろ? その幻影が俺の初恋だ。見たかどうかも怪しいってのに、一目惚れしちまったんだ……。今でもあの階段にあの子が座ってないか何度も見に行くんだけどな。もしかするとそんなコ、最初からいなかったのかもな。お前がエルフの話とかするから夢でも見てたのかもしれねえ」


「んー、エルフってのはだいたいが美しいからなあ。種族的に優位なんだよ」

「こんなファンタジーな話してんのに。おまえ1ミリも疑わねえのな」


「すまんタイセー。お前が見たっていうキングギュドラな。あれ本当は居るんだわ」


 ……。


 ……。


「……えっ? なんて言った?」


「お前が見たっていうキングギュドラな。あれ実はうちのペットなんだ」


「なっ、おまっ、マジかよ、あの時ぜったい見間違いだって言ってたクセによ。お前の友情を疑うわ。ひでえ……」


「すまなかったよ、だけど誰もお前がウソ言ってるとか言わなかったろ? 勘弁してくれ。あの時はそう言うしかなかったんだ」


「キングギュドラだぞ? 男の憧れだぞ? お前それをよくも……」

「じゃあ会わせてやるけど、殺気とか絶対に放つなよ? 殺されるぞ?」


「へ?」


「ハイペリオーン! タイセーに遊んでもらいなさい」


 深月アリエルの影が光ったと思ったら、銀色の巨大なものが飛び出してきて、それはすぐさまタイセーに目を付けた。全長35メートルにまで成長したハイペリオンだ。


「ひっ……ヒャアアァァァァァァァァ!!」



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 それ以来、タイセーは以前にも増して剣を鍛錬し、たまに美月ロザリンドに挑んではボコボコにされるまでになった。独自の鍛錬を積み重ね、美月ロザリンドに軽くいなされるではなく、ボコボコにされて倒されるまでタイセーがしつこく食い下がるぐらいには強くなったということだ。


 ただタイセーはハイペリオンにじゃれつかれたことがトラウマになってしまったらしく、以来、深月アリエルたちの鍛錬についてくるなんてことは言い出さなかった。


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