06-04 タイセーなりの正義
「はいオシマイ! ハイペリオンよくやった。もういいよネストへ戻って。パシテーも闇魔法の拘束を解いてあげて。ドロシーにケガは? 確認して」
「大丈夫なの。この人強いの」
ドロシーはハイペリオンの威圧を受けたのでそれなりに精神力が疲弊していたけれど大丈夫そうだ。立ち上がることすらできず地面にぺたんとへたり込んでしまった他2人のエルフたちと比べたら立って話ができるだけでも大したものだ。
もちろん涙ながらに座りい込んでる2人のエルフたちにもケガはない。
ケガしたのがタイセーだけで本当によかった。
タイセーによると治癒師のエルフは召喚時に特典としてもらった側女で名前はエマ。タイセーが勇者アーヴァインとして帝国に貢献したことで奴隷の身分でありながら、その妻になることを許された。
魔導師のバーバラもタイセーが貢献したことで側女を増やすことが許されたとかで、この人も奥さんになるらしい。ちなみにバーバラはもともとディオネに与えられた側女だったけれど、ディオネは奴隷制を否定していたのでまずはアーヴァインに預けられ、その後正式に譲渡という形になったそうだ。
「なあミツキ、ノーデンリヒトの噂を聞いたんだ。エルフに自由を与えてくれる国なんだろ? 帝国のエルフたちはみんな噂してる。なあ、ノーデンリヒトはあるんだよな?」
ロザリンドにシバかれて片目が塞がったホラーな顔で憧れのノーデンリヒトみたいな話をするタイセー。アリエルにしてみればノーデンリヒトって『あるorない』といった、そういう次元の話なのかと。
まるで天空の城とかアンドロメダ終着駅みたいな言われようだが、エルフに自由を与えてくれる国というのは、認識としては間違ってない。
「別にノーデンリヒトまで行かなくてもいいんじゃね? ボトランジュでもエルフは自由だぞ? 奴隷なんか認めてないしな」
「ボトランジュは逃亡奴隷を受け入れない協定結んでるんだよ。逃げ込んでも強制送還されるのさ。おまけに俺たちが通ってきたとき、アルトロンド軍が集結しはじめてたからな、どうせ戦争が始まるんだろ? ボトランジュは危ういよ」
帝国からアルトロンド経由でボトランジュ入りしたのだから、その途中で各地の情勢も見てきたのだろう。タイセーは大切な妻たちを逃がすのにボトランジュでは不安が残ると言ってる。
見透かされたようなことを言われて、ちょっと悔しい気持ちはあるけれど、それが現実だ。
「タイセー、ノーデンリヒトの件はアリエルに任せとけばいいよ」
ロザリンドに言われるまでもなく、別にタイセーのために何かしてあげたいなんて事もなく、嫌が応にもノーデンリヒトにはエルフの難民たちが集まるのだろうな。奴隷の烙印があってもエルフを受け入れる駆け込み寺のような役割を求められることになる。これが続くとアルトロンドや帝国に攻め込む口実を与えてしまうのだけれど、タイセーが頭を下げて「俺はもうマナアレルギーで長くないから女たちだけでも助けてくれ」なんて言うもんだから、無碍にできるわけがない。
エルフの奥さんたちを全員、安全なところに逃がしてあげて、自由に暮らしてゆけるようしてやってくれと縋りつくように懇願されてしまい、アリエルは結局そんな面倒くさそうな頼みを断り切れるわけもなく、まんまと引き受けさせられた。
最悪の場合でもこの二人のエルフをノーデンリヒト難民に仕立て上げて、マローニに受け入れさせればいいか……と。こっちはたぶん簡単なんだけど問題はタイセーのマナアレルギーとやらのことだ。
「長くない? って、さっき血を吐いたアレか? それともロザリンドに殴られた傷か?」
「ははは、どっちもだよ。でも血を吐くようになったら余命は半年らしい。最初に血を吐いてからもう三カ月たったから、あと三カ月ぐらいか……」
「それは誰が言った? 占い師とか祈祷師じゃないだろうな?」
「違うよ。アシュガルド帝国はこの世界じゃ先進国なんだぜ? そんなものは信じないからな。最初は軍医に言われて、エルドユーノの皇国病院に行って検査したけど、間違いなかったんだ。ちゃんとセカンドオピニオンまで受けたけどな」
ショックだった。
せっかく会えた生のタイセーが、あと三カ月で死んでしまうなんて考えたくない。カリストさんのような治癒魔法師は帝国に行けばいるだろうし、やっぱり高位の治癒魔法でもダメなんだろうな。
勇者のくせに打ち込みがヘロヘロだった理由は病気だったというわけか。
剣で渾身の打ち込みを見せたタイセー自身も自分の不甲斐なさに驚いてた。体力の衰えるスピードが自分の想像よりも上いってて、まさか自分がいまこれほどまでに力を失っているとは考えてなかったんだ。
ロザリンドにボコられた分を差し引いても疲労感ありありで肩を落とすタイセーの姿。会えてよかったとは思うけど……。けど……、残念でならない。
「約束だからドロシーは引き渡すけどさ、お願いだ、ドロシーも自由にしてやって欲しい。てか、お前なんでドロシーにそんな執着するんだ? トキワ怒らないの? てかお前ガキの頃からなんでトキワに殴られないの? 瀬戸口らは深月のこと猛獣使いだっていってたぐらいだ」
「誰が猛獣だって? ああっ!」
「ちっ、違うって、ほら、ちょ、深月助けてくれ。俺マジでこれ以上寿命を縮めたくねえ」
ノーデンリヒトに受け入れる云々の話をしていた時、ドロシーに触れなかったことが気になっていたのだろう。ドロシーはアリエルと目が合うと跪くでもなく、ただ首を垂れた。
「あなたが私の新しい所有者になるのですか?」
ドロシー本人も所有者が変わる程度にしか考えてないようで、その表情には喜びも悲しみもなく、ただただ無表情で視線も合わせずうつむき加減で、一歩下がった位置に立っている。
ドロシーには後でゆっくり事情を説明するつもりだったけど、タイセーが聞いてきたので、いまドロシーに全てを話すことにした。
何も言わずにフェアルの村に連れて行ってサプライズでもよかったのだけれど逃げられる危険性もある。逃げようなんて考えないようにという予防線を張る意味合いも含めてなんだけど。
「じゃあいま説明するよ。ドロシー、よく聞いてほしい。俺の友達にレダっていうエルフの女の子がいてさ、顔には大きな傷がついているけれど、可愛い子なんだよ。俺はね、レダちゃんをお母さんに会わせてやりたいんだ」
ドロシーは石像になってしまったかのように動きを止め、瞬きを忘れたまま言葉を失った。
これはまずい、もしかするとレダを奴隷にしてるように思われたかもしれない。
「あ、誤解しないで。セキとレダ、そしてタレスさんも、エドの村から、もっと安全なエルダーの森にある、フェアルって村で安全に暮らしてるから。そして、俺が責任をもって、ドロシーをフェアルの村に連れて行くからね」
「セキとレダは? 無事なんですか? 無事なんですね?……」
「ああ、安全な村に避難してるよ。タレスさんもな」
ドロシーはセキとレダが安全な村で暮らしていると聞いたらもう我慢出来なくなったようで、どれだけ泣くんだ? ってぐらいに号泣した。
タイセー曰く、今まで気丈に振る舞い、泣き言のひとつも言わなかったドロシーが、まるで人目を気にせず泣きじゃくっていた。
その泣き顔がちょっとレダに似てて、ほっこりした気持ちになったのは内緒だけど。
ドロシーの涙を見てもらい泣きしてしまうタイセー。ドロシーの手を握って、よかったね、よかったねと繰り返している。そういえば映画観てても本を読んでても感動的なシーンがあったらボロボロに泣くやつだった。やっぱ変わってないな。『泣きのタイセー』の異名をとったぐらいだし、そのボコボコに殴られた顔じゃなければそれなりに良い話なのに、残念だ。
「というわけだタイセー。ドロシーは俺が身柄を預かる。近いうちに必ず家族のところに帰すと約束するよ」
「うううっ、深月おまえ本当にいい奴だな」
「あー、えっとそれなんだけどさ、俺のことは今後ミツキと呼ばず、アリエルってことで統一してくれないか? マローニに家族がいてさ、前世とか知られたくないんだ」
「分かった。アリエルって呼べばいいんだな。トキワは?」
「私はアルデールさまだ」
「ロザリンド許してやれって……」
「だってこいつ、あなたに剣で斬りかかったんだよ? なに友達ヅラしてんのって思うよね?」
「知らなかったってことで許してやろう。今回だけ、今回だけでいいから」
「しかたないなー。アホタイセーおまえ次また私を怒らせるようなことしたら、お前は殺さず、そこのエマとバーバラとかいうエルフの目の前で引き裂いてやるからな」
「うわああああああぁぁ、ミツ……、いやアリエルたのむ。常盤を止めてくれ」
「ロザリンドやめとこうって」
「フン! 今回だけだぞ、命拾いしたな帝国エルフども」
「ありがとうアリエル、お前やっぱり猛獣使いだ。ほんとエマとバーバラを守ってくれ。頼んだぞ」
とりあえずこの場は、タイセーがボコられた以外は丸く収まった。タイセーがロザリンドにボコられるなんて全然大した出来事じゃないので、この場は丸く収まったと言うべきだろう。
あとはそうだな、タイセーの身体を蝕むマナアレルギーとやらはてくてくに見せるほうが早い。
「とりあえずうちに来てくれ。医者じゃないけどマナに詳しい人がいるから、ちょっと見てもらおう。何か分かれば儲けもんだし」
ベルゲルミルやカリストさんたちは、この世界にきて初めて己のマナを使うようになった日本人が、その体の急激な変化についてこられず、マナが体質に合わない人がいるって言ってた。
帝国の方でも多くの死者を出してるってことは、言葉を返せば、帝国の見立てもあてにならないってことだ。マナのことは専門家のてくてくに相談するのがいい。
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マローニに戻ると、シャルナクさんもオフィーリアさんも、みんな心配して街の入り口のところまで出ていて、敵味方一人も欠けることなく全員でノコノコと戻ってきたもんだからみんな心配して駆け寄ってきた。
「アリエルくん、無事だったか。まさか教会の動きがこれほど早いとは考えていなかった。ところで、なぜ勇者たちと一緒に帰ったか聞いてもいいかい? ……しかもこの人、大怪我してるじゃないか」
「ああ、ごめんごめん、こいつ勇者だけど、俺たちの古い知り合いでさ、早い話がロザリンドの舎弟だったんだけど。それが……、知らずにケンカ売りに来ていまボコられたトコ」
「舎弟? 子分みたいなものか?」
「生意気でした。サーセン」
深く頭を下げるアーヴァイン。吐いた血よりもロザリンドにボコられて流れた血のほうが遥かに多いように見えるが……まあ腐っても勇者だからそう簡単には死なないだろう。
「あの、治療してもよろしいでしょうか。許可をいただきたいです」
「いいだろ? ロザリンド」
「ま……そうね、アリエルがそう言うなら今回だけは見逃してあげるけど、わかってるだろうな?」
エマさんは3分ほどかけて治癒魔法を唱え、アーヴァインの外傷を治癒してみせた。
エマさんはノーデンリヒトに行っても食いっぱぐれることはないだろう。治癒魔法は教会が独占している門外不出の魔法なので、魔族にはほとんど伝わらない。ノーデンリヒトにも満足に使える人はいないのだから。
教会にケンカ買いに行くところ、出鼻を挫かれた感はあるけど、こーんなに遠いところ、旧友が訪ねてきてくれたのだから、やる気満々で屋敷を出たシャルナクさんやビアンカには悪いけど、順番を前後させて、まずはタイセーをてくてくに診てもらうため屋敷に戻ることにした。
皆また居間に集まった。どうやらみんな勇者アーヴァインに興味があるようだ。
「マスター? どうしたのよ?」
「ああ、すまんてくてく、ちょっと見てほしいんだよ。こいつ」
てくてくを見たエルフの三人は瞬間的に畏まって一歩下がり。
バーバラはその場で目を伏せてお辞儀をしてみせた。帝国のエルフにも精霊信仰が残っていたとは思ってもみなかった。
「せ、精霊さま……ですよね?」
「初めて見ました」
初めて……か。帝国に精霊はいないのだろうか。てくてくの話によると精霊は神々の道に発生した魔法生物らしい。帝国にもでっかい転移魔法陣があるんだから精霊の一柱や二柱いても不思議じゃないのだけど。
「マスターの従者、てくてくなのよ」
「タイセーの奥さんたちは帝国出身なんだよ」
「ふうん。で、この男は、アルカディア人かしら?」
「うん、そしてマナアレルギーを起こして死にかけてる。あと3か月の命らしい」
「マナアレルギー? それは何かしら。ちょっと診せてみるのよ」
てくてくは眉根を寄せつつ、タイセーの胸や腹に手を当ててマナの流れを探っている。
ほとんど、じっと目を閉じて探っていたけれど、数分後には何度も頷きながら納得した様子で絶望的な真実を伝えた。
「3か月なんて無理ね。2~3週間。もってもひと月なのよ」
…………っ!
タイセーの妻たちは驚いて言葉も出ない。バーバラはその場に立ち尽くし、エマは膝から崩れ落ちてぺたりと座り込んでしまった。この世界のどんな人よりもマナに精通する精霊がもうダメだと言ってるのだ。それは酷く急な余命宣告だった。
だがしかし。それでもタイセーは少しも表情を変えることなく、腰を抜かした様に座り込んだエマの手を引いて立たせてやると、まるで今告げられた自分の余命を気にも留めてない様子でシャルナクさんに向き合って、姿勢を正した。
「この街の代表者の方ですか?」
「シャルナク・ベルセリウス。マローニの街をあずかっています」
タイセーは初対面のはずのシャルナクさんがマローニの代表だということを知っていた。こっちが帝国の事なんかほとんど知らないのに対して、帝国にはこちらの情報がダダ漏れという事だ。
情報に関してはあんまりよろしくない状況になってることが分かったけれど、よくよく考えたらマローニには神聖典教会があるんだから情報ダダ洩れなのも、当然と言えば当然だった。
「先ほどの話の通り、私はもう長くありません。勝手なお願いで申し訳ないが、私の妻たちをノーデンリヒトに……。お願いします。妻たちはハーフエルフ。奴隷から生まれたハーフ。生まれた瞬間から奴隷だったせいか自由がどういう物かも知りません」
「承知した。一旦ノーデンリヒトに受け入れられたらもうノーデンリヒト人だからな。そうしたらマローニでも受け入れられる。シャルナク・ベルセリウスが約束しよう」
タイセーが仰々しく踵を鳴らしたあと深々と頭を下げて何を言い出すかと思えば、自分が死んだ後の妻たちの自由をお願いしますという事だった。
シャルナクさんは性格がのんびり屋さんで、一刻も早く援軍を出したりということに関しては全くもってアテにならないが、夫婦合わせて2500ゴールドの賞金首でありながら、まったく平穏な日常生活を送らせてもらっている身としては、シャルナクさんの持つ影響力を認めないわけにはいかない。シャルナクさんの背後で女性を守ってもらうということであれば本気で頼りになる男だ。
畏まって表情が堅いタイセーに『シャルナクさんが約束してくれたらもう安心だよ』と言ってあげようとした、その時、てくてくが横から口を挟んできた。
「話を最後まで聞かなくていいのかしら? 間に合えば2年ぐらいなら延命できるのよ? そのあとはもう確実な死しか残ってないけど? それでもいいなら」
最初に絶望を宣告しておきながら後で希望をチラつかせるてくてく。性格が悪いったらありゃしない。
「マナアレルギーっていうから分からなかったけど、魔抗血症なのよ。初期の段階なら助けられたのだけど、もう手遅れ。この病気はマナが病原体に対抗するのにちょっと攻撃的になりすぎて、正常な自分の体を攻撃してしまう病気なのよ。稀にエルフの子どもに発生するわ。……小さいのでいいから魔導結晶を。それをアタシが魔毒晶に変化させるからそれを丹田に埋め込むがいいのよ」
「精霊さまおやめください。主人が死んでしまいます」
治癒師のエマが慌てて懇願する。そんなことをしたらどうなるか分かっているのだろう。
「そう、確実な死は魔毒晶によってもたらされるのよ。でも、丹田に魔毒晶が埋め込まれたら、マナは正常な自分の体を攻撃する余裕なんてなくなって毒素を中和するほうにかまけるのよ、だから魔抗血症のほうは治る。うまく調節すれば2年ぐらいなら生きられるわ。1年半ぐらいはピンピンしてられるのよ」
治癒師のエマにも理解できたようだ。
残り2~3週間と言われた余命を2年に延ばせる。そこまで話を聞いてもタイセーやエマさんたちの表情は暗い。何しろ魔導結晶のように高価なものは勇者とはいえ一般の帝国民が所持するようなものではないのだから。
「魔導結晶、もってないのか?」
「あれは値段が鬼高いくせに使い道もないからな。貴族サマと女神教団ご用達だよ。俺たちに手が出るようなもんじゃないんだ」
「パシテー、持ってたよね?」
「うん、これ。使ってあげるの」
パシテーが持っていたのは指輪にあしらった、小さな魔導結晶だった。
万が一のことを考えて、パシテー単独でも神々の道を通れるようにと、非常用に保管していたもので、以前、王都西側のサムウェイ地区の宝石店でパシテーが買うのを渋った50ゴールドの魔導結晶だ。
まあ、その宝石店が神殿騎士詰め所のすぐ目の前にあったせいで目ざとい神殿騎士どもにイチャモン付けられ、アリエルの首に懸けられた賞金を押し上げてるわけだが……そんな苦労をしてまで手に入れた物を、教会から送り込まれてきた勇者に使うとなると、相手がタイセーじゃなければ、出そうとした手が引っ込んでしまう。それぐらい高価な品なんだ。
『いざというときに使う』と言って無理に高いものを買っておいた、今がその『いざというとき』なのだから、パシテーもホッと胸をなでおろしている。
「兄さま、また買ってほしいの」
「分かったよ。まあ、いざとなったら俺の賞金2000ゴールドで買おう」
「アリエル――――、ありがとーう。お前はやっぱ俺の親友だよ」
「うるせえ、お前さっき俺を殺す気で思い切り斬りかかってきたくせによく言うよ。勇者って待遇いいんだろ? 高給取りだと思ってたんだが? なんでおまえそんなに貧乏なんだ? 装備品も普通のハガネだし」
「ドロシーを身請けするのに500ゴールドかかった。そのローンでうちは貧乏なんだ」
奥さん2人もいるのに、借金してドロシーを買ったなんて信じられないアホだ。
いや、金に換えられない価値があるのは認めるけどさ。
「呆れて開いた口が塞がらないよアホバイン。最初に奥さんもらったんだろ? なんで借金してまでドロシーを買う必要があるんだよこのスケベ」
「通りかかった奴隷市場でドロシーの目に惹き込まれた。それが理由だよ。無理やり知らない土地に連れてこられて、帰れなくされて、自分がやりたくないような事でも無理やりさせられるんだぜ?……俺たち召喚者と何が違うんだ? 同じだよ」
タイセーは檻の中から外を見つめるドロシーの虚ろな瞳を見ていると、檻の中も外も同じようなもんだと思ったんだそうだ。
ちょっと説教してやろうと思ってたのに、心にグサッと刺さる話を聞かされ、俺のほうが言葉を失ってしまった。タイセーにかけてやる言葉もない。
ただ待遇が違うってだけだけで、召喚勇者たちもエルフたちと同じ。帝国の奴隷に過ぎないんだ。




