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06-09 サルバトーレ会戦!

 ロザリンドの方は情け容赦なくノゲイラ将軍を葬ったことで、アルトロンドの陣はシンと静まり返ってしまった。

 アウグスティヌスはさっきまで盾を持っていた左腕をだらりと下げていて、深刻なダメージを負ったように見える。盾を顔面に食らった分、こっちのほうが痛い目には合ったと思うのだけど……。ここが自己再生を持ってる者と、そうじゃないアウグスティヌスとの差だ。鼻血はもう止まった。


 そして相手側の陣営、もう一人の神官が性懲りもなく治癒魔法を詠唱し始ている。

 この治癒魔法は、さっき炎上して倒れた神官に向けられたものなのか、それともアウグスティヌスに向けられたものなのかは分からない。だけど……。


「おい、隣の奴がなぜ燃えたのかを理解してないのか? 詠唱をやめろ、じゃないとお前も死ぬぞ?」

「構わん。詠唱急げ、早くこの左腕を治療せよ」


「一騎打ちと言わなかったか? お前らほんとズルいな」

 警告はしておいたので、起動式をスッとスリ替えておいた。警告したにもかかわらず、起動式をスリ替えられたことに気が付いてない。魔導師と言うのはいま入力している起動式しか見ていないのだ。だからこそ、起動式をスリ替えるということが魔導師キラーとなる。


「ねえ、後ろの神官、私が叩っ斬ろうか? ヒマなの」

「遠くから見てるだけの見物人は、俺たちが見届け人の神官を斬ったようにしか見えないからダメだよ。だから起動式をスリ替えて燃やす」

「そこまで考えてやってるの? へえ、でもあいつら、あなたとズルでタメ張るなんてすごいわ」


「俺ズルい事なんかしてないぞ?」

「爆弾みたいな魔法を転移させるなんて世界一ズルいと思うわ。でもステキだと思う」

「くっそ、剣士ってやつは魔法に負けたらズルいとかほざくからな! よっしゃ、わかった。正々堂々、剣で倒してやるから」


 とは言ったものの、アウグスティヌスは左手が使えないようだけど、[爆裂]であの防具には傷もついていない。ってことは、あれも神器ってことだ。


 それでもあんな小規模な[爆裂]ひとつであそこまでのダメージを負わせられるのだから、キャリバンのキンピカ鎧ほどじゃないってことだ。

 いやいや、もう考えるのはやめよう。


 アリエルはアウグスティヌスを前にしてゆっくりと上段に構えなおし、呼吸を整えることから始めた。明鏡止水は無理でも、心は落ち着くのだから。


 まだかまだかとタイミングを計る。アウグスティヌスが気を散らす瞬間を狙って構えている。

 そして数瞬ののち、アウグスティヌスの背後にいた神官に大きめの[ファイアボール]を頭からかぶり、メラメラと音を立てて炎上した。先ほどと同じように。


 神官並びにいた治癒師たちの列はざわつき始めた。

 ようやくなにかおかしいと気が付き始めたのだ



 アウグスティヌスが一瞬、背後にいた神官を気にした隙を見逃さず、渾身の踏み込みでもって必殺の間合いで刀を振り下ろすと、金属と金属の激しくぶつかる音が響き、ほぼ棒立ちの状態で肩から胸を袈裟斬りにした。入ったと思われた攻撃だったが、神器の鎧に阻まれ致命傷を与えることはでになかった。


 やはり硬い。肩から4センチほど刃が入ったところで切っ先が止まってしまった。なかなかロザリンドのようにはいかないらしい。


「ほらね、鍛錬をサボるから」

 ノゲイラを早々に片づけて見物モードのロザリンドがうるさい。


 面倒になったので間合いをとって、膝をついたアウグスティヌスの周囲に[爆裂]を転移させて起爆してやった。



―― ドッカドドーン!


 ―― バン! ズバン!


 4発当てたところで気配がうっすらと消えそうになってきた。結局、また[爆裂]で倒したけど、後悔はしてない。考えてみるとこいつ神器を着てるくせにフォーマルハウトよりもダメージがよく通ったな……、もしかしてフォーマルハウトって強かったのか……。


 正々堂々と剣で倒すと言った手前、どうしたものかと、恐る恐るロザリンドのほうを見ると、ロザリン

ドは思いのほか上機嫌だった。


「えっと、[爆裂]で倒してしまったな」

「うん。それがベストね。カッコよかったよ」


「えー? ズルいって言ったじゃん」

「うん。ズルい。でもステキだって言ったわよ?」


 ワケわかんないな。

 地面に半分埋まった状態のアウグスティヌス。頑丈な鎧のチェストに手をかけて穴から引っ張り出し、兜を脱がせて、空に向けて高く投げると、後ろでからアルビオレックス爺ちゃんが大声を張り上げて勝鬨を上げた。


「アリエル・ベルセリウスが神殿騎士団長アウグスティヌスを討ち取ったぞ!!」


 『絶対強者』の名を欲しいままにしたノゲイラ将軍は名乗りもせず魔族の女に討たれ、35歳の若さで神殿騎士団長まで登り詰めた『高貴なる剣』アウグスティヌスも神器を戴いた甲斐なくアリエルの『死ぬまで爆裂をやめない』執拗な魔法攻撃により討たれた。


「さてと、お前らどうすんの? まだやるの?」

「我々は使命を帯びてここにある。よって騎士団長や将軍が討たれたとて、のこのこと尻尾を巻いて帰るわけにはいかぬ」


「そうか、じゃあまた明日。いや今夜また夜襲かけてやろうか?」

「明日の朝でも、夜戦でも望むところである。ただ、今だけは亡骸を引き上げさせていただきたい」


「わかった。だがな、お前ら治癒魔法はズルいからな。それは不名誉なことだ」

「神官が勝手にやったこと。アルトロンド軍人は不名誉なことなどしない」


 いけしゃあしゃあと言うんだな。だけどまあ、石に齧り付いてでも勝利したいという気概だけは分かった。分かったけど、それならなぜ最初から馬を降りて、不利な状況を五分に持ち込もうとしなかったのかがバカとしか言いようがない。相手を舐めてたら思ったより強かったので考え得る限りのズルしましたが負けましたなんて、死んだ後まで恥をかくだろうに。


「まあいいや。じゃあとりあえずハラへったから戻って飯でも食ってくる。また今夜、夜襲かけるから覚悟しとけよ」

 ビシッとドヤ顔で指さして夜襲を予告してやった。これでもうロザリンドに夜襲はズルいとか言わせないから。

 アリエルが振り返るとアルビオレックス爺さんが胸に手を当ててホッと胸を撫でおろしているようだ。


「アリエル、みんな見ておるぞ、手を挙げて応えてやれ。ロザリンドさんも。ほらほら」

 アリエルが手を上げると大歓声が沸き起こり、ロザリンドは女の子っぽく小さく手を振って応えている。ロザリンドの事だから、天を衝くほど拳を突き上げるかと思ってたのだけれど、こんなトコで男受けを狙うんだな……。



―― こちらボトランジュの陣


 アリエルは陣に戻ると「ハラ減ったよ」と訴えて、陣地にある食堂舎でみんなと一緒に夜ご飯をご馳走になってる。ティラピアのムニエルとテナガエビの酒蒸しがムチャクチャ美味しい。


「戦場でこんなメシ出るの? ノーデンリヒトなんかジャーキーだけのこともあったのに」

「すぐ近くに港があるからな。街が近いと調理人も大勢いるからだろう、ムニエルや酒蒸しなんか大した手間のかかる料理でもあるまいて」


 ロザリンドの育ったエテルネルファンは肉と穀物ばかりで、魚なんて転生して以来ロクに食べたことがなかったらしい。むちゃくちゃ感動しながら次々と平らげテーブルに4人前分の皿が並んだ。


 音に聞こえた絶対強者に何もさせず打倒したロザリンドは兵士たちの憧れの的になり、普段は吟遊詩人をしているという男に『戦女神』なんて異名がつけられ、どういう訳かノリで握手会が開かれて、100人以上の行列がズラリと整列した。←いまここ。


「アリエルお前というやつは。自爆したときは心臓が止まるかと思ったわい」

「反省してます……」


 あれは自爆したわけじゃなくて、アウグスティヌスの握力が弱かったか、しっかり盾を握っていなかったからなんだと口を酸っぱく説明しているところに、大仰なフルプレートメイルの男が傍らに立った。


「領主どの、私にもお孫さんを紹介してください」

「おお、アリエル。こちらがボトランジュ領軍総司令のカールシュテイン。カールシュテイン総司令、こちらがうちの孫にあたるアリエルだ。さっき会ったのだから紹介はこれぐらいでよかろう」


 カールシュテインさんはボトランジュ領軍の最高責任者。将軍と同じ地位にあたる。えらく機嫌がいいので何の用かと思ったら、やっぱりあの100ゴールドの誘拐魔の大ファンで、パシテーのサインが欲しいのだとか。サインなんかしたことがないと思うのだけれど。


 てかこの男もパシテー目当てかよ。アンタらの好きなのはパシテー役を演じてた女優さんじゃないのかと問い詰めたくなってくる。


「パシテーならマローニで留守番してますよ。戦争が終わったらまたセカに来るので、そのときにでも一緒に領軍本部を訪問しますから」


「おお、それは僥倖。それではこの戦、負けるわけにはいかないな」

 いや、いかなる理由があっても負けるわけにいかないってば。


「よし食った。ごちそうさま。さてと、いま敵もたぶん食事中なんで、今のうちに夜襲かけます。俺の魔法は見ての通りです。乱戦になったら味方を巻き込んでしまうので使えません。もし敵が突っ込んで来たら応戦お願いしていいですか?」


「キミのあの爆発の魔法を夜陰に紛れて……か。しかし敵の数が多い」

「たぶん大丈夫ですよ。ペットのハイぺリオンに空から襲わせるので、そんなに討ち漏らすこともないと思います。」


「なあアリエル、ノルドセカの戦況も報告を受けた。あれもお前たちがやってくれたのだろう? だが、いくらなんでも夫婦で三万の軍隊を相手にするというのは……」


「心配させて悪いと思うけど、俺たちはもう止まれないんだ。南のアムルタ行った時に見たんだけどさ……アムルタのエルフ女性はみんな顔に醜い悪魔みたいな刺青を入れたり、顔をナイフで傷つけて、片方の乳房を切り落としたりして自分の商品価値をなくして、やっとギリギリ暮らしてるんだよ?」


「なんと……南部はひどいと聞いておったが……まさかそこまでとは。」


「父さんには、争い事は可能な限り避けろって言われてるし、俺もそういう生き方をしてきたつもりだけど、俺の妻は魔人だし、息子は魔人ハーフだからね。もう教会との戦いは避けて通ることができないんだ。だから俺はここで、悪魔と呼ばれようが、死神と呼ばれようが、徹底的にぶっ潰す。サナトスの世代には戦争なんかない平和な時代を残してやりたいんだ」


「……アリエルお前」


「寝ていようが、剣を抜いてなかろうが、後ろからでもブッ殺す。負けを認めてボトランジュと和平を結んでも無駄。俺は個人で動いてるからね」


「あなたが死神と呼ばれたのは10歳の頃からでしょ。いまから夜襲をかけるの?」

「ズルいか?」


「何言ってるの。じゃあさ、私たちが再会した、ノーデンリヒトの砦で勇者と戦った時、私たちはてくてくもいれると3人がかりで勇者ひとりと戦って、なんとか勝てた。ねえ、あれはズルいよね? でも間違ったことをしたとは思わないでしょ?」

「そうだな」


「あれが名誉を守るための戦いだったり、スポーツだったとするならば、私たちの負けだった。でも、あの戦いは、私たちの未来を勝ち取るための戦いだった。そうよね。だから名誉だとか、正々堂々だとか、そんなこと考える必要がなかったのよ。じゃあ、この戦いは何のための戦い?」


「サナトスたちに平和な未来を残してやるための戦いだ」


「だったらあなたはノーデンリヒトの死神に戻るべき。ズルいって言われるのは正々堂々と戦っても勝てないほど強いってことなんだからね」


「分かった。俺とハイぺリオンで夜襲をかけるから、ロザリンドは突撃してきた兵を個別撃破お願いできるか?」


「ハイぺリオンが夜に奇襲して私の出番があるとは思えないけど、あなたは自爆に気を付けて。ハイぺリオンの炎や瘴気に巻き込まれないようにね」


「アリエル? 何を言っておる? はい?ぺり?」

「爺ちゃん、念のため戦闘の準備だけしておいて。俺は今から夜襲をかけてくる。いくぞ、ハイぺリオン!」



 キュ――――ィッ!


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