第3話 フルコンボと魔法
『新規登録ですね。名前を入力してください』
目の前の筐体から人工音声が流れる。
「名前か……。るな!?でいいかな」
「ちなみに1つのゲームでつけた名前は残りの9つにも適応されるからね」
「お、そうなのか。了解」
じゃあとりあえず名前はるな!?にして……と。おっ。難易度を選択する画面になったな
「これ最高難易度はどれなんだ?」
「難易度数は全部で6よ。これはどのゲームでも同じで、下からeasy nomal hard expert professional masterよ。ただ、この場所でできるのはexpertまでね。真ん中でprofessional 左端で、masterまでプレイすることができるわ」
「なるほど」
「まあ、初めは流石にeasyじゃ簡単すぎるからnomalかhardをプレイすることをお勧めするわ」
「そうか、了解。助言ありがとう」
ええっと。じゃあ。この難易度でいいのかな。この1番右端のをっと。
「ちょっ!? 話聞いてた!? 初めての人が、expertなんて無茶よ!」
「聞いていたよ。だけどこれくらいならー」
言いかけたところで、曲が始まったので、そちらに集中しようか。さすがにその世界の常識なのか、テュケーもその状態の俺に話しかけようとはしなかった。
上方から音符が流れてくる。
この『火焔車』という楽曲は、序盤の発狂と、終盤の発狂で有名らしい。
流石にmasterやprofessionalじゃないにしても、そこそこの密度で飛んでくる。
だが、これくらいなら日本でも普通にあったし、むしろ慣れている俺には簡単な方っと。よし。ミスは出てないな。
流石にそれにはテュケーも驚きを隠せていないようだ。テュケーからは何も言葉はでてこないが、ノーツが薄いところで、画面の反射を見ると、唖然としていた。しばらくすると終盤の第二の発狂がやってきた。
第二の発狂は、序盤よりも長く、密度も濃いようだ。音符と音符の間の空いていたところに、今まで使われていなかったレーンから音符が飛んでくるようになる。大体の人はここでノルマラインを落とされて、失敗するらしい。
まあ、まさか違うレーンから飛んでくるとは思わなかったな。まあなんとかgreatを3つほど出たけど、コンボは切らさずに突破できたからいいか。
気がつくと、スクリーンには『full combo!』と、大きく文字が出ていた。
よし! なんとかフルコンボできたな! そう思いながら後ろを振り返る。
テュケーはというと、俺ががこちらを見ているのにも気づかずにただ画面を眺めていた。
「どうだ? これなら結構いい成績だと思うが」
テュケーは話しかけられて初めて、俺がこちらを向いているのに気づいたようだ。
「え、ええ。予想以上だわ……」
「ところで、これでステータスが上がったのか?」
「いいえ? 上がってないわよ。ランクを上げるには、それ専用のモードでプレイしなきゃ」
そう言ってテュケーは俺のそばに寄ってきた。
「この普通のプレイじゃなくて、右の、ランクモードってやつ。これは他のゲームでもだいたい同じだから覚えておけばいいわ。向こうが指定してきた曲で、条件をクリアすればいいのよ。初めは簡単だから、すぐにできるわ」
「なるほどな。確かにこういうのも、元の世界にあったな」
といことは、これをプレイすればいいのかな。俺はテュケーの言う通りランクモードを選択した。
すると、それを見たテュケーが
「私は帰るわ。流石に長くはいられないもの。ガイアもランクカードを作って疲れてると思うし。あ、ちなみにこの塔の二階からはホテルみたいになってるから、カードを見せれば泊まることができるわ。寝るんだったらそこで」
そう言って、テュケーは塔から出て行った。
結局、俺はこの日ランクを40まで上げてから、上のホテルに上がっていった。
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うーん。なんとか、ランクは150を超えることができたな。まあ、昨日は一日中ここに篭ってたからな。テュケーは何かやることがあるって言って朝きただけだし、テュケーも驚いてくれるかな。ただ、そんなに難しくもなかったし、凄くはないのかもしれないけど。
そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえた。振り返るとテュケーが立っていた。
「お。テュケー。来たのか」
「どう? ランク上がった?」
「ああ。そこそこ上がったと思う」
俺は顔をテュケーに差し出した。それを見たテュケーは俺の頭に顔を近づけてきた。そして、しばらくの沈黙の後、
「……『152』!?たった1日で!? 昨日朝見たときは40ぐらいしかなかったじゃない!!」
「頑張った」
「そんな、頑張りだけでここまで行けるようなことじゃ……」
テュケーは何やら考え事をしているようだったが、こちらにも聞きたいことがある。
「なあこれで、真ん中の通路から行くことができるのか?」
「え、ええ。150を超えているからいけるはずよ」
「よし。じゃあ行ってくるわ。やっぱりexpertじゃぬるすぎるわ。せめてもう1つ上のレベルじゃないと」
そう言って俺はこの部屋を出ようとした。するとテュケーは慌ててそれについていった。
ゲートの所には相変わらず、騎士が2人立っていた。その2人に軽くお辞儀をする。するとその騎士たちは驚いたようにこちらを見た。テュケーでもあれだけ驚いたのだ。まさか2日で、ランク150を超えるとは思ってもなかったのだろう。ゲートをくぐり抜けると、そこには右の部屋以上の筐体が並んでいた。広さも半端なく、向こうの壁は見ることができない。
「どうなってんだこれ? 広すぎるだろ……」
「詳しいことはわからないけど、空間魔法で広げているって聞いたことがあるわ」
「あっ。なるほど。魔法かぁ。俺も使ってみたいな。どうやったら魔法を使えるようになるんだ?」
「あら? すぐに使えるようになるわよ。本当にすぐにね」
そう言ってテュケーは軽く笑った。俺をじっと見つめていた。
「そうなのか? とりあえずここでプレイさせてもらうぞ」
カヅキはそのまま、1番近くにあった筐体に近づいた。やはりそこで人工音声がなり、セレクト画面に移る。
「何しようかなぁ。一応気に入った曲でやるか」
俺が選んだのは選んだのは『ライトニングボルテッシモ』という曲だ。
この曲は全体的に難易度は低いが、ところどころコンボカッターを入れているため、フルコン難易度は、格段に上がる。しかし、そんな譜面でも、この曲は人気の高い曲らしい。バックに流れる厚いエレキギターとドラムの音が、プレイヤーを音楽に乗らせる。そのため、この曲はフルコン難易度が高いにもかかわらず、一定数のフルコン者が存在しているのだ。
「おっ。流石、professionalだな。譜面の密度が濃くなってるな」
しかし、思ってたほどに密度が濃くならないな。たかが知れてる難易度だな。まあ、professionalなんてこんなものか。曲は知ってるしな。終盤かかると体が揺れていた。気付かぬ間に音楽に乗っていたようだ。
テュケーはもうあまり驚かなくなっていた。これが当然と悟ったのだろうか。
最終カッターを乗り切ると、画面には『all perfect』の文字が。流石に初見でall perfectは嬉しいな。すると何やら音声が流れてきた。
『フルコンボおめでとう! この魔法を上げるよ』
『ライトニングボルテッシモ・並』
そう画面に映し出された。何だこれ。魔法? これが魔法なのか?
テュケーはそれを見ると少し嬉しそうな顔をして、その画面に近づく。
「これで魔法を使えるようになったわ」
「えっ!? こんな簡単に使えるようになるのか?」
「そうよ。professionalかmasterの譜面でフルコンボすればその曲の魔法を手に入れることができる。もちろん威力はprofessional<masterよ」
「じゃあこれで俺も魔法が使えるのか?」
「まあ、使えるといえば使えるわね」
「どうすればいいんだ?」
「手を出して、その曲名を言うだけよ。ただ、ここで放つとめんどくさいから、外でーー」
「ライトニングボルテッシモ!!!」
そう言った瞬間、俺の手に何かが集まる感覚がした。そして、俺の指先から稲妻が飛び出る。その雷は近くにあった筐体数台に吸い込まれていった。
もちろん何かいやな音がして故障した。
「……あっ」
「あっ。じゃないわよ! この筐体一台いくらすると思ってるのよ!?」
「……確か100万円くらい?」
「おっ……。異世界の単位を出されても困るわ。3万チューンよ」
「そうすると今度は俺がいくらかわからないんだが」
「筐体で3万曲プレイするのと同じ値段よ」
「さ、3万!? い、いやちょっと待て曲をプレイするのに金がいるのか?」
「え? あなたの世界だといらなかったの?」
「要るわ。そうかぁ。そうだよなぁ。でも金を入れることなんてなかったぞ」
「ランクカードを取り出して見てみなさい」
「ランクカードって取り出せるのか」
「そうよ。みてて」
そう言ってテュケーは手を出して、手のひらを上に向けた。そして一言。
「カード!」
そう言うと手のひらに一枚のカードが生まれた。ポイントカードのようなものだった。
「この裏側に所持金が記入されているわ。これから勝手に引かれているのよ」
「なるほど。わかった。ちょっと見てみる」
ええっと。手を広げてカードって言えばいいだよな。
「カード!」
すると、手の上に一枚のカードが現れる。そして、裏側の所持金を見る。
そこにはそこそこ大きな文字で。
『−3000チューン』
「……これはどれくらいなのかな?」
「分かりやすく言うと、リンゴが1000個買えるわ」
「ってことはこっちのお金で言うと10万円くらいか。つまり3チューン=100円ってとこだな」
「ちなみにこれマイナスだとどうなるんだ?」
「普段だと問題ないわ。ただ、月末にマイナスだと、まあ、捕まるわね」
「捕まる? って月末っていつだ!?」
「明後日よ」
テュケーは少し申し訳なさそうに答えた。お金がかかるということを伝え忘れた責任があるのだろうか。ただ、彼女としても、まさか金が入らないと思っているとは思っていなかっただろう。
「えっと……じゃあ。これは」
「……クエスト行きましょう!」
そう言うと、テュケーは俺の腕を掴むとそのまま、タワーの下の階へと降りていった。