第16話 初討伐
アクアポイズムを討伐したことを伝えようと、タワーの地下へと潜って行く。既に日は高く昇っているため、クエストを受けるように人たちはほとんど残っていなかった。俺はカウンターの店員さんにクエストを達成したことを伝えた。
「了解しました。少しお待ちください」
店員さんはクエストの処理をするために少し奥の方に入っていく。しばらくすると、その奥から驚いたような声が聞こえてきたかと思うと、大急ぎで店員さんがこちらに向かってきた。
「こ、これあなた達が達成したんですか!?」
アクアポイズム討伐のことだろう。そう思い俺と、隣にいたテュケーはうなづいた。
「そ、そんな。この街でアクアポイズムを討伐したのはあなた達が初めてですよ!」
え!? そうなのか。もっと普通に居るもんだと思ったが。
聞くところによると、アクアポイズムは危険なため受ける人がほとんどいない上に、受けたとしても戦闘スタイルが変わっていくアクアポイズムを討伐することまではいけないらしい。
さらに言うと大体ランク350くらいの6人ほどのパーティで挑むのがセオリーらしく、このランク、人数で討伐するのはありえないそうだ。ならなんでこのクエスト受けることを承認したし。
そんな話を聞いていた人たちが集まってくる。ほとんどがただ酒などを飲みに来ていた普通の客だった。
ちょっとした騒ぎになってきている。店員さんは、これは騎士団にも報告すべきです。とか言って出て行ってしまった。そこで俺たちは周りの人たちに質問攻めにされている。
「おい。兄ちゃん。討伐するときはどう思ったよ」
「え、ええ……。手強い相手だとは思ってましたけど……ここまでとは思いませんでした」
クエストの内容の質問から、年齢や好きな曲など他愛もない質問に答えていると、階段の方から2つの足音が聞こえてきた。どうやら店員さんと、騎士が降りきてきたようだ。
騎士は俺の方に向かって歩いてくる。そして、ランクカードを覗くと、なるほど。と呟いた。
「確かにアクアポイズムを討伐しているな。これならばちょっとした臨時報酬が与えられるかもしれん。上に掛け合ってこよう」
そう言うと騎士はもう一度階段を駆け上がっていった。
「あの……。今夜宴でも開こうと思うのですが、参加できますか?」
店員さんが俺に質問してくる。かなり下から聞いてきている態度だった。
「問題ないけど」
俺がそう言うと、店員さんは大声周りの人たちに、今夜宴を開くことを伝えた。
俺たちはと言うと、ここにいては質問ばかりされてしんどいだろうということで、音ゲーでもしに行くことにした。
昼間は夜に比べると音ゲーをしている人は少ない。冒険者はクエストを受注していることが多いし、労働者は仕事中だ。
だから大抵いるのは歳をとって、退職した人や普通の主婦達だ。一般的な主婦に役立つ魔法なんかもあるらしく、ほとんどの主婦がそれを手に入れるためにプレイしている。
左の部屋に行くと人はほとんどいなかった。それもそのはず、主婦達はprofessionalをフルコンボするだけで事足りているからだ。
「俺は使った魔法を補給してくるけど、みんなはどうする?」
「私もそうするわ。ついでに練習しときたい曲もあるし」
「私は少し休んでからにしようと思います。もう直ぐお昼ですし、ついでに皆さんに何か買ってこようと思います」
イリスはそう言うと部屋から出て行った。
プシケも休むそうだが、俺のプレイが見たいらしく、俺についてくるらしい。
「プレイってもあんまり詰めたりしないぞ。せいぜいフルコンボ狙いだけど」
「いいよ。それでも」
そう言うとプシケは俺がプレイする筐体の後ろに椅子を持ってくると、そこに座った。
なんだか見られてると緊張するな。まあこれくらい普通だったけど。
俺は『ライトニング・ボルテッシモ』を選択する。
相変わらずの譜面だ。俺は何気なくその譜面を叩いた。
「自己ベスト更新!」
曲が終わると筐体から声が聞こえてくる。どうやら気づかぬ間に自己ベストを更新していたらしい。
確かこのゲームでこの曲はアクアポイズム討伐前に一位を取ってたから、それを更新したのかな。
スコア表示を見る。すると、るな!?の1つ上にスコアネームがポツンとあった。
『まぁず 1198000点』
『るな!? 1196200点』
「あれ!?」
俺が驚いた声を出すと、後ろからプシケがその声に反応してゆっくりと歩いてきた。
「1800点も負けてるの!? 君って確かこの曲all perfectしたよね」
「ああ。ってことは連打で負けてるのか。連打が100点だから18打も負けてるってことになるな」
「この曲の連打の部分ほとんど無いよ……。それなのに18打分も上回るってどうなってるの」
あのスコアを見てなんだかやる気が削がれた俺は近くの休憩所のようなところで休憩することにした。
しばらくするとイリスが帰ってきたので、食事をとることにした。テュケーはまだプレイしているようだ。
俺はサンドイッチを手に取りながら、スコアが負けたことをイリスに伝えた。
イリスも驚き、そのスコアを確認するために立ち上がってその筐体へと向かっていった。
帰ってきたイリスも不思議ですね。と呟いて、残りの昼食を食べきった。
その後、俺はフルコンボするべき曲をプレイして行ったが、そのことが気になって、なかなかスコアを更新することができなかった。まあ、フルコンボはできたからいいけど。
結局それが誰なのかわからずじまいで、6時を迎えてしまい、俺たちは宴に参加しようと、地下へと歩を進めた。