第8話 プシケ
「暗くなって来たし、そろそろ帰るとするか」
プシケがこのままでは帰れないので、暗くなるまで待っていた俺たちは、適当に、森の中の山菜捜索をしていた。テュケーが言うにはちょっとした小遣い稼ぎにはいいらしい。
「そうですね。暗くなりすぎると、帰り道が危ないですし、今くらいに出ればちょうどいい時間に街につきそうです」
「……本当にこのまま帰るの?」
プシケがそんなことを言ってくる。
「おまっ。俺には何も恥ずかしく感じないのに、何で街中では恥ずかしいだよ」
「それとこれとは別だよ。いろんな人から見られて興奮する性癖なんて持ってないしね」
「せめて、着替えの服を持ってきてればよかったのに」
「無駄な荷物は持ってきたくなかったんだよ」
そんなことを言いながら、帰る準備をする。ここから30分くらいで帰ることができるから、ゆっくり歩いても問題無い。
「じゃあ帰るか」
俺たちは帰路につくことにした。
「ところでさ、プシケが鎧とか着ないのはその魔法が関係あるのか?」
帰る途中ふと気になったことがあり、プシケに尋ねる。あの自爆に近い技は、鎧なんて着てたら、効果が半減してしまう気がしたからだ。
「まあ、そういうことだね」
プシケがゆっくりと返事をする。下着が見えないように歩こうとしているので、何だか不自然だ。
「やっぱりあれか? 鎧着てたら、炎が相手に届かないみたいな」
すると、プシケは少し悩んでから、再び話し始めた。
「まあ、それもあるけど、1番は自分がこんがり焼けてしまうからかなー。あの魔法って、発動中は自分の炎耐性がマックスになるんだけど、切れると、元に戻るんだよ。つまりあの魔法で鎧が熱されてしまうと、焼き豚になるんだよ」
ああ。なるほどな。金属製のものなんか身につけていたら、危険だもんな。と、そんなことを思っていると、プシケが覗き込んでくる。
「僕は豚じゃ無いよ!」
どうやらツッコミ待ちだったようだ。あまりに自然な会話に盛り込まれていたから気付けなかった。
「そういえば今日見た魔法はその自分を燃やすやつと、盾の防御を上げる感じのやつだったけど、他にどんなのが使えるんだ?」
「そうだねー。仲間の攻撃力や、防御力、素早さを上げたりすることもできるよ。後は相手のステータスを少し下げたり。たかが知れてるけどね」
「バフ、デバフって感じね」
テュケーが後ろから声をかけてくる。静かだと思っていたら、どうやら採ってきた山菜の下処理をしているみたいだった。隣ではイリスもそれを手伝っている。
「それどれくらいで売れるんだ?」
「大体100gで10チューンくらいよ」
「ふーむ。なるほど。ってか回復薬の方が高いな」
「うん。まあ、普通は回復魔法を使うからね、案外需要がなくて高いんだよ」
プシケが説明をしてくれる。っと。街が見えてきたな。
辺りはすっかり暗くなっていて、街中を歩く人もまばらになって来ている。それでも暗くなったばかりなので、ある程度の人はいるが。
「あはは。じゃあ行こうか」
プシケがゆっくりと、待ちに向かって歩いていく。俺たちはプシケを囲むように、隊列を組み、街中を抜けていった。
街はそれほど広くなく、特に、北からだったら中心の塔までは10分あれば行くことができる。それに加えて、街として栄えているのは南の方のため、北は夜になると、人通りが少なくなる。このタイミングを狙って帰宅した。
塔に着くと、プシケは急いで、宿に戻り、服を着替えてきた。その間に、俺たちは地下へ行き、クエストを達成したことを伝える。
店員は何やら機械を操作すると、
「みなさん。カードか頭を出してください」
と告げた。
正直、このタイミングで頭を出す人なんて、滅多にいないだろうと思ったが、人気の店員さんだと、案外多いらしい。俺はというと、一応それも気になったが、さすがに他のメンバーの前だし、素直にカードを差し出した。
「みなさんのカードに平等に配ればいいのですか?」
「あっ。私のはカヅキにお願いします」
テュケーはそう店員に伝えた。
「あ、じゃあプシケの分は私が受け取っときますね」
イリスはそう言って、そのことを店員に伝えた。
店員からカードを受け取ると、所持金を確認した。そこには5チューンと書かれていた。
「あっ。それは山菜を売った分ね。1人15チューンになるように分配したはずだけど」
テュケーはどうやらぴったり15になっていないことに違和感を覚えるらしい。今回のクエストの報酬は3000。これを2体討伐したので6000チューン。この半分が俺に入るから3000。つまりぴったり借金が無くなるはずだが。まあ、俺は知ってるんだけどな。
「あー。これな。昨日寝る前に、10曲くらいプレイしてたんだ」
「えっ。 借金してるというのにまだしたの?」
「い、いや、何か魔法を使えたらやくにたつかなーって。で、一応『火焔車』を初見フルコンボしました。はい」
「残りは?」
「ランク上げに使いました」
そう伝えると、テュケーは少し微妙な顔をしたが、
「まあ、借金してないだけマシね。捕まられたら困るもの。それに今回はその魔法で助かったところもあるしね」
「まあ、確かにこれからは借金はしないように気をつけるよ」
そんな会話していると、階段から足音が聞こえてきて、プシケが降りてきた。
「お待たせー!」
「おお。おつかれ。これで揃ったな。このあとみんなはどうするよ?」
「私は魔法を回復させて、あとは寝ようと思ってます。今日は疲れましたし」
「僕は特にやることもないから、街中をぶらぶら歩いてから寝るかなー。ついでにお風呂に入ってきたから、これ以上運動したくないし」
「私も、予定はないわね。少し音ゲーをして寝ると思うわ」
なるほどな。大体皆は予定はない感じか。俺はどうしようかな。とりあえずランクを上げに行こうか。
「じゃあ、ここらで解散しますか」
「そうだね。今日1日楽しかったよ」
「確かにかなり楽でしたし。やはり攻撃役がいるかいないかでかなり変わりますね」
「こちらこそかなり楽しめたわよ」
「よし! それじゃあ解散!」
俺がそう宣言すると、2人は俺に手を差し出した。
「いやー。本当にありがとう。明日もよろしくね」
……あれ? 明日も? これって臨時パーティだと思ってたんだけど。
「そうね。明日は何をしましょうか。あまり重くないのがいいですね」
「うさぎ狩りとかいいんじゃない?」
「あっ。いいねそれ。僕が皆の素早さを上げてあげるよ」
……どうやら勘違いしていたのは俺だけだったようだ。なんか恥ずかしいな。アホらしいな。……まあ、確かに楽しかったし、この人たちと色々なクエストを解いていくのも楽しそうだからいいけど。
「よし! じゃあ、明日も張り切っていくぞ!」
俺は高らかに声を上げた。周りの客たちは少し驚いていたようだったが、すぐにこちらに興味をなくし、元の状態に戻った。
「うん、頑張ろうね」
最後にプシケがそう言い、各人は自分がやりたいことをしに、地上に戻っていった。