04-26 ロザリンドの憂鬱★
105話
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あの夜、伸ばした手が届かなくって、深月を救うことが出来なかった。
あれから何年経ったろう、深月を死なせてしまってから、何年ひとりで過ごしたのだろう。
ここはたぶん、地獄だ。
浅黒い肌、
節ばった手には悪魔のように鋭い爪が。そして、頭には二本の角が生えている。
物心がついたころ、母の寝室にあった鏡を見て愕然としてしまった。
なんとなく想像はついていたが、鏡で見るまでは信じられなかったのだ。
鬼か悪魔だ……。
醜い……。醜い……、鬼か悪魔になってしまった。
きっとバチが当たったに違いない。
柊を陥れた挙句、わがままで深月を死なせてしまった罪だ。
あの日、あの時、自分が死んでしまったんだなって事はなんとなく理解した。
この地獄で鬼に生まれ変わった。
こっちのお父様もお母さまたちも、お姉さまも、お兄さまも、みんな鬼……。同い年で近所の悪ガキ、ダフニスは熊だし、屋敷には狼のような人も、猫耳の人もいる。そのうち歯が永久歯に生え変わったら、きっとお母さまのように、鋭い牙が生えてくるのだろう。
こんな地獄の集落のようなところだけど、ここにはエルフ族という美しい容姿をした種族がいる。
角もなければ爪も尖ってない。肌も白くて繊細。エルフは種族的に美しい。
ロザリンドの世話をする召使いのアンテに言った。
「私もアンテのようなエルフに生まれたかったよ……」
「いいえロザリンドさま、そのようなことを言ってはいけません。エルフ族は力が弱く、戦いには向かない性質をもっているせいか、いつの世でもより強い種族の手によって支配さたり、奴隷にされたりしてきました。この世界では力のないものは自由を得ることもできないのです。この世界が開闢して以来、魔人族は何人たりとも、たとえ神であっても支配することを許しませんでした。私はそういった力にこそ憧れを抱きます」
ロザリンドが初めて美しいと思った女性、エルフ族のアンテはそういった。
自由であるために醜い鬼であれとは……酷な話だ。
白夜の夜、夕焼け空が見られる日は屋敷を抜け出して、小高い丘の上から夕陽をよく眺めた。
深月が好きだった逢魔が時の空、遠くに赤く燃える太陽にむけて手を伸ばす。
日本に住んでいた頃は別にどうってこともなく、ただ、夕焼けが赤いのは当たり前だぐらいに思っていたけれど、深月が死んでしまって、この世界に生まれてからというもの、夕焼け空を見ると涙がこぼれるようになった。
「深月は星になっても私を見てくれてるかな……。私、こんな姿になっちゃったよ」
鏡を見るのが嫌いだった。
一転して冬になると雪と氷に閉ざされ、一日中太陽が上がってこない日が続いた。
極夜には白い息を吐きながら満天の星空を見上げる。夜空の星を深月に見立てて会いに出かけた。
体のいい現実逃避なのだろう。
こんな世界、大嫌いだった。
自分を取り巻く全てを呪った。
短い夏の短い間、このドーラの草原に、丘一つまるごと花に埋もれる場所がある。
朝からこっそり花の咲く丘にいって、花を摘んで角に括りつけてみた。
我ながらちょっと可愛いかも? と思ってたところをダフニスのバカに見つかって大笑いされたもんだから、ついカッとなり手加減せずに殴ってしまって、一週間ベッドに縛り付けられるほどの大ケガを負わせてしまった。反省している。
15歳で成人すると、小さな頃からうちに出入りしていて、ちょくちょく一緒に遊んであげた3つ年下のサオが近衛侍女として配下についた。要するに召使いだ。
ちっちゃい頃のサオはころころとよく笑う子で、自分とダフニスに必死でくっついてくる健気さが可愛らしいと思ってたけれど、でもサオが苦手だった。
サオを見るたび、ため息が出る。美しい青銀の、柔らかく細い髪が風にそよぐのも、日本に行けばすぐハーフタレントとして通用しそうなほど美しい容姿も、コンプレックスを沸き立たたせる。
私がどんなに欲しても、どんなに努力しても絶対に手に入らない美しさを、何の苦労もせず、ただ生まれながらにして持っているのだから。
「お父さま、私、従者なんか要りません。一人で何でもできますから」
サオから近衛の任を解き、家を出て一人で誰にも会わなくていい山の中にでも住もうかと思ってたところ、サオの母親アンテが狼狽し、自分の前に跪くと、あろうことか娘の至らなさを謝罪しはじめたのだ。
後生ですからどうかもう一度サオにチャンスを与えてくださいと懇願するアンテ。
勘違いも甚だしい。
当のサオも、自分が避けられていることは何となく分かってはいたけれど理由まではまったく心当たりがない。それなのに近衛侍女を解任された責任だけは問われたらしく、その背中には折檻されたのだろう……、ワンピースの首の後ろから鞭の痕が見えた。
そう、サオには近衛侍女という地位で、権力者にかしずく以外の居場所はなかったんだ。
背中に鞭痕がつけられたのは、自分のせいだと理解した。
サオは12歳。また自分に近衛の任を解かれ叩き返されるか15歳まで召使いを勤め上げるかすると、二千年も生きてる偉そうな魔導士の12番目の側室に入ることが決まっている。
どっちにしても3年後には愛してもいない人の子を産むため供される運命だった。
自分だってここに居れば同じ。他人事じゃない。女ルビスは長いドーラの歴史でも数えるほどしか生まれてこなかったレア種だからと、お父さまは私に次世代の紅眼を産ませることしか考えてなくてドーラ中の豪族から申し込まれる求婚を思議するのに精を出している。
いやあ、モテモテだわ。ほんとウンザリする。
紅眼に求婚する資格をもっているのは権力者だけなんだとか。
見合いを申し込んできた男たちはものの見事に年の離れたオッサンばかり。同じく紅眼を受け継いだ兄さまも『何代前の父親がルビスの魔王』だとかのお嬢様ばかりが次々と尋ねてきて辟易している。他人ごとじゃないことは分かってるんだけど、どうせすぐに死ぬのだから早くできるだけたくさんの世継ぎを残せとでも言いたげな見合いラッシュを眺めていると溜息がもれる。
「はあっ……。この世界で自由に生きるためには、いったいどれだけの力が必要なのか?」
魔王になる兄さまにも自由なんて、これっぽっちもないというのに。ある意味サオも運命共同体なのよね。自分もサオも、女である以上は、いずれ望まない男と結婚して、そして、愛してもいないひとの子を産まなきゃならない。
考えるとため息ばかり出てしまって、どんどん落ち込んでくる。
そんな折、いつになく真面目な顔をして、サオが私の前に立った。
「ねえロザリィ、ロザリィはなぜ私の事がきらいなの?」
「うーん。……教えてあげない」
嫌いという訳じゃない。ただ、サオのその美しい顔を見るのがつらい、その端麗な容姿を見ていると、自分と比べてしまって、ひとり夕焼け空を見上げてはまた涙を流す羽目になるのだから。
兄フランシスコが魔王を襲名したことで自分はようやくお役御免となった。どこか遠くへ旅に出ようと思っていたら将軍職を任された。まあ、あれほど非力なりに剣道を続けて、通用しないまでも切磋琢磨していた自分が、いきなり2メートルの屈強な身体を手に入れたのだから、剣を持って弱いわけがなく、2つ年上の兄ですら剣では一歩譲るのだから、まあ将軍に抜擢されるのも間違ってないのかもしれない。
もっとも兄が自分を将軍に指名したのは、ひとりで家を出ようとしていたことをどこかで知ったからというのが理由らしいが。
しかし、自分が軍を率いてヒト族と戦争をすることになるとは思ってもみなかった。
鬼か悪魔のような容姿に生まれたと思ったら、やっぱり人類の敵だったなんてホント、笑えない冗談。軍の編成にはフォーマルハウトが口を出して人魔共存派の旗頭だったエーギルの息子ダフニスを勇者にぶつけようとノーデンリヒト攻略の先鋒に任命した。体よく勇者にダフニスを殺してもらおうという腹積もりなのは明らかだったので、横から志願して自分が軍を指揮することになった。
強硬派の人たちは戦争を続けることしか頭にないから苦手だ……。
船で渡った先はノーデンリヒト。元々は魔族たちの土地だったらしいが、ノーデンリヒトに住んでいた魔族が南の豊かな土地に欲を出したことから戦争が始まって、以来千年以上も負け続けている紛争地なんだそうだ。
お父さまは娘である自分が前線に出ることに猛反対だった。
あのべストラを一刀のもとに倒してしまったという得体の知れないノーデンリヒトの死神や、魔族の天敵と言われる勇者がいて、あのエーギル・クライゾルですら帰っては来られなかったという修羅の土地だ。
(はあ、勇者ってあれよね、世界に平和をもたらす弱い者の味方、愛と勇気と希望の名のもとに、友情と努力で必ず勝利する正義の味方)
そして自分こそは、そんな正義の勇者に滅ぼされる魔物の中ボスといったところだろうか。
ドーラに住む魔族が勇者に滅ぼされたら、さぞ世界は平和になるのだろうか。
自虐的ではあるが、自分自身、勇者か死神のどちらかに殺されるのだろうなってことは、ドーラから船に乗ってノーデンリヒトに渡った時から覚悟していた。
どうせ負けて死ぬなら、次は人に生まれたいと……、
そう心から願った。
「サオは残りなさい。あなたは戦利品にされてしまうから」
「嫌です。ここに残ったとしても望まぬ誰かの物になるのは同じです。虜になるぐらいなら自害して果てますから、どうか連れて行ってください」
ノーデンリヒトに上陸して北の砦まで進軍したら人族の騎士が2名ほど居たが、最初から戦う気はなかったらしい。すぐに走って逃げて行った。
魔王軍ノーデンリヒト先遣隊58名は無血で雪に閉ざされたこの砦を得た。
精鋭部隊でもない、歴戦の勇士もいない。新兵ばかり、たった58名の軍なんて聞いたことがない。こんなの誰が見ても勝ち目なんかないでしょうに。
そう、魔王軍ノーデンリヒト先遣隊は、ここで勝つために海を渡って来た訳じゃない。
魔族の名誉のため、戦争を続けるためだけに、ここに来たのだ。
ノーデンリヒト北の砦を占拠してから僅か6か月後、実戦経験もないまま、最悪の客が来た。
十字架を掲げて……。
砦での戦闘は熾烈を極めた。
これまで魔人の一族が千年にわたって傷ひとつ付けられずに倒され続けてきたという、勇者の強さを理解することができた。
勇者パーティーと戦うためには、勇者だけを抑えればいいというわけではない。
ロザリンドの技量では勇者を抑えるだけで精いっぱい、というよりは押され押されてかろうじてしのぐのが精いっぱいだ。ロザリンドが勇者に抑え込まれている間、勇者とツートップを張っているハゲの男がこちらの陣に飛び込んできて兵士たちを蹂躙する。
そして弓師の若い男がうっとおしい。
後ろにいる魔導師も指をくわえて見ているわけがなかった。
こちらの痛いところを突いて魔法を撃ってくる。
勇者たちがきたらたぶんここで討伐されて死ぬのだろうなと思ってはいたが、でもまさか、これほど戦力に差があるとは考えていなかった。見えない角度から足に矢を受けてから瞬く間に畳みかけられた。
殺す気なら簡単に殺せるのに、その剣の切っ先で、首の動脈を少しでも傷つけてくれるだけで楽になれるのに、ただただ殴られた。男の人からこれほど執拗な暴力を受けたのは、前世も含めて初めての経験だった。
これほどまでに怖いと思ったのも初めてだった。鋼鉄の小手で何十回も顔やお腹を殴られて意識が飛び始める、朦朧とする意識の中、後ろを振り返るとダフニスは神殿騎士どもの攻撃からサオとエララを守るので精一杯。カルメやテレストも同じく、防戦するので精一杯だった。
サオが短剣を首に添えて自害しようとしている。
ごめん、サオ。巻き込んでしまったね。
十字架を立てた荷車が運ばれてきた。
自分はあの忌々しい十字架に架けられるのだろう。
痛いよ、早く楽にして……。
命運が尽き、命を諦めようとしていたその時、
風が、空気が変わったのを感じた。ハッキリとしない意識……。
飛び込みざま、あの恐ろしい暴力男の腕を斬り飛ばして黒いローブの男が乱入してきた。
私がどんなに悲しくても、どんなに泣いてても深月は助けに来てくれなかったのに……。、
鮮烈に目に焼き付いているヒーローを幻視した。
上段で日本刀を構え、こんなにも醜い姿の自分を庇って、立ちはだかった。
(これが走馬燈なのね、ああ、そうだ。怖いハスキー犬に襲われて咬まれたとき、あの弱っちい深月が助けに入ってきてくれたんだった。上段に木刀を構えて威圧であの凶暴なハスキー犬を押し返してた。カッコいい。カッコいい。私はあのときの深月に憧れて上段構えにしたんだ。深月の思い出と一緒に死ねるなら悪くないかも……)
……。
……。
意識が少しハッキリしたとき、金髪碧眼の優男に抱かれていた。
振りほどけない。力がでない……。
どうやら自分は戦場で死ぬことが出来ずに、この男の戦利品になってしまったらしい。
そしてこの優男の正体は我がドーラ軍の仇敵『ノーデンリヒトの死神』その人だった。
6年前の侵攻でわが軍に甚大な被害をもたらした。
しかもエルフに憑依した精霊を従えてる。この男、フォーマルハウトと同じ精霊使いなんだ。
初めて人族の若い男を近くで見たけど、人間と大差ないのね。
でもこの死神、こんなにも醜い姿をみて「美しい」と言ってくれた。
客観的に、むしろ贔屓目に見ても、カッコいいぐらいが関の山で、大体は怖いとか、いかめしいとか、強そうとしか言われたことはない。
父や母や兄ですら美しいと言ってくれたのは、大嫌いなこの角だけなのに。
こんな禍々しく凶悪な姿をしいても、自分は女なんだという事がよくわかった。
たとえお世辞だと分かっていても、美しいと言われたことが心から嬉しかった。
かわいそうなロザリンド。自身ですら鏡を目の前にして、こんな自分を美しいだなて言ったことなんてないのに……。
ノーデンリヒトの死神はケガをした私に触れることで治癒してくれた。
暖かいマナが流れ込んでくるのが分かった。抱きかかえられていることが途方もない安心感にかわってゆく。
私、こんなにチョロかったんだと恥ずかしくなった。
だけどこの男、初対面なのにどこかで会った気がする。触れるその手の温かさが、なんだかとっても懐かしく思えた。
死神は治癒を終えるとなんだかすっごく名残惜しそうな顔をして自らの長刀を強引に押し付けてきた。なんでも自分で打った刀なんだそうだ。
そう、カタナといった。
ひと振りであの戦士の腕を防具の上から切り飛ばした剛剣を私に握らせて、自分はたった一人、門を開けて出て行ってしまった。
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「大丈夫。俺には勇者に一泡吹かせる秘策があるんだ。それにな、一緒には行けないよ。思い出したのさ。……俺はデカい女が嫌いなんだ。俺が死ぬとき手を握っててくれてありがとうな。幸せになれよ」
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こんな捨て台詞を吐いて、ノーデンリヒトの死神はたった一人で勇者軍の前に出て行った。
精霊さまに聞いた。
この女ったらしの優男、ノーデンリヒトの死神の正体を。
鬼になってしまった私の前世が常盤美月だと分かっていて「美しい」と言ってくれたのは、あの夜、バイパスを歩いていて一緒に事故に巻き込まれて死んだ深月だったのだ。
自分と同じで16年前、この世界に転生して生まれたのだそうだ。
魔人族はヒト族にとって魔物と同じだから、人族の国に入ったら例外なく必ず討伐されてきたという歴史がある。そういえば前世の日本でも鬼はだいたい退治されてきたのを昔話で知ってる。
それでも深月と一緒に居たかった。
勇者は強すぎて、今更自分が出てもどうしようもないだろうけど、死ぬ覚悟は最初からできてる。
心が歓喜に震える。
深月が居てくれた。
深月が見つけてくれた。
深月が助けてくれた。
たとえ5分だけしか立っていられなかったとしても、たとえ5分で死んでしまうのだとしても、たとえ5分だけでもいいから、深月のそばに居たい。
そして私たちは閉じられた門を再び開けて戦場に出た。
「アリエルお前、ほんと口ほどにもないな、今にも死にそうじゃないか」
深月だ。間違いない。会話の端々に懐かしさを感じる。
しかしあんなに面倒くさがり屋で平和主義、いじめられっ子の深月がまさかノーデンリヒトの死神だなんて、目の前にしてまだ信じられない。
深月が私にくれた刀、銘が彫られていた。この刀、『美月』なんだ。
力が沸いてくる。こんな気持ち初めて。
興奮している。この再会に。
さあ2ラウンド目を始めようかとしていたところで、女の子が乱入してきた。
目を奪われた。その美しさに……。
人族の女の子って、こんなに可愛いの?
まるであの完璧美人の柊芹香を少し可愛らしい方向にスライドさせたかのような女の子だった。
あ、でも、違和感……。この子、少しエルフが混ざってる。
この子、どうやら深月の今の恋人らしい。
「このクソ女、兄さまを危険にさらすなんて許さない……」
私がクソ女だってことを知ってる。初対面のはずなのに、正直な子。
あんなに綺麗だから、なにひとつ嘘で誤魔化す必要がないのね。羨ましい。この世界に生まれてからずっと、朝起きてから夜寝るまで嘘で塗り固めてないと息もできない……、そんな息苦しい思いなんて、したことがないのだろう。
この子、深月を知ってる。
この子、深月を愛してる。
「兄さま、皆を連れて逃げてください。ここは私が引き受けます」
黒い煙を噴き出している? 瘴気?
これがマナの暴走?……、初めて見た。
さっきまでは勇者と戦って死ぬつもりだったのに、いざ深月の隣に立つと死ぬのが惜しくなった。なかなかに現金だな。この子ともあとでじっくり話してみたい。
時間を巻き戻せるなら、戻したい。
この子よりも先に深月と出会いたかった。
柊の時は、自分が深月の近所に住んでいて、自分のほうが先に深月に出合ったから、あらゆる面で劣る自分でも幼馴染補正を使って何年かは張り合うことができた。でもこの子には先を越されたし、自分は鬼になってしまった。勝ち目なんてあるわけがない。
気持ちの切り替えができないまま戦闘が再開される。
きっと死ぬだろうと思っていた勇者との戦いは、深月が打ったという愛刀美月のおかげで互角に戦うことができたし、ノーデンリヒトの死神はその名に恥じない戦闘力を見せつけ、ついには勇者を倒してしまった。まさか本当に勝てるとは……。
そして腕の中にはその死神がスースーと気持ちのよさそうな寝息を立てている。
さっきの子……深月の彼女も大丈夫そう。よかった。
でも、サオの目もハートになってる。サオも絶対に深月に心を奪われたはず。
でもよかった。
深月も無事に切り抜けることができた。
生まれ変わって初めて……、この世界が明るく見えた。この世界のことが、初めて好きになれそうな気がした。
ふと手を見る。
鋭い爪と節の目立つ、まるで魔女か魔物の手にしか見えなかった……。




