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奇妙な来訪者

 次の日の朝。雨はきれいに止んでいた。

 全部ダメになってそうだなー、と思いつつ肉を確認しに行く。



 ……無い。

 今度は確かに見間違いじゃない。無くなっている。

 雨で匂いが流れてしまっているが、昨日盗っていった奴と同じだとすれば"川で匂いを消す"という知恵をもった生き物ということになる。たとえば――人間。


『っ!!』

 跳ぶように駆けてその場を離れる。ここにいるのはまずい。


 俺の記憶の限りでは人間がこの近くまで来たことはない。

 人間の村からはかなり遠いはずだ。

 なんでこんなところに…!

 もし人間に見つかれば俺は――



 ふと疑問が浮かんで立ち止まる。落ちつけ、一旦落ち着こう。

 冷静に考えれば不自然な点も多い。

 もし魔物の討伐に来たというなら、あそこまで近づいておいて見逃すとは思えない。

 ただの狩りならばこんな奥地まで来ないはず。


 そもそも俺が気がついたのは食料が盗られたからだ。

 仮に人間だったとして、どうみても怪しい感じに吊られてる食料を盗らなければならない状況があるとすれば……遭難、とか?

 まとまりきらない思考のまま、確かめるために洞窟の近くへ戻った。


 物陰に潜み、慎重に辺りを探す。

 もし遭難している人間を助ければ、人間と好意的に関わるきっかけになるかもしれない。

 しかし出方を間違えれば今の生活が脅かされる危険もある。



 しばらく探していると、俺の洞窟に人影が入っていくのが見えた。

 ――来た!

 急いで洞窟の前に戻り、気づかれないように中を見る。

 ようやく窃盗犯の正体が――いやまて、あのシルエットみたことあるぞ。

 小さい背丈、細い腕、とがった大きい耳。……全身緑色の皮膚。


『ゴブリンかよっ!』

「ピギャアアァァ!!?」

 思わずつっこむと、ゴブリンが驚きのあまり跳びあがって天井に頭をぶつけた。

 お、おう。なんかごめん。


「グギャァ!グギャギャウ!ピギャヴア゛ア゛ァー…!」

 なんかものすごい勢いで泣きながら何かを叫んでいる。たぶん「助けて!」とか「ごめんなさい!」とかそんな感じだ。

 今まで見たゴブリンは、初めて会ったアイツを含めて「敵!コロス!」みたいなやつしかいなかったんだが……なんなんだこいつは。


「グギャ……。」

 ……そんな潤んだ目で見られても困る。

 しまいには持っていた袋を差しだし、腹を見せて服従のポーズをしている。ゴブリンでも服従ポーズそれなのか。

 袋の中には、申し訳程度に木の実が入っていた。

 木の実がとれるならそれ食べればいいのに。お肉も食べたかったのだろうか。

 おいしいもんな、肉。


 はー…。極限まで気を張っていたのに拍子抜けだ。いっきに気が抜けたな。

 目の前で騒いでいるゴブリンについてはどうでもよくなった。

 さっさと放り出したかったが、その前に一つ気になることがあった。


 ゴブリンが差しだした、木の実が入っていた袋。

 袋は密かに欲しいと思っていたが、作り方が思いつかなかったのだ。


(どうやって作ってるんだ…?)

 …よく観察してみると動物の内臓だな、これ。

 こんな方法で袋を手にしていたとは。

 ゴブリン相手に文明レベルで負けた気分だ。ちくしょう。



「グギャ……?」

 袋を見つめている俺を、涙目のゴブリンが心配そうに見上げてくる。

 …なんか前の世界で、キモカワイイって流行ったマスコットがいたっけな。

 ともかく、交換条件としては悪くない。

 俺にとって肉を手に入れるのはそう難しくないからな。

 プルプル震えているゴブリンを抱えて洞窟の外に運ぶと、足元に肉を置いた。

 ゴブリンはポカンと肉を見つめている。


 出来れば、他にゴブリンの持つ技術で俺の知らないものがあれば欲しいな。

 特にこいつ、川で匂いを消したり、いない時を狙って忍びこんだりと普通のゴブリンと比べて頭がいいみたいだ。

 若干引くぐらいのヘタレっぷりも、相手との力量差を理解しているともとれる。

 だがどうやって伝えようか。


『えーっと…そこのゴブリン。

 お前の、道具、俺の、肉と、交換。』

「………………グギャ?」

 ゴブリンはよくわからない、というふうに首を傾げている。ですよねー…。

 肉と袋を交互に指さしたりして身振り手振りで伝えてみると、しばらくして何か閃いたような顔で森に戻っていった。

 大丈夫かなー…。



「グギャッギャ!」

 次の日、期待に満ちたまなざしでゴブリンが持って来たのは、色とりどりの木の実だった。

 違う、そっちじゃない。


 そういえばこいつ、自分の群れに戻ってないな。はぐれゴブリンか。

 たしかにこの性格じゃああの脳筋集団とは気が合わないだろうなぁ…。


 木の実はありがたく貰っておく。

 正直、地道に木の実や果物を探して拾い集めるのはめんどくさいのだ。

 思う存分森を駆け回れる狩りのほうが楽しい。

 獲物を分け与えるだけで手に入るなら俺としても悪くない。


『ほら、交換の肉だ。』

「グギャッギャー!」


 目の前にほうってやると、嬉しそうに抱えて森に戻っていった。

 臆病だけど元気なやつだな。

 見えなくなったが、たぶん近くにいるだろうな。俺がいるせいで動物が寄ってこないこの辺りは、戦いを避けるならこの上ない環境だ。

 明日も肉を用意して待っていよう。




 次の日も木の実を持って来たが、数が少ない。

 俺のなわばりはあまり広くないので、拾える分はだいたい取ってしまったのだろう。


「グギャ……。」

 そんな悲しそうな顔するな。肉はちゃんとあげるから。

 木の実を受け取り、肉を渡した。

 もらえないと思っていたのか、肉をもったまま泣き出してしまった。


「グビャアアアァァーウ…!」


 大事そうに抱えた肉に頬擦りまでしている。ああもう、顔が血で真っ赤だ。

 こいつが来てから、なんだかやたらと騒がしい。

 でもそんな騒がしさも、悪くないと思い始めている自分がいた。




 その日も狩りや昼寝をしてのんびり過ごしていたが、昼寝から起きると空が曇りはじめていた。

 結構強い雨が降りそうだ。


 …あいつ大丈夫かな。

 なわばり内で雨風を防ぐなら俺の洞窟ぐらいしかない。

 別に助ける義理はないのだが、やっぱり気になる。

 つい先日まで、一人で気楽に生きていければいいと思ってたのにな。


『雨が強くなったら帰るからな…。さっさと見つかれよ。』


 そう小さく呟くと、ポツポツと降り始めた雨空の下、俺は走りだした。

名前:なし

種族:リザードマン

特技:力任せ格闘術 素人槍術 超嗅覚 サバイバル

備考:相手が友好的だと甘くなるのかもしれない。

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