肉の保存
死んでもなお大きい存在感を放つイノシシ。
洞窟に戻って昨日作った中で比較的マシな石ナイフをいくつか持って来た俺は、イノシシの解体のとりかかることにした。
いつもならそのままかじりつくところだが、この分厚い毛皮を食い破るのは骨が折れそうだ。
なによりこの毛皮、手にいれたい。
…作業の詳細は、かなりグロいので省略しよう。
俺はド素人。道具は出来の悪い石ナイフ。
その結果どうなるかは……うん。
と…とにかく、綺麗にとは言いがたいが目当ての毛皮は手に入れたし一旦帰ろう。
毛皮の他に、何かに使えそうな大きな牙と持てる限りの肉を抱えて俺は洞窟にもどった。
川で血まみれになった体と毛皮を洗って、戦利品を洞窟に入れる。
いい具合に日が高くなっていたので、定位置となった洞窟の上でひなたぼっこ兼昼寝タイムだ。
まだ肉が残っているがこの誘惑には逆らえないのだ。というか、そういえば昨日の夜寝てないな…。
目を覚ましてイノシシの所に行くと狼が数匹群がっていたが、俺に気づくと素直に逃げ去ってくれた。
食べきれないほどあるし、残りはあいつらにやってもいいかもな。
持ち帰る分の肉を確保していると、逃げたうちの一匹が物陰から様子を伺っているのが見える。
『ほれ、食っていいぞ。』
狼に大きめの塊を放り投げると、一心不乱に食らいついた。
…今が狩りなら、簡単に仕留められそうだなぁ。
そんなことを思いながら、肉を抱えて洞窟へ戻る。
よかったな。今は肉がたくさんで機嫌がいいのだ。
目の前にはたくさんの肉。
この機会に、肉の保存について考えてみたいと思う。
ぶっちゃけ臭いを我慢すれば腐っていても食べられなくはないのだが、やっぱり腐ってないほうがいい。
もしもの時に備えて果物や木の実を溜め込んではいるが、これだけでは心もとない。
狩れない日も肉食べたいしなぁ。
しかし、あいにく保存食の作り方は詳しくは知らない!
…こういう時に役立って欲しかったよ現代知識!
さて、気をとりなおしてどうすれば保存食が作れるのか考える。
保存食として思い浮かぶもの。干し肉、塩漬け肉、燻製肉。
それらを腐りにくくしてそうな要素。日光、乾燥、塩、熱とかだろうか。
日光と乾燥は日の当たる場所に干しておけばよさそうだ。
塩…は無いので、代わりに木の実などをつぶしたもので代用してみる。
どうするのが正しいかはわからない。ならば可能性があるものをかたっぱしから試してみればいいのだ。
全部失敗したらその時はその時だ。
小さく切った肉を蔦でくくって、日当たりがいい場所に吊るす。
それを日陰にも吊るしておく。
こうすれば差がわかりやすい。
同じように、砕いた実をすり込んだ肉を作って日なたと日陰に。
さらに別の実を潰してもみ込んでつるして次の実を―
時には花の蜜や果汁も試してみる。
そんな作業を何度も何度も繰り返す。
辺りが暗くなって来た頃、ようやく作業が終わった。
周囲を見渡してみると、月明かりに照らされ浮かび上がる無数の肉塊。
『うわっ…』
だいぶ気持ち悪い絵面だなこれ。
まあいいや。今日はもう眠いので洞窟に戻って寝ることにした。
――――
実験一日目の朝。肉を確認してみる。
全体的に、少し水分が抜けて固くなっている。
果汁をつかったものがまだ乾いていないくらいで、大きな違いはなかった。
あ、毛皮についてる肉が固まるまえに加工しないと。
洞窟から毛皮と石ナイフを持って川に行き、余分な肉片などを落として入念に洗う。
毛皮を乾かしておき、昼までの時間は石ナイフ作りにあてる。
初日よりはコツが掴めてきた。
昼寝の後は魔法の練習をすることにした。
体の調子がいい時の方が上達しやすいだろう。
魔力(仮)が拡散してしまうことへの対策として、両手でボールを掴むようなイメージで魔力を込める。
その結果、以前よりも拡散を抑えることができた。
炎のイメージを念じると魔力がうっすらと赤い色に変わり、手の内側で熱を感じる。
長くは続かず、少したつと魔力は拡散した。
『ぶぇっ』
顔に直撃した。
うーん、今はまだ炎というよりは熱気とか蒸気みたいな感じだ。
それでも無色透明だった魔力が炎っぽい性質に近づいて来ている感覚はある。まだまだ練習だな。
その日は吊るした肉の中で状態がよくないものを食べて眠りにつく。
――――
実験二日目。
比較すると日光に当たってないほうが傷みが少ないようだ。
ちょっと意外だった。俺はひなたぼっこで元気いっぱいになるのに。
昨日乾かした毛皮に尖った骨で穴を開け、蔦を通して腰に巻く。
よしできた。初めての衣服、皮のこしまきの完成だ。
着け心地に慣れるのも兼ねて、昼飯の時間まで森に採集に出かける。
食糧になる木の実はもちろん、道具に使うものとしても便利なものはたくさんある。
特に、先日から槍に干し肉に腰巻きにと大活躍な蔦。なんと俺がおもいっきり引っ張ってもちぎれないぐらい頑丈なのだ。
石ナイフがないと採集できないほどである。
昼飯後は、水浴びをしたり昼寝をしたりしてのんびり過ごす。
家を手に入れてからはだいぶこっちの生活満喫してるなぁ。
魔法の練習も忘れずにやっておく。
――――
実験三日目。
傷み方の違いがわかりやすくなってきた。
ひとつひとつ匂いなどを確認して状態を調べていく。
結果、いくつか気になるものがあった。
一つは、柑橘類っぽい果物の果汁をつかった物。
水分が悪かったのか他より傷み具合が大きいのだが、不思議と虫が全く寄ってこない。
虫除けか、盲点だった。これは役に立ちそうだ。
そしてもう一つ、砕いた黒い実を使ったもの。
他よりも傷みが遅いのに加えて、独特の強い香りのおかげでほとんど匂いが気にならない。
一番ネックだった匂いが気にならなくなるのは大きい。
試しに一つ食べてみる。うわっ、辛い。
でも癖になりそうな味だ。もう一つ食べよう。
硬めの食感と刺激的な辛さが絶妙にマッチする。
おいしい。もう一つだけ…あれ?
もっと用意してあると思ってたのに、無くなってしまった。
…お、俺はそんなに食べてない…はず。たぶん。
まさか何かが俺のなわばりに入って来たのかと思って匂いを嗅いでみるが、それほど強い獣臭はしない。
実験のせいでいろんな匂いが混在しているが、注意深くさぐれば川で匂いを消しでもしない限り気付くはずだ。
この森で匂いを消して行動するのは俺ぐらいだろう。気にしないことにした。
実験の結果、砕いた黒い実をすりこんだものを日陰に置いて例の果物で虫除け。という方法がよさそうだ。
雨が降りそうな気配なので、今日は洞窟のなかでぐうたら過ごした。
昼寝ができないのが残念だ。
名前:なし
種族:リザードマン
特技:力任せ格闘術 素人槍術 超嗅覚 サバイバル
備考:雨の日はあんまり動きたくない。