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『過去編』 しかめっ面のジュノー(9)+エピローグ

長くなりましたが、ジュノーとアスティの過去編はここまでです。

また機会があればこの続きを書いてみたいなと。

明日からはまたスヴェアベルムと日本に話の舞台が戻りますので、よろしくお願いします。




 傍らで眠るベルフェゴールにチラッと視線を落とすジュノー。


 てっきり寝てるとばかり思っていたベルフェゴールと目が合った。

 ……ちょっと気まずい変な空気を感じる。


「起きてるならそう言ってよ……」

「んー、声かけづらいだろ、さすがに。なんか泣いてたみたいだしさ」


 ベルフェゴールがリリスの花冠カローラをじっと見ている……。

「あ、これは……えっと……」

「ん、ゾフィー何て言ってた?」


「なに? え? それを私に言わせる気? ……無理。無理だから!」

「んー、実は昨夜のことなんだが、ゾフィーに怒られてな……」


「へえ、何をして怒られたのか聞かせてもらっていいかしら?」

「最近俺は浮かれてるって。ちゃんと自分の気持ちを言わないと、ジュノーが可哀想だってさ」


「え? 私は可哀想じゃないわよ。今とっても幸せなの」


「俺はジュノーが欲しい。もう帰したくない。それをゾフィーとキュベレーに言ったんだ」

「は、はい、ありがとうございます。こんな傷だらけでよければ差し上げます……ので……」


「だー、悪かったよ。その傷の責任も取らせてくれ」

「最初から恨みにも思ってないですよ」


「よかった。じゃあ、これからずっと、ずっとだぞ? 俺の傍に居ろよ。もっと近くだ、ほらこっち」

「う、うん。えっと……え――っ」


 ジュノーはそのままベルフェゴールに抱きしめられて、真っ赤なリリスの咲き誇る丘の上で、もうどうなったのかわかんなくなって。夕焼け空の真っ赤な中、ゾフィーからもらった花冠カローラをかぶったまま城に帰ったのは覚えてるけど、いろいろ記憶がない。


 若い女が家出の果てに、いい男みつけてくっついたなんて、どこにだってある雑多な出来事だった。

 親からは祝福されず、国のみんなは心配していることだろう。でもジュノーは栄光あるどん底の未来を捨て、愛あふれるアマルテアでの生活を選び、そして大きな幸せの中で暮らしている。



 ここはベルフェゴールの特別な場所、城にある塔のてっぺん。

 もとは風車だったそうな。


「もう、ジュノーったら少しはベルから離れなさいよ、歩くのにも邪魔になってるじゃない」

「そりゃゾフィーみたくデカかったら邪魔になるけど……私は控えめだからいいの」

「なっ、ジュノー、三番目のくせに生意気!」


 ベルフェゴールはここで静かに風を浴びつつ蜂蜜酒を片手に、海に落ち行く夕陽を眺めるのが好きだったのだけど……。毎日毎日、飽きもせずかしましいのにも慣れた様子。


「なによゾフィー、ベルに私を取られて寂しいからってヤキモチはよくないわ」

「ちょっと、誤解されるようなこと言わないで」


 すぐゾフィーの傍にいって腕にぶらさがるジュノーと、すかさずヘッドロックでギリギリと締め上げるゾフィーのプロレスが始まった。



「ダメよゾフィー。ジュノーは大切な身体だから」


 ゾフィーのヘッドロックが決まって外せなくなったとき、キュベレーが制止した。唐突に。もう、これ以上ないほど唐突なその言葉の意味をすぐには理解できず、しばらく時間が止まったのではと錯覚するほど。


 今まであんなに締め上げていた腕をパッと離し両手を上げて変なポーズになってるゾフィーと、その場にぺたんと座り込んで呆然とするジュノー。


「えと、キュベレー? ……マジで?」

「そうよベルフェゴール、おめでとう。あなたは父親になるの」


 真っ先にベルが抱きしめてくれるかと思ったのに、後ろからゾフィーが抱きしめてくれるほうが早かったのはちょっと残念。でも、まさか自分が母親になるだなんて、まるで実感がない。


 キュベレーが言うんだから間違いないのだろうけど。


 ベルはなんだか一人で舞い上がって「夕陽に向かって乾杯!」なんて訳の分からないことやってるから今夜また深酒するんじゃないかってことのほうが心配。こっちはゾフィーの怪力に捕まって身動き取れないし、無理に振りほどこうとするのも、もうやっちゃダメと言われた。


 キョトンとするジュノー。

「なんだか申し訳ないほど冷静なんですが?」

「不安もないの?」

「うーん、実感がないかな」

「お腹の赤ちゃんが育ってくるとイヤでも実感するわよ」


 ふーん。そんなものなのかなと思った。

 物心ついたときにはもう母親が居なかったジュノーにはよく分からなかったけれど。

 ゾフィーがいて、キュベレーがいて、そして愛するベルフェゴールもそばに居てくれる。



「わたし、こんなにも幸せなんだ」






---- しかめっ面のジュノー 完結 ----




 ~ エピローグ ~


 ジュノーがソスピタを飛び出してから2年。

 アマルテアに真っ赤な髪色を持つ女の子が生まれた。


 生まれる前から女の子であることはキュベレーから知らされていて分かっていたはずなのに、名前なんてのは顔を見てから決めるもんだとか言って何も考えてないフリをしていたベルフェゴール。初めて抱いた娘の顔を見て『ジェラルディン』と名付けた。

 生まれる少し前からこっそりと命名辞典なんてのを読んでいたのはみんな知ってるのに。


 ジェラルディン姫の誕生に王国は祝賀ムード一色。各地でお祭りが催されるということで、翌年からアマルテアではジェラルディンの誕生日である4月4日は国民の祝日となり、ジェラルディンは4人の親からたっぷりの愛情を受けて育った。


 愛娘を腕に抱くジュノー。


 未来に絶望し、全てを捨ててここに来たジュノーが掴んだ人並みの幸せは、一日、一日と日を重ねるごとに大きく育まれた。



 ジュノーは掛け替えのない希望となって腕の中で眠る愛娘を見つめながら、心の底から願った。



「この子の未来が幸せでありますように」





 ~ 四世界で最初の魔導師 アスティのその後 ~



「ちょっとちょっとジュノーさま、私のこと忘れてらっしゃるんじゃ……」

「私がアスティのこと忘れるわけないじゃない(大汗)、ちゃんとアスティのことも覚えてるわ」

「え? なんかすごく適当に流そうとしてますよね?」


 アスティはアマルテアに来てからも市民たちを集めて簡単な生活魔法の講義をしていたのだけれど、その授業に参加していたという縁で、ここアマルテア首都サマセットを治める市長の長男(年下で将来有望な貴族。しかもイケメンナイスガイ)からグイグイと押せ押せなアタックを受け、即メロメロ→いとも簡単に沈没。約1年の交際期間を経て、来月には嫁にもらわれていくそうだ。


 その家というのがアマルテア王家から分家された王族の分家筋という、ほんとどこかで聞いたような境遇の家庭なのだとか。それはそれは気苦労の絶えない生活が待っているはずなのだけど、当の本人は大層喜んでいる。


「もともと町娘の私には、相手の身分なんてどうだっていいんですけど、ただ、故郷くにに残してきた家族に報告できないことが少し心苦しいぐらいでしょうか……っと、どうされました? ジュノーさま?」


 ソスピタでは見せたことがないほどいい表情で遠くを見つめるアスティと、その顔を見て呆気にとられるジュノー。


「あれ? おかしいな。アスティが……綺麗な女性に見えるわ……」

「な、なにを今更、ジュノーさま、目をゴシゴシこすらないでくださいよ……私もともとこれぐらいの美貌でしたし」


 今日はオリジナル魔法を試すのにジュノーの元を訪れたアスティ。アマルテアの国民には生活魔法しか教えていないが、魔導師としての鍛錬と研究は毎日欠かさない。一流は一流の中で育つと言われるが、アスティのレベルはすでに下級神のそれを大きく超えている。

 ジュノーとともにソスピタで過ごしていたなら大変な栄誉を受けただろうほどに。


 今から試すのは、いつかあの丘で、私たち4人が為すすべもなく倒された魔法に対する防御。

 攻撃するためではなく、あまりにも不条理な力から身を守るために開発した魔法の4度目のテスト。これまでの3度は失敗して炎上してしまったけれど、今回は自信があるというから楽しみだ。


「耐熱障壁、準備完了です。燃えたらお願いしますね、すぐですよ、死にそうになる前にすぐに助けてくださいね……」



「アスティ、幸せそうね」

「ジュノーさまほどじゃないですよー。私も可愛い娘が欲しいです」


「えっと、俺がアスティに向かって[ファイアボール]投げればいいのか?」

「べべ……ベルフェゴールさま、ちょ、私ジュノーさまにお願いしたはずなんですが……」

「やかましい、ほらいくぞ!」



―― ボワッ! メラメラメラ……。


「アスティ! アスティー!」

「おい、大丈夫か、水だほら水を!」


 アスティも、なんだかんだ言いながらここアマルテアで充実した生活を送っている。


「アスティ、本当に幸せそう」

「ジュノーさまは私が燃えると本当に嬉しそうになさるんですよね……いつも」


 水をかけられて濡れねずみのようになるのが日課のようになっているのだから用意も周到。

 あらかじめ燃えることが前提だし、ずぶ濡れになることも予定されたイベントのようなもの。

 ふかふかのタオルで身体を拭いてあと用意してあった服に着替える。

 もちろんベルがアスティの裸を見るのは許さないんだけど。



 魔法はアスティの人生を変えた。


 魔導の研究というものにこの身をささげて、人々の暮らしに貢献したいとそう思ってる。

 のちに業火の魔女として歴史にその悪名を刻まれることになるアスティ・ウィンズリィ。風と共に生きる草のように、このザナドゥの大地に根を張って暮らしていけたらなと、そう願った。



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