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抗う心

『なわばり内にいない……どこにいったんだ…!』


 雨が次第に強くなり、体温を奪っていく。体の動きが鈍くなってきた。

 俺の直感…何度も指標にしてきた種としての本能は、洞窟に戻るべきだと訴えている。

 たとえあのゴブリンが死んだとしても、環境に適応できなかった弱い固体が淘汰されただけ。

 それが俺が生きる森の、自然の理のはずだ。

 でも俺は……嫌だ。




『ゴブリン!』

「グギャ!ギャウ……。」

 見つけた!オオカミに襲われている……!

 急いで間に割って入るが、逃がしてくれる気はないようだ。


 まずいな……。いつもなら勝てる相手だが、体が思うように動かない。

 体は重く感覚は鈍り、もう直感は当てにできない。


「ガゥッ!」

 オオカミが飛び掛ってくる。

 かわそうとするが、避けきれずに鋭い爪が俺の鱗を切り裂く。

『くっそ……!』

 力任せに腕を振るが思った以上に遅く、かわされてしまう。

 まるで非力な人間に戻ったようだ。


 思えば、意識が目覚めてから本能に従って生きてきた。

 知識を使うことはあれど、"リザードマン"としてあろうとしていた。

 人間だったはずの俺が、この世界に適応し生き抜くためにはそうするしかないと無意識に理解していたのかもしれない。

 そんな俺が本能に逆らって行動すれば、窮地に陥るのは必然だったんだろう。



 噛みつかれ、切り裂かれ、傷が増えていく。

 それでも、諦めたくない…。

 痛みの中で俺は必死に考える。

 体が動かないなら頭を動かせ。本能で戦えないなら理性で戦え。

 ここで戦うことが間違いであったとしても、心はまだ抗っている。


『諦めて……たまるか……!』

 今の状態では避けきれない。防御主体に切り替え、致命傷にならないように立ち回る。

 俺の鱗は硬く、上手くガードすればかなりダメージを減らせる。

 だがそれだけでは勝てない。

 立ち回りながら思考をまわして突破口を見つけなければ。


 まず、体が動かない理由。それは雨での体温低下だろう。

 リザードマンが前世のトカゲとどれくらい違うのかはわからないが、まだ未成熟なこの体は気温の影響を受けやすいのだと思う。

 日に当たりながらの昼寝で体の調子が大きく上がるのもそれが関係してるんだろう。

 状況を変えるには、この状態の体で相手を捉えるような方法を考えるか、体温を上げる方法を考えるか…。


 体温…熱……。可能性はあるかもしれない。

 魔法の練習で、魔力に熱を持たせることはできるようになった。

 一気に気温を変えられるようなものではない。だがそれを、体の内側で行えば――


「ガゥ!グルルルゥゥ……。」

『ぐっ……!』

 オオカミが腕に噛み付いてきた。激痛が走るが、今はいい。

 そのまま噛まれた方の腕の手首を捻ってオオカミの首元を掴み、逃がさないように力を込める。

 そして空いているほうの手で胸に手を当てて体の中に魔力をイメージする。

 全身を駆け巡る血のように、燃え盛る炎のように。


「グギャァ……。」

 後ろでゴブリンの心配そうな声がする。

 恐怖と心配と…困惑が混じったような声だ。


 そりゃそうだな……。命を懸けるほど強いかかわりというわけでもない小さな縁だ。

 

『お前にとってはわけがわからないかもしれないな…。会ってちょっと話しただけ、言葉が通じてすらいなかったのにこんなになってまで助けたいと思うなんて。』

「……グギャ。」

『それでも、お前は……!』


 ――体の奥底に眠っていた火が灯る。


『……この世界で…俺に初めて…!』


 ――熱は全身に拡がり、俺の体をつき動かす。もっと熱く、もっと強く。



『――話しかけてくれたやつだったんだ…!』



 噛まれている腕を地面に叩き付けて振りほどく。

 怯んでいるオオカミを、燃えるように魔力が迸る拳で思いっきり殴り飛ばした。

 魔力のせいか、普段よりもさらに高い威力と衝撃となった拳をまともに食らったオオカミは軽々と吹っ飛んでいく。


 オオカミは近くの木に勢いよく叩きつけられ、動かなくなった。


「……グギャギャ?」

『大丈夫、終わっ……た…よ。』

「グギャ!ギャウギャウ!」

 魔力は切ったのに、体が熱く鉛のように重い。早く帰らないと…。

 歩き出そうとするが体は殆ど動かず、前のめりに地面に倒れこむ。


「ピギャ!?グギャヴァー!」

『……お前は……先に…戻……。』

 意識が遠のく…。ダメだ。まだ――


 ――――



 目が覚めると、洞窟の中にいた。

 あれ、俺確かオオカミと戦って……。


 ふと目をやると、すぐそばでゴブリンが寝息を立てていた。

 そうか、お前が運んでくれたのか。

 泥だらけじゃないか……。ありがとな。


 なんだか、弟が出来た気分だな。

 そう思ったときようやく気づいた。

(ああ、俺……家族いなかったんだな。)


 人間だった頃の家族も、リザードマンとしての親も、記憶には無い。

 周りにいるのは、敵か、獲物か。

 ただの魔物ならそれでよかったのかもしれない。

 事実、俺はリザードマンとしてこの世界で生きる覚悟を決めてから気づくこともなかった。

 ひとりぼっちは寂しい。ただそれだけのことに。



 でも、目の前で大げさに泣いたり喜んだり…驚いたり悲しんだり――。

 そんなこいつを見て思い出してしまったんだ。

 たとえ取るに足らないような小さな縁でも、俺にとってはただ一つだけのモノだった。

 だから――

『死なないで…くれよ……。俺、ひとりには…戻りたく…ない……よ…。』


 まどろむ意識の中で、隣で眠る小さな仲間に語りかける。

 そして俺は再び、深い眠りに落ちた。


名前:なし

種族:リザードマン

特技:力任せ格闘術 素人槍術 超嗅覚 サバイバル

魔法:体温上昇(不安定) 身体強化?(不安定)

備考:ひとりぼっちはさみしい。

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