06-05 教会の非道
預けた魔導結晶は、てくてくが卵のように闇の瘴気を纏わせて温めることにより、明日には魔毒晶が出来上がるらしい。
「今日はもうおとなしく寝てるがいいわ。あまり無茶すると余命がなくなってしまうのよ」
客間がいっぱいでもう部屋がないので、シャルナクさんに許可をもらい、庭に大きめのコテージを建てさせてもらって、ベッドやら台所用品やら、生活必需品をストレージに移して移動することになった。パシテーの作品だから文句は言わせない。しばらくタイせーはここで住まうことになる。
ひと段落したところで、コーディリアに袖を引っ張られた。
「ねえアリエルー、なんで魔導結晶なんて持ってたの? 転移魔法陣ぐらいしか用途ないよね?」
転移魔法陣は神々の道と呼ばれていて女神ゾフィーが作ったこと、今でもアムルタ王国とエルダーとドーラの神々の道は現役で使えることを説明すると、いつも元気いっぱいのコーディリアが更に五割増しの元気で目を輝かせた。
魔導学院に通うコーディリアの研究テーマがエルフのロストマギカなんだそうだ。
そして起動式を網膜に映すわけではなく、岩のような堅いものに直接書いて、マナではなく魔気で動作させる魔法陣という設置型の魔法装置そのものが失われた魔導、つまりロストマギカであり、もうこの世界に使い手はいないとされている。
転移魔法陣は研究テーマに合致するので、興味深々なのだ。
でも勇者たちがアルカディア人だってことは眉唾モノで信じちゃいないので、それについてはどうだっていいらしい。
コーディリアの興味は転移魔法陣と、あと『女神ゾフィー』のことだった。
コーディリアも女神ゾフィーという名前までは知っているけれど、その存在すらあやふやで、神話にも出てこない。数万年分の神々の名前が羅列されている名簿にも女神ゾフィーの名は記載されていないそうだ。もちろん神籍をはく奪されたとしても名簿には記載されているはずだし、いつ神籍をはく奪されたか? まで遡ることができるので、女神ゾフィーの名前が記載されていないこと自体おかしいのだそうだ。
だけど、師グレアノットの話では王国中の図書館にある書物は検閲され、特に歴史書の類はほとんど焚書の憂き目にあったそうだから、現存している歴史書は教会の検閲済み。もちろん教会の都合のいいものしか残っていないか、もしくは改変されていると考えるべきだ。
その点についてはコーディリアだけじゃなく、魔導学院でも常識らしいのだけど、女神ゾフィーという名前は、意図的に情報操作される前の、つまり検閲を逃れた歴史本にのみ名前が出てくるのと、コーディリアの母オフィーリアが名前だけ知っていること。さらには魔導学院の調査では大陸北部のシェダール王国ではなく、より南部の小国が連なる南方諸国のほうでは伝わっている伝承があるとのこと。
南方でゾフィーは、戦神として祀られている。女神は女神でも、戦神ゾフィーなのだとか。
「ドーラでは神々の道を作ったという話を聞いたよ」
「神々の道って? 転移魔法陣のことなの?」
「ああ、そうなんだ……」
コーディリアに質問攻めにされているところ、あっちの方でシャルナクさんとお茶を飲んで喉を潤していたオフィーリアさんが反応した。
「神々の道? ならセカにもあったと思う。聞いたことがあるわよ?」
重大な情報を……。
「マジで!? どこ? どこに?」
いやもうグイグイと食いついてしまったのだけれど、どうやらセカの中心にある丘には神殿があったらしい。でもオフィーリアさんがセカに来た時すでに丘のてっぺんには神聖典教会が建っていたので、確認したわけじゃないとか。
でも神々の道の上に教会が建ったのだとしたら、エドやフェアルの神々の道から中央の石板で飛べなかった理由がなんとなく想像できるというか……。そこに転移魔法陣があって、今は教会の手により使えないようにされてしまったか、若しくは、破壊されてしまったかのどちらか……なのか。
「シャルナクさん、本当に転移魔法陣があるなら、教会なんてぶっ壊して更地にしてしまえばいいよね」
セカに転移魔法陣があったらどこに行くにも近くて便利だし。
「あはは、そうだなアリエルくん。キミたちには教会を破壊する権利がある。賞金首にされてしまったのだからな。じゃあメシでも食ってから神聖典教会へ行くかね? ムカムカしてたらハラが減ってしまったよ」
「たしかに……」
アホのアーヴァインが乱入してきたんで昼になっちまったけど、ここで飯を食ってから気を取り直し、またみんなして教会に意思表示しに行くことになった。アーヴァインの飯はクレシダが運んでくれたようだが、アーヴァインの嫁たちは、ここに置いてもらう以上は私たちも働きますと志願し、しばらくはベルセリウス別邸で家政婦として家事全般を手伝うこととなった。帝国にいたころしっかりと叩き込まれたんだそうだから、帝国料理なんてのも期待していいだろうか。
ポーシャとクレシダ二人ではもはや面倒見切れないほどの大所帯になってしまったので願ったり叶ったりといったところか。ただし二人のうち一人はじっとアーヴァインについててやるという条件で。
だけどドロシーはアーヴァインの従者からアリエルの客にクラスアップしたのでポーシャが頑として雑用などの仕事をさせないし、家事全般には手を出させなかった。アムルタ料理の味を再現してほしかったのだけれど、それは次フェアルに行ったときにでもお願いしよう。
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アリエルたちはベルセリウス別邸から神聖典教会マローニ支部に向かう行列の中にいた。シャルナクさん、ビアンカ、ロザリンド、オフィーリアさん、コーディリアさん、パシテー、サオの八人。
てくてくは魔毒晶の作成に集中してるのとサナトスの護衛で残ってくれた。
ハイぺリオンはさすがに……こんなとこで出すとパニックが起こるかもしれないから出せないのだけど、みんなにお披露目しておきたいところだ。
中央の通りを教会に向けてゾロゾロと練り歩いて冒険者ギルド前に差し掛かったところで中からポリデウケス先生やハティ、ユミル、カーリ、メラクとアトリア。なんとマブまでが出てきた。誰だっけか下級生(とはいえアリエルより年上)の星組の後輩や、サオのクラスメイトだった奴らもいる。
どうやらみんな大喜びで2000ゴールドの賞金首の顔を拝みに来たらしい。
「アリエル、久しぶりだな。みんな揃ってどこ行くんだ? 朝起きたら歩く金塊になってましたっていう感想聞かせてくれよ。わはは」
狩人としてギルドに所属するユミルはナンシーとの間に二人目がデキたんだそうだ。
ナンシーなんて可愛い子をよくも手籠めにしやがって……。
「ユミル久しぶり。二人目がデキたんだって? おめでとう。ギルド酒場で一杯おごってやりたいけど、俺たち今からちょっと買い物に行かなきゃいけなくてさ……。教会に」
「わはは、ケンカを買うつもりなんだな」
マローニにアルトロンドが攻めてくるらしいという事はもう皆が知る周知の事実だ。
兵士じゃなくても冒険者なら当然軍に志願するし、マローニが攻められるなら商人だって剣をもって戦うのがボトランジュの戦い方らしい。
なるほど、男も女も剣をもって教会に行く理由が少しわかった気がする。
「教会に行くなら俺たちも行くぜ。教会もアルトロンドもみんなぶっ飛ばす」
「よおし、私に続けー」
ハティが声を張り上げるとポリデウケス先生が拳を振り上げて皆を扇動する。
ポリデウケス先生は酒が入ってさえいなければカッコいい熱血教師だ。なぜかシャルナクさんを追い越して先頭に立ち、皆を率いるように教会へ向かうことになった。
星組の後輩たち、サオの同級生たちも並び、ギルド酒場で顔を見たことがあるだけの冒険者たちも混ざる。ポリデウケス先生のすぐ横にギルドのスカジ・ダウロス支部長まで並んだ。
街ゆく人の中にも押っ取り刀で「私は軍の予備役だ」とか言って割り込んでくるものもいて、まるでデモ行進のようになり、当初八人で屋敷を出たベルセリウス家の行進は冒険者や通りかかった領軍の予備役兵を巻き込み、通りの北に差し掛かったころには30人にまで膨れ上がった。
ずっと平和で、戦争なんて考えたこともなかったマローニの住人たち。だいたいが女神ジュノーを信仰しているが、必ずしも神聖典教会の信者ではない。
教会はマローニ北、マラドーナ装品店の角を曲がって魔導学院の北側に位置する。
塔のてっぺんにそびえ立つ雌記号に似たアンク(♀)と、オレンジ色の瓦が鱗のよう重なる美しい建築のこじんまりとした建物が見えてきた。
小さな町の小さな教会。これがマローニ教会であり、ユミルとナンシーはここで結婚式を挙げたのだそうだ。そんな思い出の場所に今度は剣を持って押し入るのだから少し悪い気もする。
が、建物の前に神殿騎士が二人ほど屯していた。
「あれ? マローニには神殿騎士なんて居ないと思ったのだけれど」
「戦争になることを見越して先に派遣されて来たのか」
ポリデウケス先生が違和感を口にした。そうだ。その通りだ。こいつら戦争になることが分かってるから、教会を守るため神殿騎士が派遣されたんだ。
「王都から神殿騎士団が来たとすると、この侵攻はかなり前から計画されてたってことになるな」
シャルナクさんの読み通りだろう。予め戦争になることが分かっていてマローニに来たのだ、そしてすでに武装しているならば手加減はいらない。
前を行く者たちは神殿騎士たちを視認すると、柄に手をかけつつ行進がすこし足早になる。
神殿騎士たちもたった三人では剣を抜くことも制止することも出来ず礼拝堂への進入を許してしまった。
中の信徒席にいた司祭は外の騒々しさに振り返り、身の危険を感じたのか足早に礼拝堂奥の祭壇の方へと下がると、シャルナク以下、抜剣した30人と向き合った。
二人の神殿騎士が遅ればせながら司祭に駆け寄り、両脇を守るように固めた。
役者が揃ったことを確認すると、シャルナクさんが一歩前に出る。
「シャルナク・ベルセリウスである。司祭に用があって参った」
薄暗い教会の礼拝堂。今日は礼拝に来た信者もいない。だが、前の祭壇だけは無数のロウソクの炎が揺らめき、優しい光に彩られていた。
シャルナクさんが口上を述べようとした矢先……アリエルの目に入ったもの?
すぐ足もと、祭壇に敷かれた明るい茶色の毛皮。一枚ものの、とても大きく暖かそうな毛皮を敷物にしているのに気が付いた。
あの毛皮に刻まれた左腕の、小さな火傷には見覚えがある。
額の左に付いていた刀傷にも見覚えがある。
……フラッシュバックする記憶に息ができなくなりそうだ。
アリエルはシャルナクと司祭の間に割って入った。
「お……降りろ! おまえら! 汚ねえ足でそれを踏んでんじゃねえ!」
最初アリエルが何を言ってるのか分からなかったロザリンドも、サオも瞬時に記憶が溢れだす。
サオは前に駆け出すと、しゃがみこんで『それ』に手を触れ、その手から伝わる感触で多くのことを確かめた。
こいつら……エーギルの皮を剥いで敷物にしてやがった……。
「そこから降りろ。踏むなといっている!」
声を詰まらせながら司祭や神殿騎士たちに警告し、ロザリンドは柄に手をかけた……、
だけどこんな非常時だからこそ、ロザリンドは一瞬だけ深呼吸をして思い留まった。
昔ドーラに居た頃、頭に血が上ってしまい、ダフニスをマジ殴りしてしまったときのことがフラッシュバックして、怒りの暴発を抑えることができたのだ。
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「なあロザリンド、うちのダフニスが何を言ったのかは知らん。何をしでかしたのかも知らん。ダフニスには殴られる理由があったんだろう。だが、怒りに任せて力を振るっちゃいけねえ。それは禍根を残す力の使い方だ。頭に来ちまってもうどうにも我慢できねえって時はだいたい頭が酸欠起こしてんだからよ、そんな時は深呼吸して脳に酸素を送ってやれ。そして考えるんだ。今ここでその力を使っていいのか? ってな。皆にそれができりゃ争い事なんてそうそう起こるもんじゃねえし、戦争もお前らの代までは続かねえんだがなあ」
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ロザリンドの手は怒りに震えたまま柄に掛かったが、瞑目し、ゆっくりと深呼吸をすることで震えが治まった。
――― ドッ! ゴァッ
ロザリンドを察してか、サオが先制の行動を起こす。
二枚の盾は神殿騎士たちを容赦なく追い立て、祭壇の上から叩き下ろした。
ロザリンドとサオがエーギルに駆け寄り、手繰り寄せようとすると司祭は狼狽えて下がろうとしたのか、段差を踏み外し転倒してしまった。まるで理不尽な暴力を受けた被害者のような表情で立ち上がると、やれやれとばかりに腰をさすりながら、その軽い口を開いた。
「大罪人アリエル・ベルセリウスだな。異端者よ、己が罪を顧みよ。女神ジュノーは汝の罪を赦されるであろう。この聖なる礼拝堂は汚らわしい亜人どもが勝手に入ってよい場所ではない。そこな亜人のメスどもを連れて早々に立ち去るがよい。まったく、汚らわしい。後で清めるのが大変ではないか」
司祭はなぜ怒りを買ってしまったのかをまるで理解していなかったのだ。まるで、これっぽっちも。
誰かが言った。言葉が通じなければ心も通じないと。
そんなのウソだ。心が通じなければ言葉が通じてもまるで意味がない。言葉だけが通じたとしてもここまで価値観の違うような者とは心が通じないんだ。
おそらく子どものころから教会の中だけで蝶よ花よと暮らしてきたのだろう。世間知らずと一言では説明できないほどに想像力が欠如している。
ロザリンドが、サオが、どれほど悲しいのか、どれほどの喪失感を感じているのか、どれほどの虚無感に苛まれているのか、どれほどやり場のない思いに胸を締め付けられているかををまるで理解できないのだ。
このような者にここで布教させることはサナトスたち次世代の子ら孫らのためにならない。
アリエルはとても残念そうに口上を述べ始めた。
「そうか、ならば遠慮なく。ノーデンリヒトの恩人エーギル・クライゾルの魂の安息のため、アリエル・ベルセリウスが汝の血をもって聖なる礼拝堂を清めよう」
アリエルが剣を出そうとした刹那、空気を切り裂いたような音が聞こえると、まずはこの礼拝堂を薄暗く柔らかな明かりで照らし出していたロウソクが何本か真っ二つにズレ、その場にいた者たちは時間が止まったかのように動きを止めてしまった。
―― カチン
礼拝堂に鍔鳴りが響き、ロザリンドの刀が鞘に収まったことを知らせると、先ほどまで炎のような怒気を漲らせていたロザリンドは、もう興味を失ってしまったかのように背を向けるとサオが巻き取ったエーギルを両手で、しっかりと受け取った。
「そうか、その人はノーデンリヒトの恩人なんだな」
「ああ、敵だったけどね。砦の撤退戦のとき父さんたちを見逃がしてくれた恩があるし、戦争を終わらせたがっていた」
「弟の恩人じゃないか。手厚く葬らせてほしい。司祭っ! 獣人も魔人もエルフも、みな等しく人だ、よくも土足で踏みつけようなどと」
シャルナクの恫喝に司祭が何かを言い返そうとしたところで首の傷口が開き、血液がまるで滝のように流れ出だした。もう手で押さえたところでどうしようもない。鍔鳴りのしたとき、司祭は既に葬られていたのだ。
護衛の役目を果たせなかった神殿騎士たちの目にもいまのロザリンドの太刀筋は見えていなかったらしい。その姿から慌てふためているのが手に取るようにわかる。
「さて、どうするかね神殿騎士の諸君。一戦やらかすかね? やるのなら諸君らもここで血を流して司教に殉ぜよ。やらぬのならこの場に剣を置いて即刻このマローニを出て行くのをお勧めするが?」
神殿騎士たち三人は言われた通り剣を地面に投げ、這う這うの体で逃げ出すように教会を出て行った。
どうせノルドセカあたりに集結している後続と合流して、せっかく拾った命を散らすのだろうけれど。
教会関係者が誰一人いなくなってしまった礼拝堂の中、倒されてゆっくり死んでゆく司祭を見ながら、ポリデウケス先生が残念そうにつぶやいた。
「なあ、アリエル、私にも何かしゃべらせてほしかった。せっかくカッコいい口上考えて来たのに……」
「先生の時代は終わったな。次の劇場公開はアリエルが主人公だぜ。な、2000ゴールドの賞金首!」
ハティの言いようがひどい。
アリエルはもう二度と脚本家とは絶対に話をしないと心に決めてるから、たとえ需要があったとしても2000ゴールドの賞金首が上演されることはない。
どやどやと教会から出る30人。
何だかみんな肩をいからせて勇ましく、足早に歩いてるように見える。
―― ドーン!……ガラガラガラ……。
別に壊す必要もないのだけれど屋根の上のアンクだけは破壊せずにはいられなかった。
まさか教会関係者とは、考え方というか認識そのものについて、これほどの隔たりがあるとは思わなかった。教会がこの地にある限り、ノーデンリヒトは常に脅威にさらされるし、サナトスらの未来は明るくない。
男エルフは労働奴隷に、女エルフは愛玩奴隷に、獣人は毛皮に……か。ある意味シンプルでとても分かりやすい。人族以外は人にあらず。人だけが優良種で他は劣等種か。
胸糞が悪くなるほどシンプルな理屈だ。
エルフ族には寿命も魔力も足元にも及ばない。
獣人たちにはスピードも力も、まったく及ばない。
この世界に創造神なんてものが居たとするなら、その神に愛され寵愛を受けているのは獣人やエルフであって人族じゃない。人族は神の寵愛を受けることが出来なかったから、他種族を支配することで上に立ち、優越感を得ているだけだ。ただ、大勢であるがゆえに、憎しみが止められない。
そしてその憎しみの根源は嫉妬からきている。
人族が多種族と比べて劣っているからこそ生まれる嫉妬。それを利用して支持を得ようとする宗教団体と、エルフを奴隷にすることで莫大な利益が生まれることから利権が絡み、目もくらむような金を得たことで、権力を掴んだ者たちが、更なる豊かさを求めてボトランジュに攻め込もうとしてる。。
単純に攻めてくる兵士たちを倒すだけじゃ何も解決しないだろう。
「ロザリンドさん、1時間で棺を用意させる。しばらくはそのままで」
シャルナクさんが棺を手配してくれたのでエーギルはようやく静かに眠れることとなった。ドーラに帰すか相談したのだけれど、遺品はもう家族のもとに戻っているから力尽きて倒れた土地の静かなところに埋葬してやればいいのだとか。
エーギルはマローニからノーデンリヒトの方に出て少し行ったところ、周囲を広く見渡せる小高い丘の上、大きな木の根元に埋葬することになった。戦士の墓なんて、これでも上等なのだそうだ。
葬儀もなければ墓標もなくていい。
「本当にこんなんでいいのか?」
「そうね、ねえあなた、エーギルはどんな人だった?」
「え? 俺に言わせるの? この場で?」
「うん。遠慮なく、正直に。言いたいことはないの?」
「あー、そうだな。今思い出しても震えがくる、ムカつくほど強かったよ。もしあの熊野郎が生きていたらブン殴られた恨みを晴らしてやりたいぐらいには惜しい男だ」
「あはっ、最高の弔辞ありがと。あなたにそこまで言わせた戦士は、この世界でもきっとエーギルだけ」
「褒めてないからな」
「エーギルもあなたに褒められたら気持ち悪いって言うわよ」
「ははっ、違いない」




