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07-18 レイヴン傭兵団の抵抗

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「パシテー、帰ろう、お母さんも」

「あ……あなたにお母さんなどと呼ばれる筋合いなんてありませんから!」


 アリエルが屋敷の庭から出ようとすると領軍総司令ゲンナーと、領主後継者のエースフィルが立ちはだかり、道を塞いだ。


 エースフィルは涙を流しながら歯を食いしばって言葉を絞り出す。

「ベルセリウスと言ったな」


「アリエル・ベルセリウス。ノーデンリヒト人だ」


「今は力が足りぬ。だが、いずれ父の仇を討たせてもらう。努々(ゆめゆめ)忘れることのないようにな。……ゲンナー、後始末の指揮は任せた。父の遺体を葬儀に。これより90日間は喪に服する。兵を引いてこの者たちを行かせろ。これ以上無駄に命を散らすな」


「なあ、アルトロンド経由でボトランジュに向かわせた2万の兵は? 呼び戻すなら手を出さないけど? どうする?」

「ダリルは喪に服する。呼び戻すと約束しよう」


「あと、俺はフェイスロンドにも友人が多いからな。つまらん野望は捨てることだ……。あんたの言葉を真似ると……努々忘れることないように、な。……よし、パシテー。腹減った。いこう」


 海が割れるという表現は使い古されるだけあってとても分かりやすい。

 アリエルたちは領兵3千の包囲を割り、悠々と歩いてその場を離れた。



----


「…………で、通りを渡ってお屋敷のすぐ向かいのレストランに入るような人と結婚する気なの? パシティア……」

「うん。……兄さま、季節の野菜たっぷりポタージュスープがいいの」


「フィービーさんは?」

「そうね、きじのクリームソース煮ダリル風と白パンのセットで」

「じゃあ俺はダリルソーセージの香草焼き白パンのセット。ジャム付けてね」


「はっ……はいぃぃぃ。かしこまりましたっ!」



 アリエルたちはセルダル家の屋敷を堂々と正門から出て、通りを埋め尽くす領軍の包囲を割って、その目の前にあったレストランに入って料理を食べているところだ。パシテーのお母さんは救出したし、賠償金もたんまり取ってやったし、腹が減ったし。


「ダリル料理ってうまいね。初めて食ったけど、ダリルソーセージってどんなハーブ使われてんのかな?」


「これはね、ネーベルクミンの種とダリルパセリ、あとアムルタバジルを配合してるのよ」


「おおー、お義母さん、さすが詳しいですね」

「むっ。私は許していませんからね。可愛い娘をこんな危険なところに連れてくるような男にお義母さんと呼ばれたくはありません。それとパシティア!……ブルネットの魔女なんて世界でも悪名高い死神の眷属じゃないの。なんでそうなったのか、母さんが納得するよう説明なさい」


「今は時間がないの。マローニに戻ったら説明するの」


 自分の娘が世界一の不良と付き合ってるなんて反対しない親はいない。

 パシテーも説明するとは言ったものの、どういう経緯でそうなったのか、アリエルですら知りたいぐらいだ。とてもじゃないけどフィービーが納得するような説明、できる訳がない。


 ……助け出したパシテーのお母さんに正面から娘はやりませんと断られたアリエルと、怒られてしまってしょんぼりのパシテー。少し不機嫌そうな、まるで寝起きのパシテーを見ているかのような表情でレストランを出ようとするフィービーを制止して、さてこの包囲をどう解くかこれから考えようと思う。


 周囲にはまだ三千の領軍と、500ぐらいだけど傭兵が混ざっているように見える。装備品が正規兵のものとは違うので一目瞭然なんだけど、気配じゃあそこまで見分けられない。傭兵だけをブッ飛ばすなんて器用な魔法は……ないわけじゃないけど面倒だ。


 そして今しがたケチョンケチョンにしてやった衛兵たちの生き残りも数百いてレストランの出口を押さえて囲んでいる。どうやらあまり状況は芳しくない。領軍は包囲を解きつつあるが、傭兵や衛兵たちはまだやる気満々でこちらに向けて殺気を放っている。


 中にはフィービーに向かって『裏切者』などと心無い言葉を投げかける者までいて、反射的に[爆裂]を撃ち込んでしまいそうになった。よく思い留まったものだと誉めてほしいぐらいだ。


 当然こいつら強化魔法・防御も展開済みで、もうとっくに剣を抜いて威嚇しているやつも居る。

 そんな中、人垣を切り開いてレストランを出るアリエルたちの姿があった。

 もちろん食事の料金は支払い済みである。


 アリエルたちの食事中、ずっとレストラン入り口を固め、建物を包囲していた兵はというと、ざ――――っと引き波のように下がらざるを得なかったが、黙って道をあけるようなことはせず、隙あらば斬りかかろうとしている。だけど号令を出す者がいない、烏合の衆で終わるか、もしくは暴徒となって鎮圧されるかのどちらかだ。


 一人でも手を出したらまた戦闘が始まってしまう一触即発の状況。

 ぴんと張り詰める細い糸のような緊張感。……敵が近すぎる。いざとなったら空に逃れることができるパシテーはまだしもフィービーがいたんじゃ近接で[爆裂]は使えない。剣を持ったとしてもロザリンドじゃあるまいし、敵の数が多すぎてフィービーまで守るというのは現実的じゃない。


 通りの向かい、セルダル家近くの建物二階から弓を引く男。弦がギリギリと音を立てるまで力の限り引いている。パシテーに蹂躙された傭兵団弓隊に所属している名も知らぬ一兵卒が友を殺された憎しみを込めて弓を引き、そしてその殺意はパシテーに向けて放たれた。



―― ドスッ!


 パシテーを狙った矢を左の腕で受けて庇うアリエル。矢は左腕を貫通して刺さったが、パシテーまで届かなかったのは幸運だった。これほどの数の殺気に囲まれては、気配の察知で敵の攻撃を予測することなんかできず、対応が後手に回ってしまう。


 アリエルは少し驚いた。普通に鉄の鏃がついた矢ぐらいならアリエルの防御魔法の強度ならケガをしたとしても貫通することはないはずだった。しかし腕を貫いた矢の先端を見ると、これは通常の鏃ではなく、鎧貫きとよばれる、フルプレートメイルですら貫通させる鋼鉄の鏃だった。


「ほーー、なるほど、貫通力高いな!」

「感心してる場合じゃないの!」


「当然反撃するさ」



―― ドバ――ン!


 思いのほか大きな爆発音が響いた。それは弓兵の潜んでいた建物の二階部分が丸ごと吹っ飛ぶほど規模の大きな爆発だった。それはアリエルにしてもさすがにパシテーを狙われたとなると冷静ではいられないことの表れだった。


「よくもパシテーを狙ったな……」


 安全性を重視するなら反撃などせず、無視すべきだったのかもしれない。レイヴン傭兵団は指揮官を欠き、もはや統制が取れていないのだ。殺気立った集団は自軍の失策により発生した報復の爆破魔法を、戦闘開始の合図だと判断してしまうほど混乱していたのだから。



―― うぉぉぉぉぉ!


 傭兵団に釣られて両側の兵が一斉に襲い掛かる。ドサクサ紛れの見え透いた手だ。


「パシテー! お義母さんと店に、しっかり障壁を張って防御を頼む」


「分かったの。お母さん、こっちへ! はやく!」


「ハイペリオン! パシテーたちを守れ! 入り口から誰も通すな。俺は前に出る」



―― キュ――――――イッ


 勢いよく弾き出されるように飛び出したハイペリオンは上空から瞬時に戦況を把握し、まずは威圧を放った。これだけでここにいる約四千の兵たちは動きを制限された。


 弱いものは横隔膜おうかくまくが痙攣し呼吸ができないばかりか、膝を屈して立ち上がることもできない。ハイペリオンが戦場に出たという、たったそれだけのことで兵士たちは瞬きすらすることを許されなかった。


 きりもみの背面飛行から翼を翻して地に降りたハイペリオンはレストラン入り口に陣取って拠点防衛の構えに移行した。アリエルが突貫した後ろをブレスで薙ぎ払い援護しながらも、パシテーとフィービーが逃げ込んだレストランの入り口を守り、ただの一兵たりとも通すことはなかった。ここに集まった兵の装備ではハイペリオンのたった1枚の鱗にすら傷をつけることすらできそうにない。



―― ドバン!


 ―― バン! バン!


―― ドッゴーン!


 激しい爆発音が何発も響き渡り、ハイペリオンはさらにブレスで追い打ちをかける。


 パシテーは違和感を感じていた。

 あんなに近くで[爆裂]を使われて、なんでこんなに空気の振動が穏やかなのだろうか。

 一歩、二歩と前に出るほどに静かになっていくのが分かった。


「お母さん、もっと前へ。前のほうが安全なの」


 威圧を受け、座り込んでしまったフィービーの手をグイッと引いてハイペリオンのすぐ足もとまで出るパシテー。ドラゴンの近くに行きたくないと抵抗して見せるが、自由に動けるパシテーに抗うこと叶わず、ズルズルと引っ張られて、ハイペリオンの脇まで出てきた。


「ハイペリオンが障壁を張ってくれてる。ここにいるほうが安全なの」

 そこはハイペリオンの翼のすぐ後ろ。言い方を変えれば戦闘を見渡せる一等席だった。ハイペリオンは二人がすぐそこまで出てきたことに対応し、尻尾を巻くようにして守ることも忘れない。


 ハイペリオンの多重魔導防壁はすでに親であるミッドガルドの強度を凌ぐ。我流で誰からも学ばずにただマナを垂れ流しているだけで世界最強の龍族が、ちゃんとした魔法の先生から理論立てて学び、鍛錬までしているのだから弱い訳などないのだ。


 ミッドガルドをただその辺にいる一般人とするならば、ハイペリオンは鍛錬を積んだ戦士だ。それほどまでにハイペリオンの力は強大になりつつあった。



―― バン!


 ―― ババン!……。


 連続していた爆発音が止み、土煙の中、風を纏ってアリエルが現れた。


「ハイペリオン、ありがとうな。ごくろうさん、休んでいいよ」

「ハイペリオン、ありがとうなの……。兄さま!」


 戦闘が始まってすぐこの場を離れた領兵以外は全滅しただろう。[爆裂]で死んだ者、ブレスで焼かれて命を落とした者、おびただしい数の亡骸が通りに散らばっている。


 ここのところハイペリオンには無理をさせすぎてるかな。心のすさんだ子に育たなければいいけど。


 ハイペリオンの頭をなでてやると、ニョロニョロっと機嫌よくネストに戻って行った。


「兄さま!」

「ん?」

「矢、矢を抜かないと」


 腕を貫通している矢を折って抜いた。咄嗟のことで[ストレージ]が間に合わなかった。でも骨には影響ないし、ちょっと出血が多い程度だ。こんな傷、数分もあれば消えてなくなる。


 怪我の応急処置をしているところで、セルダル家の屋敷から数名の男が駆け寄ってきた。さっき決闘したとき見届け人を引き受けてくれた男……総司令だっけか。


「ダリル領軍総司令アルベルト・ゲンナーだ。今の戦闘、我がダリル領軍は無関係とさせてもらおう。今ここであった戦闘は戦死したエレノワ騎士拍の仇を討とうとした私兵レイヴン傭兵団とあなた方の私闘であった。多少、仲裁に入った衛兵たちが巻き込まれはしたが剣を抜いていた以上は致し方あるまい」


「どっちでもいいけどさ、エレノワを殺したのは親衛隊であって俺じゃあない」

「もはや親衛隊で話の出来る者はいないな」


「またそうやって俺に罪をひっかぶせるんだろ? いいよ。もう帰っていいか?」

「ダリルを出られるまでもう誰も傷つけぬようお願いしたいものだ」

「なら俺たちを素通りさせろ。そうすれ誰もケガしないし、死ぬ者もいない。……てか、俺が悪いのか? これは……」


「兄さまは悪くないの」

「だよね! くっそ、また俺が悪いみたいなことになってしまったじゃないか」


 これまでもそうだった。こっちから喧嘩を吹っかけたことなんて相手が悪党以外じゃなかったはずだし、こっちの意思とは裏腹に、アリエル・ベルセリウスの悪名だけが妙に高まっている。

 本気で納得いかない。


 さてと、帰ろうにも、フィービーの外見は青銀の髪に耳の尖ったパシテーだから、アルトロンド経由で北上したくないし、まっすぐ北上するのも魔族排斥が進んでるから王都も通りたくない。神殿騎士たちに囲まれて大規模な市街戦になる未来しか見えない……ここからだと北にまっすぐ帰るよりも、ちょっと遠回りになるけどいったん南のアムルタに下ってエドから神々の道を通ったほうが早いだろう。こっちのほうが近い気もするし。


 フィービーはパシテーと一緒に飛んで移動するらしい。いつかセカ郊外でジュリエッタが飛んだのと同じ方法。事故にでも遭ったら大変なんだけど……、対案が『ぜひハイペリオンに乗ってください』だったので、丁重に丁重に、これ以上ないほど丁重にお断りされてしまった。


 それが今のアリエルにできる精いっぱいのVIP待遇だったのだけど。



----


 事故を起こさないよう、慎重に慎重を重ねて、少し速度もゆっくり目でやってきたアムルタ王国の南、エドの村。お昼過ぎにダリルマンディを出たというのに、エド着が日没になるとは思わなかった。

 

 久しぶりのエドの村、ほぼ廃村になりつつある。たまにはタレスさんの工房に寄って炉に火を入れておきたいのだけど今日は急ぎなのでそんなことをしている余裕も暇もない。村には奴隷狩りですら金にならないと無視し続ける年寄りエルフの家庭が数軒あるのみ。ここもいずれ遠くない未来には絶えてしまうのだろう。


 転移魔法陣のある神殿に上がると、神殿柱の陰から覗くイグニスと目が合った。なんだか寂しそうな表情に見えるのは神殿から見渡せる絶景の夕焼け空に照らし出されていたからかもしれない。フィービーはイグニスを精霊と知ると慌てて跪き、お辞儀をしてみせた。どうやらフィービーも精霊信仰らしい。


「ようイグニス。寂しくないか? ここは誰も来ないだろ?」

「テックのマスター。あの時は世話になったね。でも寂しくはないんだ、ここに居るとゾフィーを感じるから」


 イグニスはチラッとアリエルを見ては、また夕焼け空に視線を戻してそういった。

 ここは斜陽の村エド。もう新しい命は生まれないし、イグニスが戻っても神殿は綺麗に掃除されているわけでもない。死にゆく村にある、廃れてしまってもう誰も訪れることのない神殿でイグニスは、フォーマルハウトに殺された前のあるじトリムとの思い出と共に、黄昏行く空を見ながら暮らしている。


 夕焼け空が好きな者同士、気が合うんじゃないかなんてこれっぽっちも思わなかったけれど、それでもこんなに寂しそうな横顔で夕陽を眺めてるのを見せられると放ってはおけない。


「なあイグニス。いっしょに来ないか? ここは寂しすぎる。誰も居ないじゃないか」

「あなたについて行ったらテックにブチ殺されるよ。精霊は嫉妬深いんだ」


「俺だって首関節を決められて絞め落とされるよ。だからお前が来るのはセカだ。セカの神殿には精霊が住んでなくてね。街は賑やかだし、ここよりもゾフィーを近く感じるよ」


「アナタもゾフィーを感じるのね。知ってたよ。だっていい匂いがするもの」

「ああ、ゾフィーは知り合いなんだ。キミたちが生まれる前からのね」


 イグニスはここでようやくこの男からいい匂いがして、なんだか落ち着く雰囲気を醸し出すその理由に合点がいった。精霊たちはこの男を通じて会ったことのないゾフィーを感じていたのだ。

 そしてテックの主は言った。セカの神殿ではここよりもゾフィーを近く感じると。それは口説き文句なんてもんじゃなく殺し文句としてイグニスの心を動かした。


「テックのマスターは女ったらしだね。ワタシを口説き落としてしまうのだから」

「女ったらしとか言わないでくれ。今日はパシテーの母さんがいるんだ。変な誤解をされてしまう」


 イグニスは差し伸べられた手を取り、ぬくもりを確かめると、アリエルたちとともにセカへ行くことを決心した。


「んじゃ、飛んじゃおう。みんな手を握って。ほらフィービーさん、イグニスの手を取ってあげて」

「ええっ、精霊さまのお手を……ちょ、えっ?」


 ただ茫然として開いた口が塞がらないフィービーは、さっきまで夕焼け空を眺めていた山奥の神殿だったものが、ぐにゃりとした感覚を覚えるといつの間にか2000キロも北に位置する領都セカに移動していることが信じられない様子だった。


 ボトランジュ、そこはエルフたちが自由に暮らせるという、夢にまで見た土地だった。

 願わくば、祖母と、娘を連れて3人でここへ逃れてきたかった。遥か遠い北の国だと思っていたボトランジュになぜ、どういった理由で一瞬で着いたのか理由すら分からぬまま、ただ呆然としながら、娘パシテーに手を引れて教会を出た。


 イグニスはアリエルの手を握ったまま言う。

「なんだか落ち着かないぐらい人おおいね」


「ダメか?」

「ううん、アナタの言った通り、ここの方がゾフィーに近い」


「だろ? んじゃあな、俺たちは先を急ぐけど、ここへはよく来るからまたな。イグニス」

 イグニスは期待に満ちたキメ顔に加え、サムズアップでそれに応えた。


 ここでイグニスと別れてアリエルたち一行はマローニへと急ぐ。あんまり帰るのが遅くなると、フィービーと野宿することになって、きっと布団ひとつしかないことを咎められるに決まってるのだから。


 急いでノルドセカへ向かうアリエルたちにはまたひとつ誤算があった。フワフワ飛んで移動するパシテーの人気っぷりにフィービーは驚きを隠せず、そのアイドル顔負けな大人気っぷりに加えて、パシテーと色違いの2Pキャラにしか見えないフィービーも当然モテないわけがなく……ぞろぞろと行列になってついて回るファンたちの対応に苦慮しているところだ。


『パシテー先生の姉妹? かわいいね』

「いえ、わたくしなど……」


『僕と付き合ってくださいませんか? 美しい人』

「わ、私には夫も娘もおりますから……」


 頬を染めながら恥じらうフィービー、真顔で相手してるのがとても可愛い。

 義母がこんなにも可愛いとまた新しいジャンルにハマってしまいそうだ……。

 いいなー…… なんて、もう目を細めて見てしまう。


「兄さま? ゆるしをもらうまでは自重して欲しいの」

「……わかってるよ。どうせまた変態扱いされるんだ俺は」

「自重するの」



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 それから数日後の話をしておこう。

 教会を警備する衛兵にイグニスのことをよろしくって言っただけなんだけど、衛兵の話が広がったのだろう、セカに精霊さまが降りたという噂を聞きつけ、精霊を信仰するエルフたちがちょくちょく教会に通うようになった。エルフたちにとって教会などはもっとも縁遠い施設だったはずなのに、小高い丘の大きな教会がエルフたちでにぎわう。


 荘厳な彫刻に飾られた神聖典教会が、イグニスの好きな、花と緑の教会に生まれ変わるまでそれほど時間はかからなかった。



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