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04-23 パシテーの孤独

102話


 アリエルが女たちを連れ立って、ぞろぞろと物見の塔に上がると西に傾いた半月と、360度の大パノラマで星空が広がり、なんとなく湾曲した地平線が眼下に広がった。高さ僅か20メートル程度、下にある鍛冶工房の煙突を兼ねた物見の塔。別にどこを偵察することもなかったのだけど、ただ高いところが好きというだけで、当時家庭教師だったグレアノットが設計と現場監督をして、アリエル自身が土木建築魔法で建築した。ここがアリエルの城だ。


 高さ20メートルの塔の屋上から見渡す夜空は目を見張るほどの絶景となっている。


 北の方、遠くに海岸線があって、その向こうの更に水平線の向こう側、惑星の丸みのあちらがわに隠れたドーラを見つめるロザリンドの長い黒髪が心地よい東風に揺れている。


「ねえあなた、これからどうする気なの?」

「俺さ、パシテーを日本に連れていく約束をしてるんだ」


「え? 日本に帰る方法があるの?」

「知らん! でも俺たちはここに来た。ってことは通ってきた道筋があるはずだと思うんだ。前世俺たちがいた日本のある世界とここは繋がってる、戻る方法は必ずある」


「兄さまは転移魔法陣をベースに考えているの、姉さまドーラの魔導で心当たりないの?」

「うーん、私は魔法ダメだったからなあ……誰にも師事してないんだよね……、ああ、そうか。フォーマルハウトに聞きたいことがあるって言ってたのはソレのこと?」


「うん、500年以上前にフォーマルハウトが書いたっていう魔導書の翻訳版を教科書にして魔法を習ったんだ」


「なにそれ、あのフォーマルハウトがヒト族の魔導の規範になってるってこと? うっわ……信じらんないわ」


「フォーマルハウトに話を聞きたいんだけどな」


「そういえばフォーマルハウトと敵対しそうって言ってたわね、聞きたいことがあるって、最初からぶっとばすのが目的なのかな?」


「ダメか?」


「ううん、とてもいいとおもうわ! でもさ、フォーマルハウトはアレでエルフの長老だし三精霊を従えてるから権力ものすごいのよね。権力だけなら、もしかすると魔王になって間もないお兄さまより上かもしれない。ドーラのエルフたちに対する影響力はものすごいわよ? 場合によってはエルフ族をぜんぶ敵に回すかもしれないぐらいの覚悟は必要ね。それだけのリスクを負ってでも聞きたいことって何?」


「たぶん……というか、かなり高い確率であいつも前世が日本人なんだよ。そしてフォーマルハウトの魔導書にはいくつか転移魔法に近いものがあった。ロザリンドは下垣外しもがいとって名に心当たりない?」


「シモガイト? なにそれ? 巻貝?」

 ロザリンドは知らないようだ。


「ああ、知らないならいいよ。そっちは興味本位だからどうでもいいんだ。目的は転移魔法だし」


「ふうん、なんか気になるわね? でもフォーマルハウトは四属性すべての高位魔法を使うことが出来るって聞いたけど、転移魔法って聞いたことないなあ。わたしにはサッパリ分かんないや、ごめんね役に立てなくて」


「ああ、子どもの頃、母さんが読んでくれた四世界神話っていう本によると、この世界含めて四つの世界があって『門』で繋がってるって記述があったんだ」


 アリエルは簡単に子どもの頃読んでもらった神話の絵本の話をした。

 ドーラでは子供を寝かしつけるのに絵本の読み聞かせをするなんて風習がないらしく、ロザリンドはヒト族の風習にただただ憧れを抱いた。


「そっか、私も日本の両親に結婚したことぐらい報告したいんだけどな……こんなになっちゃったから、もう日本には帰れないかもしれないね」


 ロザリンドはパシテーをチラと見てから二度見し、再びパシテーと目が合うと、伏し目がちに視線を逸らした。


「何言ってんだよ? お前も帰るんだよ。まあ、オジサンの狼狽する姿が目に浮かぶようだし……おばさんはぶっ倒れるだろうけどな、まあこっそりいって挨拶して、無人島にでも住めばいいよ」


「絶対そこ鬼ヶ島って呼ばれるようになるわ」

 ロザリンドは誰も笑えない自虐ネタを披露した。


「桃太郎が攻めてきたら、逃げればいいさ。みんなで」

「もう……」

 アリエルの軽口は本気にとっていいのか分からなくて、まるで惑わされているだけのようにも感じたが、それでもロザリンドの耳にはその軽口が心地よく響いた。

 アリエルは本気で魔人族がそのままの姿で日本に帰っても大丈夫だなんて思っているのだろう。



 ロザリンドたちが旅の道連れになって以来、カマクラや風呂やトイレに至るまで今までのコンパクトサイズだと手狭になってしまったので、トライトニアに来た日、パシテーの魔法建築技術に頼ってちょっと二回りほど大きなものを設計してもらった。


 カマクラよりも大きいので、区別するためコテージと呼んでいる。

 これでもパシテーにとっては整地作業含めて15分ほどで済むのだけれど。

 その作業もサオの魔法鍛錬を兼ねることになり、30分ほど時間をかけてレクチャー込みで建造したものだ。トライトニア滞在中はずっとここに寝泊まりすることになる。


 さすがパシテーは元教員なだけあって的確な言葉を使って説明するからサオの上達が目覚ましい。

 うまく説明できないのでいつも『マナを感じろ』で済ませるアリエルは師匠失脚の危機だ。


 朝・昼・夜の料理担当はサオで、ロザリンドがサオの手伝い。主に包丁担当。

 ロザリンドはとにかく刃物の扱いに長けているので、これまで敬遠してきた魚料理もおいしく頂けるようになった。嫁に来てから慌てて花嫁修業をする女っていかがなものか? と思ったのだけれど、ドーラじゃあ珍しい話じゃないそうだ。


 てくてくだけは食っちゃ寝でもよかったのだけれど、それじゃあ従者として沽券にかかわるらしく、パシテーには闇魔法、サオには風魔法、ハイぺリオンにも風と闇の魔法を教えている。


 アリエル本人もたまーに風の魔法を教わってて、最近は[爆裂]で起こった土埃を吹き飛ばし、視界をクリアにするのに便利な魔法がずいぶんと上達した。


 耐風障壁も時速180キロの風圧を感じなくさせるぐらいには上達した。もちろん風圧を感じなくなる風防を前に取り付けたようなものなので、空気抵抗そのものがなくなるわけじゃあないにせよ、障壁を流線形に成形することにより空気抵抗そのものを軽減しているので、[スケイト]の移動にかかるマナ燃費をかなり改善することにも成功している。


 地味魔法の[カプセル]も先日大爆発事故を起こしてしまう程度には強化したのだけれど、個人的にはまだ足りない。もっともっと[カプセル]を高圧に出来るように鍛えて、さらに秒間五連射ぐらいできるようになっておきたい。



「師匠、夜ご飯の用意が出来ました」


 ロザリンドが手伝ったというのでちょっと戦慄したのだけれど、味はいたって普通。こんな時は『うまいうまい』と絶賛しておくのが吉だ。


「いいね、この肉。さすが俺の嫁だ、おいしいよ」

「私、切っただけなんだけどね、味が分かる旦那さまで良かったわ」


「え?……、いや、この切り口が絶妙なんだよね。達人レベルの切り口だし」

「ありがとうね、でもフォローが下手すぎて私傷ついちゃうからそれ以上言わないで」


 ロザリンドの食事量はだいたい、普通の男性の2倍程度で済みそうな予感。

 ただ、ちょっとキツ目の戦闘をしてマナや体力が消耗していると5人前ぐらいペロリと食べてしまえるそうな。要するに食い溜めの利く身体らしい。

 ハムスターの頬袋のようにどこか体内に貯めておくことができるのだろうか。



「ご馳走様、ロザリンド、サオ、おいしかったよ」


 最初からこう言っておけばよかった。


 パシテー作の風呂はロザリンドが足を伸ばして入ってもまだ余裕があるぐらいの大きさで作ってくれた。寒い季節はもう少し狭くしないと湯冷めするかも? とのこと。浴室暖房の魔法は、うちの家族では唯一火魔法が得意なサオに[ドライヤー]を教えてファンヒーター化させてみた。この間接的に温度調節するというのがなかなか厄介で匙加減が非常に難しい。たかがドライヤー暖房とはいえ、これでけっこうな魔法鍛錬になる。


 アリエルの道連れパーティにロザリンドとサオが加入してから一気にハーレム化したような気がするけれど、パシテーは妹弟子だし、てくてくは従者という立ち位置だから、弟子のサオは置いといても鬼嫁は家じゃ旦那よりも強くて当たり前。


 ということは、相対的にアリエルの立場が弱くなるということだ。

 ハーレムどころか少し肩身の狭いことになっている。


 このまま他の3人が居る同じベッドの上でロザリンドとイチャイチャするわけにもいかないし、パシテーはいつだったか、確かビアンカとの話の中で、他の女とエッチなことをしようとしたら、命に代えても邪魔するって言ってたし。こっちの方も時間がかかりそうな気がする……。


 さあて寝るかとコテージに入るとサオがロザリンドの角のケアをしていた。

 角を磨いて艶を出したり、花を括り付けたり、オシャレなキャップのような被せモノ付けてみたりと、魔人族の女の子にとって角はオシャレの対象なのだ。

 女の子らしくデコってしまえばそれはそれで女の子らしいからいいのかもしれない。


 そういえば寝るときは角に何か布製の鉛筆キャップみたいなの付けてる。それがないと寝返りを打った際、隣に寝ている人の頭に刺さったりして大ケガをさせてしまったり、枕に刺さって中の羽根が飛び出したりとあまり良い事がないらしい。


「これ大切に使わないと、人族の町じゃ絶対に手に入らない気がするわ」

「大切にしてくれ、朝起きたらベッドがスプラッターなんて洒落にならんからな」

 パシテーやサオがケガしたら大変……、あれ? パシテーは?


 パシテーの姿がないことに気付いてすぐさま気配を探ってみると、パシテーの気配は物見の塔の上から感じる。どうしてしまったんだろう。


「ロザリンド、パシテーが上にいるみたいだ。俺ちょっといってくる」

「変なことしちゃダメだからね」

「変なことしたくなったらお前も上においで」

「もう!」


 パシテーならひとっ飛びで上がれる高さでも、アリエルは飛べないから外階段をグルグルと登るしかない。地上20メートルぐらいなので、マンションに換算すると7階フロア程度。一気に上がる方法は、ロザリンドにぶん殴ってもらうぐらいしか思い浮かばないのだけど、顎が壊れそうなので徒歩で上がることにする。別にエレベーターが欲しいと思ったこともない。どうせすぐに、夜空がぱあっと開けて、ノーデンリヒトの星空が満天に輝く。


 こんな低い塔でもてっぺんまで登ると景色が違うんだ。


 そして半月が西に落ち、満天の星空の下で一人、風に吹かれて佇んでいるパシテー。


「絵になるなあパシテー」

「……兄さま」


「何してるのかな? と思ってさ」

 強張った空気が風とともに流れる。

 ロザリンドと出会ってから、少しずつ歯車がかみ合わなくなってることぐらい、くっそ鈍いアリエルにだって分かる。


 少し、ほんの少しのズレだ。


「ニホン……どうするの? 兄さま」

「帰る気だけど」


「姉さまは?」


 アリエルはロザリンドの中に美月を見ている。単純に美月がデカくなって、頭に角が生えたぐらいにしか思ってなかった。しかし現実には乗り越え難い。種族の差という杳々(ようよう)たる距離が横たわっている。アリエルにとって種族の差なんて、光年単位の物理的な距離と比べたら何も問題にならないと思ってた。


 問題ない。この世界の人なら問題ない。

 でも日本にロザリンドを連れて帰れるかとなるとどうだ? アリエルはヒト族だし、パシテーはクォーターエルフだけど、耳に特徴が出てないからきっと人間にんげんに混ざっていても、外人さんが居るぐらいにしか認識されないだろうが……、ロザリンドはどうだ?


 敵対心を向けられたり、恐怖されたり、迫害されるのはアリエルでも、パシテーでもなくてロザリンドだ。傷つくのは誰隠そう、ロザリンドだけで、アリエルじゃない。


 パシテーは話そうとしないけれど、きっと奴隷制が始まった地域から逃れてきた難民だ。

 迫害されるものの気持ちは、誰よりも知っているのだろう。


「姉さまには、兄さましかいないの」


 軍を離反して敵であるベルセリウスにつくなんて軍規に照らし合わせるまでもなく、裏切り者と言われても仕方ない。だけどロザリンドは何の躊躇ためらいもなく、アリエルの差し出した手を取った。


 ロザリンドにも当然、愛する家族も、友達も、仲間もいる筈なのに、ぜんぶうっちゃって、アリエルと一緒に生きることを選んだ。


 パシテーは言った。


「その覚悟には敬意を払う必要があるの」


 言い聞かせるように畳みかけた。

 ロザリンドはたとえ世界中を敵に回したとしても守らなきゃいけないのだと。


 ぐうの音も出ないお説教だった。



 そしてパシテーは涙を流しながら後悔を口にした。

 あの時、ロザリンドが勇者に殺されて死んでしまえばいいと思った。その醜い嫉妬をしてしまったことが頭から離れなくて、心が押し潰されそうなほど毎日後悔していると。


「きっと私は兄さまの重荷になるし、姉さまには邪魔者だと思われているの」


 パシテーはいまさらそんなことを言い出した。まったく、この娘は完璧超人にでもなるつもりなのだろうか。そんな嫉妬は誰にでもある。前世で日本に住んでいた嵯峨野深月さがのみつきはひとつも他人より秀でた所がなかったせいか他人をうらやんでばかりだった。


 学年に一人は居る勇者キャリバンみたいな爽やかモテ男が女子たちを取っ替え引っ替えして次々と浮名を流すのには殺意すら覚えるぐらいには普通に人を妬むこともしてきた。


 生まれた家や環境、親の裕福さなんかまるで平等じゃない。その差は歴然で生まれた後にどれだけ努力をしたところで、富裕層の生まれながらのスタートラインすら越えられないことも多々ある。


 それを突然現れて自分の居心地のよかった場所を奪うかもしれない女に嫉妬してしまう。

 そんな当たり前の感情すら自ら律しようという。


 満天の星空の下、しくしくと泣き続けるパシテーを背中から抱きしめた。


「てか、ロザリンド、バレてるから上がっておいで。サオも」

 盗み聞きがバレて気まずそうに二人が上がってきた。

 こいつら気配を読めるってことがどういう事か、知ってるるくせにコソコソしてた。


 そうか、当然気配を読まれているだろうから、コソコソしてるという実感がないんだ。

 当然、悪いことをしてると言う感覚もない。


「どこから聞いてた?」

「パシテーが泣きだしたあたりから。かな」


 パシテーが申し訳なさそうにうなだれる。

 死んでしまえばいいのにと思った……そのことを当の本人に聞かれてしまったのだ。


 ロザリンドはそう言われても動じることはなかった。

 むしろアリエルに対して責めるような質問を投げかける。


「あなたは? 他人に嫉妬したことないでしょ? 領主サマの長男で剣も魔法も天才といわれ、可愛い女の子いっぱいはべらせてさ、しかも前世の嵯峨野深月さがのみつきよりも見た目がだいぶイイ男なんだけど? 他の人をうらやんだりねたんだりして、死んでしまえばいいのにって思ったことは? ないでしょ」


「そりゃああるさ。最近だとお前の婚約者だな。早く死んでくれたら俺が後釜になれるかもと思った。それと俺の容姿が前世よりもイイのは、単純にこっちの母さんが超絶美人だからだよ。ほんといい女なんだぜ? 父さんが居なければ口説いてる」


「ゴメンね嘘ついて。私もあの時は動けなくて、戦えなくて、女は戦利品にされるからさ、逃がしてほしくて必死だったのよ。あと、あなたマザコンも手遅れなのね。はっきりと理解したわ。もう何も驚かないよ。でもね、パシテーには、死ねばいいだなんて思われたくないな」


 ロザリンドは欄干にもたれ座るパシテーに視線を移した。

 パシテーは視線に気づいて、自分も視線を上げた。


「私は兄さまと姉さまに邪魔だと思われるのが嫌なの。本当はもう去るべきだということは分かっているの。でも私いくところがないの……」


「邪魔だなんて思ってないわよ? これっぽっちも」


「今はそうでも、必ず私は邪魔をしてしまうの。だって嫉妬があるの……」


「私が嫉妬されてる? なにそれ嫌味イヤミ? あなたみたいに可愛い子が私に嫉妬するの? 意味が分からない」


 嫌味という言葉にパシテーは口をつぐんでしまい、それ以上はもう言葉が出なくなっていた。


「完全無欠に可愛らしいあなたの目に私はどう映るの? このツノはどう見える? この爪と牙は? さぞかし醜く見えるんでしょう?」


「そんなことないの、姉さまは綺麗なの」


「うそばっかり。私はね、前世でこの人を救えなかった。私が落ち込んでいて、本当にただ慰めてほしいから、そんな理由で無理矢理つきあわせて、夜の暗がりを歩いていて事故に遭った。私が死なせてしまったも同然なのよ。きっとばちが当たったのね、気が付くとこんな姿で雪と氷に閉ざされた牢獄のような町にいた。生まれてからこの爪を見るたびに悔やんできたわ。鏡なんて大嫌い。見たくもないよ。でもあなたのように生まれつき美しいコには、分からないでしょうね」


「なあロザリンド、それってパシテーに対して何のフォローにもなってないぞ? むしろパシテーがかわいいから邪魔だってことにもなりかねんだろ。ちょっと訂正しろ。あと今のお前の姿、俺的にはむしろ好きなんだが……」


「パシテーのことが羨ましいのは私のホンネだし、これは変えられないわ。今さら訂正なんてして誤魔化したくない。それとも私がこの姿に生まれてよかったって本気でそう思ってる?」


 ロザリンド……おまえが美月みつきだということを忘れていた。

 美月みつきはそんな無茶な質問を投げかけてくる女だった。どう答えても本人を傷つけてしまうような質問には答えられない。


「でもそれじゃあパシテーの居場所がなくなってしまうだろ」


「なぜ? 私はパシテーのこと邪魔だなんて思ったことないし」


「じゃあなにか? パシテーがロザリンドの本心をウソじゃなく理解すればこの場は収まるんだな! よし決めた。お前ら二人がそんなにも苦しむのは耐えられない。こんな時は、てくてくに頼もう」


 待ってましたとばかり、タイミングよくアリエルの影からすーっと後ろを向いて出てきたてくてくは俯くパシテーの頭を撫でて優しく微笑む。


 なにか考え事をしているのか腕組みをしながら、むう。と困ったように声を漏らすと、パシテーの横に女の子座りになった。


「アタシに出来ることはロザリンドの心の中を見せてやることぐらいなのよ」

「ちょっとまって、私がどう思ってるのか、パシテーに伝わるの?」


「伝わるのよ。アタシに嘘や隠し事は一切通用しない。取り繕うことなく、ロザリンドの真実だけが伝わるのよ」

「じゃあそれでお願い。でも見せるのはパシテーにだけ」


「俺は?」

「あなたには知られたくないからパシテーだけ」


「夫婦なのに隠し事かあ? 何を伝える気だよ」

「何でもいい、私がパシテーの事を悪く思ってないことだけ伝われば」


「てくてくは思い出したくないこととか、ほじくり返してくるぞ? 死にたいと思う前にやめとけよ? 相当キツイと思うけど……、いいのか?」


「いいわよ。別に、私けっこう性格悪いの自覚してるしね」


「ちょうどよかったのよ。ついでにロザリンド、アナタの記憶に不自然なところが無いかアタシがチェックしておくわ。パシテー、それでいいのよ?」


 パシテーが無言で頷くと、てくてくの全身から常闇の瘴気が溢れ出し、二人を飲み込み、ロザリンドの深い深い意識の闇へと堕ちて行った。


「んー、ロザリンドもパシテーも、その意気やよし。なればともに記憶の深淵を探ろう……」



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