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06-14 母娘の再会


 掛け声がかかるとまずはロザリンドがビュン! と縮地からのスタートで急加速し、いきなり最高速に乗せてあっという間に見えなくなってしまった。うーん、200キロ出てんじゃないかアレ……。速度よりも何よりもロザリンドの大人げなさが光ったと言うべきだろうが、実はそれほどロザリンドが有利というわけでもない。どうせどこかで事故起こしてクレーター作るんだから、大穴から這い出して来るまでのあいだにレダが追いつく。


 レダは速度の方も上々、必死で加速してるけど60キロぐらいの速度で安定して巡行できている。

 ちょっと速いクルマと原付スクーターぐらいの速度差だ。


「レダちゃん、マナの使い方がイマイチよくない。無駄なく、足の裏に集めるんだ」

「何アレ! 絶対に追いついてやるんだから」


「手伝ってあげようか?」

「うん、兄ちゃん手伝って!」


「よっしゃー! いくぞー、ハイペリオーン!」


 キュ――――――イッ!


「なななななな……えええええーーーっ!!」

「それ、追いかけろ」


 キュイッ!


「イヤアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


「おーーーーっ、レダちゃん速い速い。やればできるじゃん。でも急がないとお尻かじられちゃうよ? ハイペリオンはエルフの女の子が大好物なんだ」


「なななななぁぁぁ……なになになになになにぃ――」

「ハイペリオンの吐く息が聞こえるぐらいに追いつかれてるからね? このままだとお尻なくなっちゃうよー?」


「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤァァァァァァ――――ッ!!」


 レダすごい。マジ速い。120キロ以上出てるよこれ。

 速度は最初の倍でてるし。このまま維持することを覚えたらサオに匹敵するスピードになる。これはいい手かもしれないけど、ハイペリオンを怖がらないサオには使えないな。


 丘の上から300メートルぐらい先、向こうの方の地面に飛行機が墜落したような跡がある。

 ロザリンドまた転んだな……。あの角度はきっとハイジャンプから着地に失敗したんだろう。まあ負けることはないだろうけど、防御力に甘えすぎなんだよな。まずは転ばないことを覚えないと。


「いたたたた……。首がゴキゴキ言うわー」

「ロザリンド―――― → 大丈夫か――?→ 大丈夫そうだね。→ じゃあお先に!→」


「イヤアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ――――――ッ!!」


「なっ、ハイペリオンに手伝わさせるなんてズルい!」


「マナの効率が悪い! もっと無駄をなくさないとマローニまであと1時間半あるよ。マナ欠になったら尻かじられるからね。マナを調節するんだ」


 レダが後ろを振り返るとハイペリオンが30センチ後方で口をあんぐり開けてカプカプするというサービスっぷりを披露し、レダの耳にアドバイスが届いてるか分からないのだけど。


「イヤッ……イヤァァァァ……お尻が――! カプカプしてる――!」

「速度を維持して燃費をよく。マナを絞れ」



「ねえ、そろそろレダちゃんヤバいんじゃない? 最初にマナ使いすぎたんだよ」

「ヘロヘロになってるなあ。目も虚ろだし。あと何分かで落ちそうだ」


「それでも! 速度を維持しながらマナを絞るんだ!」

「わたしよりもあなたの方がオニだわそれ……」



----


「う……うぅ……だるぅ……」

「おはよう。レダ」


 レダが目を開けると木でできた天井があって、ふかふかのベッドに寝かされていた。

 その部屋は窓があって、レースのカーテンを揺らす涼しい朝の匂いのする風が頬を撫でる。

 

 窓際には花瓶に黄色と白の花が活けられていて、ほのかな香りを振り撒いていた。

 エルフの村に暮らしていたレダは、人族のこんな豪華な部屋は初めて。キョロキョロとして落ち着かない。


「……ここは? ……どこ?」

「マローニのベルセリウス別邸よ。アリエルさんのおうち。あなたは一晩中ぐったりと寝てたの」


 レダは自分の事を知ってるこの綺麗な人の姿に見とれてしまった。

 まるで心に響いてくるような声でレダに語り掛ける女性ひと、同じ髪の色、同じ瞳の色……。


 顔をまじまじと見てしまう。目を奪われる。この人の一挙手一投足から目が離せない。


「…… ……」


 ニコニコしながらレダと目を合わせる女の人。


 優しい微笑みも、

 とっても和やかな空気感も、


 レダのことをじっと見つめるとび色の瞳も、

 髪を梳く優しい指も、

 

 ……いい匂いも!


「……覚えてる。私」

「覚えてくれててありがとね。レダ」


 まだ幼くあどけない瞳に涙があふれてくるのを我慢するレダ。息を止めてぐっとこらえる。

 でも、我慢しきれなくてポトリポトリと頬を伝って落ちた。


「ぐすっ……私、泣いてないよ。バカ兄ちゃんが私にドラゴンけしかけたの。必死で逃げて逃げて。それでもドラゴン速くて、バカ兄ちゃん笑ってるし。大嫌いなんだから。……お母さんもひどい目にあわせられなかった?」


 ドロシーは涙を堪えながら肩を震わせる娘を優しく抱き寄せて、愛おしそうに髪を撫でる。

「レダも大変な兄ちゃんを持ったわね。母さんもひどい目にあったわ。ドラゴンけしかけられるわ、闇魔法のヌルヌルした触手に絡め取られるわ。もう死んだと思ったわよ」


「でもね、レダ。お礼……言わないとね」

「うん。私、お世話になった人にお返しと仕返しは忘れたことないの」

「よろしい。さすが私の娘」



 朝食の支度ができたそうなので、食堂に行くとみんな揃っていて、歓迎のムードにちょっと驚いているようだ。


「ハーイ。レダ。目が覚めたかしら?」

「わー、てくてくだー! パシテーもー!」


「レダ、昨日マスターに虐められたのよ?」

「うん。怖い夢みたの。でも私……速くなったよ。すっごく!」



「サオぐらい速いわよ?」

 傍らに座ってるサオにこっそりと耳打ちするロザリンド。

「なっ……それは聞き捨てなりませんね」


「レダちゃん! こいつがスケベ勇者あーばいんだ」

「あっ、あなたがスケベ勇者なのね!」


「おいおいおい、もうちょっとマシな紹介をだな……」


 レダはタイセーをキッと睨んだあと、ぺこりと深くお辞儀をしてみせた。


「母がお世話になりました」


 娘がしっかりお礼が言えたのを見たドロシーは少し呆気にとられたが、すぐに合わせてお辞儀をした。

 自分が居なくてもこの子はいい子に育ってる。これはもう自分に似たとしか考えられないことだ。


 タイセーはまるで自分の娘の事のように目を潤ませている。泣きのタイセー、今のところギリギリセーフといったところか。


「いいですかな? レダさん、初めまして。シャルナク・ベルセリウス。キミの兄ちゃんの叔父にあたる。そしてこの街の……えーと、そうだな、村長みたいなもんです。食事が終わったら、ドロシーさんとレダちゃん、そしてアーヴァインさんの奥さんたちは魔導学院に行って傷と烙印を消す治療を受けてください。賢者どのに話は通しているからね。その後、役所に行って政務官と話し、ノーデンリヒト領民の証書をもらってきてほしい。すでに手続きはしてあるから証書をもらえば、あなた方はもうノーデンリヒト人だ」


「おおおお! 何から何までありがとうございます。さすがアリエルのおじさん。おれもう涙が出そうだ。……てか……、傷を消せる……賢者?」

「カリストさんだ。マローニで診療所を開業してもらえるよう交渉してたんだよ。ディオネとベルゲルミルもこの街に住んでるんだぜ?」


 タイセーにしてみれば寝耳に水の話だった。キャリバンとフェーベが倒されたとは聞いていたが、その他のメンバーたちについては生死不明の行方不明とされていたのだから。


 カリスト、ディオネ、そしてベルゲルミルの3人がこの街にいるなんて。

 タイセーは不安そうな顔で友がどうしているのかをと聞いたので、あの三人をこの街に引き留めた本人、シャルナクさんが答えた。

「賢者カリスト氏にはマローニの医療を引き受けてもらい、魔導師のディオネ氏は魔導学院で切磋琢磨しておられる。そしてベルゲルミル氏には冒険者としてこの街の面倒ごとを一手に引き受けてもらってる。皆素晴らしい能力を持っておられるのに気さくな人たちなので市民には人気が高いんだ」


 タイセーは異世界人の自分たちは帝国でも少し敬遠されるところがあったので、こんな辺境の小さな街で受け入れられていること自体が信じられなかった。それでも異世界人なんていうヨソ者中のヨソ者でも受け入れてもらえるという、マローニという街の、ボトランジュという土地の懐の深さと人々の温かさを実感した。


「おお、それはよかった。けどさ俺も実は冒険者でお金稼いでメシ食っていこうと思ってたのに、ベルゲルミルと仕事被っちゃ嫌がられるよなあ……」


「そのことなんだが、魔導学院図書館の書庫番が何年も空席らしい。アーヴァインどのはアルカディアで書庫番の経験があると聞いたのだが? もちろん緊急事態時には剣を持ってもらいたいが、やはり書庫番では不満だろうか」


「いえ、本屋の店員は好きでやっていた仕事です。残された時間は戦地ではなく、許されるなら家族と一緒に過ごしたいと思ってたんで。和紙を漉く技術は持っていますが、ここは皮紙が主流なので、パピルスでは家族を養えません。書庫番で家族3人が食っていけるならお願いします」


 タイセーは子どものころお爺ちゃんに習ったという和紙を漉く技術を持ってる。

 だけどこのマローニという小さな町じゃ、初等部、中等部などの学校や魔導学院が採用してくれたとしてもそれで家族まで養っていけるような安定した収入にはならない。それに植物の皮からパルプを生産する時点でもうタイセー以外の人手が必要になるから、趣味で和紙を漉いて色紙や便箋を作るぐらいしか用途がないのだそう。


 剣を持てば百人力とまで言われる勇者なのだから剣をもって衛兵にでもなればいいのだけれど、タイセーはもう剣を持って人を傷つけたりはしたくないそうだ。せっかく帝国から逃れてきて、戦闘奴隷のような立場から脱却できたというのに、帝国から遠く離れたマローニの街でまた剣を持って戦いたくはないのだ。


 シャルナクさんとはマローニに攻めてきた敵にだけ対応する約束をしていたので、タイセーが居るうちは安泰。予備役ということで、月に一度訓練に出るだけで少し給金をもらえるらしいことも分かった。


 細々とご飯を食べて、ここでまっとうに生きていくことにはもう、事欠くこともないだろう。

 タイセーに加えて、ベルゲルミルもカリストさんもディオネも居るってことは、マローニの守りは堅い。戦時にはエルフたちが避難してくるって話だから、当然マローニは狙われることになる。戦える奴は多く居てくれた方がいい。


 それでもまあ、タイセーは冒険者登録して、兼業でお金を稼ぐ手段あったほうがいい。奥さん二人いるし。

 どうせベルゲルミルだけじゃ困難な依頼とかあるだろうから助けも必要だろうしな。


 ミルクイベントとかもタイセーには必要だし。


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