【オマケ】 アリエル先生の魔法教室(下) 【ボツネタ】
----
「ふわぁ……ドラゴン……貴重な体験をしたわぁ~。エルフ諸氏、この体験のレポートを残しておくこと。種族的弱点を克服する助けとなれるよう皆の力を合わせるのよぉ」
「あれ? エイラ教授、なんか元気ないな? 下痢でもしてるのか?」
「私が疲労困憊してる理由が分からない? 分からないなんて本気? 誰かこの男の弱点を教えてくれたら単位をあげるわ」
「兄弟子は奥さんが怖いの」
「あははっ、なによぉ、世界最強の魔導師が恐妻家とか。マジ笑えるんだけど~」
「なあ……帝国から俺を殺しに来た勇者を素手でボコボコにシバキ上げるんだぜ? 怒ったらマジ怖いよ? もし俺を世界最強の魔導師だというなら俺の妻は最強の物理アタッカ―だからな。 隠し事してたらマジで吐かされるんだぜ?……胃の中の物を全部な。呼んでこようか? ロザリンドは速いからね、マローニからセカまで2時間とかからないよ? ハイペリオンと比べたら小さいけどね。身長もたった2メートルしかないし。でもさ、元魔王軍の将軍やってたスカーレットの魔人だからさ、もしかすると、エルフにとってはドラゴンと大差ないと思うけどね?……えーっと、エイラ教授がマジ笑える……でしたっけ?」
「そんなこと言ってないわ。誰が言うもんですか。素敵な奥様じゃないのぉ~。さぞやお美しいのでしょうね。ほら、いまは講義に集中しましょうよぉ~。……呼んじゃダメ。もし呼んだら報復としてコーディリアの単位あげない」
「わははは、痛くも痒くもねえや、よっし呼ぶぞ、ロザリ……」
「兄さま。ほどほどに。エイラ教授の脂汗が止まってないの」
「私、エイラがここまでコテンパンにされるの初めて見たニャあ」
「もうニャあを隠しもしてないよね?」
「うるさいわよ、ドラゴン種族的優位性も研究して、いつか必ず克服してやるからね」
エイラ教授はよほど悔しいのだろう、ドラゴンの威圧を克服すると宣言した。
「そんなの研究しても無駄だよ。種族的な問題を解決してもドラゴンが威圧を放ったらエルフも人も獣人も差別しない。野生のドラゴンと遭遇したらその時はもう死んだも同然だよ? 研究者がいない理由も考えた方がいいと思うんだけどな。えーっと、あと残るのは……闇の属性魔法と、爆破魔法かな。他は特に使わないけど……水も披露しようか?」
「闇ぃぃ~。ええええっ、あニャた闇も使えるの?」
「なんかもうニャがグズグズになってるんだけど?……えと、闇を使えるのはパシテー。俺はダメだな」
ってか水魔法得意なんだけど、水魔法って魔導学院でも人気がないらしい。
地味――――な魔法だからなのだろう。やっぱ見た目が派手じゃないと人気がでないようだ。
「闇の魔法は、術者にも危険な魔法なので、特にどうやればいいのかという解説は省きます。命にかかわるので。今は敵になってしまいましたが、神聖典教会が禁忌に指定するのには理由があります。それは政治的だったり、教会だけのズルい都合だったりしますけれど、闇魔法については本当に術者のことも考えて禁忌となっていますから、今日は参考まで」
パシテーが花を散らして時計回りに回り込み、エイラ教授は身構える余裕もなく触手に囚われた。触手に囚われ足が地から離れても、触手の出どころが自分の影であることや、その触手の手触り、マナの練られ具合などを真面目に観察しているのはさすがエイラ教授というところか。パシテーが触手を放棄すると瘴気が花びらに変化して散るその中、エイラ教授は花びらにも興味を持ったらしい。
「この色、この重厚さ……これも瘴気なのかな?」
「パシテーは安定してるから大丈夫だけど、闇の精霊の教えがないと確実に命を削っていくからね。闇魔法は諸刃の剣なんだ。それじゃあえーっと、最後になったけど、爆破魔法を」
「いよっ、待ってましたニャ。」
「もう隠そうともしてニャイニャ。」
「爆破魔法なのですが、俺は[爆裂]と呼んでる」
「みなさん、耐風障壁を展開して、光が見えたらすぐに耳を塞ぐの」
―― ドッゴァァ!
「ぐあぁ、早いっ! 私ら障壁張るのも起動式いるニャ! 耳がキーンって、もう……」
「えーっと、今のは[爆裂]の魔法ですけれど、見ての通りこれは[ファイアボール]です。そう、ただのファイアボールです」
「見たところ確かにファイアボールだったけど、それがどうやったら爆発したのぉ? これなら私にもできそう。」
エイラ教授がしっかり見ていたらしい。
「それがなかなかに難しいらしい。俺の他だと今のところ、弟子のサオとハイペリオンしか使えないです……。えーっと、起動式を入力するファイアボールは、風魔法で作ったボールの中にマナを燃焼させてパンパンに詰めます。その後、少し小さく圧縮してから飛んで行くよね?……はい問題です。ではなぜ少し小さく圧縮するのでしょうか?」
「温度がより高くなるわ」
「アリー教授正解だニャ!」
「なんかムカつくわ……」
「じゃあ、その温度が高くなるファイボールを、どこまでもどこまでも小さく小さく圧縮していったら?」
アリエルはそう言って、ゆっくりとファイアボールを小さく小さく圧縮し、小さくして見せた。
そして、
―― ドッゴァァァン!
「爆発します」
「ダメ……目いっぱい張った耐風障壁が紙の盾だわ……私耳が大きいのよ。ちょっとは加減してくれないと音だけでヘロヘロになっちゃう」
「耳をふさいどけばいいのにね。というわけで今日の講義はオシマイ。ちょっと情勢が緊迫してるからエルフ族はマローニに避難するのを忘れないでね。あ、それとノーデンリヒトは移民を歓迎します。アリー教授、エイラ教授、今日は俺の欲しい情報をありがとう。お陰さまで、いつかゾフィーに会えそうな気がするよ」
「ゾフィーと会う……か、荒唐無稽だけど私は魔導に不可能はないと思ってるからね。今できないことでも明日できるように魔導を探求してるんだ。また聞きたいことがあったら来るがいいさ。こっちも研究して知識を深めておくよ」
「ほんっとにもーう、えらい目に遭ったわぁ~。私も避難準備だけはしてるから、次はマローニで会えるかもしれないわねぇ。私の方も魔法陣の研究を重ねてしとくわぁ~。知らないなんて言いたくないからね」
「コーディリアはもうマローニで凄い研究してるんだよ。内緒だけどね」
「なんですって! 私も急いでマローニに避難しないと出遅れちゃうわ~」
「学長さん、それでは私はこれで」
「ベルセリウスさん、ありがとうございます。今日の経験は私たち魔導を探求するものにとって得難いものとなりました」
アリエルとパシテーは講義に参加した教員と生徒たちに手を振って、セカの魔導学院を後にした。




