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04-28 郷愁のアルカディア★

改訂時、時系列の整合性を持たせるため小変更。




「なっ」


 スヴェアベルムじゃあ聞いたことのない言葉、誰も知らないだろう国の名前、それを知っているという、その事実こそがおかしい『日本』に反応して、ベルゲルミルに掴みかかろうとするロザリンドを止めた。


 驚いた……という表現ではとても言い表せない吃驚きっしょうに呼吸を忘れてしまった。


 文字通りの意味で『耳を疑う』なんて経験をしたのも、生まれて初めての経験だった。まさか日本なんて単語がこいつらの口から出てくるとは思いもしなかったのだから。


「へえ、お前ら知ってやがるな。やーっぱりなあ、日本刀に似た刀剣を振り回してるもんだからまさかとは思ったが……まあ俺たちみたいな勇者崩れは帝国に行きゃ珍しくもねえしな。お前の持ってた刀、ありゃあ日本からきた召喚者が打ったんだろ?」


 ベルゲルミルの口からこぼれてくる言葉一つ一つが驚愕だった。総合するとベルゲルミルは日本人で、帝国に行けば珍しくない存在。そして、召喚者とは、恐らくこれは想像でしかないのだけれど、召喚魔法か、それに類似する魔法があって、少なくない数の日本人がアシュガルド帝国に住んでいるということなのか。


 情報は喉から手が出るほど欲しいが、こちらの情報はこいつらに知られたくない。もし万が一、日本に残してきた家族の安全が脅かされるようなことになったら助けにも行けないし、人質に取られでもしたら手も足も出なくなる……。さて、どうしたものかと頭の中で皮算用してみたところ、アリエルは向こうの出方に会わせて話を合わせておくのが得策だろうと考えた。


「まあ、そんなところかな。ところで日本ってどこにあるんだ? 日本に行きたければ帝国に行けばいいのか?」


 しまった、ちょっとストレート過ぎたか。


「ほっほっ、日本に興味があるのか。うーん、日本というのは四つある世界の上位、この世界の言葉では"アルカディア"という世界にある、小さな国なんじゃが、わしらはそこから召喚されたんじゃよ。残念ながらこちら側から上位世界に行く転移門ゲートはもう失われておるそうじゃ。つまり、お主は日本に行けぬし、わしらはもう、帰りたくとも帰れんのじゃ」


「アルカディアか……そういえば神話で出てきたなあ。あれって本当の話なの? 神話戦争とか。神々とか、マジで居るの?」


「それは分からん、わしは70年前に、ベルゲルは15年前にこの世界に召喚されてきただけじゃからな。ディオネは10年前じゃったかの」


「そんなベテランじゃないわ。私は5年前」


「みんな日本から来たのかよ」

「そうじゃよ、お主もキャリバンを倒したからというて油断せんことじゃ。勇者の代わりなどいっぱいおるからな。神器が失われたのは想定外じゃが……神器に準ずる装備品はいくらでもある上に、帝国では5年に一度、召喚の儀が執り行われ、アルカディアから勇者候補が続々とこちらに召喚されてくる。わしらはアシュガルド帝国の神聖女神教団しんせいめがみきょうだんからシェダール王国の神聖典教会しんせいてんきょうかいに譲渡された戦力に過ぎん。まあ何と言うか、左遷されたようなもんじゃがな」


「なるほど、でも帝国の女神教団ってところに行けば、少なくとも日本からこちらに転移する門があるわけか。前向きに考えると帰り道はあるってことだよな」


「ほう、お主ら、日本に行く気か? もし行って戻ってこれるような方法を見つけたなら、すまんがわしにも教えてほしいのう」


 薄毛の戦士ベルゲルミルは賢者カリストが遠い目をして故郷に帰りたいようなことを言ったことに少し驚いた。


「なんだよ爺さん、帰りたいのか?」

「年寄りになると故郷が恋しくなるもんじゃよ。お主もさっき帰りたがっておったじゃろうが」

 カリストが故郷の日本に帰りたいというのは本当っぽい。こっちが日本に行きたいと言ってもそれを阻止しようという素振りすらみせないばかりか、戻ってこられたなら日本に帰る方法を教えてくれと来た。


 これはもしかすると、誰も損しないウィンウィンの関係を築けるかもしれない。こんな奴らと仲良くなりたいとは思わないが、日本人から帝国に来たという、その話はぜひとも聞かせて欲しいものだ。


 どうすればこいつらの気を引ける? こいつらの望みは何だろう? 何を対価にすれば協力を取り付けられるのか……。


「……あっ! そうか」


 アリエルは考えるまでもないことに気が付いた。いま日本に帰りたいと思っている自分が欲しいものを、こいつらも欲しているに決まってる。


「ちょっと足を止めさせて悪いけど、もうちょっと情報もらえないかな? 俺たちもそのアルカディアの日本に行きたいんだ。情報の対価は、もし日本に行けたら、あんたらの家族にメッセージを届ける。もし行って戻ってこられたら、その方法も隠さず教える。これでどう?」


 三人は一瞬だけ顔を見合わせたが、特にベルゲルミルが表情を変えて色めき立った。


「おお、そいつぁいい。むしろこちらからお願いしたいぐらいだ。どうせ俺たちはマローニで報告したら離反するつもりだしな。だが仲間の不利になるような情報は渡せねえ。それでいいか?」


「それでいい。預かるのは手紙と、あと小物ぐらいなら。もしかすると日本に行けなくて途中でのたれ死ぬかもしれないから、貴重品は預からないよ」


「わしの家族……親はもうとっくに亡くなっておるじゃろうから妹に手紙を書くかのう」

「じゃ、じゃあ私も。両親に手紙を書くわ」


「宛先の住所と氏名と、あと自分の名前も書いてね」


 ベルゲルミル……藤堂新吾……とーどーしんご。

「ちょ、なんで藤堂慎吾とうどうしんごがベルゲルミルなんて大仰な名前になってんだよ」


「あ、ちくしょう、お前、漢字が読めんのかよ、なんでだ? こんな字、この世界じゃ使い道ないだろ? なんで知ってんだ……、手紙読むなよな」


「ほっほっ、召喚されると教会で洗礼を受けるからじゃよ。母なる女神ジュノーの子として産まれた証に名をたまわるのじゃ」


 母なる女神ジュノーね……いったい何人の子を産んでんだこの女神は……なんて考えながら、手紙の封書に書かれた住所を横目で盗み見してみると、なんとまあ3人とも揃いも揃って、知ったような地名を書いているのに驚いた。みんな同じH市内で……、ディオネは近所だぞこれ。


 小岩井麗美こいわいれみ?……ゴルバチョフ飼ってた小岩井さんトコじゃないか。


 うっそだろ……、なんでそんなに近くに住んでて殺し合わなきゃいけないんだ? 小岩井さんとこの麗美ちゃんっていやあ、中学生ぐらいの頃に生まれたはずだ。その麗美れいみちゃんが? 5年前に召喚されてきて、いま22か23ぐらいにみえる。


「ちょっと転移した経緯を詳しく教えてほしいのだけど」


「ああ、俺は15年前に近所のファミレスでランチしてたらいきなり床が光ってな。周りのサラリーマンもまとめて12人が巻き込まれて一緒に来た。ちなみに今生きてるのは俺を含めて八人だと思うぜ。キャリバンも死んじまったしな」


 ベルゲルミルの住所から近所のファミレスってことは、国道沿いの『グースト』だ。12人が巻き込まれて来たってことは、店にしてみれば12人の客が突然消えたってことにならないのか? 12人全員が食い逃げしたとか、ニュースになってもおかしくないと思うんだが。


「わしはショッピングセンター『ライフスタイル』で買い物をしていたら、その周りの人間が九人まるごとじゃな。こちらはわし以外の人間はみな死んでしもうたわい。あれからもう70年じゃからの」


 あれ? おかしくないか? ショッピングセンター『ライフスタイル』は駅前のいちばん賑やかなところに建ってた3階建ての大型店だ。1階が食料品、2階が衣料品、3階が文具、おもちゃ、家電品などを扱ってた。そんなショッピングセンターが70年も前に? ちょっとまて、確かに生まれる前からあったとは聞いたことがあるけれど、いくらなんでも70年ってのは盛りすぎだ。


「私は……5年前に召喚されてここにきました。当時まだ高校生で、駅前の書店で本を探してたら床が光って店にいた六人と、隣の喫茶店に居た四人がこっちに来たわ。フェーベを含めて三人は死んだけど、私を含めて七人はまだ生きてると思うよ」


 話を聞いてると、転移してきた日本人、死にすぎだ。


「ちょ……生存率が低いんじゃないの? 帝国ってのはやっぱり、修羅の国か何かか?」


「おいおい、なんか酷い想像させてしまったようだが、それは違う。召喚魔法を使われて、こっちにくるとき、力の弱いものは命を落とすんだとさ。まあこれは教会の神官から聞いたんだがな。召喚されてきたときすでに何人か死んでるなんて当たり前のことだよ。だがそんな事はどうでもいい。問題なのはこの世界の病原菌やウィルスに抵抗力がないって事だ。マナの使い方を覚えて耐性を付けるのが先か、病気になって死ぬのが先かって話だな。逆にマナが体質に合わない場合もあってな、マナアレルギーっていうらしい。程度の差はあるが、マナが体質に合わない場合、だいたいはゆっくりと何年もかけて死んでいく」


「じゃあ俺たちが日本に行ったらあっちの病原菌で死ぬかもしれないのか」

「いや、お主ほどの魔導師なら心配いらんじゃろうて。マナがもつ自己再生力には自浄作用もあるからのう。この世界の人間はあまり病気にかからんのはマナの助けがあるからじゃな。我々日本人は弱い。もうちっと手加減してくれてもいいと思うんじゃがの」


 何言い出すかと思えば日本人は弱いだと……。いや、そういえばこの世界の人ってあんまり病気になったとか聞かないんだけど、そういうことだったのか。治癒の魔法はケガの早期治療がメインなのも頷ける。


「だけど勇者キャリバンは日本人じゃないだろ? 日本以外にも転移の門は開くのか?」

「ほう、よく知っておるのう。わしの知る限りではそれはない。転移してきた者たちは日本のS市か、その隣のH市のS市寄りの地域で大規模転移に巻き込まれておる」


「ちょっと待って、もしかしてこっちに来たかった訳じゃなくて、攫われてきたようなものなのか?」


「そうじゃよ? 誰がこんなところに来たいものか」


 5年おき日本のS市に転移魔法の門が開いて、召喚される側の意志に関係なく無理やり攫われてくるわけか……。そりゃ酷いな。


「帝国の側の転移魔法陣は? どこに開くか確定なのか?」

「ああ、帝都側はアルドメーラ自治区エルドユーノの街に女神聖教団の本拠地教会があるんだが、そこには大きな転移魔法陣があってそれは『ゲート』と呼ばれてる。召喚された者は必ずそこに出てくるって寸法だ。だが、アシュガルド帝国ってのは人族以外の種族はみんな奴隷になるか殺されるかだからな、魔人やエルフの姉ちゃんを連れて行くのは感心しねえぞ」


 ちょっと驚いた。下衆の極みだと思ってたベルゲルミルが、女たちを気遣ってくれるなんて思わなかった。とても紳士的とは言えないけれど、落ち着いて話さえできれば普通のオッサンにしか見えない。


 同じ日本人だったというシンパシーが後押しをしてくれているのだろうか、あれだけ憎たらしかったベルゲルミルに少しだけ親近感を覚えた瞬間だった。


「いま勇者とか、勇者候補って何人ぐらいいるの?」

「さっきから機密に食い込んでるんだが……、人数なあ」

「人数ぐらい構わんじゃろ。わしらがエルドユーノから王国側に来た4年前は帝国に残ったのは47人じゃったが、キャリバンと同等かそれ以上の力を持っておったのは12人かの。もちろん今年また勇者召喚の儀が行われておるはずじゃからな、確実に人数は増えておるよ」


「そうか、ありがとう。あんたらも帰れたらいいな。あ、最後に聞かせてほしいんだけど、勇者候補なんて力持った奴が何人もいて、それでこんな無理やりかっさらわれるようなやり方をされて、なぜ怒らないんだ?何か弱みでも握られてるのか?」


「いや、弱みなんざねえな。ただ、勇者召喚で転移してきた者は、帝国じゃ最初から結構な地位にありつける。ちょっといい家と、あと男にも女にも、まず側女そばめが与えられて身の回りの世話から、女性の前じゃ言えないような世話までしてもらえる。そして帝国への貢献度が高ければ、地位も上がるし側女そばめも増やせる。まあ、勇者候補ってなぁ、厚待遇のエリートコースなんだよ。だから大抵の者は迎合しちまう」


 パシテーとそしてサオが不快害虫でも見入る様な眼差しで、刺すような視線を送るっているのに気付いたベルゲルミルは、慌てて誤解を解くための言い訳を始めた。


「おいおい、そんな目で見るなよ、俺たちはそういうのがイヤだったからシェダールなんて田舎に飛ばされたんだからな」


「ゲヘヘヘ姉ちゃん楽しませろよ……。とか下品なこと言ってたくせによく言うよ」


「あれは演技だ。おい何とか言ってくれ、ディオネ、爺さんも……オレ本当は違うよな!」


「あれさあ、すっごい似合ってたよね。私演技とは思えなかったわ」

「そうじゃの、顔ににおうとる」


「ぐあぁ、マジかよお前ら……」


「ははは、同情するよ。なかなか男気があるんだな」

「俺は欲しい女がいたら口説いてモノにするんだよ。奴隷なんざ要るか」


「私、何度も口説かれてるんですけどね、モノにされたことはありませんから」

「おいおいディオネ、それ今いう事かよ……」


 あれでもうちょっと顔が良くてハゲじゃなければモテるんだろうけどなあ。なんか残念だよな。

 あれっ? ちょっとまてよ……、カリストさんの高位治癒魔法は欠損部位まで修復するのになんで毛根は再生しないのだろう?


「おいお前、失礼なこと考えてんじゃねえぞ!」


「いや、そんなことないって。てか心読むな! お前エスパーかよ」


「考えてんじゃねえかよ」



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