01-17 微調整は苦手なんだ・・
2021 0720 手直し
その日の夕食は家族に加え、グレアノット先生も一緒に食べることになった。
だいたい先生は自分が熱心に続けている作業を中断して食事を挟むということを嫌う。まず魔導の研究であったり仕事だったりというものを最優先にして、それがひと段落したところで食事にすると効率が良いらしい。ちょっと頭のネジの締まり加減が常人とは違う。これこそ魔導師という人種なのだろうと思っていたのだが、今日『ストレージ』の魔法を試験していたアリエルにも、その気持ちは痛いほどわかった。
「アリエルくん、実はおぬしが優秀すぎるから講義内容と1年間のプランを大幅に変更する必要があったんじゃがの、身体はゆっくり休めたかの? 明日からはちょっと厳しい実習になると思うが……」
「はい、午後からはずっと庭の木の根元に腰を下ろして、いろいろと考えてました」
「ほう、そうか。当然なにか成果はあったんじゃろうな」
「はい、魔法についてちょっとだけ理解が深まったと思っています」
「ふむ、それでええ。じゃが今日は疲れた目をしておるの、マナを使いすぎのようじゃ、ゆっくりするとええ」
アリエルはこのとき、グレアノット先生の目が笑ってなかったことに気付いた。どうやら午後から休んで何か自習しておけと言われたのにマナを使っていたのがバレてしまったということか。
「はい、今日は疲れました。また明日、ご指導よろしくお願いします」
夕食はわりと豪華なものが振舞われた。ノーデンリヒト特産のガルグというイノシシのお化けみたいな猛獣の肉で、旬は脂の乗る冬とされているが、夏のガルグも赤みが柔らかくとても美味だ。日本で食べたことのある猪肉のように獣独特のにおいもない。
家族はグレアノット先生を交え、トリトンと立ち会った時の話で盛り上がり、談笑した。
その前に20メートル以上の高さに飛び上がって、着地に失敗したところを覗き見られていたこともあって、とても和やかなひと時だった。
たしかに先生の言ったとおりだ、今日はマナを使いすぎたようで、食事を終えてからの雑談にまでついてゆけず、アリエルは急激に眠くなって自室に戻った。
太陽が沈んでも完全に暗くならない白夜だからこそ、アリエルは夜でも窓に暗幕をかけて眠る。
日本までどれだけ距離があるか分からないけれど、今日もまた少しだけその距離を縮めたような気がする。アリエルは瞼の重みにあらがえず、ベッドに倒れ込むように眠りに落ちた。
アリエルが早めに席を立ち、急激な睡魔に襲われたのをみたグレアノットは、
「今日はマナを使いすぎたようじゃからの、明日は起きてくるまで寝かせてやってくれんかの」
といって、ポーシャとクレシダに釘を刺した。
その後、グレアノットはトリトンとビアンカの質問責めにあっていた。
アリエルの才能がいかほどのものなのか、剣士としてはどれほどの才能があるのか、または魔導師として指導する方がいいのかなど、両親の興味は尽きなかった。
トリトンとしては戦争に巻き込まれるようなことにならなければいいとだけ願ったが、ビアンカは少し欲を出して、名のある魔導師になってほしいと夢を語った。
「ご子息はまごうことなき天才でありますからの、歴史に名を遺す稀代の大魔導師になるやもしれません」
グレアノットはこう締めくくった。
トリトンは少し辟易し、そこまで欲張らなくてもいいと言ったが、ビアンカは心から喜んだ。
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アリエルは20メートルの高さから落下した時に受けた打撲ダメージのせいか、それとも、先生に休んどけと言われたにもかかわらず転移魔法の実験をしていたせいなのか、軽いマナ欠乏になっていることをグレアノットに見抜かれ、朝になっても目が覚めなかった。
結局、アリエルが永い眠りから目を覚ましたのはお昼前。14、5時間ほど眠った計算になる。
その間夢を見なかったようで、何も覚えがないから、きっとぐっすり、深く眠ってしまったのだろう。毎朝、目が覚めたら剣を素振りする日課をサボってしまったようだ。窓に引かれた暗幕を開くと、太陽はそこそこ高い位置にまで高く昇っていたからだ。
『セノーテ』の魔法で顔を洗う身だしなみセットがベッドサイドに置かれてあった。
クレシダが置いてくれたのだろう。きっと朝寝坊していると起こしてもらえるとおもったのだが。
身体の気だるさが取れず、トボトボと会食場へ向かったアリエルの朝食は、昼食を兼ねた。
昨夜の夕食をたべて、寝て、起きたらまた食事という食っちゃ寝生活なのだが、これが実に身体がダルい。昨日からぜんぜん疲れが取れてないようだ。
そのことをグレアノット先生に言うと、今日も激しい動きをしてはダメだと言われた。
その代わり午後からは先生の厳しい指導のもと、魔法のコントロール、マナ放出量の微妙な、本当に微調整レベルのコントロールを学ぶことになった。
魔法の微調整とコントロールを学ぶという名目で、訓練場の空き地の整地をさせられるだけという、非常に地味な魔法訓練を続けることになった。
グレアノットが交渉の末勝ち取った屋敷の西側の土地をすべて整地するという作業だった。
その作業も簡単なものではない、地面を削ったり埋めたりしながら、ひたすら平らに、水平に、総ての作業を魔法で行う。マナ枯渇の心配はなかったけれど、とにかく微調整というのは、針の穴に糸を通すような作業なので、うまくいかないとけっこうイライラするものだ。
イライラすると雑になってしまう。雑になった瞬間、先生に見抜かれてその部分、きっちりやり直しになる。
土を柔らかくしたり、硬くしたりする土魔法も覚えた。ちなみにこの魔法は中級の土魔法だ。
土を硬く凝固させると石になるのだから、柔らかくしたら泥になるのかと思いきや、泥にするには水と混ぜないといけないので泥にはならず、細かく粉砕した軽い砂になる。砂浜の砂をもっと細やかな粉末レベルにまで細かく、軽くするような魔法だ。この魔法を使えるようになると、岩を細かい砂に粉砕したあと、自由に整形して建築資材であるレンガやブロックを自作できるようになるので、ここまでできるだけで食いっぱぐれることはないらしい。別に冒険者やらなくても町の資材屋に作ったブロックやレンガを売ればその日の宿賃ぐらいはどうにでもなるという。これもアリエルにとって朗報だった。
実はグレアノット先生というのは、高位の土魔法、建築魔法、攻城魔法で学位をとっていて、シェダール王国でソンフィールド・グレアノットというと、ちょっとした土魔法の権威なのだ。
だからというわけじゃないが、とりわけ土魔法に関しては細かいところに厳しい。先生が言うには、今までがトントン拍子すぎたのだと。本来、魔導の探求とは数日でなるものではないのだ。本来アリエルには突然荒野に裸で放り出されても生きてゆけるレベルのサバイバル技術を身に着けてほしくてグレアノット先生が雇われたのだが、どうやらそんな低レベルの話ではないことを両親に説明し、もうちょっと欲張って、魔導師としての指導を行いたいと直談判したんだそうだ。
これもアリエルにとって望むところだった。
「そうじゃの、ではアリエルくん、今日からは作業中だけでよいからの、ずーっと強化魔法のうち防御魔法だけ常時展開しておくように」
「はい? 防御魔法を常時展開ですか?」
「そうじゃ、ケガ防止という意味も含めてじゃが」
グレアノットはアリエルに『マナ総量』というものについて滾々と説明することにした。
防御魔法常時展開なんて魔導学院で教鞭をとるバリバリの魔導師ですらやったことがないことを前置きして、それでもアリエルにはそれを強いるといった。
昨日、アリエルが木陰に腰掛けて何をしていたか、居室の窓からしっかり覗き見していて、およそ自力で転移魔法の構築に近づいていることも看破していたのだ。
「もうちょっと不明点が明らかになったら先生に報告しようと思っていたのですが、すでにバレてましたか……」
「教員というのは、教え子のことを草葉の陰からも見守るものじゃての」
神子であるアリエルはこの世界ではない、異世界の進んだ知識を持っていて魔導を志すのに非常に有利ではあるし、アリエルの発想力や自己再生能力も素晴らしいものがある。だがしかし、この世界、スヴェアベルム人として生まれた7歳の肉体に貯めておけるマナの量は、この世界の基準で、多めではあるが、規格外というほどではないことに気付いたという。
つまり、アリエルは魔法の才能やセンスが規格外に高いレベルを有しているのに、その魔法を行使する身体がちょっと優秀なひと程度しかない。だがマナ総量というのは若いころから鍛えたら鍛えただけ大きく伸びる能力でもあるということ。
アリエルは必ずや大魔導師として歴史に名を遺すほどの力を得るようになる。
その時、かならずマナ総量が壁になり、魔導の構築に必要なマナ量が得られなくなることを危惧している。
アリエルはキツい試練であることも知りながら、それでも「望むところですよ先生」といって無詠唱で強化魔法のうち、防御魔法だけを展開すると、修練場予定地の整地作業に入った。
初日、アリエルは昨日の疲れもあって3時間で倒れたが、なんとか自力でシャワーを浴び、食事だけ胃に放り込むよう掻っ込んで、泥に沈むように眠った。
翌日は朝食に間に合ったが、素振りまではできず、それでも同じく疲れを残していたせいか4時間程度でダウン、そのまた翌日も、そのまた翌日も……。
アリエルは起動式魔導を使わない。無詠唱魔導は強度を自在にコントロールできるというメリットがある。だがその自在にコントロールというのが曲者で、常に微調整を行いながら運用する必要がある。起動式魔法なら強度固定なので展開してしまうとあとは放っておいても良いのだが、無詠唱だとそうはいかないのだ。
だからこそ土魔法の権威と言われるグレアノットは常に自分の周囲に小石を浮かべておいて、アリエルが防御魔法に使うマナをケチって絞ろうとしたとき、しっかり狙って石をぶつけるのだ。
それが結構痛い。だが痛いというと防御魔法を弱くしてマナをケチっていたのがバレるから、アリエルは痛いとは言えないことも知りながら、椅子に座ってほくそえんでる。
相手のほうが上手なのだから、アリエルはマナをケチるなんて小細工をせず、ぶっ倒れるまで作業することなのだ。グレアノットはマナを使い果たすまでそれをやめない。
アリエルはまだ魔法を使えるようになって日が浅い、マナのコントロールはいかにアリエルのような天才であってもたゆみない努力と、反復鍛錬が必要な努力の産物なのだから、これからも一生をかけて鍛錬して行かなくてはいけないのだから。
たとえば[トーチ]の魔法。
ポーシャやクレシダが暖炉やかまどに火を入れる際のトーチならば起動式だけ唱えていればどうってことなく使えて鍛錬など必要ない。それがアリエルのように火炎放射器ほど火力の出せる者にはマナの出るホースに蛇口を取り付けてやる必要がある。それがマナの蛇口といって、マナの量と濃さを自在に調節する技術なのだ。これを覚えることによって、先日アリエルがやって見せた、ライターほどのちいさな火から、火力発電できるほどの炎を噴き出すまでを、無段階で調節することができる。
グレアノットは無詠唱で使う魔法と、起動式を覚えて使う魔法の使い分けを提案したが、アリエルの脳はもう、起動式を覚えて、それを指で描いて行使するのが面倒くさいと思えるようになってしまった。覚えることは難しくないけれど、無詠唱でいけるものは無詠唱でいこうと思っている。
そう、アリエルは魔導師にあるまじき、けっこうアバウトな性格だというのを、グレアノットは見抜いていた。
グレアノットがアリエルを観察して指摘したことだが、アリエルはそもそも魔導師に向いた性分ではない。魔導師に向いた性格とは、細かく神経質に彫刻の完成度を追究するような性格であり、アリエルとは真逆が推奨される。逆に毎朝毎晩汗がにじむまで剣を振ることを全く苦痛に思わないあたり、アリエルはやはり剣士のほうに向いているのではないかという。その剣士もきょうび剣を振るなんて鍛錬は全くやらないのだが。
アリエルにとって地獄のようなシゴキが続いた7歳の夏、3週間目にはアリエルも倒れることなく定時まで作業をやり終えるほどのマナを身に着け、同時に整地がほぼ完了した。
自宅西側の空き地がまるで舗装された駐車場のようになった頃、たくさんの馬車が資材を運んできた。岩や丸太など材木が中心だ。
この荷物がまだあと5回分ぐらい来るとか。何を作らされるやら。
「よし、資材が到着したのう」
グレアノットは色めき立った。アリエルはちょっとうんざりしていたが、整地作業ほど地味なことにはならないだろうと思い、少しだけワクワクした。
さっそく教練場を塀で囲み、東西南北すべての方向に門を作る。ただ塀を作って上に置いただけだと簡単に崩れるから、ちゃんと基礎をする必要がある。柔らかい土の上に建築物ほどの重量物を乗せたら地面が沈んでしまうから、数年も経つうちに歪みが出て建物が崩れてしまうことになる。
だからこそ整地と基礎が重要なのだ。もちろん比較的軽い壁であっても同様に手を抜くことはできない。旅人になりたいと言ってたアリエルも、いつの間にか建築士を目指すかのような土木建築魔法を習っていた。
なぜ土木建築魔法なのかというと、とにかく微調整と細心の注意を払う必要があるからだ。
全てを無詠唱でやるとマナの消費はかなり抑えられるのだけれど、微調整が苦手なアリエルは常に細心の注意を払いながら作業をしなくてはならず、精神的な疲労度がマッハを超える。
とにかく魔法で叩いて圧縮する必要があるのに。それも力技ではダメという。地面にはもともと柔らかい部分と堅い部分があるし、部分的に地面の深いところに岩があったり、地下水が流れていたりもする、それらを叩いて、均一に同じ硬さに固める必要があるというのだ。もちろん柔らかい部分は叩けば凹むので、土を補充しながら平坦にしなくちゃいけない。
建物の基本は柱の根元部分に大きな岩を埋める工法が一般的で、木造建築ならばだいたいこの方法で大丈夫。砦や城なんていう超重量建築物の場合はもともと地盤が硬い、岩盤のような地質であれば比較的容易に建造できるが、砦の場合は要衝に建てる必要があるので地盤そのものをめくってしまって改良しなくちゃいけない。
塀の基礎には岩を使った。これが結構重くて、実際に厳しい指導を受けているアリエルにしても、これは本当にいい訓練だと思った。
基礎だけで1日かかった。
そしてまた翌日、
今日も朝から土木作業なのだが、今朝はいつもと違って、塀を角から立てていく作業だ。
教練場の塀は屋敷の塀じゃないので、とにかく壊れにくく、もし万が一壊れても直しやすい構造のものを設計するとのこと。
よくわからんが屋敷の塀より高く、盛り土で厚めに塀を作った後、硬化させた。
土魔法の硬化はコンクリートみたいに硬くなるので驚いた。これってもしかすると基礎用に大きな岩なんて要らなかったんじゃないの?って先生に聞いたら、普通の魔導師がやったらここまで硬くはならないらしい。つまりはアリエルだからこそカチカチに基礎をこしらえることができたということだ。
今日の作業は塀を4面作ったので、時間は余ったけれど終わりということになった。グレアノット先生はまたいつものように、アリエルにはマナの回復に努めるよう言い渡し、自分はそそくさと部屋に戻って行った。どうやら先生はアリエルに教えたことを日記に記録しているらしい。
『おぬしが大魔導師になった暁にはこの日記を出版して一儲けさせてもらうでの』と言ったその目が笑ってなかったのを思い出す。こんなの発表したら児童虐待の罪で投獄されないかと心配してしまうほどだ。
防御魔法を常時展開することでマナ総量が相当量増えたので、今日はまだ体力が残っている。明日のための英気を養うのもいいけれど、まだ日が高いので、ちょっと余った時間でいろいろな復習をすることにした。
トリトンが買ってくれた資材なんだけど、資材というかなんというか、
空き地の片隅に、ものすごく大きくて、重い岩が目の前にゴロンと転がっている、もともと硬度の高い岩などは魔法で粉砕したものをレンガ状に固めて積み上げるのに向いているからこそ、こんな巨大なものを用意したのだろうけど……正直、こんなんいらなかったんじゃね?と思う。
アリエルの土魔法でその辺に落ちてる岩を粉砕すればいいわけだし、そもそもアリエルは転移魔法を使えるのだから、高い金出してノーデンリヒトの開拓民を雇って、領主の息子のワガママに付き合わせるよりはナンボもよかったはず。
その証拠にアリエルは、大岩というべき巨岩の前に立ち、ちょっと試しにこれを浮かせてから領域のカプセルに入れて、ストレージに転送してみた。
実は目の前の異空間? 異次元? に大岩が浮かんでいるんだけど、まったく重さを感じない。
マナの消費も同じじゃないかな?普通に歩けて、座標は目の前。右手の届く位置にあって、移動したらちゃんと追従してくる。軽く5トンぐらいありそうな大岩だった。
異空間に収納していた大岩をこちらの世界に転移させると、音もなく目の前にすっと現れた。
ここで同時に念動を使わないと地面に落ちて、せっかく整地したところに穴があくので、あらかじめ土の魔法を準備しておいて落ちないよう対策をしておく。
いける。これだけの重量でも問題ない。
アリエルは 城攻めさせたら結構やれると思った。いくらでも大きな岩をストレージに仕舞って無数に持ち歩ける上に、自由落下で隕石のように降らせることもできる。
土魔法の使い道をまたひとつ覚えたアリエル、今日はもう日が傾いてきた。
夏のノーデンリヒトは白夜が見られる。暗くなるまで練習しようとすると、24時間練習しててもずっと暗くならないのだ。適度に切り上げて、適度に終わるのがいい。
アリエルは『ストレージ』の復習を終え、屋敷の庭に戻ると木剣を持ち出し、日課(素振り)をしながら、トリトンと立ち会った時のことを思い出していた。
あのときはトリトンに完封されたんだった。一撃目は自分でも悪くないと思ったけど、追撃の二撃目は躱されて、三撃目の胴を狙った薙ぎ払いは蛇足だった。
剣を振りながらアリエルは考える。
もし実戦だったら、あの薙ぎ払いのあとに反撃されて死んでただろう。
最初の一撃で決めてしまえるように先の先を究めるか、それとも敵の攻撃を躱してカウンター攻撃を当てる後の先を狙うか。
……どちらも出来るようになるのが理想なんだろうけど、そもそもアリエルの剣の師匠は美月だ。美月の鍛錬を横で見ていて、それを見よう見まねでやってるだけ。
相手がどう動いて、自分はどう対処するなんて、想像もできないのに出来るわけがない。
ならやっぱり最初の一撃で勝てるようにならなきゃいけないのだろうけど、たぶんその考えは甘い。トリトンと立合ってみて分かった。アリエルは己の未熟さを克服する手段に乏しい。
ならトリトンに習う手もあるけど、上段の構えに否定的な考えもっていて中段に構えろと言われるのがイヤで結局トリトンには声をかけてない。
アリエルは独学で上段を極めようと思った。記憶の中に最良の師がいるのだから。
剣は刹那の世界だ。一瞬の判断ミスで命を落とすというシビアな世界、最初の一撃で殺し損ねただけで命の危険に晒される。
想像するだけで、剣士という生き方の、その綱渡りの人生っぷりに閉口した。剣士なんてやってたら命がいくつあっても足りないような気すらする。恐ろしい。
そもそも剣士もみんな強化魔法つかってるんだから、顔にファイアボールぶつけて怯ませたあと、後ろに回り込んでから背中に斬りかかっても怒らないだろうが……。




