第6話 十二色の魔法使い
「それで、どんなクエストを受けるんだ?」
「カヅキが来る前に、三人で決めておいたわ」
そう言ってテュケーは一枚の紙を俺にに見せてきた。そこには、リーフドラゴン討伐と書かれていた。
「ドラゴン討伐!? 結構きついんじゃないか?」
「でも、二人に聞いたところ炎魔法は結構使えるし、木耐性もあるから、いけるんじゃないかと思ってるわ」
そう言って、テュケーはその紙の報酬のところを指差した。そこには3000チューンと書かれていた。
「どう? これだけあれば一人当たり750チューン。まあ、高い宿に泊まってしまったのは私が注意してなかったせいだし、私の分も取っていいから、一気に半分の額が手に入るわよ」
そう言ってテュケーは笑った。俺はその表情に少しドキッとしてしまったが、なんとか顔に出さずに済んだ。
せっかく選んだのだし、確かにこれならいけるかもしれないと思ったのでそのクエストに出かけることにした。
その街から北に歩いて40分。そこには小規模な森がある。リーフドラゴンはそこに住み着いているとのことで、俺たちはそこへ向かっていた。
「ところで、傷ついた時はどうするんだ? 誰か回復魔法か何か使えるのか?」
すると、3人はすぐに、
「使えないわよ」
「使えないです」
「使えないよー」
と、3連続で答えてくれた。
「ダメージ受けたらやばくないか?」
「一応僕は自分用にある程度回復薬は持ってるけどね」
プシケはそう言って、ポケットから緑色の液体の入った小さな瓶を取り出した。プシケがそれを揺らすと中でチャポチャポいっていた。
「これいくらなんだ?」
「僕が持っているのは小回復薬だから、一本15チューンくらいだね。まあ、使うことなかなかないし結構持つんだよ」
「昨日使っていたんですけどね」
イリスがツッコミを入れる。それにプシケは軽く舌を出して、戯けた表情をした。
「イリスはどんな魔法が使えるんだ?」
「一応大体の魔法は使えます。切れてることも多いですけど。でも、支援魔法はほとんど使えないですね。有名な魔法だと『十二色の虹魔法』っていうのが使えます」
「十二色の虹魔法!?」
テュケーが驚きの声を上げる。
「それって、かなりのレア魔法じゃない。それに難易度だって相当なもののはずよ」
「はい。ある日突然選曲ができるようになってました。嬉しくなって一ヶ月ほどかけてフルコンできるようになりました」
そう言ってイリスは説明するが、話に全くついていけない俺はどうすればいいんだ。説明してくれという表情で、テュケーを見つめる。それに気付いたテュケーはすぐに説明を始めてくれた。
「『十二色の虹魔法』っていうのは虹魔法の総称のことよ。難易度も極悪級だけど、それ以上にその曲を解禁することができないの。それをイリスはその十二曲とも全てフルコンしているってことよ」
「まじか! すげぇ!」
俺はつい思わず大声をあげてしまった。やはり音ゲーマーとして、難易度の高い曲をフルコンした話は気持ちが盛り上がる。それがパーティメンバーなのだから、さらに嬉しいものだ。
「昨日八色使ったので残り使えるのは四色ですが、幸いにも炎魔法は残っているので、これである程度ダメージは与えられると思ってます」
「なるほど。じゃあプシケは?」
「僕は逆に支援魔法の方が多いよ。防御を上げたり、素早さを上げたり。もう少しランクが上がって難しい曲ができるようになると、回復魔法も使えるようになるんだけどね。あとはこの腰のダガーに付加して相手を状態異常にすることができる魔法もあるよ」
「ありがとう。意外にみんな色々使えるんだな」
「こうなってくると本当にカヅキの立ち位置がわけわからなくなってくるわね」
「ほっとけ」
そういった会話をしていると、ついに俺たちは目的の森に到着した。ここにリーフドラゴンが住んでいるのだが、本来リーフドラゴンはもっと深い森に住んでいるらしいのだ。テュケーはそれを不思議がっていたが、偶然流れ着いたのだろうと勝手に解釈をした。
俺たちはそれぞれ戦闘の準備をする。テュケーは剣を構え、イリスは杖を、プシケは盾をそれぞれ構えた。ってあれ? 俺武器持ってたっけ? 仕方がないので、ファイティングポーズをとる。
「「「は?」」」
俺を除く三人の声が揃った。まさかの素手である。
「ちょっと! なんで何も装備してないのよ!?」
「武器を買うお金なんてなかったんだ」
その言葉にテュケーは頭を抱えた。イリスも何だか残念な子を見るような目でこちらを見ている。
すると、俺の目の前に一本の短剣が投げられた。
「僕の使いなよ。どうせ今回僕が攻撃することはなさそうだし、君が持ってるといいよ」
「ありがとう。助かるよ」
「まったく……。武器くらい買って行けば良かったのに」
テュケーは後ろで少し愚痴っていた。
そうして俺たちは森の中に入っていった。
しばらく歩くと、木が無くなって開けているところに出た。そこには水面がきらめく、大きな湖があった。太陽の光を浴びて美しく輝くその湖。しかし、四人はそんなものを見ている余裕はなかった。
その水を飲みに大きな緑色をしたドラゴンが来ていたのだ。
「ゆっくりと近づいて、少しでもダメージを与えるわ」
小さな声でテュケーがささやく。俺は指で丸を作って合図を送った。
テュケーがゆっくりとリーフドラゴンに近づく。そのドラゴンが気づく様子は全くない。
テュケーは大きく剣を振りかぶって、ドラゴンの尻尾に狙いを定めた。リーフドラゴンの尻尾には微量だが、毒が含まれているからだ。そして、一気に振り下ろして、切断した。
途端にドラゴンは大きな咆哮を上げた。周りの木々に止まっていたの鳥たちは一斉に羽ばたいて飛んで行く。
テュケーが大急ぎで、戻る。グリーンドラゴンはこちらを睨みつけると、ゆっくりと歩いてきた。
「いまだ!」
「『虹色の魔曲・真紅の火炎』」
イリスはそう呟くと、杖の先から業火が、飛び出していった。元いた世界ではめったに見ることのない火力だ。
その火炎はリーフドラゴンを包むと、超火力で燃やし始めた。
「うまくいったな」
俺は安心してイリスに近づく。
「まだです!」
イリスが叫んだ次の瞬間、リーフドラゴンは湖の中に落ちていった。炎が水につかる音がする。と、次の瞬間、ところどころ焼けたリーフドラゴンが、湖から上がってきた。その目は憎悪に満ちており、何人たりとも近づけようとはしていなかった。これはやばい。
次の瞬間、リーフドラゴンはイリスに向かって突然走り出した。しかし、イリスは全く動じることのなく、次の魔法に備えていた。
「『虹色の魔曲・黒鉄の暁闇』」
そう言うと、イリスの前に巨大な黒い刀が現れた。禍々しいその暗さはあらゆるものを飲み込んでしまうようだった。
その重厚な刀が、グリーンドラゴンの体を切り裂く。魔法なので、実際に切り裂くことはできなかったが、かなりのダメージが入ったようだった。
さらに魔法の追加効果か、グリーンドラゴンの目が見えなくなった。
そのチャンスをテュケーは逃さなかった。
「『イグニスハンド』」
そう言うと、テュケーの右手が、炎に包まれた。その炎はそのまま剣にも引火して、炎の剣が出来上がった。
不気味に大きな音を立てて燃えるその剣は、焼き切りながらあっさりと、リーフドラゴンの心臓に到達した。
「ふぅ」
テュケーが汗を拭う。右脇の服が少し焦げていたが、腕自体はなんともなさそうだった。
「思ったよりあっけなかったですね」
「確かにそうね。リーフドラゴンってもっと手強いってきいていたけど」
テュケーがリーフドラゴンの元へ近づく。と、グリーンドラゴンは目をかっと見開いてただ、大きな大きな咆哮を1つ上げた。そして、そのまま動かなくなった。