第7話 鉄壁の盾
「とりあえず帰りましょう。ここにいても仕方ないわ」
テュケーがみんなに話しかける。確かにここにいても仕方ない。クエストを達成したのならすぐに帰るべきだ。
「……うーん」
イリスとプシケの方を見る。イリスはこちらに向かって歩いきていたが、プシケは何やらリーフドラゴンを見つめていた。
「どうしたんだ?」
その声に反応して、プシケが返してくる。
「いや、リーフドラゴンってこんな大きさだったかなーと思って。もう少し大きかったような……」
「は? これで小さい? どう見たって5mはあるぞ」
「いや。確か普通なら10mくらいはあるんだよ。もしかしたらこれはまだ子どもの個体なのかも……」
これで子どもの個体!? ってことは親はこれの倍くらいはあるってことか。まてまて、それじゃあ子供を倒した今、むちゃくちゃ危険なんじゃ……。それにあの咆哮。もしかしたらただの断末魔じゃなくて、親を呼ぶための?
「とりあえずここにいると危険だ! 急いで帰るぞ!」
俺がそう叫んだとき、何やら、巨大な影が、草むらから飛び出してきた。その巨大すぎる影は、勢いよく、俺に向かって突進してきた。
「危ない!」
俺は必死に手で体をかばった。と、次の瞬間、ガチリッと何やらものがぶつかる音がした。見ると、プシケが俺とリーフドラゴンとの間に入っている。
『ただ守るための障壁』
プシケはそう呟くと、彼女の盾が輝きだした。すると、ギシギシと音を立てていた盾は何もなかったかのように、がっちりと、リーフドラゴンの牙を受け止めていた。
「ありがとう。助かったよ」
「いやいやー。まあみんなの盾として、当然のことをしたまでだよー」
プシケは盾をリーフドラゴンの方に押し付けたまま軽い感じに返してくる。と、俺はとりあえず残りの2人に指示を出すことにした。
「イリス! 確か後2つ魔法が残っていたはずだろう。それでこいつに攻撃してくれ!」
すると、イリスは困った顔で、
「い、いえ……。実は残りの2つは敵に全く命中しなくてですね……」
何だその魔法。欠点あるのかよ。
「じゃあ、テュケー! 何かしてくれないか!?」
するとテュケーは剣を構えた。
『アイシクル・ブースト』!
みるみるうちに、剣が不思議な冷気で覆いかぶさり始めた。そして、その剣を振りかぶると、1匹目と同じように、まずは尻尾に狙いをつけて、切りつけにいった。
と、次の瞬間、リーフドラゴンは尻尾を高く振り上げると、テュケーを薙ぎ払った。それもそうだ。1匹目は油断をしていたが、今回は違う。こちらに気づいているのに、油断するはずもない。
そのままテュケーは森の奥まで飛ばされてしまった。
「テュケー!!」
大声で叫んだが、返事はない。気絶しているのか、最悪……。いやいや、そんなはずはない。とりあえず目の前の敵に集中しないと。
このまま逃げる手段もあるが、突進してきたスピードを考えると、逃げ切るとは思えない。どうしよう……。何とか隙さえ作ればどうにかなる気もするだが……。
「ねえ……。手が痺れてきたからやめていい?」
プシケがそんなことを言ってくる。は? 何を言っているんだこいつは。
と、次の瞬間、プシケは俺を蹴飛ばした。そして一言、
『自己の燃焼欲』!
するとみるみるうちに、プシケの体が炎で覆われ始めた。プシケは盾を奥に押して、一旦リーフドラゴンを離した。そして盾をを横に置くと、リーフドラゴンに向かってぶつかりに行った。タックルをしたわけではなく、ただぶつかっただけなのだが。
そのまま、プシケはリーフドラゴンの体を掴むと、炎の威力を上げた。体の一部が葉でできているリーフドラゴンは瞬く間に全身に炎が広がっていった。
ドラゴンは必死にプシケを振りほどこうともがいている。しかし、どうしてもプシケを振り払うことはできない。
明らかにプシケが有利な状態だった。
「やったか!?」
しかし、しばらくすると、ドラゴンの体力が尽きる前に、プシケの体の炎が弱まってきた。それに伴いドラゴンは再び、元気を取り戻してきた。そして、ドラゴンは体を半回転させると、尻尾でプシケを湖の方に薙ぎ払った。プシケは湖の中に落ちていった。
すると、リーフドラゴンはこちらを向き、突進をしてきた。今度こそやられると思い俺は再び、手で体を覆った。しかし、次の瞬間、リーフドラゴンの頭に鈍い音が響いた。どうやら、透明な壁が貼られているらしく、それにぶつかったようだ。リーフドラゴンはそのまま少しよろめいた。このチャンスは逃すまい。
俺は手をリーフドラゴンの方に向けると、魔法を使う体勢をとった。そして、
『火焔車』
次の瞬間、縦に回転した炎がリーフドラゴンに向かって走っていく。リーフドラゴンはその炎を回避することができず、そのままもろに頭に火焔車を浴びた。
「な、何とか決まった……。これで倒したのか?」
俺がそんなことを漏らすと、リーフドラゴンは目を光らせた。まだ、倒せていないようだ。
と、次の瞬間、何だか心地よい風が吹いてきた。そして一瞬。本当に一瞬で、リーフドラゴンの首が切断された。見るとテュケーだ。テュケーが剣で、リーフドラゴンに一太刀を浴びせたようだ。
「はあはあ。何とかなったみたいね」
テュケーは頭から少し血を流していたが、どうということは無いみたいだ。
「おお。すごいなその技。何で今まで使ってわなかったんだ?」
すると、テュケーは少し呼吸を落ち着かせて、
「これフルコンかなり難しいのよ。だからあんまり使いたくなくて……」
ああそうか。フルコンボしないと魔法が使えないもんな。試してみたけど、使い捨てみたいだし、使うたびにフルコンして、魔法を補充しないといけないのか。
と、そんなことを思っていると、湖からプシケが上がってきた。
「あれ? 倒せたんだ」
プシケはそんなことを言っているが、重要なのはそこでは無い。プシケの着ていたTシャツと短パンは焼き切れ、下着姿になっていた。
「ちょっ! プシケ! 服が焼けてる!」
しかし、プシケは何事も無いように。
「あの技使うと、服が焼けちゃうんだよね……。極力使いたく無いけど、まあ、安物の服を着ていたりするし、被害はたかが知れてるんだけど」
プシケはそう言いながら、ブラを軽く直していた。プシケは思っていたよりは胸が大きかった。たかが知れてているが。ただ、あまりこんなのを目にする機会は無いので、どうしても興奮してしまう。それはまあ仕方ないな。
「じゃあ何でその下着とかは焼き切れてないの?」
テュケーが質問をする。俺も確かにそれがかなり気になった。
「えっと。これは魔法耐性がついてるからだよ。結構いい値段するんだけどね。……うん。まだ後5回くらいは耐えられそうかな」
そう言いながら、プシケはイリスの元へ歩いて行った。
「イリス。ちょっと服作ってくれないかな?」
すると、イリスは少し困った顔をして、
「昨日も作りましたよね……。それから魔法の補給をしてないので、どうすることもできないのですが……」
それを聞いたプシケは微妙な顔をして、こちらを振り向いた。
「あれ? 思ってたよりこれやばいかなーなんて……」
プシケがそんなことを言ってくる
「予備の服とかは持ってきてないの?」
「や、宿に帰ったらあるんだけど。さすがにこのまま街に帰る勇気は無いかなー……」
結局、俺が来ていた上着を貸して、上半身だけでも隠しながら夜、人が出歩かない上に、前が見にくくなるのを待って、街に帰ることになった。