第5話 新しい仲間たち
5時間後。陽は西に傾きかけていた。
「まあ、こんなもんだとは思っていたけども」
俺は目の前に積み上げられたコーヒーカップと、何枚ものレシートを眺めていた。
「あれ? おかしいわね。こんなはずじゃなかったんだけど」
テュケーは不思議そうな顔で首をかしげる。俺は何だか辛くなってきて、ため息をついてしまった。
「一旦出直そうか。ここにいてもしょうがないだろう」
「え、ええそうね……」
そう言って腰を上げた時、後ろから声が聞こえた。
「あの。パーティメンバーを募集しているのはここでいいんでしょうか?」
その言葉に俺は高速で後ろを振り返った。するとそこには、同い年くらいの長くて赤い髪のした少女と、少し年下のような黒色でショートヘアーの少女が立っていた。
「そうだすけど! パーティメンバーに入ってくれるのですか!?」
おおっと。あまりにも慌てていて、訳のわからない口調になっていたみたいだ。噛んでるし。それにその少女二人は驚きながらも、きちんと返事をした。
「僕としてはねー。別に二人でやっていけると思ってるんだけど。やっぱり魔法耐性のある敵は危険だって、イリスが言うからさ」
「あなたも二人だけじゃ怖いって言ってたでしょう!? 」
「あはは。それは言わないで欲しかったなぁ」
「と、とにかく私達は完全に攻撃役が不足しているんです。で、見たらあなたたちのパーティは魔力が高い人と防御が高い人を募集しているとか。で、飛びついてきたんです」
それを聞いて、俺はテュケーと目を合わせた。思ってもいなかった人材だ。ここを逃すと、こんなにもぴったりの人達には出会えないかもしれない。
そう思って俺は、すぐに二人の残りの椅子に座らせた。
「で、どうしてこんな時間になるまで来なかったんだ? いや、別に気になって聞いてるだけだから」
すると、先ほどイリスと呼ばれた少女が、ジュースを飲むのをやめて答える。
「それは既に私達はクエストに出ていたからです。ですので、ここに帰ってくるまで、そのことを知らなかったんです」
「まあ、負けたんだけどねー」
「プシケ。余計なことは言わないでください」
「わかったよー」
そう言ってプシケと呼ばれた黒髪の少女は静かにジュースを飲み始めた。
「という風に、ある程度魔法耐性のあるモンスターに当たると勝てないのです。私達はどちらも攻撃力が低いので……」
そう言ってイリスはランクカードをカヅキの目の前のテーブルの上に差し出す。それを見たプシケも同じように差し出した。
イリス
ランク 246
HP 96
攻撃 75
防御 163
魔力 236
素早さ 121
プシケ
ランク 233
HP 231
攻撃 68
防御 193
魔力 165
素早さ 83
「な、なるほど……」
そこにはテュケー以上にデコボコしたステータスがあった。マジか。しかし、後で聞いたところ実際は得意、不得意があるもので、俺のように揃ったステータスが異常らしい。
「結構いいパーティになりそうね。これだとちょっとカヅキの立場が残念なことになりそう」
「うぐっ。……い、いや、俺は周りをサポートできるし? ラ、ランクも上がりやすいから役に立てるさ」
「まあ、現状、ランクすら最下位なのにね」
テュケーは少し煽るように言ってきた。少しイラっときたが、別にそんなのは問題じゃない。何が何でも認めさせてやる。
「す、すぐにみんなを抜かしてやるさ」
そう言ってカヅキは立ち上がる。
「さて、パーティも集まったし、早速冒険。と行きたいところだが、もう既に外が暗くなりかけている。今日は一旦休んで、明日にしようか」
「そうね。じゃあ一旦解散ということで」
すると、イリスが何か言いたそうに俺たちの方を見ていた。
何だろう。何か言い忘れたことあったっけ?
「あの。まだ、お名前を聞いていないのですが……」
その言葉に俺はあっと思い、隣にいるテュケーを見た。テュケーもこっちをみていた。
「ええと俺はカヅキだ。で、こっちがテュケー。よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、なんとか俺たちはパーティメンバーを集めることができたのだった。
月末まであと二日。
塔を上って、テュケーと分かれた。イリスとプシケはこの塔に泊まっているらしくさっさと二階に上がってしまった。
俺はというと、真ん中の通路を進んでいくらかプレイした後、二階に上がり、今度はきちんと部屋を指定して、泊まったのだった。
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そして翌日、俺は起きるとすぐに支度をした。今日と明日で3000チューン稼がなければいけないのだ。
俺が地下に降りると、残りのメンバーは既に揃っていた。
「遅いわよ。もうちょっと遅かったら、いいクエスト無くなってたわよ」
そう言ってテュケーが出迎えてくれた。テュケーの服装は、昨日とは打って変わって、冒険者のような服装になっていた。
昨日は長袖のような服に、ロングスカートだったが、今は、白と黒の右肩から手にかけては布がなく、逆に左腕は長い袖の服を着ていた。下はミニスカートのようなものと、ハイソックスを履いていた。そして、腰には一本の剣が携わっていた。
イリスとプシケは昨日とは全く変わっていない。
イリスは真っ白の服と、長いスカートを着ていて、その上に燃えるような短めの赤いローブを羽織っていた。そして、左手にザ・杖というような杖を持っていた。
プシケは、普通のTシャツのようなものに短パンといった、冒険に出るような服ではなさそうなものを着ていた。しかし、腰には短剣と、手には大きな盾を持っていた。
「テュケーってそんな服持ってたんだな」
「まあ、冒険用にはきちんと持ってるわよ。これじゃないと色々不便だしね」
「例えば?」
「まあ、近接攻撃役として、ロングスカートは危ないわよね。だからショート。それにこの上に来ている服も、右手には様々な魔法を付加するから、右腕に布があるとダメになっちゃうの。左手は魔法を使うから魔力に補正がかかる布で作ってるの」
「なるほどってことは、他の二人も何か理由があるのか?」
俺はそのままイリスとプシケの方を向く。するとすぐに、イリスは説明をし始めた。
「私のはテュケーさんのほど、工夫された服じゃありませんよ。ただ単に魔力を上げる服装なだけです」
「プシケは?」
「鎧着ると暑いじゃん? 僕暑いの苦手なんだよね」
「……それだけ?」
「それだけだね。でもこれ大事だよ。盾役の天敵は暑さだっていう名言もあるからね」
名言って何だよ……。迷言の間違いじゃないのか?
どうやら俺は微妙な顔をしていたらしいがプシケは全く気にしない様子で、微笑んでいた。
「……暑さって魔法やアイテムで防げると思うんだけど」
「それは言わないであげてください。彼女のそれは建前なのですよ」
後ろでイリスとテュケーが何やら会話をしているようだったが、よく聞き取ることができなかった。